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第6話
しおりを挟む「婚約が認められないとはどういうことですかお父様!?」
思わず声を荒げてしまったが父は冷静で冷酷であった。
「まず一つ目に、婚約破棄をされたばかりの女がその日に別の男と婚約するなど他の貴族達にありもしない噂を流される可能性がある。それが王太子殿下の方から申し出た事でも、だ。それが分からぬお前では無いだろう?」
「……」
図星を突かれ黙り込んでしまう。
貴族とは政治家であり、その家に悪い噂が出ればそれがどんな些細な事でも政争の道具にされる。
それも自分の妻や娘の色恋沙汰や密通の噂などは格好の的だ。
父としてはそれを警戒しているのだろう。
「そして二つ目に、これは私的な事だが、私は王太子殿下の甚だ無思慮な行為をエリザヴェータから聞き、王太子殿下ただ一人に問題があるのではなく、第二王子殿下を含めた王族全体の教育に対する問題を感じているのだ」
「お父様!」
ルーカス様への苦言だけならともかく、何の罪もないユリウス様に対してまで苦言を呈するなんていくらなんでも失礼にも程がある!
「エリザヴェータは黙っていなさい。私は第二王子殿下と話がしたいのだ。殿下のエリザヴェータに対する気持ちがどれほどのものなのか、侯爵家当主としての私ではなく、一人の父親として知りたいのだ。もし殿下が本当にエリザヴェータと婚約したいという気持ちが伝わったのなら、婚約を認めるのも吝かでもないかもしれん」
父のその言葉にハッとなる。
今まで父は、噂がなんだとか、王族の教育がなんだ、とかを言っていたが結局のところ、娘を捨てるような人に私を嫁がせたくないだけなのだ。
父はユリウス様の方をじっと見て、言葉を待っている。
ユリウス様は意を決した様子で話し始めた。
「レオン・バートリオン侯爵閣下、私はエリザヴェータ様を心の底から愛しています。その気持ちはこの世界の誰にも負けるつもりはありません」
そこからユリウス様の長い独白が始まった。
いかに私を愛しているかを何の躊躇いもなく臆しもせず、大胆な愛の告白を父に対して存分に語った。
そこにはいつもの穏やかでもの優しいユリウス様の姿はなく、雄々しくて、王族としての資質を十分に備えたユリウス様の姿があった。
この人の妻なら幸せになれる…!
そう思わずにはいられなかった。
やがてユリウス様は語り終え父を見つめ、父もユリウス様をしっかりと見つめ返した。
無言の応酬がしばらく続いていたが最初に根を上げたのは父の方だった。
「ふぅ、殿下、私の負けです。エリザヴェータとの婚約を認めましょう」
「本当ですかっ!?」
「えぇ、殿下ならきっとエリザヴェータを幸せにしてくれるでしょう」
「ありがとうございます! 絶対に幸せにしてみせます!」
「お父様、私からもありがとう」
「構わない、口出しや要らぬ詮索をする貴族達は私が抑えておく。だから心配せず二人は存分に婚約者としての振る舞いをするがいい」
父の眼は厳格な貴族のそれではなく娘である私の婚約を祝った優しい眼になっていた。
こうしてユリウス様との正式な婚約が決まった。
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