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17.愚者の企み
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わたしの思考を読んだかのように、陛下が男爵に問いかけた。
「男爵よ。叙爵したばかりの男爵家にとっては、公爵令嬢との婚約はまたとない縁談だ。となれば、この婚約に際して、ダニエルから何か見返りは求められなかったか?」
この問いに、男爵家以外の誰もが興味を引かれた顔になる。
やはり、皆、気になっていたようだ。
「は、……。見返り、ということになりましょうか、共同事業のお話をいただきました。公爵領のベラ鉱山で採れる宝石の新規事業に我が商会も参画させていただけるとのことで、私共も初期費用の一部を負担することになっております」
「新規事業?」
「はい。ダニエル様によりますと、この度、ヴェルム侯爵家と技術提携を結ばれたようです。その技術を使って加工した宝飾品を売り出すとのことでした」
ベラ鉱山は、確かにバートン公爵領にある良質な宝石が採れる鉱山だが、そんな事業を起こす予定もなければ、技術提携だってしていない。
これは、完全な詐欺だ。
売り出す宝飾品だって、本当の宝石ではないのかもしれない。
投資費用を騙し取られて下手をしたら偽物まで掴ませられるなんて、男爵は大変な目に遭うところだった。
それにしても、黒幕はヴェルム侯爵家だったのか。
あの家はバートン家を敵視しているから、表向きはそれなりの契約だったとしても、実際はまともな取引ではないはずだ。
これは、あの男もいいように利用されていると思われる。
あの男はヴェルムと我が家の確執を知らないのだろうか。
もしくは、これも故意なのか、わからないことだらけだ。
「ほう……。ヴェルムか。クリスティアよ、この話は実在のものか?」
「大変恐縮ですが、そのような事業のお話はございません」
「そうですね。ましてや、ヴェルムとの提携など問題外です。……男爵、見本として、加工された宝石を渡されたりはしていないだろうか?」
「見本品は拝見しましたが、受け取ってはおりません。投資費用をお支払いした後に、商売用の宝石を手配くださるということになっております」
「ということは、まだ費用は渡していないのだな?」
「はい。明日、お渡しする手はずになっております」
これを聞いた陛下と叔父は、一瞬目配せをした。
恐らく、囮になってもらうのだろう。
「そうであったか。男爵よ、長らく拘束するのは心苦しいが、もう少し詳しく話を聞かせてほしい。子息はアルフレッド達と待機していてくれ」
陛下のその言葉で、大人たちは応接室に残り、わたしたちとロン様は、昨日わたしが泊まった客室に移ることになった。
ロン様はそのまま帰してあげてもいいのではないかと思ったのだが、どうやら、男爵と夫人は急な商談のために外出し、ロン様は学院に行ったという体にしているようで――馬車もふたつに分けて来たとのこと――、すぐに帰るのは不自然らしい。
そうして、客室に着いたわたしは、まずロン様に謝罪をすることにした。
「ロン様。婚約証明書の件、昨日の段階でも既に偽造だとわかっていたのに、あの場でお話できなくて申し訳ありませんでしたわ」
「い、いいえ!今日のお話を聞いて、事情はわかりました。我が家は詐欺に遭っていたということですよね。皆様が動いてくださったおかげで実被害から免れられるのです。感謝こそすれ、謝罪など必要ありません。むしろ、我が家が不甲斐ないばかりにあのような婚約話が広まってしまって、こちらこそ、本当に何とお詫びをしたらよいか……」
「被害に遭う前でよかったですわ」
「本当だよね。僕らのことは気にしなくていいから。アリス嬢が勝手に勘違いして吹聴した、くらいの話におさまるよ」
アリス嬢が食堂でやらかした後は、わたしたちは可能な限り人との接触を避けていたし、事実、婚約については肯定も否定もしていないのだ。
だから、きっと何とでもなるはず。
そんなことを話しながら、大人たちの話し合いが終わるのを待って。
今後の対応を確認した後、わたしたちも解放された。
「男爵よ。叙爵したばかりの男爵家にとっては、公爵令嬢との婚約はまたとない縁談だ。となれば、この婚約に際して、ダニエルから何か見返りは求められなかったか?」
この問いに、男爵家以外の誰もが興味を引かれた顔になる。
やはり、皆、気になっていたようだ。
「は、……。見返り、ということになりましょうか、共同事業のお話をいただきました。公爵領のベラ鉱山で採れる宝石の新規事業に我が商会も参画させていただけるとのことで、私共も初期費用の一部を負担することになっております」
「新規事業?」
「はい。ダニエル様によりますと、この度、ヴェルム侯爵家と技術提携を結ばれたようです。その技術を使って加工した宝飾品を売り出すとのことでした」
ベラ鉱山は、確かにバートン公爵領にある良質な宝石が採れる鉱山だが、そんな事業を起こす予定もなければ、技術提携だってしていない。
これは、完全な詐欺だ。
売り出す宝飾品だって、本当の宝石ではないのかもしれない。
投資費用を騙し取られて下手をしたら偽物まで掴ませられるなんて、男爵は大変な目に遭うところだった。
それにしても、黒幕はヴェルム侯爵家だったのか。
あの家はバートン家を敵視しているから、表向きはそれなりの契約だったとしても、実際はまともな取引ではないはずだ。
これは、あの男もいいように利用されていると思われる。
あの男はヴェルムと我が家の確執を知らないのだろうか。
もしくは、これも故意なのか、わからないことだらけだ。
「ほう……。ヴェルムか。クリスティアよ、この話は実在のものか?」
「大変恐縮ですが、そのような事業のお話はございません」
「そうですね。ましてや、ヴェルムとの提携など問題外です。……男爵、見本として、加工された宝石を渡されたりはしていないだろうか?」
「見本品は拝見しましたが、受け取ってはおりません。投資費用をお支払いした後に、商売用の宝石を手配くださるということになっております」
「ということは、まだ費用は渡していないのだな?」
「はい。明日、お渡しする手はずになっております」
これを聞いた陛下と叔父は、一瞬目配せをした。
恐らく、囮になってもらうのだろう。
「そうであったか。男爵よ、長らく拘束するのは心苦しいが、もう少し詳しく話を聞かせてほしい。子息はアルフレッド達と待機していてくれ」
陛下のその言葉で、大人たちは応接室に残り、わたしたちとロン様は、昨日わたしが泊まった客室に移ることになった。
ロン様はそのまま帰してあげてもいいのではないかと思ったのだが、どうやら、男爵と夫人は急な商談のために外出し、ロン様は学院に行ったという体にしているようで――馬車もふたつに分けて来たとのこと――、すぐに帰るのは不自然らしい。
そうして、客室に着いたわたしは、まずロン様に謝罪をすることにした。
「ロン様。婚約証明書の件、昨日の段階でも既に偽造だとわかっていたのに、あの場でお話できなくて申し訳ありませんでしたわ」
「い、いいえ!今日のお話を聞いて、事情はわかりました。我が家は詐欺に遭っていたということですよね。皆様が動いてくださったおかげで実被害から免れられるのです。感謝こそすれ、謝罪など必要ありません。むしろ、我が家が不甲斐ないばかりにあのような婚約話が広まってしまって、こちらこそ、本当に何とお詫びをしたらよいか……」
「被害に遭う前でよかったですわ」
「本当だよね。僕らのことは気にしなくていいから。アリス嬢が勝手に勘違いして吹聴した、くらいの話におさまるよ」
アリス嬢が食堂でやらかした後は、わたしたちは可能な限り人との接触を避けていたし、事実、婚約については肯定も否定もしていないのだ。
だから、きっと何とでもなるはず。
そんなことを話しながら、大人たちの話し合いが終わるのを待って。
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