陛下、貸しひとつですわ

あくび。

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05.失礼な令嬢

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 王宮で打ち合わせをした週の週末、予定通りに母の追悼式が執り行われた。
 式には母が懇意にしていた貴族の方が多く訪れてくれて、母の人となりを再確認したものだ。穏やかないいお式だったと思う。
 警備も厳重にしてくれたようで、父とやらの乱入もなかった。
 ……もともと来る気もなかったかもしれないが。

 そして、学院の復帰をかけたテストも無事にクリアしたわたしは、以前と同じように学院に通っている。長らく学院を休んでいたというのに、友人たちも先生方も温かく迎えてくれて、本当にありがたい。

 学院に復帰して数日したある日。
 授業を終え、帰宅のために馬車寄せに向かっていたら、突然腕を掴まれた。

「ちょっとあなた!」

 更には怒鳴られて驚いた。

 一体何なのだ、と思いながら相手のほうを振り向いたのだが、目の前のピンクブロンドにヘイゼル色の眼をした少女に見覚えはない。
 童顔でかわいらしい容姿をしているし、普通にしていれば庇護欲を掻き立てられるのだろうが、今は何が気に入らないのか、こちらを睨んでいる。

「突然無礼ではなくて?離して下さらない?」
「は?何よ、偉そうに!私を誰だと思ってるの?!」

 そう言われても知らないものは知らないのだ。
 念のため、この国の貴族を思い起こしてみたけれど、王族にも大公家にも、同列の公爵家にもこんな令嬢はいなかったはずだから、偉そうにと言われても、多分、本当にわたしのほうが偉いと思う。

「恐縮なのですけれど、わたくしはあなたのことを存じません。ご挨拶したこともお話したこともなかったと思いますが」
「なんで私が使用人に挨拶しなくちゃならないのよ!」

 目を吊り上げて声を荒げた令嬢に、思わず目を瞬かせてしまった。
 使用人というのはわたしのことだろうか。

 わたしはこの学院の二年生だ。
 いくら長期休学をしていたとはいえ、昨年はほぼ休まず通っている。
 わたしが公爵家の人間だということは周知の事実だと思っていたのだが、そうでもなかったということか。

 もしかしたら、わたしはこの娘の家の使用人に似ているのかもしれない。
 だが、そうであるならば、正直、いい迷惑だと思う。

 そもそも、自分の家の使用人ならば、対面すればわかるだろうし、主に向かって知らないなんて言わないはずだ。人違いだってことに気づいてほしい。

 目の前の令嬢はわたしを知らないようだから、素直に名乗れば何とかなるかしら、と思ったところで、近くに人影を感じた。
 どうやら、この騒ぎを見過ごせなかった人がいるようだ。

 騒ぎと言っても、目の前の娘が無駄に声を荒げているだけなのだけど。
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