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同居人から赤の他人に

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東京メトロ丸ノ内線の本郷三丁目駅から徒歩10分の所に東京大学附属病院がある。
実家は四谷駅から徒歩15分の所にあり、黒猫宅急便に荷物を送った後直ぐに実家に向かった。

実家は四谷で代々小児科を開いていて現在は母が院長として経営してる。

病院の2階にある実家に帰るとお昼休み中の母がリビングでヨガをしながらテレビを見てた。

「あれ、凛花お帰り。急に帰ってきてどうしたの?」

久しぶりに会った母はわたしより若々しくなっていていた。
56歳なのに、20台後半にしか思えない肌とスタイルをキープしてる母は美魔女特集で何度かテレビに出ている。

「凛花、肌のお手入れちゃんとしてる?老化が進行するよ」

汗を流すために母はシャワーを浴びにバスルームへ行った。
そして、午後3時半から午後の診療が始まるから母は着替えて薄くメイクをして1階の病院へ降りて行った。

母に赤ちゃんができた事と実家に戻る事を伝える事ができなかった。

19時に母が仕事を終えてから話す事にして、自分の部屋に行き、部屋の掃除をする事にした。


「凛花、ちょっと手伝ってくれない」

土曜日の午後に診療している小児科はあまりないのと、夏風邪が流行ってるからか患者が殺到してパンク状態で母から呼ばれた。
土曜日の午後、時々母から連絡が来てヘルプに入ってた。
下に降りるて、母の白衣を借りて来て、診察室2に入り、高熱でうなされてる小さな患者さんを診察していく。

小さな赤ちゃんも患者として来院していて、新米のパパとママが心配そうに赤ちゃんに寄り添ってた。

赤ちゃんは脱水症状を起こしていて点滴をし、咳も酷いから吸入をし、症状が落ち着いた。
でも、39℃近くの熱を出していて苦しそうだった。
だから、持ち運び用の小型の吸入器を貸し出し、何かあれば夜間診療もすると伝えた。

21時過ぎにやっと診療を終え、ママと2階の家に戻る。

「凛花、ご飯食べるでしょ。ちょっと待ってて」

母がキッチンに立ち、バタバタと料理を用意し始め、わたしも母の手料理が盛られた皿を食卓テーブルに運ぶ。

「いつも1人分しか作らないから、足りないかも。作り置きおかずを出してきたけど足りなかったら何か作るわ」

サーモンのマリネとヒラメのカルパッチョ、そしてアジの南蛮漬け、タコときゅうりの酢漬けなど酸っぱいおかずが多く、悪阻でご飯が食べられなかったわたしだけど、母の料理はたくさん食べれた。


「凛花、同居人と喧嘩でもしたの?」

母は、わたしが小学3年生の終わりからずっと大翔の事をライバル視していて、そして中学から大学卒業するまで同級生だったから、大翔の事をよく知ってた。

母は大翔の事を気に入ってた。

わたしが大翔と付き合ってないのに同居する事も許すなんて、普通の母親なら止めそうなのに、母はすんなりと許してくれた。

母にわたしが妊娠して大翔と同居を解消した事をどう話すか悩んだ。
母ならわたしを受け入れてくれるはずと、重い口を開く。

「大翔と、付き合ってないのに身体の関係を持っちゃって、それでわたし、妊娠しちゃって、赤ちゃんできたから仕方がないから結婚するみたいに言われて、それが嫌で同居を解消して戻ってきた」

普通の親なら、堕胎を勧めるか妊娠させた相手に責任を取らせて結婚を要求するところだけど、

「ふーん、そうなんだ。じゃ、今日から一緒に暮らせるんだね。嬉しい。凛花もお母さんになるんか。わたしも28歳の時に凛花を産んだからね。
もう少し総合病院でキャリアを積んだ方がいいけど子供を育てながら働くのは難しいし、辞めてここでわたしの仕事を手伝って」

母はわたしの気持ちを尊重してくれた。

わたしの母も、わたしを妊娠した時に勤めてた大阪市立総合医療クリニックを辞めて東京に戻ってきた。

そして、わたしを産み、シングルマザーとして今はリタイヤして湘南でセカンドライフを満喫してる祖父母と一緒にわたしを育ててくれた。

だからか、わたしが妊娠して戻ってきた事を温かく受け入れてくれてた。

「凛花、まだ産婦人科には行ってないの?わたしの友達の女医が近くで開業してるからそこで産んだらいいよ。診察はさすがに今日は無理だけど、明日診て貰えないか聞いてみるわ」

お産のできる産婦人科は年中無休だから、外来はしてなくても基本的に24時間診療をしてる。

母が友達にお願いしてくれて、明日診察して貰える事になった。


次の日、母と一緒に新宿駅側の産婦人科に行った。

病院に入ると、大学生ぐらいの女の子が泣きながら母親に連れられて帰るのに出くわした。

たぶん、中絶手術をしたのだろう……。

泣き叫ぶ若い女性の後ろ姿を見て、とても切なくなった。
まだ産まれてはいなくても若い女性の体内で生まれた命、それを無残に殺す行為……。
育てられないから仕方がないという理由で中絶。
致し方ないかもしれないけれど、小児科医として総合病院で生きたくても難病で命が尽きる小さな子供達に寄り添って、大切な子供を失って哀しむ御両親を見ているから、その若い女性が泣いて悔いていても許せなかった。



母が受付で名前を伝えるとすぐに診察で呼ばれた。

「宮瀬さん、すみません。母はお産に入ったのでわたしが代わりに診察します」

わたしと同い年ぐらいの女医さんが診察室の椅子に座って、わたしと母に挨拶をした。

「瑠花ちゃん、こんにちは。娘の凛花、妊娠初期だと思うから見てくれるかな?」

最終月経日から計算したら妊娠3ヶ月半ぐらいで、経膣プローブの超音波エコーで診てもらうと4ヶ月目ぐらいに育っていて、順調と言われた。

エコー写真を貰い、お母さんになったんだと物思いに耽っていると、白衣を着た母と同年代だと思われる美魔女医が入ってきた。

「和香、お久しぶり。娘に診察を代わって貰ってごめんね」

「ううん、美里、今日はありがとうね。瑠花ちゃん、立派になって跡取りが順調に育ってるから安泰ね」

母と美魔女医美里さんは久しぶりに会ったのか話し込んでしまった。

牧野産婦人科は母と同年代の女医さんと、わたしと同い年の娘の女医さんが2人体制で病院を切り盛りしてた。

娘さんの瑠花ちゃんと初対面だけど、同じく母の跡を継いで個人病院を切り盛りするから仲良くなって色々情報交流ができたらいいなと思った。


「後、5ヶ月ぐらいで産まれてくるのね。4月20日が予定日だけど早めに産まれるかもしれないから3月いっぱいに退職するようにしなよ」

母と産婦人科の診察を受けた後に新宿駅の側の母御用達の和食のお店で、サーモンとイクラと甘エビの海鮮丼と蕎麦を食べた。
母の手料理を食べてから食欲が戻り、悪阻が明けたようで食べ過ぎて太りそうで怖い。

3月いっぱいで退職できるよう明日、医局長と相談しないといけない。

ふと、同居を解消すると言ったけれどその日に出て行ったから、バイト先から帰った大翔はどう思っただろう……。

冷蔵庫には常備菜で色々おかずを作ってる。
ご飯とパンは冷凍してる。
だから、今週いっぱいは夕食に困らないと思う。

大翔と同居解消して赤の他人になったのに、多忙な大翔の事を心配してしまうわたし……。

生活能力がない大翔の事だから、すぐにわたし以外の誰かと同居すると思う。
その人とはわたしと違って恋人関係になるのかな……。

大翔と決別したのだから、もう大翔の事は考えない。
お腹の中にできた、かけがえのない子の事だけを考えよう。

わたしはお腹に手を当てて、わたしはそう決断した。
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