社長から逃げろっ

鳴宮鶉子

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逃げる準備 side 美夢

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「美夢、クライアント先に行ってくるから、このプログラム終わらせといて」

ここは、最近うなぎのぼりで業績を上げてる、動画投稿とネットビジネス等を兼ね備えたポータルサイト、【ドリームドア】の社長室の裏部屋。

わたしは何も身につけない姿で、先ほどまで社長に抱き潰されていた、疲れてた。

プログラミング技術と独特の発想力を認められて、大学3年の秋から、ドリームドアの社長、須田創志に服従し、下僕のように、いろんな意味でこき使われてるわたし。

『徹夜でやれ』と言われたプログラムを終えたら、出勤してきた須田社長に『御褒美だ』と、疲れた身体に社長の元気なブツを打ち込まれ、鳴かされ、そして、スッキリした顔をした社長はクライアント先に去っていく。

大量の仕事を置いて…。

社長室の奥に、社長が徹夜の時に寝泊まりするシャワー室とベッドとトイレがある部屋がある。
わたしは、気づいたら、ここで、生活をしてる。

仕事に追われて、帰宅できない

わたしの大学時代から住んでるアパートにはわたしを待ってる家族やペットはいない。

わたしが、須田社長から【ドリームドア】の社員として声をかけて貰ったのは大学3年の後期だった。

ゼミに入ったばかりのわたしに、博士課程4年の須田社長が声をかけてくれて、わたしにプログラム技術を教え込み、育ててくれた。


社長には感謝してる。

大学3年の秋から大学院修士課程まではアルバイトとして、社長から請け負った仕事を大学がない時間帯に会社に出向いて取り組み、学生身分なのに高額な給料を貰った。

だから、修士課程を卒業した後に、須田社長の会社に就職した。

それから、わたしは、須田社長に飼われてる。


大学3年の秋から、一応、告白されて、付き合ってた。
でも、付き合ってるという感じはない。

常にプログラムをさせられ、たまに、身体を合わせるだけの関係…。

わたしを社長室の裏に閉じ込めてるから、最低限の衣類や化粧品は、こまめにわたしに聞き、インターネットで購入して社長室に届くようにしてる。
着ていた服も、クリーニングに出される。

これは、どう見ても監禁だ

食事は、社長と外出してとったり、社長がいない時は他の社員がいない時間に社食に行ってとるようにしてる。

プログラミングが終わったら、裏部屋で仮眠をとったりできるから、最低限の人間らしい生活はできてる。

でも、この生活に違和感を感じるわたし。

これって、監禁ですよね?


全く使うこともなく、たぶん溜まっていってる貯金高。

給料明細を見たら、毎月、残業代があるから45~48万円が振り込まれてる。

でも、使う事はない

週末にたまに帰るアパートの家賃等しか引かれないから、毎月40万円ずつ積み立てられてる。

わたしの着ている衣類等は社長がポケットマネーで買ってくれてる。

インターネットで購入するものも社長の銀行口座から引かれるようになっていた。

致せり尽せりの生活

でも、わたしが社長室に閉じ込められて、閉鎖的な空間に閉じ込められてる生活は非日常で、わたしは社長から逃げて自由になる事を決めた。

逃げるにしても、社長室に常に引きこもってるわたし。
社長室の前には常に秘書の誰かがいて、わたしがどこか出かけようとしたら着いてくる。
見張り役のシフトが組まれてるんじゃないかっていうぐらい、誰かに見張られてる。

~回想~

1度、須田社長から指示された仕事を終わらせ、満開の桜を見たくてぶらっとお散歩に出かけた事がある。
そして、公園の桜の木の下のベンチでうたた寝しちゃったたわたし。

気がついたら、昼過ぎに出かけたはずが夕焼けの時刻になっていて、夕焼けの赤と桜のピンクのグラデーションみたいな情景にうっとりして、そろそろ須田社長が社に戻って来そうと思い、わたしも急ぎ足で戻った。

社長室の前につき中に入ろうとしたら、須田社長が激怒する声が響いた。

『美夢はどこに行った。昼過ぎに出て、こんな時間まで帰ってこない。何してんだ、行動を監視しとけよ』

秘書課の補佐社員を怒鳴り散らしているようで、思わずびびってしまった。

『須田、美夢ちゃんだって、たまには外に出て気晴らしくらいしたいさ。犬や猫じゃないんだから、帰ってくるさ』

『はっ、帰って来なかったらどうする』

『おまえが鳥かごに閉じ込めるような事をしてるからな…。おまえの普段の行動を改めろ』

『監視強化と、美夢に発信機をつけよう』

『違うだろっ、それ』

『外を歩かせてたら、拐われるかもしれないだろっ』

《ドリームドア》の経営管理を任されてる須田社長の中高一貫校時代からの親友で大学もT大経営学部修士課程卒業の草間遥輝(くさま はるき)取締役と須田社長が、物騒な話をしていた。

社長室に戻らないといけないのに、中に入るのが怖い。
いっそう、このまま行方をくらまそうかと思ったけれど、財布を持って出てなくて、資金無しに逃げ出すのは無理と諦めた。

少しして、誰かが歩く足跡がして、社長室が開いた。

焦燥感漂う表情をを浮かべた須田社長が出てきた。
そして、わたしと目が合い、表情が安らいだ。

秘書課の補助社員や取締役が社長室の中にいて見てる中で、わたしを抱きしめた。

『美夢、心配した。1人で外出は禁止だ』

須田社長はわたしに対しては怒りをぶつけなかった。
わたしがいなくなった事に対して、心配をしていたようで、哀愁漂う表情でわたしを見た。

だから、

『ごめんなさい…』

と、謝った。

でも、その日から、須田社長から、わたしは逃げ出す事を目論むようになった。

それを察してか、監視や監禁が強化され、毎日が息苦しい。


~回想  終わり~


6月の半ば、社長室で、1人黙々と仕事をしていたら、ノックも無しでドアが開いた。

「美夢、来月の終わりの日曜日、じいちゃんの三回忌あるから、金曜日の夕方の新幹線で実家に帰るからな」

須賀社長と大学から付き合いがあるわたしの兄、理人(りと)が社長室に入ってきた。

理人も取締役に就任してる。

でも、理人はデジタルアートなどの分野を手がけてるのもあり、普段は役員室でなく、現場にいて、滅多に会うことがない。

須賀社長もSEやPDの技術向上のために、クライアント先や協力会社に用事がない限りは、システム開発部門などに顔を出してるから、社長室にいる時間は少ない。

昼間の社長室はわたしの部屋になってる。

わたしは、役職は無い。

ただ、須賀社長が新しく手がけるシステムのプログラミングする役回りで社長室にいる。

『来月の終わりの日曜日に、祖父の三回忌があるので、理人兄と金曜日の夕方から京都に帰ります』

午後7時過ぎに須賀社長が社長室に戻ってきた時に伝えた。

法事で兄との帰省だから、『わかった』とだけ言って、わたしが手がけたプログラムの確認を始めた。

法事で帰省してる間は、須賀社長の監視下から離れる。

兄の理人は、妹のわたしを野放しにしてくれる。
法事の後に、理人を撒いて、逃走する事にした。

家族に心配をかける事になるけれど、それしか方法が無いと思った。

目論み通り、京都に帰省し、祖父の三回忌の法要を終えたわたしは、財布だけ持って逃走した。

しれっと理人兄と東京に戻るふりをして実家を出て、理人を撒いて、関西空港へ向かい、飛行機に乗って北海道へ向かった。

逃走成功

家族に心配をかけてしまうから、実家を出る前に書き手紙を置いてきた。


~  ~ ~ ~ ~ ~ ~
お父さん、お母さんへ

仕事が嫌で辞めたいけど辞めれないのが、辛いから、わたしはしばらく身を隠します。
探さないで下さい。

美夢より

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

金曜日の夕方に、新幹線に乗る前に銀行へ行き300万円引き落としたわたし。

これを資金に、北海道でのんびり暮らそうと思った。



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