陛下、貸しひとつですわ

あくび。

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04.貸しの追加

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 生物学上の父の家族を別邸に入れることに決まった翌日。
 わたしは、休学していたバレンシア学院に寄ってから王宮に上がった。

 本当は、学院には王都帰還後すぐにでも行きたかったのだが、ここ数日迷惑な馬車が門前に居座ったせいで邸を出ることが叶わなかったのだ。
 今日やっと学院に行くことができ、復帰後のテストについて話を聞くことができた。母の追悼式後に予定を組んでくれるとのことなので、ありがたくその通りにお願いして学院を後にした。

 そして、そのまま王宮に出向いたら、通されたのは応接室だった。

 今日呼び出されたのは、あの男のことではない。
 あの件は、迷惑な馬車が引き起こす騒ぎはもちろんのこと、噂が広がりすぎて見世物になりかけていたところを、治安の維持のために彼らを公爵邸に引き入れる、という形で収束させたため、表向きは解決しているのだ。

 今日の本題は、母の追悼式の最終確認だ。
 追悼式は、あの男のこともあるが、様々な事情を考慮して、公爵邸や神殿ではなく王宮で執り行われることになった。準備も王宮の使用人たちが請け負ってくれているため、それらの進捗と当日の流れの確認のために来たのだ。

 陛下の口添えなのか、優秀な人材を揃えてくれたらしい。何もかもが滞りなく進められていてわたしが口を出すまでもなかった。あっという間に確認作業も終わり、あっさり帰ろうとしたところで、陛下が顔を出した。

「クリスティアよ、今回は面倒をかける。安全は必ず確保する故」

 わざわざあの男の話をふってくれるとはありがたい。
 せっかくなので、こちらも話を通させてもらおうと、念のため持参していた母の形見を取り出した。

「陛下。恐れながら、こちらのノートをご存じでしょうか」
「ん?………なんと。それはビアトリスのものであるか?」
「さようでございます。この度わたくしが引き継ぎました」
「引き継いだと?」
「はい。こちらには、貸しが十二ほど溜まっております。そして、今回、新たにお話をいただきましたので、もうひとつ追加させていただきたく」
「なに?今回の件にも貸し付けると?」
「もちろんでございます。あの家族を別邸に置くことで貸しひとつですわ」

 母に褒められたとびっきりの笑顔で答えてみたら、陛下は、苦虫を噛み潰したような表情をした後、納得と諦めを混ぜたような複雑な顔で答えをくださった。

「……………………致し方ない」
「陛下、ありがとうございます」

 この貸しノート。
 元々はもっと簡単な従兄妹同士のゲームだったようなのだが、母のアイデアを元にした奇策を陛下が頼ることが多くなり、今の形になったという。

 陛下からしたら、いくらわたしがノートを引き継いだとしても、今回の件は、陛下のほうでも対策を取ってくれているし、こちらは別邸を貸すだけなのだから、ノーカウントにしたいのだろう。王命に臣下が従うのは当然なのだし。

 でも、今回、小娘には負担が大きいのだ。……主に精神的な面で。
 貸しにさせてもらわなければ、がんばれない。

「クリスティア。確かに借りが溜まってしまっているが、私はビアトリスにきちんと返すつもりだったのだ。それは信じてほしい」
「もちろんですわ」
「ただ、ビアトリスの言うことは、月に行くための空を飛ぶ乗り物を作れだの、遠くにいても四角い箱で瞬時に連絡を取り合いたいだの、劇を箱に閉じ込めていつでも見れるようにしたいだの、非現実的なことが多かったのだよ」
「はい。存じております」
「クリスティアは、そんな無体なことを言わないよな?」

 耳が垂れた犬のような陛下を見たら、うっかり貸しをチャラにしてしまいそうになったが、それでは母に申し訳ない。アイデアノートを再度見直してそこまで無理ではないものを探してみましょう。

「皆が幸せになるようなお願いを考えておきますわ」
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