陛下、貸しひとつですわ

あくび。

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14.愚者の動向

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 陛下に報告に行ったあとは、そのまま王宮に部屋を用意してもらった。
 というのも、陛下や殿下が、放課後の話し合いに呼ばれなかったアリス嬢からの突撃を危惧したからだったのだけれど。

 部屋を準備してもらっている間、殿下やルシェと雑談をしていたら、学院に放っている間者や影からの報告が入った。

 アリス嬢は、案の定、放課後にわたしたちを探して大騒ぎしていたようだ。
 そして、やはり、学院では婚約話の噂がかなり広まっているという。
 わたしたちは授業が終わるとすぐに話し合いの場のレストランに向かってしまったから、当事者に婚約の真偽を確認することはできないが、その分、アリス嬢が随分と触れ回ってくれていたらしい。

 ただし、アリス嬢は、わたしとロン様の婚約話が事実でルシェとの婚約話は嘘、という話しかしていないようだったから、困惑している人が多いそうだ。

「当然困惑するだろう。ルシェールとクリスの婚約は周知の事実だからな」
「それを嘘って断言するなんて、ものすごく無理があると思うけど」

 どうやら、わたしとルシェの婚約お披露目パーティーのことを覚えていた人が、アリス嬢にそれを指摘してくれたようなのだけど、そんなはずはない、勘違いだと反論され、終いには、小さな頃の思い出作りだったんじゃない?と笑ったりしていたらしい。意味がわからない。

「あの人、わたしを使用人だと言い切った時もそうだったけど、思い込みが激しいと思うわ」
「確かにな。しかも、自分は間違っていないと思っているから困ったものだ」

 そうして、殿下とルシェと三人で思わずため息をついてしまったのだけど、しばらくの間の後、殿下が何かに気づいたような顔をした。

「アリス嬢は、自分がルシェールの婚約者になったことは話していないのだな」
「それ、本当によかったよ。そんなことまで広まってたら、僕、終わってたよ」
「彼女、知らないんじゃないかしら。今回の話も、わたしとロン様の婚約の話のところだけを盗み聞きしたとか……」

 わたしがそう言うと、殿下とルシェは一瞬目をぱちくりさせたが、彼女ならあり得る、と次第に納得顔になった。この状況はそれしかないと思う。

 そうして、今回の件をあれこれと考察していたら、我が家の執事のクィンが王宮まで来てくれた。わたしの荷物を持ってきてくれたのだ。

 彼によると、アリス嬢は、帰宅してからも、公爵家の正門の前でわたしを出せと喚き散らしていたらしい。

「ごめんなさいね。迷惑をかけて」
「とんでもございません。お話は伺っております。今回、ダニエル様の娘が面倒なことを引き起こしたとのこと。クリスティア様も大変でございましたね。門番やバートン家の私兵たちが対応しておりますのでご安心ください」

 聞けば、正門から別邸に連れ戻された後も、別邸の裏から本邸の方に侵入しようと試みては結界に阻まれて、更に癇癪を起しているようだ。
 彼女に学習能力はないのか。

「そして、クリスティア様。別邸の間者からも報告がございました。あの娘は、帰宅後にダニエル様にも学院での出来事を話されたそうです」

 それは、そうだろう。
 きっと、わたしを悪者に仕立てて、ロン様との婚約を認めなかっただの、ルシェと不貞をしているだのと言っているに違いない。

「それで、ダニエル殿は?」
「顔色を変えて、すぐに別邸を出られたと聞いております」

 ここで、これまでわたしとクィンの話を黙って聞いていた殿下とルシェも話に加わった。アリス嬢の行動は予想通りすぎて呆れた顔で聞いていたものの、わたしの父とやらの動向は流せなかったようだ。

「それなら、影が後を追っているよね」
「そうだな。そして、ダニエル殿が男爵か黒幕のところに行っているならば」
「事態が動き始めますわね?」

 アリス嬢は面倒なことを引き起こしてはくれたが、これで予定よりも早く事態が動くはずだ。わたしたちは頷きあって、大元の問題の早期解決を願った。
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