4 / 20
04.貸しの追加
しおりを挟む
生物学上の父の家族を別邸に入れることに決まった翌日。
わたしは、休学していたバレンシア学院に寄ってから王宮に上がった。
本当は、学院には王都帰還後すぐにでも行きたかったのだが、ここ数日迷惑な馬車が門前に居座ったせいで邸を出ることが叶わなかったのだ。
今日やっと学院に行くことができ、復帰後のテストについて話を聞くことができた。母の追悼式後に予定を組んでくれるとのことなので、ありがたくその通りにお願いして学院を後にした。
そして、そのまま王宮に出向いたら、通されたのは応接室だった。
今日呼び出されたのは、あの男のことではない。
あの件は、迷惑な馬車が引き起こす騒ぎはもちろんのこと、噂が広がりすぎて見世物になりかけていたところを、治安の維持のために彼らを公爵邸に引き入れる、という形で収束させたため、表向きは解決しているのだ。
今日の本題は、母の追悼式の最終確認だ。
追悼式は、あの男のこともあるが、様々な事情を考慮して、公爵邸や神殿ではなく王宮で執り行われることになった。準備も王宮の使用人たちが請け負ってくれているため、それらの進捗と当日の流れの確認のために来たのだ。
陛下の口添えなのか、優秀な人材を揃えてくれたらしい。何もかもが滞りなく進められていてわたしが口を出すまでもなかった。あっという間に確認作業も終わり、あっさり帰ろうとしたところで、陛下が顔を出した。
「クリスティアよ、今回は面倒をかける。安全は必ず確保する故」
わざわざあの男の話をふってくれるとはありがたい。
せっかくなので、こちらも話を通させてもらおうと、念のため持参していた母の形見を取り出した。
「陛下。恐れながら、こちらのノートをご存じでしょうか」
「ん?………なんと。それはビアトリスのものであるか?」
「さようでございます。この度わたくしが引き継ぎました」
「引き継いだと?」
「はい。こちらには、貸しが十二ほど溜まっております。そして、今回、新たにお話をいただきましたので、もうひとつ追加させていただきたく」
「なに?今回の件にも貸し付けると?」
「もちろんでございます。あの家族を別邸に置くことで貸しひとつですわ」
母に褒められたとびっきりの笑顔で答えてみたら、陛下は、苦虫を噛み潰したような表情をした後、納得と諦めを混ぜたような複雑な顔で答えをくださった。
「……………………致し方ない」
「陛下、ありがとうございます」
この貸しノート。
元々はもっと簡単な従兄妹同士のゲームだったようなのだが、母のアイデアを元にした奇策を陛下が頼ることが多くなり、今の形になったという。
陛下からしたら、いくらわたしがノートを引き継いだとしても、今回の件は、陛下のほうでも対策を取ってくれているし、こちらは別邸を貸すだけなのだから、ノーカウントにしたいのだろう。王命に臣下が従うのは当然なのだし。
でも、今回、小娘には負担が大きいのだ。……主に精神的な面で。
貸しにさせてもらわなければ、がんばれない。
「クリスティア。確かに借りが溜まってしまっているが、私はビアトリスにきちんと返すつもりだったのだ。それは信じてほしい」
「もちろんですわ」
「ただ、ビアトリスの言うことは、月に行くための空を飛ぶ乗り物を作れだの、遠くにいても四角い箱で瞬時に連絡を取り合いたいだの、劇を箱に閉じ込めていつでも見れるようにしたいだの、非現実的なことが多かったのだよ」
「はい。存じております」
「クリスティアは、そんな無体なことを言わないよな?」
耳が垂れた犬のような陛下を見たら、うっかり貸しをチャラにしてしまいそうになったが、それでは母に申し訳ない。アイデアノートを再度見直してそこまで無理ではないものを探してみましょう。
「皆が幸せになるようなお願いを考えておきますわ」
わたしは、休学していたバレンシア学院に寄ってから王宮に上がった。
本当は、学院には王都帰還後すぐにでも行きたかったのだが、ここ数日迷惑な馬車が門前に居座ったせいで邸を出ることが叶わなかったのだ。
今日やっと学院に行くことができ、復帰後のテストについて話を聞くことができた。母の追悼式後に予定を組んでくれるとのことなので、ありがたくその通りにお願いして学院を後にした。
そして、そのまま王宮に出向いたら、通されたのは応接室だった。
今日呼び出されたのは、あの男のことではない。
あの件は、迷惑な馬車が引き起こす騒ぎはもちろんのこと、噂が広がりすぎて見世物になりかけていたところを、治安の維持のために彼らを公爵邸に引き入れる、という形で収束させたため、表向きは解決しているのだ。
今日の本題は、母の追悼式の最終確認だ。
追悼式は、あの男のこともあるが、様々な事情を考慮して、公爵邸や神殿ではなく王宮で執り行われることになった。準備も王宮の使用人たちが請け負ってくれているため、それらの進捗と当日の流れの確認のために来たのだ。
陛下の口添えなのか、優秀な人材を揃えてくれたらしい。何もかもが滞りなく進められていてわたしが口を出すまでもなかった。あっという間に確認作業も終わり、あっさり帰ろうとしたところで、陛下が顔を出した。
「クリスティアよ、今回は面倒をかける。安全は必ず確保する故」
わざわざあの男の話をふってくれるとはありがたい。
せっかくなので、こちらも話を通させてもらおうと、念のため持参していた母の形見を取り出した。
「陛下。恐れながら、こちらのノートをご存じでしょうか」
「ん?………なんと。それはビアトリスのものであるか?」
「さようでございます。この度わたくしが引き継ぎました」
「引き継いだと?」
「はい。こちらには、貸しが十二ほど溜まっております。そして、今回、新たにお話をいただきましたので、もうひとつ追加させていただきたく」
「なに?今回の件にも貸し付けると?」
「もちろんでございます。あの家族を別邸に置くことで貸しひとつですわ」
母に褒められたとびっきりの笑顔で答えてみたら、陛下は、苦虫を噛み潰したような表情をした後、納得と諦めを混ぜたような複雑な顔で答えをくださった。
「……………………致し方ない」
「陛下、ありがとうございます」
この貸しノート。
元々はもっと簡単な従兄妹同士のゲームだったようなのだが、母のアイデアを元にした奇策を陛下が頼ることが多くなり、今の形になったという。
陛下からしたら、いくらわたしがノートを引き継いだとしても、今回の件は、陛下のほうでも対策を取ってくれているし、こちらは別邸を貸すだけなのだから、ノーカウントにしたいのだろう。王命に臣下が従うのは当然なのだし。
でも、今回、小娘には負担が大きいのだ。……主に精神的な面で。
貸しにさせてもらわなければ、がんばれない。
「クリスティア。確かに借りが溜まってしまっているが、私はビアトリスにきちんと返すつもりだったのだ。それは信じてほしい」
「もちろんですわ」
「ただ、ビアトリスの言うことは、月に行くための空を飛ぶ乗り物を作れだの、遠くにいても四角い箱で瞬時に連絡を取り合いたいだの、劇を箱に閉じ込めていつでも見れるようにしたいだの、非現実的なことが多かったのだよ」
「はい。存じております」
「クリスティアは、そんな無体なことを言わないよな?」
耳が垂れた犬のような陛下を見たら、うっかり貸しをチャラにしてしまいそうになったが、それでは母に申し訳ない。アイデアノートを再度見直してそこまで無理ではないものを探してみましょう。
「皆が幸せになるようなお願いを考えておきますわ」
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。



魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる