crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子

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元彼が上司なんてやってられない!!

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10月1日、エンジン制御ECU開発部の細木部長がヘッドハンティングした凄腕らしい新しい課長が、うちの課にやってくる。

今いる課長はエンジン制御ECUに関する知識が浅く、みんな『使えねー』と言われていた。
本当に使えない人で、判子を押す以外の仕事はできなかった。

『厳しい人じゃなかったらいいな……』

部署の子達は口々に言ってるけど、使えない課長よりは厳しくても仕事がでかる人にうちの課の課長として来て欲しいとわたしは新しくくる課長に期待してた。

大学時代からの親友の新田心菜ちゃんとデンタに就職をした気に、デンタ側の2LDKの賃貸アパートでホームシェアを始めたわたし。
心菜ちゃんと会社側のカフェでモーニングを食べて8時に出社する。

「理子ちゃんの課に新しくくる課長さんって今日からだっけ?」

心菜ちゃんがiPhoneでヤフトピを読んでたのを辞めて思い出したように聞いてきた。

「そう、今日から。今度は仕事ができる人だといいな」

スモークサーモンとアボカドのサンドイッチと新鮮野菜のサラダとフレッシュグレープフルーツジュースの朝食を楽しんだ後、コーヒーを買って職場へ向かった。


コーヒーを飲みながらパソコンをつけて、メールチェックをしてから仕事にとりかかる。
デンタの取引先は主にトミタとホンタ、日走などの車のメーカーで、エンジン制御ECUに関しては独占で仕事を請け負ってる。

「益田くん、仕様変更の件なんだけど……」

朝一でトミタのエンジン制御ECU担当の顔見知りの人からメールが入ってたから電話をかけた。
益田くんは大学時代、長期休暇に一緒にバイトでトミタに入ってた京大博士卒の男性で、割と仲が良かった。

『いきなり変更だけど大丈夫?』

「……うん。まだ、その段階までいってないからなんとかする」

申し訳なさそうに益田くんが言う。仕様変更はよくある事で、仕事を請け負うデンタ側の方が下手だから量産前に言われたならそれに従わないといけないし、今回は取りかかる前だったから助かった。

「仕様変更の伝達、早めにくれてありがとね。じゃ、これからもよろしくお願いします」

と、話を終わろうとしたら、

『……香坂さん、今日、たぶん、香坂さんにとってとんでもない事が起きると思う。僕の口からは言えないけど、何かあったら相談に乗るからLINEに連絡入れて。じゃ。また」

お互い朝のミーティングが始まる時間だったから電話を切った。
益田くんの意味深な発言が気になり、胸騒ぎがした。

朝のミーティングの時間、細木部長と一緒に入ってきた新しい課長を見て固まる……。

「トミタでパワートレイン開発部のエンジン制御システム課長をしてました橘結弦(たちばな ゆづる)です。この度、細木部長よりデンタに来ないかといわれまして、エンジン制御ECU開発を手掛けたいと思い、デンタに転職して参りました。今日からよろしくお願いします」

長身でアルマーニのスマートなスーツを着こなし、知的な整った顔立ちにシルバーフレームの眼鏡をかけた、わたしの元彼、橘結弦が細木部長の紹介で簡単に自己紹介をした。

わたしと目が合い、笑みを浮かべたのを見て鳥肌が立つ。

「香坂主任、橘課長のサポートにしばらくついてくれ。橘課長、彼女がトミタのエンジン制御ECU開発を担当してます。この課で1番エンジン制御ECU開発に詳しい子です」

細木部長に呼ばれ、立ち上がり会釈をし、無言で座る。
名乗って挨拶をしないといけない気もしたけれど、元彼で顔見知りなのに自己紹介をするのもと思い辞めた。
結弦がたぶん、わたしがトミカにインターシップで入った時に彼の下で働き、その後もバイトで勤務していた事を話すと思う。

「香坂さん、この後、橘課長に社内を案内して」

細木部長に指示され、肩を下ろす。
元彼のサポート役をさせられるわたし、不運だ。
結弦にフラれたわけではなく、わたしが一方的に自然消滅させた。
かなり気まずいけれど仕事だから仕方が無く、結弦のサポート役をする事にした。

「橘課長、社内をご案内致します」

社内案内だから事務職の女性社員に指示すればいいのに、嫌な顔をしないようにたぶん引きつった顔をして、朝のミーティングの後にわたしは結弦の所へ行った。

「……香坂主任、よろしくお願いします」

結弦が少し吹き出して笑いを堪えてる表情をしてたから、わたしは相当酷い顔をしてたんだと思う。

デルタも広い敷地内に事務系の本社オフィスビルと技術系オフィスビル、そして実験と量産の工場が並んでいる。

全てを回る必要性を感じないから、パワートレインのシステム開発の課と実験工場と、技術系オフィスビル内にある社員食堂と売店、外にある社員食堂とコンビニを案内した。

「ミーティング室にも案内してくれる?」

案内はこれぐらいで部署に戻ろうとしたら結弦に言われ、外部用と社内用の技術オフィスビル内にあるミーティング室に案内する事にした。

技術系オフィスビルの正面玄関から入ってすぐの受付の子にミーティング室を見学する許可を取り、空いてるミーティング室に入った。

ドアを開けて中を少しのぞいて戻ろうとしたら、結弦に腕を引かれて中に入れられ鍵を閉められた。

「理子、久しぶりだね。3年半ぶりか」

結弦に壁に追い込まれ腕で身体を拘束されて、見下ろされる。

「一方的に別れを切り出して俺から離れていって、俺が納得してると思った?
仕事が忙しくて、トミタに入る気満々だった理子がトミタに就職できなくて傷ついてるのを慰めれなかったのは悪かったと思う。
LINEも電話もメールも全て拒否設定されたから仕事が落ち着いてから理子に会いに行って関係を修復させようと思ったら、お前は引っ越して行方をくらませてる。
だから、理子がデンタでエンジン制御ECU開発の仕事をしてるとわかってから、なんとお前に近づく方法を考えた」

結弦はそう言うといきなりわたしの唇に唇を合わせ舌を入れ込みわたしの口内を犯し始めた。
逃げようとしたら手で頭を抑えられ、激しく濃厚なキスをされた。

嫌なはずなのに懐かしい結弦のキスに酔ってしまい社内なのに甘い声が出てきそうになったところで、結弦はキスを辞めた。

「理子もまだ俺の事が好きだ。拒絶してる癖に俺に反応してるし。これから毎日口説いて行くから覚悟しといて。長居したら怪しまれるし、そろそろ戻るか」

結弦のせいで赤面し心臓がバクバクいってるわたし。

これから仕事で毎日結弦に会って、社内でこんな事をされたらたまったもんじゃないと、わたしは思った。







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