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第四章 平民ライフ災難編
94.彼と彼女は無駄に絡まれる。
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(side ラディンベル)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり、人って、そうは変わらないもんなんだね。
リディの誘拐事件の後、俺たちは必死に仕事を片付けて。
兄上たちの結婚を祝うために帰省した。
準備の手伝いがあったから。
パーティーよりもかなり前倒しで帰ってきてたんだけど。
今回は、休暇なのに。
帰省前の仕事と同じくらい、それはもう忙しくしている。
まあ、順調に進んでいるのが救いかな?
ライブキッチンの設備も問題なかったし。
諸々の段取りも確認できた。
―――リディの提案で、当日の様子を撮影することになって。
録映機も設置したし、使用人にも写真機の使い方を覚えてもらった。
それと、招待客は騎士が多いから。
恐らく、ダンスタイムは短くなるだろうと踏んで。
オーケストラの演奏は時間を区切って。
生演奏のない時間は事前に録音した音楽を流すことになったんだよね。
そうすれば、オケの人たちにも、パーティーを楽しんでもらえるしね。
それは、素晴らしい案だとは思ったけれど。
リディが『録音した音楽を量産して販売すればいいんじゃないか』
なんて口走ったときは、結構な衝撃を受けた。
おまけに、父上と兄上とオケの代表者が乗り気になってしまって。
今、詳細を詰めているらしいけど、まあ、それは別の話だ。
そういった、イレギュラーなこともあったけれど。
リディのおかげで、パーティーメニューも最高のものになったし。
試食会も大成功だったと思う。
パウエル家の人たちも笑顔で食べてくれてたしね。
そうして、最終調整を含めて細々としたことをやっていたら。
本番なんてすぐにやってきた。
と言っても、まずは、結婚式からなんだけどね。
レンダルでは、神殿や大聖堂で式を挙げる人が多かったんだけど。
シェンロン様の件があってからは、神殿は失墜してしまったから。
最近は、式を挙げない人も出てきたそうだ。
とはいえ、やっぱり、祝福を求める人も当然いるから。
そういう人たちは教会で式を挙げるらしい。
シェンロン様を守護竜として崇めていたのはレンダルだけだし。
大陸全土で言えば、この世界の創造者たる女神様を崇めた宗教もあるからね。
レンダルにもその教会はある。
ということで、結婚パーティーに先駆けて。
兄上たちは教会で式を挙げることにしたようだ。
結婚パーティーは大々的に行うわけだし。
兄上とシア義姉さんの希望もあって。
家族だけで執り行う、こぢんまりした式なんだけどね。
そういうのも、なんかいいな、と思う。
そして、結婚式当日―――。
俺は、自室でリディを待っている。
午前中だし、家族だけだし、当然主役じゃないから。
派手に着飾る必要はないわけで。
俺は、三つ揃えのスーツに銀色のネクタイとポケットチーフをしただけだ。
まあ、ここで、リディの色を入れるのは許してほしい。
リディも、自分で支度をするつもりだったらしいんだけど。
母上に拉致されてしまったから、きっと、侍女にあれこれされているんだろう。
それを、母上の部屋の前で待ってたら。
母上と侍女から『うざい』と言われて、仕方なく自室に戻ってきたのだ。
ということで、そわそわとリディを待っていたら。
漸く部屋のドアがノックされた。
それに応えて、ドアを開けて、俺は固まった。
いや、リディ、かわいすぎないかな?
最近で言えば、リディがドレスを着ることなんて王宮に行くときくらいだけど。
その時は、シックで落ち着いた装いが多かったのに。
今日は上品だけど華やかなドレスを着ていて。
いつもは綺麗だって思うけど、今日だって綺麗だけど、加えてすごくかわいい。
「坊ちゃん。ここで気の利いた一言さえ言えないなんて、情けないですよ」
「……わかってるよ」
でも、かわいいとか、綺麗だとか。
ありきたりな言葉しか出てこないんだよ。
だから、俺は、黙ったまま、リディを部屋に入れて。
きっちりとドアを閉めた。
そして、装いが崩れないように、ふんわりとリディを抱きしめて。
「あまりにも可愛くて、言葉がでなかった。ごめんね」
そう言ったら、リディが真っ赤になったから。
俺はそのまま、リディを堪能させてもらったよね。
「ラディも素敵よ」
リディにそう言ってもらえて、俺も、かなり上機嫌になったよ。
そうして、グラント家の面々で教会に向かったら。
パウエル家もちょうど到着したところだったようだ。
「平民に落ちぶれると、常識も忘れてしまうのかしら」
うわー、開口一番がそれですか。
実は、試食会には、パウエル家の次男夫婦は来ていなかったんだよね。
今、失礼なことを言ってきたのは、その次男の奥方様だ。
とある伯爵家の一人娘で、次男を婿にとったんだけど。
この夫婦、とにかく、昔から選民思想が強い。
おまけに、どうやら、その伯爵家はサティアス家を敵視していて。
というか、伯爵夫人が義母上を勝手にライバル視してたみたいで。
リディも、今日は覚悟をしていたようだけど。
まさか、挨拶もなしに、嫌味を言われるとは思わなかったよ。
なんていうか、人って、そうそう変わらないもんなんだね。
選民思想が強いと忌避されやすいから。
そういう空気を読み取って、矯正していく人も多いのに。
この人たちは、変わらなかったんだな。
まあね、常識云々は、恐らくリディのドレスの色のことだと思うんだけど。
これも、実は、事情があるんだよね。
とはいえ、リディは、素直に謝罪をしようと思ったみたいで。
スカートを摘まんで、頭を下げようと思ったところで。
「リディア様!めちゃくちゃかわいいです!その色を着てきてくれて、ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
シア義姉さんが先手を取ってきた。
そうなんだよね。
今日のリディのドレスの色は、シア義姉さんの目の色なのだ。
シア義姉さんからのお願いだったんだよね。
ということで、リディは中途半端な姿勢になってしまったんだけど。
嫌味を言ってきた奥方様は、何も言えなくなってしまった。
「リディア様が私の色を着てくれるなんて!頼んでよかったー!」
シア義姉さんは、ひとりで盛り上がってるけどね。
「お義姉様もすごく綺麗でかっこいいです」
「本当ですかー!うれしいです!」
今日の主役のふたりは、グラント家の正装の騎士服を着てるから。
かっこいいという感想もわからないでもない。
基本的に、正装は白服に金の飾りが付いているんだけど。
結婚式だからね、飾緒にお互いの色を入れたようだ。
なるほど、考えたよね。
なんて思ってたら。
「司祭を待たせるわけにはいかん。そろそろ行くぞ」
パウエル伯のその言葉で、先程の嫌味はすっかり流されてしまった。
けど、助かったかな。
そうして、式が始まったんだけど。
話に聞いた異世界みたいに、父親が花嫁をエスコートするんじゃなくて。
花婿が花嫁をエスコートして所定の位置に着いて。
女神様の前で、ふたりが、夫婦の誓いをして。
司祭様から祝福を受けて、ありがたいお言葉をいただいた。
うん、結構あっさりしてるんだよね、結婚式自体は。
でも、今日は、通常の式とは違うことがある。
実は、兄上が、サプライズで結婚指輪を用意しているのだ。
俺たちがしているのを見た兄上が。
自分たちにも指輪を作りたいと言って、相談してきたのは半年前。
招待状と一緒に俺宛の手紙が入ってて、そこに書かれてたんだよね。
それで、俺がこっそり準備していた。
俺たちの指輪はね、お互いの髪の色である金と銀の二連なんだけど。
兄上は茶髪琥珀眼、シア義姉さんは赤髪赤紫眼だから。
お互いの目の色の宝石を埋め込んだ指輪をオーダーしておいたんだ。
「では、ここで、指輪の交換を」
「は?」
いやいやいや、シア義姉さん。
不思議に思うのも無理はないけど、声に出さないで。
でも、兄上が耳打ちしたら。
シア義姉さんが、こっちをバッと振り向いたから。
ああ、きっと、リディとお揃いだとか言ったんだろうな、って思って。
リディと一緒に左手を掲げてあげた。
おかげで、みんなから注目を浴びてしまったけれど。
シア義姉さんが、わかりやすく喜んだから。
兄上、用意してよかったね、って思ったよね。
そうして、式は滞りなく終了して。
記念写真を撮って。
二家の集合写真も撮って。
お祝いの会食をするために、皆でグラント家に向かった。
今日の会食は和食にしたと聞いている。
懐石料理って言ってたけど、一品一品は俺も知っている料理らしいから。
目新しくはないようだけど、レンダルは肉ばっかりで飽きてきたからね。
そろそろ、あっさりした和食は恋しいところだ。
だから、俺も楽しみにしていたのに。
いざ会食が始まったら。
「まあ!随分と地味なお料理ですこと」
またかよ。
多分、リディの監修だって聞いたからこその嫌味だろうけど。
どうして、このめでたい日に水を差すようなことばかり言うんだろうね?
「そうかしら。とても上品で美しいお料理だと思いますわ」
おお。まさかの、パウエル家長男の奥方様が援護してくれた。
この前の試食会でもにこにこしながら食べてくれたしね。
リディの料理が合うんだろうな。
「ありがとうございます。ジング王国風のお料理なのですが、皆さまのお口にも合えば幸いでございますわ」
「まあ!ジング王国って、あの島国の?」
「はい。島国だからか味付けが独特なんですけれど、美味しいんです」
「リディア様は、本当に、お料理に詳しいのね」
「はっ!別に詳しいわけじゃないだろう?料理人から聞いただけじゃないのか」
今度は次男か……。
ある意味お似合いの夫婦だけど、少しくらい愛想よくできないもんかね?
「この料理にも海老を使ってるんだな」
「そうね。赤い色が鮮やかで、彩がよくなるわね」
兄上と母上は、次男の暴言をスルーすることにしたようだ。
「海老っていうのは、海にいるんだよな?」
「この海老はそうですけど、川にも海老はいると思いますよ?」
「そうなの?」
「あ、レンダルの川にいるかはわからないし、食べれるかもわからないけど」
川にいると聞いて驚いたけど、そうか。なるほどね。
「そういうことか。じゃあ、輸入はできないのか?」
「あっ!してほしいです。これもエビフライもまた食べたいです」
あー、それね。
実は、計画がないこともないんだよね。
「陛下の許可は下りてるんだけどね」
「え、そうなの?」
「ミンスター卿が任されてるらしいよ。でも、冷凍になるし、需要もわからないからね。すぐには難しいんじゃないかな」
「あ、そっか。そうよね」
まあ、俺も、ちょっと聞いただけなんだけど。
「お前ら、相変わらず、王族や貴族との付き合いが多いんだな」
「あー、まあ、お世話にはなってるよ」
多いかな?とは思えど。
下手に否定しても面倒そうだから、適当に答えてやりすごしていたら。
次男夫婦がぎょっとした顔をしていて。
それに気づいた兄上が。
リディの家が陛下から下賜されたものだとか。
殿下がしょっちゅう遊びに来るとか。
一部誇張した王族ネタをばらしてくれたから参ったよね。
でも、おかげで、それ以降は次男夫婦から絡まれることがなくなった。
いや、それはそれで権力に弱すぎると思うけど。
とはいえ、会食は和やかに進んだし。
和食をナイフとフォークで食べるのに疲れた俺がリディに箸を頼んだら。
みんなも使いたがって、箸の使い方講座が始まったりして。
なんだかんだ楽しい時間が過ごせたからよかったよね。
ちなみに、懐石料理は大好評で。
茶碗蒸しや天ぷらの人気が高かったんだけど。
その後のお茶の席で『練り切り』を出したら。
すべての評価を掻っ攫ってしまった。
でも、それもわかるから。
「グリーンフィールの王妃様や王太子妃殿下もお気に入りだよ」
単なる情報として伝えただけだったんだけどね。
「お前ら、遂に、王族全員と仲良くなったのか?」
「君たち、本当に平民なの?」
って、呆れられた。
多分、いろいろ勘違いされていると思う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり、人って、そうは変わらないもんなんだね。
リディの誘拐事件の後、俺たちは必死に仕事を片付けて。
兄上たちの結婚を祝うために帰省した。
準備の手伝いがあったから。
パーティーよりもかなり前倒しで帰ってきてたんだけど。
今回は、休暇なのに。
帰省前の仕事と同じくらい、それはもう忙しくしている。
まあ、順調に進んでいるのが救いかな?
ライブキッチンの設備も問題なかったし。
諸々の段取りも確認できた。
―――リディの提案で、当日の様子を撮影することになって。
録映機も設置したし、使用人にも写真機の使い方を覚えてもらった。
それと、招待客は騎士が多いから。
恐らく、ダンスタイムは短くなるだろうと踏んで。
オーケストラの演奏は時間を区切って。
生演奏のない時間は事前に録音した音楽を流すことになったんだよね。
そうすれば、オケの人たちにも、パーティーを楽しんでもらえるしね。
それは、素晴らしい案だとは思ったけれど。
リディが『録音した音楽を量産して販売すればいいんじゃないか』
なんて口走ったときは、結構な衝撃を受けた。
おまけに、父上と兄上とオケの代表者が乗り気になってしまって。
今、詳細を詰めているらしいけど、まあ、それは別の話だ。
そういった、イレギュラーなこともあったけれど。
リディのおかげで、パーティーメニューも最高のものになったし。
試食会も大成功だったと思う。
パウエル家の人たちも笑顔で食べてくれてたしね。
そうして、最終調整を含めて細々としたことをやっていたら。
本番なんてすぐにやってきた。
と言っても、まずは、結婚式からなんだけどね。
レンダルでは、神殿や大聖堂で式を挙げる人が多かったんだけど。
シェンロン様の件があってからは、神殿は失墜してしまったから。
最近は、式を挙げない人も出てきたそうだ。
とはいえ、やっぱり、祝福を求める人も当然いるから。
そういう人たちは教会で式を挙げるらしい。
シェンロン様を守護竜として崇めていたのはレンダルだけだし。
大陸全土で言えば、この世界の創造者たる女神様を崇めた宗教もあるからね。
レンダルにもその教会はある。
ということで、結婚パーティーに先駆けて。
兄上たちは教会で式を挙げることにしたようだ。
結婚パーティーは大々的に行うわけだし。
兄上とシア義姉さんの希望もあって。
家族だけで執り行う、こぢんまりした式なんだけどね。
そういうのも、なんかいいな、と思う。
そして、結婚式当日―――。
俺は、自室でリディを待っている。
午前中だし、家族だけだし、当然主役じゃないから。
派手に着飾る必要はないわけで。
俺は、三つ揃えのスーツに銀色のネクタイとポケットチーフをしただけだ。
まあ、ここで、リディの色を入れるのは許してほしい。
リディも、自分で支度をするつもりだったらしいんだけど。
母上に拉致されてしまったから、きっと、侍女にあれこれされているんだろう。
それを、母上の部屋の前で待ってたら。
母上と侍女から『うざい』と言われて、仕方なく自室に戻ってきたのだ。
ということで、そわそわとリディを待っていたら。
漸く部屋のドアがノックされた。
それに応えて、ドアを開けて、俺は固まった。
いや、リディ、かわいすぎないかな?
最近で言えば、リディがドレスを着ることなんて王宮に行くときくらいだけど。
その時は、シックで落ち着いた装いが多かったのに。
今日は上品だけど華やかなドレスを着ていて。
いつもは綺麗だって思うけど、今日だって綺麗だけど、加えてすごくかわいい。
「坊ちゃん。ここで気の利いた一言さえ言えないなんて、情けないですよ」
「……わかってるよ」
でも、かわいいとか、綺麗だとか。
ありきたりな言葉しか出てこないんだよ。
だから、俺は、黙ったまま、リディを部屋に入れて。
きっちりとドアを閉めた。
そして、装いが崩れないように、ふんわりとリディを抱きしめて。
「あまりにも可愛くて、言葉がでなかった。ごめんね」
そう言ったら、リディが真っ赤になったから。
俺はそのまま、リディを堪能させてもらったよね。
「ラディも素敵よ」
リディにそう言ってもらえて、俺も、かなり上機嫌になったよ。
そうして、グラント家の面々で教会に向かったら。
パウエル家もちょうど到着したところだったようだ。
「平民に落ちぶれると、常識も忘れてしまうのかしら」
うわー、開口一番がそれですか。
実は、試食会には、パウエル家の次男夫婦は来ていなかったんだよね。
今、失礼なことを言ってきたのは、その次男の奥方様だ。
とある伯爵家の一人娘で、次男を婿にとったんだけど。
この夫婦、とにかく、昔から選民思想が強い。
おまけに、どうやら、その伯爵家はサティアス家を敵視していて。
というか、伯爵夫人が義母上を勝手にライバル視してたみたいで。
リディも、今日は覚悟をしていたようだけど。
まさか、挨拶もなしに、嫌味を言われるとは思わなかったよ。
なんていうか、人って、そうそう変わらないもんなんだね。
選民思想が強いと忌避されやすいから。
そういう空気を読み取って、矯正していく人も多いのに。
この人たちは、変わらなかったんだな。
まあね、常識云々は、恐らくリディのドレスの色のことだと思うんだけど。
これも、実は、事情があるんだよね。
とはいえ、リディは、素直に謝罪をしようと思ったみたいで。
スカートを摘まんで、頭を下げようと思ったところで。
「リディア様!めちゃくちゃかわいいです!その色を着てきてくれて、ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
シア義姉さんが先手を取ってきた。
そうなんだよね。
今日のリディのドレスの色は、シア義姉さんの目の色なのだ。
シア義姉さんからのお願いだったんだよね。
ということで、リディは中途半端な姿勢になってしまったんだけど。
嫌味を言ってきた奥方様は、何も言えなくなってしまった。
「リディア様が私の色を着てくれるなんて!頼んでよかったー!」
シア義姉さんは、ひとりで盛り上がってるけどね。
「お義姉様もすごく綺麗でかっこいいです」
「本当ですかー!うれしいです!」
今日の主役のふたりは、グラント家の正装の騎士服を着てるから。
かっこいいという感想もわからないでもない。
基本的に、正装は白服に金の飾りが付いているんだけど。
結婚式だからね、飾緒にお互いの色を入れたようだ。
なるほど、考えたよね。
なんて思ってたら。
「司祭を待たせるわけにはいかん。そろそろ行くぞ」
パウエル伯のその言葉で、先程の嫌味はすっかり流されてしまった。
けど、助かったかな。
そうして、式が始まったんだけど。
話に聞いた異世界みたいに、父親が花嫁をエスコートするんじゃなくて。
花婿が花嫁をエスコートして所定の位置に着いて。
女神様の前で、ふたりが、夫婦の誓いをして。
司祭様から祝福を受けて、ありがたいお言葉をいただいた。
うん、結構あっさりしてるんだよね、結婚式自体は。
でも、今日は、通常の式とは違うことがある。
実は、兄上が、サプライズで結婚指輪を用意しているのだ。
俺たちがしているのを見た兄上が。
自分たちにも指輪を作りたいと言って、相談してきたのは半年前。
招待状と一緒に俺宛の手紙が入ってて、そこに書かれてたんだよね。
それで、俺がこっそり準備していた。
俺たちの指輪はね、お互いの髪の色である金と銀の二連なんだけど。
兄上は茶髪琥珀眼、シア義姉さんは赤髪赤紫眼だから。
お互いの目の色の宝石を埋め込んだ指輪をオーダーしておいたんだ。
「では、ここで、指輪の交換を」
「は?」
いやいやいや、シア義姉さん。
不思議に思うのも無理はないけど、声に出さないで。
でも、兄上が耳打ちしたら。
シア義姉さんが、こっちをバッと振り向いたから。
ああ、きっと、リディとお揃いだとか言ったんだろうな、って思って。
リディと一緒に左手を掲げてあげた。
おかげで、みんなから注目を浴びてしまったけれど。
シア義姉さんが、わかりやすく喜んだから。
兄上、用意してよかったね、って思ったよね。
そうして、式は滞りなく終了して。
記念写真を撮って。
二家の集合写真も撮って。
お祝いの会食をするために、皆でグラント家に向かった。
今日の会食は和食にしたと聞いている。
懐石料理って言ってたけど、一品一品は俺も知っている料理らしいから。
目新しくはないようだけど、レンダルは肉ばっかりで飽きてきたからね。
そろそろ、あっさりした和食は恋しいところだ。
だから、俺も楽しみにしていたのに。
いざ会食が始まったら。
「まあ!随分と地味なお料理ですこと」
またかよ。
多分、リディの監修だって聞いたからこその嫌味だろうけど。
どうして、このめでたい日に水を差すようなことばかり言うんだろうね?
「そうかしら。とても上品で美しいお料理だと思いますわ」
おお。まさかの、パウエル家長男の奥方様が援護してくれた。
この前の試食会でもにこにこしながら食べてくれたしね。
リディの料理が合うんだろうな。
「ありがとうございます。ジング王国風のお料理なのですが、皆さまのお口にも合えば幸いでございますわ」
「まあ!ジング王国って、あの島国の?」
「はい。島国だからか味付けが独特なんですけれど、美味しいんです」
「リディア様は、本当に、お料理に詳しいのね」
「はっ!別に詳しいわけじゃないだろう?料理人から聞いただけじゃないのか」
今度は次男か……。
ある意味お似合いの夫婦だけど、少しくらい愛想よくできないもんかね?
「この料理にも海老を使ってるんだな」
「そうね。赤い色が鮮やかで、彩がよくなるわね」
兄上と母上は、次男の暴言をスルーすることにしたようだ。
「海老っていうのは、海にいるんだよな?」
「この海老はそうですけど、川にも海老はいると思いますよ?」
「そうなの?」
「あ、レンダルの川にいるかはわからないし、食べれるかもわからないけど」
川にいると聞いて驚いたけど、そうか。なるほどね。
「そういうことか。じゃあ、輸入はできないのか?」
「あっ!してほしいです。これもエビフライもまた食べたいです」
あー、それね。
実は、計画がないこともないんだよね。
「陛下の許可は下りてるんだけどね」
「え、そうなの?」
「ミンスター卿が任されてるらしいよ。でも、冷凍になるし、需要もわからないからね。すぐには難しいんじゃないかな」
「あ、そっか。そうよね」
まあ、俺も、ちょっと聞いただけなんだけど。
「お前ら、相変わらず、王族や貴族との付き合いが多いんだな」
「あー、まあ、お世話にはなってるよ」
多いかな?とは思えど。
下手に否定しても面倒そうだから、適当に答えてやりすごしていたら。
次男夫婦がぎょっとした顔をしていて。
それに気づいた兄上が。
リディの家が陛下から下賜されたものだとか。
殿下がしょっちゅう遊びに来るとか。
一部誇張した王族ネタをばらしてくれたから参ったよね。
でも、おかげで、それ以降は次男夫婦から絡まれることがなくなった。
いや、それはそれで権力に弱すぎると思うけど。
とはいえ、会食は和やかに進んだし。
和食をナイフとフォークで食べるのに疲れた俺がリディに箸を頼んだら。
みんなも使いたがって、箸の使い方講座が始まったりして。
なんだかんだ楽しい時間が過ごせたからよかったよね。
ちなみに、懐石料理は大好評で。
茶碗蒸しや天ぷらの人気が高かったんだけど。
その後のお茶の席で『練り切り』を出したら。
すべての評価を掻っ攫ってしまった。
でも、それもわかるから。
「グリーンフィールの王妃様や王太子妃殿下もお気に入りだよ」
単なる情報として伝えただけだったんだけどね。
「お前ら、遂に、王族全員と仲良くなったのか?」
「君たち、本当に平民なの?」
って、呆れられた。
多分、いろいろ勘違いされていると思う。
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普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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