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第五章 平民ライフ旅行編
111.彼女は念願の味に震える。
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(side リディア)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっと、やっと味わうことができるわ!
ジングに来てから、何かと騒動に巻き込まれてきたけれど。
漸く、本来の目的である食材探しをすることができた。
と言っても、探してくれたのはゴンザ商会さんであって。
わたしたちはただ紹介して貰ったに過ぎないのだけどね。
お豆腐は見つけられなかったものの。
もち米――この世界では『粘り米』――と、鮭が手に入った。
それに、シズレでは、山葵をたっぷりと買うことができたし。
王都までの道中では梅干に出会えたから。
今回の旅はかなり順調だと思う。
………食材探しでは、だけどね。
おまけに、お世話になっている公爵家の料理長さんから。
ジングのお肉やお野菜をいただいて。
牛蒡までゲットできたのよ。
―――実は、この世界では初めて見た。
ちょっと嬉しくて。
豚汁にきんぴら、そして素揚げを作ってみたんだけど。
『味噌汁に肉を入れるだなんて思ってもみませんでした。しかも、こんなにも美味しいとは。この豚汁と白米だけでも立派な食事になりますね』
料理長さんからそう言われたときは、本当に驚いた。
まさか、当たり前に味噌汁が存在するジングに豚汁が存在しないだなんて。
それこそ思ってもいなかったわ。
というかね?
わたしは牛蒡の素晴らしさを伝えたかったのよ。
豚汁に評価を掻っ攫われるのはちょっといただけないので。
わたし一押しの素揚げをおすすめしてみたり。
牛蒡は身体にもいいことを熱く語ったりして。
昨日は牛蒡の宣伝部長と化していたんだけど。
今日は―――――。
長年求めていた『鮭』を味わい尽くしたいと思います!!
ラディも楽しみにしているしね。
がんばってお料理するわよ?
まずは、川鮭をどどんと取り出したら。
なんと、見学に来ていた料理長さんが捌いてくれると言う。
「漸くお役に立てて嬉しいですよ。魚を捌くのは得意なんです」
昨日の差し入れの件を考えても。
多分、料理長さんは、わたしに対して申し訳なく思っているのよね。
売ってるレシピを教えていることだって、気づいているだろうしね。
それでも、貪欲に料理の知識を求めていて。
知らない料理を知るチャンスを逃したくないのだと思う。
わたしは、レシピを売っている身ではあるけれど。
実際には、わたしのレシピではなくて前世の知識だから。
レシピを売ることに対して、抵抗がないわけじゃないし。
前世では一般的だったレシピなら、普通に教えてしまいそうになる。
でも、この世界には、レシピを買ってくれている人がいるのだから。
そういう人を無視して簡単にレシピを教えることもできないわけで。
わたしも複雑なのよね。
とりあえず『公爵家にお世話になっている』という理由はあるから。
色々と教えてしまうのは許してほしい。
これでも教えるレシピは選んでるしね。
料理長さんも、出来ればあまり気にしないでほしいな。
って思って、料理長さんに目を向けた時だった。
中骨を捨てようとしていたから、慌てて止めたわよね。
「あー!!ちょっと待ってください!」
「もしかして、鮭でも中落ちが取れるの?」
ラディ、違うのよ。
「中骨も食べられるの。弱火でじっくり煮込めば柔らかくなるのよ」
まだ圧力鍋を作っていないことを残念に思いながら説明したら。
ラディのみならず、料理長さんまで目を丸くして驚いていた。
「リディアさんは素晴らしいですね」
「リディは、本当に、食材を余すことなく使うよね」
もちろんよ。命を戴くのですもの。
カマだって、食べれるところはすべて取っておくし。
端っこや腹骨に付いた身だって、炙って鮭フレークにするわよ?
ということで。
料理長さんには、海鮭も捌いて貰って、小骨も抜いて貰って。
ラディには柵や切り身にならない部分を炙って解して貰うことにした。
その間に、わたしは中骨煮を作り始めて。
味見用に、切り身をひと切れいただいて塩焼きにしたんだけど。
「火を通すと色が変わるんだね。あんなに鮮やかだったのに淡い色になった」
ラディは、心なし残念そうにそう言いつつ。
最初はチラチラと見ていただけだった料理長さんも。
いつしか、焼けていい匂いがしてきた鮭に釘付けになっていた。
「焼けたわ!!」
思わず、ごくりと喉が鳴ったわよね。
ラディと料理長さんも、焼きあがった鮭から目を離さない。
「味見、しましょう」
わたしがそう言った瞬間に、ふたりともお箸を手に取った。
もちろん、わたしも言いながらお箸を持ってたわ。
そして、三人で一切れの鮭を分け合ったわけだけど。
「………っ!!」
一口食べて、わたしは、声も出せなかったわよね。
あー…、これよ、これ。鮭よ、鮭だわ。
苦節十八年。漸く食べることができた。
ちょっと涙が出てきそう。
「うまっ。俺、かなり好きかもしれない」
「これは……。本当に美味しいですね。白米にも合いそうです」
でしょう?そうでしょう?
せっかくなので、ラディが炙って解してくれた身をフレークにして。
おにぎりも作ってみたわ。
「本当だ。すごく白米に合う。おにぎりの具に最適だね」
「この握り飯は、賄いにしたら喜ばれそうです」
朝食にも最適よ?
なんて、鮭トークで数時間はいけそうだったけれど。
それどころじゃなかったわ。
鮭に感けていないで、そろそろ昼食の準備もしなくてはならない。
今日のお昼は、鮭の和風ランチの予定なのよ。
鮭の塩麹焼きに玉子焼き、そして、お煮しめに青菜のお浸し。
ご飯は、山菜おこわにしようと思っている。
せっかくだもの、もち米、もとい、粘り米だって使わないとね。
朝からきっちり浸水させておいたのよ。
料理長さんは米自体は知ってたけど、蒸す方法は知らなかったらしく。
完成したおこわを見て、かなり感動していたわ。
そうして、できあがったお昼ご飯。
今日のランチは、ラディとふたりだけなので。
裏庭にテーブルを出して、青空ランチにした。
―――ちなみに。
王宮で仕事をしているシエル様たちにはお弁当にして差し入れている。
ジョージ様が騎士団に用があるとかで、序に持って行ってくれたのだ。
「塩焼きやおにぎりも美味しかったけど、この漬け焼もおいしいね。塩麹漬けは鱈でよくやってくれるけど、鮭にも凄く合う」
うふふ。鮭が好評でうれしいわ。
「このご飯は、粘り米で作ってくれた『おこわ』だっけ?名前の通り、粘りはあるけど、もちもちしていておいしいよ」
「そうなの、そうなのよ。いっそ、もち米に改名すればいいと思うわ」
何で人気がないのかな?ってラディは言ってたけど。
多分、浸水時間と水加減を失敗しているのだと思う。
おまけに、人気がないから普通のお米に混ぜたりしてるみたいなんだけど。
それはそれで、美味しいとは思うけど。
粘り米だけでも十分に美味しいわよね?
そう話したら、ラディも同意してくれたわ。
そして、午後―――――。
久々に鮭を堪能したいわたしと異世界料理が大好きなラディは。
引き続き、鮭を攻略していた。
中骨煮は、そのまま弱火にかけ続けて。
追加の鮭フレークも、がんがん作って。
切り身は、味噌や酒粕に漬けたりしたんだけどね。
多分、川鮭が、日本でよく食べられていた銀鮭みたいな鮭で。
海鮭がサーモンなんだと思うのよ。
前世では、サーモンは生でも食べられたけど。
この世界ではわからないわよね?
―――昨日の魚屋さんで聞くのを忘れていた。
料理長さんも、南部のご出身で鮭は食べたことがなかったそうだ。
ということで、料理長さんには申し訳ないんだけど。
彼が本邸に戻っている間に、精霊に生でも食べれるかを確認して。
やっぱり、サーモン、もとい、海鮭は大丈夫そうだったから。
ラディに、酢飯で即席手巻き寿司を作ってあげたら。
「リディが、手巻き寿司の度に鮭を欲しがる理由がよくわかった」
そう言われて、思わず得意顔をしてしまったわよね。
あとは、サーモンと言えばやっぱりこれ!だと思って。
海鮭をスモークするのも忘れなかったわ。
張り切って、冷燻・温燻・熱燻、すべてやってみたのよ。
そうして、一段落して休憩していたら。
料理長さんが顔を出したから、驚いた。
いつの間にか、夕食の準備の時間になっていたのね!
そう気づいて慌てて作った夕食のメニューは。
前菜に、三種の海鮭スモークを添えたサラダ。
そして、鮭のムニエルに、鮭のクリームシチューよ。
ちょうどシエル様たちも帰ってきたから、全員揃ってお夕食にしたわ。
「鮭という魚は本当に美味しいね。これは、帰国しても食べたいよ」
「正直に言えば、輸入出来たら嬉しいのですけれど、ジング王国内ですべて消費しているのであれば、輸出は難しいでしょうし」
「乱獲したり、他国の海域を侵してしまっても大変だしね」
「養殖できればいいんですけどね」
「ようしょく?」
あ……、やばい。
リュート様たちもいらっしゃるのに、口が滑った。
でも、口に出してしまったものは返らないし。
確か、ドラングルには話していたから、内緒ではないはずだ。
なんて内心焦りながら、無駄に自己弁護していたら。
シエル様が説明してくれていた。
ありがとうございます!
「それは凄い技術だな。養殖が成功すれば、食糧問題も解決しそうだ」
「そこまで簡単にはいかないだろうけどね。ひとつの策としては有効だよね」
あら?もしや、リュート様の興味を引いた感じ?
ならば。
「あの、もし、養殖技術の提携ができるとしたら、鮭の輸出をご検討いただけたりしますか……?」
ちょっと押してみることにした。
伯父様に黙って進めるのが良くないのはわかっているけれど。
元々、養殖について口走ったのはわたしだもの。
この話がうまく進んだら、伯父様の説得もがんばるわ。
「もしくは、卵を運べれば、グリーンフィールでも養殖できるかもしれません。成功すれば、取引量も調整できると思うのですが……」
別案も出してみる。
「おや。リディア君もやるね。外交官にならないか?」
え?それは過去の話なので、遠慮したく。
とか考えている場合じゃないわ。
鮭を輸入できれば、おにぎりもスモークも国で作れるのよ?
何かいい手はないものか。
「そうですわ!もし輸出していただけるならば、我が商会が輸送に便利な業務用冷蔵庫を超特価でお譲りしますわ!」
「ここ数日のことを持ち出せば、正価格でもいけると思うよ?」
「あら」
「養殖技術提携と鮭の取引。なかなかいい外交になりそうだね」
「余力があれば、粘り米も」
「ああ、お昼にいただいたもちもちのご飯だね」
ますます勝手に話を進めてしまっているけれど。
ラディが口を挟まないということは、悪くない話なんだと思う。
そう思って、調子に乗ってシエル様と盛り上がっていたら。
リュート様が大変困った顔をしていたわ。
「いやいや、今回は情報交換だけの予定じゃなかったかな?」
失態を犯し続けているジングさんには申し訳ないけど。
こういう時こそ、畳みかけるんですよ?
とは思うけれど、やりすぎはよくないわよね。
それは、シエル様も同意見のようで。
今日のところは、ここで鮭貿易の話を終わらせることにした。
で、思い出したんだけど。
お願いしていたことはどうだったかしらね?
「ところで、明日の午前中なのですけれど、お休みは取れそうですか?」
実は、差し入れのお弁当にお手紙を入れておいたのだ。
「ああ、休みというわけじゃないけどね、君達と話し合いがあるということにして、午後からの出仕にしたのだが」
「明日の午前中、何かあるのかい?」
ふっふっふっ。それはもちろん。
「餅つき大会を開催したいと思います!!」
粘り米の真髄を見せて差し上げるわ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっと、やっと味わうことができるわ!
ジングに来てから、何かと騒動に巻き込まれてきたけれど。
漸く、本来の目的である食材探しをすることができた。
と言っても、探してくれたのはゴンザ商会さんであって。
わたしたちはただ紹介して貰ったに過ぎないのだけどね。
お豆腐は見つけられなかったものの。
もち米――この世界では『粘り米』――と、鮭が手に入った。
それに、シズレでは、山葵をたっぷりと買うことができたし。
王都までの道中では梅干に出会えたから。
今回の旅はかなり順調だと思う。
………食材探しでは、だけどね。
おまけに、お世話になっている公爵家の料理長さんから。
ジングのお肉やお野菜をいただいて。
牛蒡までゲットできたのよ。
―――実は、この世界では初めて見た。
ちょっと嬉しくて。
豚汁にきんぴら、そして素揚げを作ってみたんだけど。
『味噌汁に肉を入れるだなんて思ってもみませんでした。しかも、こんなにも美味しいとは。この豚汁と白米だけでも立派な食事になりますね』
料理長さんからそう言われたときは、本当に驚いた。
まさか、当たり前に味噌汁が存在するジングに豚汁が存在しないだなんて。
それこそ思ってもいなかったわ。
というかね?
わたしは牛蒡の素晴らしさを伝えたかったのよ。
豚汁に評価を掻っ攫われるのはちょっといただけないので。
わたし一押しの素揚げをおすすめしてみたり。
牛蒡は身体にもいいことを熱く語ったりして。
昨日は牛蒡の宣伝部長と化していたんだけど。
今日は―――――。
長年求めていた『鮭』を味わい尽くしたいと思います!!
ラディも楽しみにしているしね。
がんばってお料理するわよ?
まずは、川鮭をどどんと取り出したら。
なんと、見学に来ていた料理長さんが捌いてくれると言う。
「漸くお役に立てて嬉しいですよ。魚を捌くのは得意なんです」
昨日の差し入れの件を考えても。
多分、料理長さんは、わたしに対して申し訳なく思っているのよね。
売ってるレシピを教えていることだって、気づいているだろうしね。
それでも、貪欲に料理の知識を求めていて。
知らない料理を知るチャンスを逃したくないのだと思う。
わたしは、レシピを売っている身ではあるけれど。
実際には、わたしのレシピではなくて前世の知識だから。
レシピを売ることに対して、抵抗がないわけじゃないし。
前世では一般的だったレシピなら、普通に教えてしまいそうになる。
でも、この世界には、レシピを買ってくれている人がいるのだから。
そういう人を無視して簡単にレシピを教えることもできないわけで。
わたしも複雑なのよね。
とりあえず『公爵家にお世話になっている』という理由はあるから。
色々と教えてしまうのは許してほしい。
これでも教えるレシピは選んでるしね。
料理長さんも、出来ればあまり気にしないでほしいな。
って思って、料理長さんに目を向けた時だった。
中骨を捨てようとしていたから、慌てて止めたわよね。
「あー!!ちょっと待ってください!」
「もしかして、鮭でも中落ちが取れるの?」
ラディ、違うのよ。
「中骨も食べられるの。弱火でじっくり煮込めば柔らかくなるのよ」
まだ圧力鍋を作っていないことを残念に思いながら説明したら。
ラディのみならず、料理長さんまで目を丸くして驚いていた。
「リディアさんは素晴らしいですね」
「リディは、本当に、食材を余すことなく使うよね」
もちろんよ。命を戴くのですもの。
カマだって、食べれるところはすべて取っておくし。
端っこや腹骨に付いた身だって、炙って鮭フレークにするわよ?
ということで。
料理長さんには、海鮭も捌いて貰って、小骨も抜いて貰って。
ラディには柵や切り身にならない部分を炙って解して貰うことにした。
その間に、わたしは中骨煮を作り始めて。
味見用に、切り身をひと切れいただいて塩焼きにしたんだけど。
「火を通すと色が変わるんだね。あんなに鮮やかだったのに淡い色になった」
ラディは、心なし残念そうにそう言いつつ。
最初はチラチラと見ていただけだった料理長さんも。
いつしか、焼けていい匂いがしてきた鮭に釘付けになっていた。
「焼けたわ!!」
思わず、ごくりと喉が鳴ったわよね。
ラディと料理長さんも、焼きあがった鮭から目を離さない。
「味見、しましょう」
わたしがそう言った瞬間に、ふたりともお箸を手に取った。
もちろん、わたしも言いながらお箸を持ってたわ。
そして、三人で一切れの鮭を分け合ったわけだけど。
「………っ!!」
一口食べて、わたしは、声も出せなかったわよね。
あー…、これよ、これ。鮭よ、鮭だわ。
苦節十八年。漸く食べることができた。
ちょっと涙が出てきそう。
「うまっ。俺、かなり好きかもしれない」
「これは……。本当に美味しいですね。白米にも合いそうです」
でしょう?そうでしょう?
せっかくなので、ラディが炙って解してくれた身をフレークにして。
おにぎりも作ってみたわ。
「本当だ。すごく白米に合う。おにぎりの具に最適だね」
「この握り飯は、賄いにしたら喜ばれそうです」
朝食にも最適よ?
なんて、鮭トークで数時間はいけそうだったけれど。
それどころじゃなかったわ。
鮭に感けていないで、そろそろ昼食の準備もしなくてはならない。
今日のお昼は、鮭の和風ランチの予定なのよ。
鮭の塩麹焼きに玉子焼き、そして、お煮しめに青菜のお浸し。
ご飯は、山菜おこわにしようと思っている。
せっかくだもの、もち米、もとい、粘り米だって使わないとね。
朝からきっちり浸水させておいたのよ。
料理長さんは米自体は知ってたけど、蒸す方法は知らなかったらしく。
完成したおこわを見て、かなり感動していたわ。
そうして、できあがったお昼ご飯。
今日のランチは、ラディとふたりだけなので。
裏庭にテーブルを出して、青空ランチにした。
―――ちなみに。
王宮で仕事をしているシエル様たちにはお弁当にして差し入れている。
ジョージ様が騎士団に用があるとかで、序に持って行ってくれたのだ。
「塩焼きやおにぎりも美味しかったけど、この漬け焼もおいしいね。塩麹漬けは鱈でよくやってくれるけど、鮭にも凄く合う」
うふふ。鮭が好評でうれしいわ。
「このご飯は、粘り米で作ってくれた『おこわ』だっけ?名前の通り、粘りはあるけど、もちもちしていておいしいよ」
「そうなの、そうなのよ。いっそ、もち米に改名すればいいと思うわ」
何で人気がないのかな?ってラディは言ってたけど。
多分、浸水時間と水加減を失敗しているのだと思う。
おまけに、人気がないから普通のお米に混ぜたりしてるみたいなんだけど。
それはそれで、美味しいとは思うけど。
粘り米だけでも十分に美味しいわよね?
そう話したら、ラディも同意してくれたわ。
そして、午後―――――。
久々に鮭を堪能したいわたしと異世界料理が大好きなラディは。
引き続き、鮭を攻略していた。
中骨煮は、そのまま弱火にかけ続けて。
追加の鮭フレークも、がんがん作って。
切り身は、味噌や酒粕に漬けたりしたんだけどね。
多分、川鮭が、日本でよく食べられていた銀鮭みたいな鮭で。
海鮭がサーモンなんだと思うのよ。
前世では、サーモンは生でも食べられたけど。
この世界ではわからないわよね?
―――昨日の魚屋さんで聞くのを忘れていた。
料理長さんも、南部のご出身で鮭は食べたことがなかったそうだ。
ということで、料理長さんには申し訳ないんだけど。
彼が本邸に戻っている間に、精霊に生でも食べれるかを確認して。
やっぱり、サーモン、もとい、海鮭は大丈夫そうだったから。
ラディに、酢飯で即席手巻き寿司を作ってあげたら。
「リディが、手巻き寿司の度に鮭を欲しがる理由がよくわかった」
そう言われて、思わず得意顔をしてしまったわよね。
あとは、サーモンと言えばやっぱりこれ!だと思って。
海鮭をスモークするのも忘れなかったわ。
張り切って、冷燻・温燻・熱燻、すべてやってみたのよ。
そうして、一段落して休憩していたら。
料理長さんが顔を出したから、驚いた。
いつの間にか、夕食の準備の時間になっていたのね!
そう気づいて慌てて作った夕食のメニューは。
前菜に、三種の海鮭スモークを添えたサラダ。
そして、鮭のムニエルに、鮭のクリームシチューよ。
ちょうどシエル様たちも帰ってきたから、全員揃ってお夕食にしたわ。
「鮭という魚は本当に美味しいね。これは、帰国しても食べたいよ」
「正直に言えば、輸入出来たら嬉しいのですけれど、ジング王国内ですべて消費しているのであれば、輸出は難しいでしょうし」
「乱獲したり、他国の海域を侵してしまっても大変だしね」
「養殖できればいいんですけどね」
「ようしょく?」
あ……、やばい。
リュート様たちもいらっしゃるのに、口が滑った。
でも、口に出してしまったものは返らないし。
確か、ドラングルには話していたから、内緒ではないはずだ。
なんて内心焦りながら、無駄に自己弁護していたら。
シエル様が説明してくれていた。
ありがとうございます!
「それは凄い技術だな。養殖が成功すれば、食糧問題も解決しそうだ」
「そこまで簡単にはいかないだろうけどね。ひとつの策としては有効だよね」
あら?もしや、リュート様の興味を引いた感じ?
ならば。
「あの、もし、養殖技術の提携ができるとしたら、鮭の輸出をご検討いただけたりしますか……?」
ちょっと押してみることにした。
伯父様に黙って進めるのが良くないのはわかっているけれど。
元々、養殖について口走ったのはわたしだもの。
この話がうまく進んだら、伯父様の説得もがんばるわ。
「もしくは、卵を運べれば、グリーンフィールでも養殖できるかもしれません。成功すれば、取引量も調整できると思うのですが……」
別案も出してみる。
「おや。リディア君もやるね。外交官にならないか?」
え?それは過去の話なので、遠慮したく。
とか考えている場合じゃないわ。
鮭を輸入できれば、おにぎりもスモークも国で作れるのよ?
何かいい手はないものか。
「そうですわ!もし輸出していただけるならば、我が商会が輸送に便利な業務用冷蔵庫を超特価でお譲りしますわ!」
「ここ数日のことを持ち出せば、正価格でもいけると思うよ?」
「あら」
「養殖技術提携と鮭の取引。なかなかいい外交になりそうだね」
「余力があれば、粘り米も」
「ああ、お昼にいただいたもちもちのご飯だね」
ますます勝手に話を進めてしまっているけれど。
ラディが口を挟まないということは、悪くない話なんだと思う。
そう思って、調子に乗ってシエル様と盛り上がっていたら。
リュート様が大変困った顔をしていたわ。
「いやいや、今回は情報交換だけの予定じゃなかったかな?」
失態を犯し続けているジングさんには申し訳ないけど。
こういう時こそ、畳みかけるんですよ?
とは思うけれど、やりすぎはよくないわよね。
それは、シエル様も同意見のようで。
今日のところは、ここで鮭貿易の話を終わらせることにした。
で、思い出したんだけど。
お願いしていたことはどうだったかしらね?
「ところで、明日の午前中なのですけれど、お休みは取れそうですか?」
実は、差し入れのお弁当にお手紙を入れておいたのだ。
「ああ、休みというわけじゃないけどね、君達と話し合いがあるということにして、午後からの出仕にしたのだが」
「明日の午前中、何かあるのかい?」
ふっふっふっ。それはもちろん。
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