ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子

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元彼の子を産み1人で育てる決心をする

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お腹の中で育ってる15週目の赤ちゃん。
エコー写真を見るともう人の形をしていて、指しゃぶりをしていて、それを見てしまった後だから堕ろすなんて考えられなかった。

「佐伯さん、妊娠したの!!しかも、シングルで育てるの!!」

次の日、仲道リーダーにわたしのつわりによる体調不良と、これから妊婦健診で定期的に午前休をとる事を伝えた。

「佐伯さんまで抜けられたらうちのプロジェクトグループまずいんだけどな……。妊娠中は無理をしない方がいいから今日から定時に上がって。シングルで子供を育てるならお金がいるし仕事は続けるだろ?妊娠中から3歳までは定時退勤か短時間勤務に切り替える事ができるし、総務課に行って手続きしておいで」

仲道リーダーが困ったなぁって頭を掻きながらも、体調が悪いわたしを労わって下さり、助かった。

チームのみんなも、仕事が大変な時なのに、定時退社と検診でこれからたびたび午前休をとるわたしを温かく受け入れてくれた。

総務課に行くと会社が契約している無認可保育園に、産後6ヶ月から入園できるよう手続きをしてくれた。

女性が多く働く会社だからそういう制度が充実していて、助かった。

「男はいらないけど赤ちゃんは欲しいな……」

ランチタイム。まだ悪阻があるわたしだけど食べないとバテてしまうから冷やしうどんとサラダを休み休み口の中に入れていたら、サブリーダーの加瀬さんが言った。
加瀬さんはキャリアウーマンの32歳でわたしの憧れの人だ。

「わたしも30前までは人並みに恋愛して恋人もいたんだけど、仕事柄、システムの納期前や稼働後にエラーが発生したら2ヶ月ぐらい会社に泊まり込みが当たり前でしょ。だから彼氏ができても多忙期に浮気されて破局しての繰り返しで、どうせまた別れると思ったら彼氏の存在が面倒臭くなって作らなくなったんだよね。正社員で専門職だから女1人で稼いで生活していけるし、だから男はいらない。でも、自分の血を引く赤ちゃんは欲しいわ」

キャリアウーマンの独身で仕事に生きる加瀬さん。
webアプリケーションエンジニアの女性社員の多くが多忙期に恋人との別れを経験してる。
わたしも幹太と別れた原因は多忙期に3週間ほど会ってなかった。
それ以前も2週間に1度目ぐらいしか会ってなかった。

「佐伯さん、仕事はわたしがサポートするから元気な赤ちゃんを産む事を最優先にして。せっかく赤ちゃんができたんだから」

チームのみんなが悪阻で体調が悪いわたしを気づかってくれるのが本当にありがたかった。

携帯投稿サイトがリニューアルして3ヶ月経とうとしてるのに、システムを追加や変更によるエラーの多発でチーム全員が疲れてた。

わたしも定時で帰るよう言われても、最後まで残って仕事をした。


「佐伯さん、無理はしたらダメよ」

「大丈夫です」

24時までに新機能の追加のためのプログラムを入力しないといけなくて他のチームの人にも手伝って貰って総勢15人でひたすらパソコンのキーボードをカタカタ叩いてた。

「ディレクターの無茶振りにうちら過労死させられそう……」

「使い勝手が悪いからって小説投稿サイトに投稿するクリエーターさん退会していってるから焦ってるんじゃない」

「でも、読者数は増えてるんでしょ?」

「読者数は増えてるけど、良い作品を書いてたクリエーターさんが他の小説投稿サイトに移っていってるみたい。私が毎日読んでた小説のクリエーターさん、エラーばかりで作品が更新できないからってリニューアルしてからずっと休載してる」

手は高速でタイピングしているけれど、リニューアルして3ヶ月の小説投稿サイトの実情についてあれこれ話が弾んだ。

「ランキングのロジックをまたいじって、月間ランキング・年間ランキングを追加だろ。またエラー500祭りになりそう。ランキングプログラムは佐伯さんが担当だけど大丈夫?」

「はい。今のところ順調なので」

なんとか23時までにプログラム入力を終え確認し実装に移る。
妊娠中だからと定時で退社せずに仕事をしてるわたし。

そう言えばあの日から幹太はわたしの会社に来て待ち伏せをしなくなった。

心実が、幹太が個人でアプリゲーム開発をしてたのを辞めて任天社に就職したと言ってた。
幹太、ゲーム開発の仕事が忙しくなってわたしを待ち伏せする時間が取れなくなったのかもしれない。

明日の朝に不具合が出ない事を祈りつつ、23時半にチームのみんなとオフィスビルを出た。



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