陛下、貸しひとつですわ

あくび。

文字の大きさ
上 下
10 / 20

10.強力な味方

しおりを挟む
 翌日、登院してすぐにルシェと生徒会室に向かった。

 かなり早く登院したつもりだったが、既に殿下が仕事をしていて驚く。
 殿下は三年生で生徒会長。勉強は元より、執務もある中での生徒会仕事では大変お忙しいとは思うが、毎日こんなにも早く来ているとは知らなかった。オルライト様はまだ来ていなかったから、今日が特別早いのかもしれないが。

 わたしたちは昨日の放課後の一件に対する御礼に伺ったのだが、昨夜手紙で御礼をしがてら生徒会室に赴くことは伝えていたため、仕事中だったにもかかわらず、殿下は嫌な顔ひとつせずにわたしたちの話を聞いてくれた。
 今は、殿下とルシェとわたしの気心のしれた幼馴染しかいないので、お互い気安い呼び名になっている。

「わざわざ、よかったのに」
「そういうわけにも参りませんわ」
「本当に大したことはしていないよ。あれからアリス嬢は知らなかっただの何だのと言い訳をしていたけど、クリスのことは理解してもらったから」
「本当にご面倒をおかけいたしましたわ。ありがとうございました」
「どうか気にしないでくれ。それはそうと、昨夜、久しぶりに父上と話をしたんだ」

 早々に御礼の話を切り上げたと思ったら、陛下のお話。
 陛下もお忙しいとは思っていたが、息子と会う時間も取れないほどとは。
 今回は事が大きいこともあって通常業務以外の仕事も多いのだろう。

 久々の王族親子の会話は、わたしを取り巻く環境と黒い噂に纏わるあれこれの話だったようだ。恐らく学院長のことも聞いたと思われる。

「私のほうこそクリスの事情も知らず、気が回らなくてすまなかった」
「アル兄様、やめてくださいませ。謝罪は必要ありませんわ」
「そうは言っても受けるだけは受けてくれ。……クリスは今後も、あの娘たち家族とは交流をしないつもりなのだな?」
「もちろんですわ」

 思わず即座に肯定してしまった。
 表向きは仲良くしたほうがいいのかもしれないが、父とやらは自分の要望を伝えてくるばかりで謝罪はないし、娘も失礼極まりない。
 交流したらわたしの生活を乱されそうだし、案件が片付いたら出ていってもらう予定なので、心の安寧のためにも近づきたくはないのだ。

 殿下は、そんなわたしの心情を憚ってくれたのか、わたしの意思を尊重してくれて、今後もフォローに回ってくれるという。恐縮しきりだが、ルシェの意向もあって引き続きお言葉に甘えることにした。

 ちなみに、殿下がアリス嬢と交流があったのは単にわたしの妹だからだったようだ。変に勘繰りをしてしまって申し訳なかった。

 それからは、朝は通常よりも早く登院し、授業が終わると誰よりも早く帰宅する生活を続けている。

 というのも、案の定、アリス嬢がわたしに接触をしようと、邸の結界を破ろうとしたり、邸の中央門に突撃したり待ち構えているからなのだが、何度追い返されても諦めないところはある意味すごいと思う。
 父とやらも抗議をしてきたらしいが、叔父が撃退した。

 もちろん、アリス嬢は学院でもわたしに突撃しようと様々な手を使ってくる。
 が、その時は、クラスの友人たちが盾になってくれている。
 本当に申し訳ないとは思っているものの、すごく助かっているのも事実だ。

 友人たちは、裏の案件までは知らないはずだが、わたしが置かれていた環境は元より、父とやらとその娘であるアリス嬢のしでかしも聞き及んでいるようで、現状について、わたし以上に怒ってくれて、味方になってくれた。

「クリスのことは、わたくしたちが守りますわ」

 わたしにはルシェや殿下に友人たちという強力な味方がいることを再確認して、心が温かくなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...