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11.新たな厄災
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ルシェや殿下、友人たちに守られながら、アリス嬢と鉢合わせないように過ごしていても、あの娘は鉄壁の守りを掻い潜ってやってくる。
今日も朝早く登院し、休憩時間は友人がアリス嬢を躱してくれて、昼食の時間は王族用の個室サロンにお邪魔していた。
学院には高位貴族用の個室、王家や大公家の個室サロンがあるのだ。
――我がバートン公爵家にも個室があるが、アリス嬢が使う可能性を考えて最近は利用していない。
今日は殿下が王族用のサロンに招待してくれたから、ルシェとオルライト様も一緒に楽しく昼食の時間を過ごした後、そろそろ教室に戻ろうか、とルシェとサロンを出たら、アリス嬢が待ち構えていた。
「お姉様!」
アリス嬢の姿が目に入った途端、ため息が出てしまったのも仕方がないと思う。
よくもまあ、今日の昼食時にわたしがここにいることがわかったものだ。
それに、わたしは姉と呼ぶことを許可した覚えはない。
確かに生物学上は異母妹ではあるのだから、許可は必要ないのかもしれないし、そう呼ばれてもしょうがないのかもしれない。
だが、父とやらは再婚していないようだし、わたしはアリス嬢は元より、父だって家族だとは認めていないのだ。できれば、姉などとは呼んでほしくない。
そういえば、殿下のアル様呼びも許してはいないのだと言っていた。
勝手に、好きなように相手のことを呼ぶのがアリス嬢の常識らしい。
自分を公爵令嬢というのなら、貴族らしからぬその常識は今すぐに取り払ってもらいたいものだ。
「またその方と一緒にいるなんて。そうやって親しくするのはどうかと思うわ」
教室に戻るから時間がない旨を伝えようとわたしが口を開く前に、アリス嬢のほうが話をし始めた。が、何を言われているのかがわからない。
ルシェとわたしは、殿下やオルライト様よりも早くサロンを出てきているため、今はルシェとふたりきりに見えるのだと思うが、ルシェは婚約者だ。
「……婚約者と仲良くして何が悪いんですの?」
「はあ?お姉様の婚約者はこの男爵家の人よ!身の程を弁えず、大公家の方と不貞をするなんて、信じられないわ!」
「「は?」」
そう言われて、アリス嬢の少し後ろに、ひとりの男性が所在なさげに立っているのに気づいた。初めてお会いする方だと思うが、この見知らぬ方がわたしの婚約者?この娘は、今度は何を言い出したのだろうか。
「わたくしの婚約者は、こちらのルシェール様ですわ」
「嘘をつかないで!」
また嘘だと言われた。
使用人発言のときもそうだったが、どうしてアリス嬢は、間違った情報を真実だと決めつけているのか。少し調べればすぐわかることばかりなのに。
「君と話すのは初めてだよね?僕はルシェール・ダルウィン。僕からも断言するよ。クリスティアは僕の婚約者だ」
「そんなはずないわ!」
更には、ルシェが名乗ったにも関わらず、自分は名乗らず、無礼な言葉で否定するなんて。アリス嬢は失礼なことしかできないのかもしれない。
ルシェと顔を見合わせて困っていると、アリス嬢の大きな声が聞こえたのか、殿下とオルライト様もサロンから出てきて合流したのだが、彼らも揃って困惑している。こんなことばかりだ。
「どうやら勘違いが生まれているようですね?」
「え、ええ」
「勘違いじゃないわ!お父様にも聞いたもの!」
元凶はあの男か!
まったく、本当にろくでもないことをしてくれるものだ。
「そうですか……。困りましたね。午後の授業ももうすぐ始まりますし、放課後に再度対面してお互いの認識を確認し合う、というのはどうでしょう?」
「……そうですわね。貴方様もそれでよろしいかしら?」
実はまだ一言も発していない、あの男が決めたわたしの婚約者とやらに確認してみると、頷くことで了承してくれた。
「よかったら、第三者の立ち合い人として私も立ち会おう。オルもいいかい?」
「承知しました。では、どこか個室を抑えておきます。君にも後で場所を知らせますよ」
今日も朝早く登院し、休憩時間は友人がアリス嬢を躱してくれて、昼食の時間は王族用の個室サロンにお邪魔していた。
学院には高位貴族用の個室、王家や大公家の個室サロンがあるのだ。
――我がバートン公爵家にも個室があるが、アリス嬢が使う可能性を考えて最近は利用していない。
今日は殿下が王族用のサロンに招待してくれたから、ルシェとオルライト様も一緒に楽しく昼食の時間を過ごした後、そろそろ教室に戻ろうか、とルシェとサロンを出たら、アリス嬢が待ち構えていた。
「お姉様!」
アリス嬢の姿が目に入った途端、ため息が出てしまったのも仕方がないと思う。
よくもまあ、今日の昼食時にわたしがここにいることがわかったものだ。
それに、わたしは姉と呼ぶことを許可した覚えはない。
確かに生物学上は異母妹ではあるのだから、許可は必要ないのかもしれないし、そう呼ばれてもしょうがないのかもしれない。
だが、父とやらは再婚していないようだし、わたしはアリス嬢は元より、父だって家族だとは認めていないのだ。できれば、姉などとは呼んでほしくない。
そういえば、殿下のアル様呼びも許してはいないのだと言っていた。
勝手に、好きなように相手のことを呼ぶのがアリス嬢の常識らしい。
自分を公爵令嬢というのなら、貴族らしからぬその常識は今すぐに取り払ってもらいたいものだ。
「またその方と一緒にいるなんて。そうやって親しくするのはどうかと思うわ」
教室に戻るから時間がない旨を伝えようとわたしが口を開く前に、アリス嬢のほうが話をし始めた。が、何を言われているのかがわからない。
ルシェとわたしは、殿下やオルライト様よりも早くサロンを出てきているため、今はルシェとふたりきりに見えるのだと思うが、ルシェは婚約者だ。
「……婚約者と仲良くして何が悪いんですの?」
「はあ?お姉様の婚約者はこの男爵家の人よ!身の程を弁えず、大公家の方と不貞をするなんて、信じられないわ!」
「「は?」」
そう言われて、アリス嬢の少し後ろに、ひとりの男性が所在なさげに立っているのに気づいた。初めてお会いする方だと思うが、この見知らぬ方がわたしの婚約者?この娘は、今度は何を言い出したのだろうか。
「わたくしの婚約者は、こちらのルシェール様ですわ」
「嘘をつかないで!」
また嘘だと言われた。
使用人発言のときもそうだったが、どうしてアリス嬢は、間違った情報を真実だと決めつけているのか。少し調べればすぐわかることばかりなのに。
「君と話すのは初めてだよね?僕はルシェール・ダルウィン。僕からも断言するよ。クリスティアは僕の婚約者だ」
「そんなはずないわ!」
更には、ルシェが名乗ったにも関わらず、自分は名乗らず、無礼な言葉で否定するなんて。アリス嬢は失礼なことしかできないのかもしれない。
ルシェと顔を見合わせて困っていると、アリス嬢の大きな声が聞こえたのか、殿下とオルライト様もサロンから出てきて合流したのだが、彼らも揃って困惑している。こんなことばかりだ。
「どうやら勘違いが生まれているようですね?」
「え、ええ」
「勘違いじゃないわ!お父様にも聞いたもの!」
元凶はあの男か!
まったく、本当にろくでもないことをしてくれるものだ。
「そうですか……。困りましたね。午後の授業ももうすぐ始まりますし、放課後に再度対面してお互いの認識を確認し合う、というのはどうでしょう?」
「……そうですわね。貴方様もそれでよろしいかしら?」
実はまだ一言も発していない、あの男が決めたわたしの婚約者とやらに確認してみると、頷くことで了承してくれた。
「よかったら、第三者の立ち合い人として私も立ち会おう。オルもいいかい?」
「承知しました。では、どこか個室を抑えておきます。君にも後で場所を知らせますよ」
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