孕まされ婚〜こんな結婚したくなかった〜

鳴宮鶉子

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逃走失敗監視生活開始

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「……美結、行かさないよ」

名古屋駅から新幹線に乗り込もうとしたら、桐谷に腕を掴まれ止められた。

「……土曜日から美結が何か企んでるようだったから美結のお財布にGPSを入れてて良かった。マンションから半径5km以上離れたらiPhoneからアラームが鳴るようになってて、美結が名古屋駅方面に向かってるから行方をくらまそうとしてるとわかった」

わたしの行動を監視するために、まさか財布の中にGPSを入れるとは思わなかった。

「……悪阻、もう治ったみたいだし、1人にしてたらまた行方をくらまそうとするかもしれないから今から出勤して」

桐谷がわたしの手を引いて、名鉄三河線に乗りこんだ。

10日ぶりに会社へ来た。
わたしの仕事は全て桐谷が代わりにやってくれてた。

『唯川は俺と婚約をしていて、俺の子を妊娠してる。悪阻が酷くて仕事ができる状態じゃない。唯川の受け持ってる仕事は全て俺が引き受けます。だから、無期限で有給使わせて下さい』

わたしが自宅安静で長期休暇を取って帰宅する時に、マタハラ発言をする社員に向かってそう言い放った。

桐谷は有能だから28歳でもう係長まで出世してる。

桐谷がデンタの御曹司というのは隠していても、仕事ができて見た目も完璧な桐谷は社内で結婚したい男No.1だ。

だから、桐谷のファンの女性社員から冷たい目を向けられ、嫌がらせとか始まりそうで怖く感じた。

仕事復帰してから桐谷がプロジェクトチームのリーダーなため、ずっと監視と仕事に関するセーブをされてる。

「唯川の仕事をセーブする分、俺がやればいいんだろ」

と、マタハラ発言させないためなのか自分でやった方が早いからなのか、エンジンECUシステムのプログラムをほぼ1人で書き、チームメンバーにはできあがったシステムのテストをさせた。
完璧なシステムを作り上げてるからテストで訂正を入れる必要はない。
スムーズにシステム開発は進むけれど社員を育てるという観点を考えると、どうかと思う。

わたしを常に横に置き、逃走の懸念からお手洗いまでついてきて外で待ってる。

「貧血で倒れたらいけないから」

トイレの中は女子社員が悪口や噂を言いたい放題する場で、わたしもいない時にかなり言われてる。

わたしがお手洗いに入るとシーンと静まる。
1度わたしがお手洗いに入った時にかなり悪質な悪口を言ってた女性社員達がいた。
それを外で聞いてた桐谷がお手洗いから出てきた3人を掴まれてきつく咎めた。
しかも……見せしめにパワートレイン開発部から他の開発部に異動させた。

桐谷がデンタの御曹司というのは隠してる。
でも、社長と同じ名字で顔の作りが似てるのもあり、社員の息子ではと憶測されてた。

桐谷にトイレまでついて来られ、1人になれる時間はなく、息がつまる。

わたしは完全に包囲されていて、桐谷の奥さんになり産まれてくる子を一緒に育てないといけない……。

男友達だと思って信用してたのに酔い潰れてるわたしに手を出して、妊娠をさせた桐谷を許せない。
子供ができたからとわたしの意思を無視して結婚の話を進めるのも卑劣な行為だと思う。

わたしが頑なに桐谷に心を閉ざして話しをしないのもいけないのかもしれないけれど……。




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