上 下
131 / 330

嵐のごとく Ⅶ ⑦

しおりを挟む
【嵐side】

 エルフとの交渉から戻った明日菜アテナは、機嫌が悪かった。

「なあ、英里香。  エルフに何を言われたら、アンナに機嫌が悪く成るんだ ?」

 俺が英里香エリスに聞くと、タメ息をしながら

「 ヒト族、私達プレイヤーを劣等種族と見下して、バカにしていたので怒っているのよ。
 女神時代のアテナなら、あのエルフは消滅していたかもね。
 短気なアテナも明日菜人間に成って少しは、丸く成ったのかしら 」

 とりあえず、入国の許可が出たものの、魔石列車での入国は禁止されたので、他の馬車と同じ 臨時の駐車場に止めることに成った。

 盗まれないか心配だったのだが、ゲーム世界らしく『犯罪コード』に引っ掛かるから大丈夫だと云うことだ。
 異世界との違いだよな。
この間のアップデートで『ハラスメントコード』などが実装され始めた。
 勘違いするバカには丁度良い制限だろうな。

 手荷物検査は無かったが、俺達が連れている従魔たちが注目されていた。
 特にベル妖精に驚いていたようだ。

「妖精をテイムするなんて……どんな対価を用意したんだ ?
 我ら精霊種のエルフにさえ、妖精は気を許さないと云うのに ! 」

 ……『干しいも』で釣れたぞ、と教えたら 面白そうだが、黙っていることにした。
 教える義理も義務も無い上に、俺達を見る目が気に食わないからな !

 徒歩で森の中に入ると、樹の上や大木をくり貫いた住居があちこちに有った。
 あれがエルフの住居らしいな。

 クイ クイ

「ねえ ねえ、嵐ぃ~ !
ボク、小腹が減ったからオヤツを頂戴ちょうだいよぉ~ 」

 この腹ペコ妖精め、緊張感と云うモノが無いのかよ !
リアルでもゲームでも常備している『干しいも』をベルに渡した。

「ワーイ !  ボク、干しいもが大好きなんだよね。
串焼きも悪く無いけど、干しいもの素朴な甘さが癖に成るんだよね 」

 そうだろう、そうだろう、我が県の干しいもは世界一 !
 俺達も小さな頃から食べている、ソウルフードだからな !
 オヤツに皆に干しいもを食べながら歩いていると、遠巻きに見ていたエルフの様子がおかしい。

 テポ テポ テポ テポ テポ テポ

 そんな中、エルフの幼児が俺達の元に寄って来た。
母親らしきエルフの手をすり抜けてきたようで、母親エルフは子供を連れ戻そうとしたが、周りのエルフに止められている。

 ………俺達、野蛮人かよ !

「ねえ ねえ お兄ちゃん達、何を食べているの ? 」

 クゥー、幼児エルフのお腹が鳴った。
確か、エルフは草食だったよな…………最近のラノベのエルフは肉食も多いけどな。
 俺は持っている干しいもを幼児エルフに渡した。

 匂いを嗅いで、大丈夫な食べ物と確認したのか

 カプリ、 食べ始めた。

「 モグ モグ、あまーい甘い ! 
コレ、甘くて美味しいよ !」

 幼児エルフの声を聞いた子供エルフ達が、一斉に俺の元にやって来て干しいもを、おねだりした。

「沢山あるから、慌てるな !
ホレホレ、並んだ、並んだ ! 」

 並んだ子供エルフに順番に干しいもを渡していった。
明日菜アテナたちが、ニヤニヤしながら見ている。
 似合わねぇ~、と思っているんだろう !
少し離れた処にも モジモジしている子供エルフがいたから、コッチから子供エルフの元に行って 干しいもを渡した。
 ガキが遠慮なんかしてんじゃねえよ !

 美味しそうに食べている子供エルフのお陰か、親エルフが俺達の元に来て、お礼をしてきた。

 緊張していた空気が柔いだみたいだな。
しおりを挟む

処理中です...