14 / 20
14.愚者の動向
しおりを挟む
陛下に報告に行ったあとは、そのまま王宮に部屋を用意してもらった。
というのも、陛下や殿下が、放課後の話し合いに呼ばれなかったアリス嬢からの突撃を危惧したからだったのだけれど。
部屋を準備してもらっている間、殿下やルシェと雑談をしていたら、学院に放っている間者や影からの報告が入った。
アリス嬢は、案の定、放課後にわたしたちを探して大騒ぎしていたようだ。
そして、やはり、学院では婚約話の噂がかなり広まっているという。
わたしたちは授業が終わるとすぐに話し合いの場のレストランに向かってしまったから、当事者に婚約の真偽を確認することはできないが、その分、アリス嬢が随分と触れ回ってくれていたらしい。
ただし、アリス嬢は、わたしとロン様の婚約話が事実でルシェとの婚約話は嘘、という話しかしていないようだったから、困惑している人が多いそうだ。
「当然困惑するだろう。ルシェールとクリスの婚約は周知の事実だからな」
「それを嘘って断言するなんて、ものすごく無理があると思うけど」
どうやら、わたしとルシェの婚約お披露目パーティーのことを覚えていた人が、アリス嬢にそれを指摘してくれたようなのだけど、そんなはずはない、勘違いだと反論され、終いには、小さな頃の思い出作りだったんじゃない?と笑ったりしていたらしい。意味がわからない。
「あの人、わたしを使用人だと言い切った時もそうだったけど、思い込みが激しいと思うわ」
「確かにな。しかも、自分は間違っていないと思っているから困ったものだ」
そうして、殿下とルシェと三人で思わずため息をついてしまったのだけど、しばらくの間の後、殿下が何かに気づいたような顔をした。
「アリス嬢は、自分がルシェールの婚約者になったことは話していないのだな」
「それ、本当によかったよ。そんなことまで広まってたら、僕、終わってたよ」
「彼女、知らないんじゃないかしら。今回の話も、わたしとロン様の婚約の話のところだけを盗み聞きしたとか……」
わたしがそう言うと、殿下とルシェは一瞬目をぱちくりさせたが、彼女ならあり得る、と次第に納得顔になった。この状況はそれしかないと思う。
そうして、今回の件をあれこれと考察していたら、我が家の執事のクィンが王宮まで来てくれた。わたしの荷物を持ってきてくれたのだ。
彼によると、アリス嬢は、帰宅してからも、公爵家の正門の前でわたしを出せと喚き散らしていたらしい。
「ごめんなさいね。迷惑をかけて」
「とんでもございません。お話は伺っております。今回、ダニエル様の娘が面倒なことを引き起こしたとのこと。クリスティア様も大変でございましたね。門番やバートン家の私兵たちが対応しておりますのでご安心ください」
聞けば、正門から別邸に連れ戻された後も、別邸の裏から本邸の方に侵入しようと試みては結界に阻まれて、更に癇癪を起しているようだ。
彼女に学習能力はないのか。
「そして、クリスティア様。別邸の間者からも報告がございました。あの娘は、帰宅後にダニエル様にも学院での出来事を話されたそうです」
それは、そうだろう。
きっと、わたしを悪者に仕立てて、ロン様との婚約を認めなかっただの、ルシェと不貞をしているだのと言っているに違いない。
「それで、ダニエル殿は?」
「顔色を変えて、すぐに別邸を出られたと聞いております」
ここで、これまでわたしとクィンの話を黙って聞いていた殿下とルシェも話に加わった。アリス嬢の行動は予想通りすぎて呆れた顔で聞いていたものの、わたしの父とやらの動向は流せなかったようだ。
「それなら、影が後を追っているよね」
「そうだな。そして、ダニエル殿が男爵か黒幕のところに行っているならば」
「事態が動き始めますわね?」
アリス嬢は面倒なことを引き起こしてはくれたが、これで予定よりも早く事態が動くはずだ。わたしたちは頷きあって、大元の問題の早期解決を願った。
というのも、陛下や殿下が、放課後の話し合いに呼ばれなかったアリス嬢からの突撃を危惧したからだったのだけれど。
部屋を準備してもらっている間、殿下やルシェと雑談をしていたら、学院に放っている間者や影からの報告が入った。
アリス嬢は、案の定、放課後にわたしたちを探して大騒ぎしていたようだ。
そして、やはり、学院では婚約話の噂がかなり広まっているという。
わたしたちは授業が終わるとすぐに話し合いの場のレストランに向かってしまったから、当事者に婚約の真偽を確認することはできないが、その分、アリス嬢が随分と触れ回ってくれていたらしい。
ただし、アリス嬢は、わたしとロン様の婚約話が事実でルシェとの婚約話は嘘、という話しかしていないようだったから、困惑している人が多いそうだ。
「当然困惑するだろう。ルシェールとクリスの婚約は周知の事実だからな」
「それを嘘って断言するなんて、ものすごく無理があると思うけど」
どうやら、わたしとルシェの婚約お披露目パーティーのことを覚えていた人が、アリス嬢にそれを指摘してくれたようなのだけど、そんなはずはない、勘違いだと反論され、終いには、小さな頃の思い出作りだったんじゃない?と笑ったりしていたらしい。意味がわからない。
「あの人、わたしを使用人だと言い切った時もそうだったけど、思い込みが激しいと思うわ」
「確かにな。しかも、自分は間違っていないと思っているから困ったものだ」
そうして、殿下とルシェと三人で思わずため息をついてしまったのだけど、しばらくの間の後、殿下が何かに気づいたような顔をした。
「アリス嬢は、自分がルシェールの婚約者になったことは話していないのだな」
「それ、本当によかったよ。そんなことまで広まってたら、僕、終わってたよ」
「彼女、知らないんじゃないかしら。今回の話も、わたしとロン様の婚約の話のところだけを盗み聞きしたとか……」
わたしがそう言うと、殿下とルシェは一瞬目をぱちくりさせたが、彼女ならあり得る、と次第に納得顔になった。この状況はそれしかないと思う。
そうして、今回の件をあれこれと考察していたら、我が家の執事のクィンが王宮まで来てくれた。わたしの荷物を持ってきてくれたのだ。
彼によると、アリス嬢は、帰宅してからも、公爵家の正門の前でわたしを出せと喚き散らしていたらしい。
「ごめんなさいね。迷惑をかけて」
「とんでもございません。お話は伺っております。今回、ダニエル様の娘が面倒なことを引き起こしたとのこと。クリスティア様も大変でございましたね。門番やバートン家の私兵たちが対応しておりますのでご安心ください」
聞けば、正門から別邸に連れ戻された後も、別邸の裏から本邸の方に侵入しようと試みては結界に阻まれて、更に癇癪を起しているようだ。
彼女に学習能力はないのか。
「そして、クリスティア様。別邸の間者からも報告がございました。あの娘は、帰宅後にダニエル様にも学院での出来事を話されたそうです」
それは、そうだろう。
きっと、わたしを悪者に仕立てて、ロン様との婚約を認めなかっただの、ルシェと不貞をしているだのと言っているに違いない。
「それで、ダニエル殿は?」
「顔色を変えて、すぐに別邸を出られたと聞いております」
ここで、これまでわたしとクィンの話を黙って聞いていた殿下とルシェも話に加わった。アリス嬢の行動は予想通りすぎて呆れた顔で聞いていたものの、わたしの父とやらの動向は流せなかったようだ。
「それなら、影が後を追っているよね」
「そうだな。そして、ダニエル殿が男爵か黒幕のところに行っているならば」
「事態が動き始めますわね?」
アリス嬢は面倒なことを引き起こしてはくれたが、これで予定よりも早く事態が動くはずだ。わたしたちは頷きあって、大元の問題の早期解決を願った。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。



魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる