陛下、貸しひとつですわ

あくび。

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08.当初の予定

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「ティア。ここにいたの?」
「ルシェ!ごめんなさい。待たせちゃったわよね」
「それはいいんだけど。…っ!……殿下。オルライト様。失礼しました」

 ルシェことルシェール様は、王弟殿下であるダルウィン大公のご子息だ。
 この場に殿下たちがいることに驚いて、急いで礼をとっていた。
 とはいえ、このふたりは従兄弟同士で普段から気安い関係であるため、礼と言っても儀礼的なものであるし、すぐに面を上げたけれども。

「ルシェール、元気そうだな」
「おかげさまで。あの、もしや、ティアに何か用事が?」
「ああ、いや。令嬢が揉めているように見えたから駆け付けてみたのだけどね、どうやら勘違いだったようだ」
「勘違い…?そうですか……」
「ふたりは約束でもしていたのかい?」
「ええ、そうなんですが……」

 そうなのだ。
 実はルシェは一つ年下のわたしの婚約者なのだが、今日は叔父が来ることもあって、今回の父とやらの別邸住まわせ案件についての説明をするために我が家に招待しているのだ。馬車寄せで待ち合わせをしていたのに、あの男の娘の引き止めにあって待たせてしまった。

 この娘が結局何を言いたかったのかはわからないままだが、わたしの正体も明かしたことだし、もういいだろう。

「あの、貴方……ええと、アリス嬢でしたかしら?わたくしが使用人ではないことはわかっていただけまして?」
「は?」

 声を上げたのはルシェだ。
 その反応も致し方ないとは思うが、この場でこれまでの会話を繰り返すのも時間の無駄だから、後で話す旨を視線で伝えておく。

「……アル様が嘘をつくはずがないし」
「ええ。わたくし、バートン公爵家の者として、昨年からこの学院に通っておりますから、証人はたくさんおりますわ。誤解も解けると思いますし、ここで失礼してよろしいかしら?」
「…………………」

 殿下がわたしの言葉を裏付けるように頷いて、アリス嬢に返事を促すような顔をしたからか、最初は一応返事を返してきたものの、その後は無視された。
 とことん失礼な娘である。

「約束をしているのだろう?ここは私が引き受けよう」
「ええ、僕たちから説明しておきますよ」

 殿下とオルライト様に任せるのは忍びないが、大変ありがたいお申し出だ。
 恐らくわたしが何を言っても信じてはくれないだろうから、お任せしたほうがスムーズに話が進むと思われる。

「……ご面倒をおかけして申し訳ありません」
「いや。これくらい何のことはない。気にしないでくれ」

 そうして、お言葉に甘えて先に帰らせていただいたのだが。

 帰りがてら、馬車の中で防音結界を張ってアリス嬢に言われたことを話したら、ルシェが不機嫌になってしまって困ってしまった。
 話の流れから、別邸住まわせ案件についても軽く説明することになったから、叔父からの説明はいらないのではないかとも思うのだけど、せっかくなので、探りの進捗でも聞くことにしよう。

 当然ながら、アリス嬢のことは叔父に報告するつもりだ。
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