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第四章 平民ライフ災難編
80.彼と彼女は現状を知る。
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(side ラディンベル)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あんな隠し玉があったなんて、正直やられた気分だよね。
庶民向けの雑貨店で従業員による万引きが発覚して。
他の店舗でも防犯を強化することになった。
魔道具店や菓子店はそこまで警戒する必要はないかもしれないけれど。
貴族向けの雑貨店や衣料品店、食品店については、そうもいかない。
商品点数が多くて単価も安いから、犯行に及びやすいんだよね。
ということはあるけど、やっぱりどの店舗でも可能性がないわけではないし。
情報共有も大切だから、全店舗の責任者を集めて防犯会議が行われた。
その防犯会議自体は、理解も得られたし、問題なく進んだと思う。
ただ、流れで会計魔道具の話に飛び火したら。
リディが思わぬことを口走ったから、皆で驚いてしまった。
まさか、自動で計算してくれる魔道具があるだなんて。
……まあ、ある、というか、作れるという話だけどね。
会計計算は、俺も他の人たちと同様に商会の商品に特化したものだと思ってた。
未会計商品に埋め込んである情報に何か仕掛けがあるんだと思ってたのに。
計算対象を限定することもなく。
任意の数字を打ち込んで計算方法を選択するだけで自動計算してくれる。
そんなすごい魔道具のアイデアを隠していたなんて聞いてないよ。
今回ばかりは、本当に、もっと早く教えてほしかった。
いや、隠していたわけじゃないのは解ってる。
会計計算機能は平民のために考えたってことも知ってる。
何よりも、リディは計算が得意だから普段の計算にも困ってないんだよね。
でも、それは、前世のすごい教育を受けたリディだからで。
俺たちは、そこまで早く計算できないんだよ?
事業計画だって、何が大変だって、計算なんだから。
リディには簡単かもしれないけど、俺たち、結構苦労してるんだ。
そんな思いがふつふつと湧いてきてしまって。
思わず責めるような口調になってしまったけれど。
リディがしゅんとしてしまって、ハッとした。
これは、帰ってから、またちゃんと謝ろう。
決して、責めたかったわけじゃないから。
それに、義父上が言った通り。
そういう魔道具があるってことがわかっただけでも、すごいことだからね。
義母上も張り切って作ってくれるみたいだし。
商品化を楽しみに待とうと思う。
でも、他にも何か隠し玉がないか、確認はさせてもらうよ?
本心を言えば、すぐに確認したいんだけどね。
今日はまだ本題が残ってるから。
まずは、商会本部と工場の防犯問題を片付けないとね。
「商会本部の防犯については、知っての通り、出来る限りの事はしているつもりなんだけどね」
うん、そうだよね。
商会本部は、サティアス邸の敷地内にあるから。
我が家と同様のダズル様特製の結界のおかげで、不法侵入はまず難しい。
とはいえ、侵入を目論む輩は多いみたいだけどね。
精霊や私兵が捕まえてくれる不審者は月に数十人にのぼるらしい。
「最近、また増えたんだよね、不法侵入者」
あー、これは、新商品を連発したからかな。
と言っても、改良した馬車や各種食品については。
解体したり、味がわかれば、真似できるものも多いから。
侵入せずとも類似品を作ることは可能だ。
もちろん、我が商会ほどの品質にするのは大変だけどね。
でも、魔道具に限っては、そう簡単には真似できないのだ。
というのも、商会の魔道具には特殊な処理を施してあるから。
解体したり、他の魔法をぶつけたりすると。
付与魔法が消えるようになってるんだよね。
技術流出を避けるためでもあるけれど。
別の力や魔法が加わることで、おかしな反応が出てしまっても困るから。
事故防止のためでもあるんだ。
だからと言って、すべての魔道具を真似できないことはなくて。
生活魔道具は、付与魔法も想像しやすいからね。
実際に、類似品は出てきている。
でも、直近で販売した録映機なんかは。
なかなかに複雑に作っているから、真似するのは大変だと思う。
だから、侵入して技術を盗もうと思う輩が増えたんだろうな。
今後の新商品情報を掴みたいってこともあるだろうけどね。
「結界を破れないから、出入り業者を装う輩も出てきたしね」
うわー、そこまでして侵入を図っているのか。
ご苦労様。
もちろん、出入り業者は厳選しているから。
そんなのに引っかかることはないけどね?
「従業員として潜入しようとする輩も増えてきたな」
本部や技術者の採用は、基本的に公募はしてないんだよね。
最近はギルド紹介が多いけれど、誰からの紹介だろうと調査はするから。
今のところは、間者らしき人は採用していないはずだけど。
わざわざこういう話が出てくるってことは、怪しい人が増えてきたんだろう。
「もしかして、ドラングルのあの商会の関係者?」
「あ、いや、まだそこからは来ていない。国内の同業者が多いよ」
そうなのか。
まあ、でも、ドラングル支店は漸くオープンにこぎつけたところだから。
間者を放つにしても、商品が出回ってからなのかもしれないね。
「とにかく、侵入を目論む輩は後を絶たない状況だ。今のところは排除できているけれど、相手もあの手この手を考えてきてるからね、警戒は怠りたくないんだ。だから、結界の改良と従業員の守備体制を徹底しようと思う」
うん、賛成。
「敷地の結界はこれ以上のものはないから、万が一、侵入されたときのために建物内部の結界を強化しておきたいわね」
「そうだな。結界の改良は必要だ。リディア、頼めるか?」
「わかったわ。出入口と会議室と、あとは、金庫と重要書類保管庫の結界ね。結界を操作できる人間を登録制にしておくわ」
ああ、そっか。
今は、誰でも魔力をかざせば起動と解除ができるけど、それを限定するのか。
なるほどね。
「そんなことができるのか?」
「うふふ、わたし、結界魔法は得意なんです。結構いろんな付与ができますよ」
さすがにレオン様が驚いてるな。
俺たちは慣れてきたけど、本当に、リディの魔法は反則技が多すぎるよね。
リディ曰く、魔法はイメージとのことだけど。
そのイメージが難しいんだって。
前世は魔法がない世界だったらしいのにね。
どうやら、物語にはよく魔法が出てきたみたいで。
実在しないからこそ、好き勝手な魔法が生み出されていたらしい。
ほんと、異世界人の想像力には感服するよ。
「あ、もし必要だったら、暗証番号も付けておくけど」
「暗証番号?」
「それを入力しないと、起動も解除もできないように設定するの」
「その場合、番号がバレたら誰でも解除できるんじゃないか?」
「ランダムにすればいいんじゃないかしら。毎回違う番号になるように設定して、登録者にだけ番号を伝えるの。登録者は番号が表示される魔道具を持たなくちゃいけなくなるけど」
それはそれですごいけど。
持ち物が増えるのは、できれば避けたいかな。
落としたら大変だしね。
そう言ったら、リディも納得してくれたから。
暗証番号については、とりあえず保留となった。
「従業員の守備体制についてはね、集合住宅から本部を結ぶ転移陣を敷こうと思ってるんだよね」
これは、出勤・退勤時に近づいてくる輩に対する策かな。
本部の人間は狙われやすいからね。
任意使用にしておくならば、あってもいいかもしれない。
「結界に転移陣なんて、本当にすごい守備体制だな」
「勝手に真似されるのはしょうがないけど、技術を盗まれて変な言いがかりを付けられでもしたら面倒だ」
確かに。
後々そんな面倒な対応をするくらいなら。
最初からしっかり防犯しておいたほうがいいよね。
「本部のほうはこんな感じかな。まあ、採用については、工場のほうも含めて、調査を徹底していこう」
「そうだな。ラディン君、外部調査の教育、頼んだよ」
「はい」
俺の実家が影の一族だってことは、リディと義両親しか知らないけど。
俺の調査方法が影特有なものだということは侯爵にもバレているから。
実は、デュアル侯爵家の影の教育を頼まれたこともあるんだよね。
商会でも影や外部調査部隊を抱えているから、その教育は俺の担当だ。
これまでも教えられることは教えてきたけど。
おさらいでもしておこうかな。
「工場のほうはね、できれば、敷地の結界に無効化魔法を付与してほしいんだ」
「あら、そこまでするの?」
「念のためだけどね。入れないとわかって、攻撃魔法を打ってくる輩がいるんだよ。おまけに、工場を燃やそうとしたバカもいてね」
「え、そうなの?!」
まさか、そんな過激派がいたなんて、
さすがに、これには、俺もリディも驚いた。
確かに、リアン商会が便利な商品を連発することで、売上が下がった商会もあるとは思うけれど。
こっちだって、頭を使って、金をかけてやってるんだから。
怒りに任せるんじゃなくて、開発をがんばってほしいよね。
「それは危険ね。すぐに無効化仕様の結界魔道具を作るわ」
「頼むよ。周辺にも被害が出たら大変だからね」
本当だよね。
「敷地の結界の改良だけでいいの?本部に比べて、工場は出入りする人間が多いんじゃない?」
レオン様の疑問はご尤も。
「もちろん、本部のように、会議室や重要書類保管庫にも結界は張ってあるよ。機械の内部に入れる人間も限られている」
「ああ、そうなんだね」
「まあ、機械の構造がバレたとしても、商会で使っている機械の導入には結構な費用がかかるからね、簡単には真似できないよ」
そうだろうな。
商会の商品は、量産と売値を抑えるために、ほとんどが機械化されている。
でも、そのための投資費用は莫大なものなのだ。
機械の内部を見なくても。
製造工程を見れば、どういう処理をしているのかはわかるかもしれない。
但し、再現するには資本がいるから誰でもできるわけじゃないんだよね。
「聞けば聞くほど、すごい商会だね」
「サティアスがお金持っててよかったよ」
侯爵、はっきり言いますね!
「始めた頃は、結構すっからかんになったぞ?」
「でも、倍以上回収してるでしょ?」
そう言われた義両親が悪い顔になったのは見なかったふりをしておこう。
「そんなことよりも、とりあえずは、結界強化ってことでいいのかしら?」
「建物はね」
リディが話を戻してくれたけど、建物って限定したのはなんでだろう?
「他にも何か必要なの?」
「できれば工場の技術者の守備体制も整えたいんだが、ギルドの人間には強要できないし、住んでいるところもバラバラだからな。なかなか難しい。せめて、防御系の魔道具を持たせたり、魔法契約の強化くらいはしておきたい」
ああ、確かに、工場で働くすべての人間が使える転移陣の設置は難しいよね。
でも、防御系の魔道具って、何を防御するのかな。
魔法契約だって、技術を知っている人間が外に漏らさないように結んでいるものだけど、強化ってどういうことだろう?
リディもそう思ったのか、いまいち理解できていない顔をしている。
そんな俺たちを見て、義父上が補足説明をしてくれた。
「建物に侵入できないとなれば、次に狙われるのは従業員だろう?今のところ、実際に危害を加えられた者はいないが、襲われたり、無理やり技術を吐かせようとする輩が出てくるかもしれないからな。予防策だ」
なかなかに物騒な話になってきた。
けど、可能性としては、否定できないか。
「そこまでしないといけないのね……。どういうのがいいか、考えてみるわ」
「うん、それはお願いしたいけれど、リディアは特に、これから外出するときは気を付けてね」
ん?
「会長の娘は、誘拐される可能性が高いからね」
は?その心配があるってこと?
うわー、まさか、そんなことまで言われるとは思ってなかった。
俺、影や調査部隊の教育とかしている場合じゃなくない?
リディの護衛強化のほうが大事なんだけど!
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あんな隠し玉があったなんて、正直やられた気分だよね。
庶民向けの雑貨店で従業員による万引きが発覚して。
他の店舗でも防犯を強化することになった。
魔道具店や菓子店はそこまで警戒する必要はないかもしれないけれど。
貴族向けの雑貨店や衣料品店、食品店については、そうもいかない。
商品点数が多くて単価も安いから、犯行に及びやすいんだよね。
ということはあるけど、やっぱりどの店舗でも可能性がないわけではないし。
情報共有も大切だから、全店舗の責任者を集めて防犯会議が行われた。
その防犯会議自体は、理解も得られたし、問題なく進んだと思う。
ただ、流れで会計魔道具の話に飛び火したら。
リディが思わぬことを口走ったから、皆で驚いてしまった。
まさか、自動で計算してくれる魔道具があるだなんて。
……まあ、ある、というか、作れるという話だけどね。
会計計算は、俺も他の人たちと同様に商会の商品に特化したものだと思ってた。
未会計商品に埋め込んである情報に何か仕掛けがあるんだと思ってたのに。
計算対象を限定することもなく。
任意の数字を打ち込んで計算方法を選択するだけで自動計算してくれる。
そんなすごい魔道具のアイデアを隠していたなんて聞いてないよ。
今回ばかりは、本当に、もっと早く教えてほしかった。
いや、隠していたわけじゃないのは解ってる。
会計計算機能は平民のために考えたってことも知ってる。
何よりも、リディは計算が得意だから普段の計算にも困ってないんだよね。
でも、それは、前世のすごい教育を受けたリディだからで。
俺たちは、そこまで早く計算できないんだよ?
事業計画だって、何が大変だって、計算なんだから。
リディには簡単かもしれないけど、俺たち、結構苦労してるんだ。
そんな思いがふつふつと湧いてきてしまって。
思わず責めるような口調になってしまったけれど。
リディがしゅんとしてしまって、ハッとした。
これは、帰ってから、またちゃんと謝ろう。
決して、責めたかったわけじゃないから。
それに、義父上が言った通り。
そういう魔道具があるってことがわかっただけでも、すごいことだからね。
義母上も張り切って作ってくれるみたいだし。
商品化を楽しみに待とうと思う。
でも、他にも何か隠し玉がないか、確認はさせてもらうよ?
本心を言えば、すぐに確認したいんだけどね。
今日はまだ本題が残ってるから。
まずは、商会本部と工場の防犯問題を片付けないとね。
「商会本部の防犯については、知っての通り、出来る限りの事はしているつもりなんだけどね」
うん、そうだよね。
商会本部は、サティアス邸の敷地内にあるから。
我が家と同様のダズル様特製の結界のおかげで、不法侵入はまず難しい。
とはいえ、侵入を目論む輩は多いみたいだけどね。
精霊や私兵が捕まえてくれる不審者は月に数十人にのぼるらしい。
「最近、また増えたんだよね、不法侵入者」
あー、これは、新商品を連発したからかな。
と言っても、改良した馬車や各種食品については。
解体したり、味がわかれば、真似できるものも多いから。
侵入せずとも類似品を作ることは可能だ。
もちろん、我が商会ほどの品質にするのは大変だけどね。
でも、魔道具に限っては、そう簡単には真似できないのだ。
というのも、商会の魔道具には特殊な処理を施してあるから。
解体したり、他の魔法をぶつけたりすると。
付与魔法が消えるようになってるんだよね。
技術流出を避けるためでもあるけれど。
別の力や魔法が加わることで、おかしな反応が出てしまっても困るから。
事故防止のためでもあるんだ。
だからと言って、すべての魔道具を真似できないことはなくて。
生活魔道具は、付与魔法も想像しやすいからね。
実際に、類似品は出てきている。
でも、直近で販売した録映機なんかは。
なかなかに複雑に作っているから、真似するのは大変だと思う。
だから、侵入して技術を盗もうと思う輩が増えたんだろうな。
今後の新商品情報を掴みたいってこともあるだろうけどね。
「結界を破れないから、出入り業者を装う輩も出てきたしね」
うわー、そこまでして侵入を図っているのか。
ご苦労様。
もちろん、出入り業者は厳選しているから。
そんなのに引っかかることはないけどね?
「従業員として潜入しようとする輩も増えてきたな」
本部や技術者の採用は、基本的に公募はしてないんだよね。
最近はギルド紹介が多いけれど、誰からの紹介だろうと調査はするから。
今のところは、間者らしき人は採用していないはずだけど。
わざわざこういう話が出てくるってことは、怪しい人が増えてきたんだろう。
「もしかして、ドラングルのあの商会の関係者?」
「あ、いや、まだそこからは来ていない。国内の同業者が多いよ」
そうなのか。
まあ、でも、ドラングル支店は漸くオープンにこぎつけたところだから。
間者を放つにしても、商品が出回ってからなのかもしれないね。
「とにかく、侵入を目論む輩は後を絶たない状況だ。今のところは排除できているけれど、相手もあの手この手を考えてきてるからね、警戒は怠りたくないんだ。だから、結界の改良と従業員の守備体制を徹底しようと思う」
うん、賛成。
「敷地の結界はこれ以上のものはないから、万が一、侵入されたときのために建物内部の結界を強化しておきたいわね」
「そうだな。結界の改良は必要だ。リディア、頼めるか?」
「わかったわ。出入口と会議室と、あとは、金庫と重要書類保管庫の結界ね。結界を操作できる人間を登録制にしておくわ」
ああ、そっか。
今は、誰でも魔力をかざせば起動と解除ができるけど、それを限定するのか。
なるほどね。
「そんなことができるのか?」
「うふふ、わたし、結界魔法は得意なんです。結構いろんな付与ができますよ」
さすがにレオン様が驚いてるな。
俺たちは慣れてきたけど、本当に、リディの魔法は反則技が多すぎるよね。
リディ曰く、魔法はイメージとのことだけど。
そのイメージが難しいんだって。
前世は魔法がない世界だったらしいのにね。
どうやら、物語にはよく魔法が出てきたみたいで。
実在しないからこそ、好き勝手な魔法が生み出されていたらしい。
ほんと、異世界人の想像力には感服するよ。
「あ、もし必要だったら、暗証番号も付けておくけど」
「暗証番号?」
「それを入力しないと、起動も解除もできないように設定するの」
「その場合、番号がバレたら誰でも解除できるんじゃないか?」
「ランダムにすればいいんじゃないかしら。毎回違う番号になるように設定して、登録者にだけ番号を伝えるの。登録者は番号が表示される魔道具を持たなくちゃいけなくなるけど」
それはそれですごいけど。
持ち物が増えるのは、できれば避けたいかな。
落としたら大変だしね。
そう言ったら、リディも納得してくれたから。
暗証番号については、とりあえず保留となった。
「従業員の守備体制についてはね、集合住宅から本部を結ぶ転移陣を敷こうと思ってるんだよね」
これは、出勤・退勤時に近づいてくる輩に対する策かな。
本部の人間は狙われやすいからね。
任意使用にしておくならば、あってもいいかもしれない。
「結界に転移陣なんて、本当にすごい守備体制だな」
「勝手に真似されるのはしょうがないけど、技術を盗まれて変な言いがかりを付けられでもしたら面倒だ」
確かに。
後々そんな面倒な対応をするくらいなら。
最初からしっかり防犯しておいたほうがいいよね。
「本部のほうはこんな感じかな。まあ、採用については、工場のほうも含めて、調査を徹底していこう」
「そうだな。ラディン君、外部調査の教育、頼んだよ」
「はい」
俺の実家が影の一族だってことは、リディと義両親しか知らないけど。
俺の調査方法が影特有なものだということは侯爵にもバレているから。
実は、デュアル侯爵家の影の教育を頼まれたこともあるんだよね。
商会でも影や外部調査部隊を抱えているから、その教育は俺の担当だ。
これまでも教えられることは教えてきたけど。
おさらいでもしておこうかな。
「工場のほうはね、できれば、敷地の結界に無効化魔法を付与してほしいんだ」
「あら、そこまでするの?」
「念のためだけどね。入れないとわかって、攻撃魔法を打ってくる輩がいるんだよ。おまけに、工場を燃やそうとしたバカもいてね」
「え、そうなの?!」
まさか、そんな過激派がいたなんて、
さすがに、これには、俺もリディも驚いた。
確かに、リアン商会が便利な商品を連発することで、売上が下がった商会もあるとは思うけれど。
こっちだって、頭を使って、金をかけてやってるんだから。
怒りに任せるんじゃなくて、開発をがんばってほしいよね。
「それは危険ね。すぐに無効化仕様の結界魔道具を作るわ」
「頼むよ。周辺にも被害が出たら大変だからね」
本当だよね。
「敷地の結界の改良だけでいいの?本部に比べて、工場は出入りする人間が多いんじゃない?」
レオン様の疑問はご尤も。
「もちろん、本部のように、会議室や重要書類保管庫にも結界は張ってあるよ。機械の内部に入れる人間も限られている」
「ああ、そうなんだね」
「まあ、機械の構造がバレたとしても、商会で使っている機械の導入には結構な費用がかかるからね、簡単には真似できないよ」
そうだろうな。
商会の商品は、量産と売値を抑えるために、ほとんどが機械化されている。
でも、そのための投資費用は莫大なものなのだ。
機械の内部を見なくても。
製造工程を見れば、どういう処理をしているのかはわかるかもしれない。
但し、再現するには資本がいるから誰でもできるわけじゃないんだよね。
「聞けば聞くほど、すごい商会だね」
「サティアスがお金持っててよかったよ」
侯爵、はっきり言いますね!
「始めた頃は、結構すっからかんになったぞ?」
「でも、倍以上回収してるでしょ?」
そう言われた義両親が悪い顔になったのは見なかったふりをしておこう。
「そんなことよりも、とりあえずは、結界強化ってことでいいのかしら?」
「建物はね」
リディが話を戻してくれたけど、建物って限定したのはなんでだろう?
「他にも何か必要なの?」
「できれば工場の技術者の守備体制も整えたいんだが、ギルドの人間には強要できないし、住んでいるところもバラバラだからな。なかなか難しい。せめて、防御系の魔道具を持たせたり、魔法契約の強化くらいはしておきたい」
ああ、確かに、工場で働くすべての人間が使える転移陣の設置は難しいよね。
でも、防御系の魔道具って、何を防御するのかな。
魔法契約だって、技術を知っている人間が外に漏らさないように結んでいるものだけど、強化ってどういうことだろう?
リディもそう思ったのか、いまいち理解できていない顔をしている。
そんな俺たちを見て、義父上が補足説明をしてくれた。
「建物に侵入できないとなれば、次に狙われるのは従業員だろう?今のところ、実際に危害を加えられた者はいないが、襲われたり、無理やり技術を吐かせようとする輩が出てくるかもしれないからな。予防策だ」
なかなかに物騒な話になってきた。
けど、可能性としては、否定できないか。
「そこまでしないといけないのね……。どういうのがいいか、考えてみるわ」
「うん、それはお願いしたいけれど、リディアは特に、これから外出するときは気を付けてね」
ん?
「会長の娘は、誘拐される可能性が高いからね」
は?その心配があるってこと?
うわー、まさか、そんなことまで言われるとは思ってなかった。
俺、影や調査部隊の教育とかしている場合じゃなくない?
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