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12.彼の言い分
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放課後、わたしたちはあるレストランの一室にいた。
学院でもよかったのだが、誰に聞かれるかもわからない状況を避けるために、王族も利用するレストランの個室を借りてくれたようだ。
面倒ばかりかけて、殿下やオルライト様には本当に申し訳ない。
ここにいるのは、わたしとルシェ、殿下とオルライト様、そして、あの男にわたしの婚約者とされたロン様だ。
アリス嬢はここにはいない。
オルライト様曰く、場所を伝えに行ったが教室にいなかった、ということだが、恐らく故意に、あの娘がいない時を狙って伝えにいったのだろう。
アリス嬢がいては話が進まない可能性が高いから、その判断はありがたい。
他の皆も、異論はないようだ。
ロン様は、商会の業績を認められて最近叙爵された男爵家のご子息だという。
オルライト様はファニス侯爵家のご子息だから、王族と高位貴族に囲まれて恐縮していたが、しばし目を彷徨わせた後、意を決したように口を開いた。
「今日は、待ち伏せなどをしてしまって申し訳ありませんでした」
「………君の様子を見るに、待ち伏せは本意ではなかったのか?」
確かに、所在なさげだったし、今もすごく不安そうだ。
「はい。食堂で昼食をとっていたらアリス様に声を掛けられたのです。婚約を祝ってくれたのですが、私の婚約の発表はまだ先だから口外しないように言われていたため、吃驚してしまってあたふたしていたら、いつの間にかクリスティア様のところに行くことになっていて、私は付いていくことしかできませんでした」
その様子が目に浮かぶ。
ロン様は男爵家。公爵令嬢と称するアリス嬢には逆らえないだろう。
「口外しないように言われていたのか?」
「はい。父からはそう言われていました。ですが、アリス様がお話になったということは、もう口にしてもよくなったのかもしれません」
そうではなく、恐らく、単なるアリス嬢の暴走ではないだろうか。親に聞いたのか盗み聞いたのかはわからないが、黙っていられなかっただけなのだと思う。
にしても、食堂という人目のある場で口にするだなんてやってくれたものだ。
「あの、その、私は、そもそも私の婚約話は間違いではないかと思っていたのです。ルシェール様とクリスティア様の婚約も、仲がいいことも有名です。それなのに、クリスティア様が私となんて、どうしても信じられなくて」
「父君は正式な婚約だと?」
「はい。そう言っていました。おふたりの婚約についても、既に解消されていて、ルシェール様の婚約者はアリス様になったと言われてしまいました」
「はああ?」
声を上げたのはルシェだが、わたしもさすがに驚いた。
「……失礼しました。どこからそんな話が出たのか。ティアとの婚約は解消していないし、僕とアリス嬢との婚約なんてもっての外だ。冗談じゃない」
「やはり、そうなのですか……」
「言い分が違うな。ルシェールとクリスが親から聞いていないだけという可能性がないわけでもないが、そこまで話が進んでいて当事者が全く知らないなどとは信じ難い。ロン殿。失礼だが、正式な婚約だという証拠はあるのか?」
「婚約証明書がありました。私たちの名前と我が家と公爵家の印もあったので、私もそれを見て何とか納得したのですが……、でも、正直まだ半信半疑です」
まさか、そんなものまで用意していたとは。
ただし、残念ながら、その婚約証明書は偽造だ。
それは、わたしがはっきり断言できる。
そう思っていると、殿下とルシェがわたしの方を見たから小さく首を振った。
殿下とルシェはこれで気づいてくれただろう。わたしたちを見ていたオルライト様も察したようだ。
発表が先だという尤もらしい理由をつけていたが、口止めに偽造とくれば、男爵は騙されている可能性が高い。もしくは、共犯か。
これは、想像していたよりも面倒なことになったかもしれない。
学院でもよかったのだが、誰に聞かれるかもわからない状況を避けるために、王族も利用するレストランの個室を借りてくれたようだ。
面倒ばかりかけて、殿下やオルライト様には本当に申し訳ない。
ここにいるのは、わたしとルシェ、殿下とオルライト様、そして、あの男にわたしの婚約者とされたロン様だ。
アリス嬢はここにはいない。
オルライト様曰く、場所を伝えに行ったが教室にいなかった、ということだが、恐らく故意に、あの娘がいない時を狙って伝えにいったのだろう。
アリス嬢がいては話が進まない可能性が高いから、その判断はありがたい。
他の皆も、異論はないようだ。
ロン様は、商会の業績を認められて最近叙爵された男爵家のご子息だという。
オルライト様はファニス侯爵家のご子息だから、王族と高位貴族に囲まれて恐縮していたが、しばし目を彷徨わせた後、意を決したように口を開いた。
「今日は、待ち伏せなどをしてしまって申し訳ありませんでした」
「………君の様子を見るに、待ち伏せは本意ではなかったのか?」
確かに、所在なさげだったし、今もすごく不安そうだ。
「はい。食堂で昼食をとっていたらアリス様に声を掛けられたのです。婚約を祝ってくれたのですが、私の婚約の発表はまだ先だから口外しないように言われていたため、吃驚してしまってあたふたしていたら、いつの間にかクリスティア様のところに行くことになっていて、私は付いていくことしかできませんでした」
その様子が目に浮かぶ。
ロン様は男爵家。公爵令嬢と称するアリス嬢には逆らえないだろう。
「口外しないように言われていたのか?」
「はい。父からはそう言われていました。ですが、アリス様がお話になったということは、もう口にしてもよくなったのかもしれません」
そうではなく、恐らく、単なるアリス嬢の暴走ではないだろうか。親に聞いたのか盗み聞いたのかはわからないが、黙っていられなかっただけなのだと思う。
にしても、食堂という人目のある場で口にするだなんてやってくれたものだ。
「あの、その、私は、そもそも私の婚約話は間違いではないかと思っていたのです。ルシェール様とクリスティア様の婚約も、仲がいいことも有名です。それなのに、クリスティア様が私となんて、どうしても信じられなくて」
「父君は正式な婚約だと?」
「はい。そう言っていました。おふたりの婚約についても、既に解消されていて、ルシェール様の婚約者はアリス様になったと言われてしまいました」
「はああ?」
声を上げたのはルシェだが、わたしもさすがに驚いた。
「……失礼しました。どこからそんな話が出たのか。ティアとの婚約は解消していないし、僕とアリス嬢との婚約なんてもっての外だ。冗談じゃない」
「やはり、そうなのですか……」
「言い分が違うな。ルシェールとクリスが親から聞いていないだけという可能性がないわけでもないが、そこまで話が進んでいて当事者が全く知らないなどとは信じ難い。ロン殿。失礼だが、正式な婚約だという証拠はあるのか?」
「婚約証明書がありました。私たちの名前と我が家と公爵家の印もあったので、私もそれを見て何とか納得したのですが……、でも、正直まだ半信半疑です」
まさか、そんなものまで用意していたとは。
ただし、残念ながら、その婚約証明書は偽造だ。
それは、わたしがはっきり断言できる。
そう思っていると、殿下とルシェがわたしの方を見たから小さく首を振った。
殿下とルシェはこれで気づいてくれただろう。わたしたちを見ていたオルライト様も察したようだ。
発表が先だという尤もらしい理由をつけていたが、口止めに偽造とくれば、男爵は騙されている可能性が高い。もしくは、共犯か。
これは、想像していたよりも面倒なことになったかもしれない。
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