授かり相手は鬼畜上司

鳴宮鶉子

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深夜帰りに危機一髪

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リモートワークが主流な仕事柄、必要最低限しか出社客周りは無く、家に閉じこもり、黙々と仕事に明け暮れる。
唯一の外出は食品や日用品などの生活に必要な物の購入で、それさえもネットショッピングで購入しインターネット決算で支払いコンシェルジュが玄関先まで届けて貰ってるから頻度は少ない。

内装設計に携わった施行中のマンションの一階部分が完成し、住宅設備機器の取り付けで立ち会うために現場に出向く。

システムキッチンからバストイレ、洗面台の取り付けで、夕方まで立ち会う事に。

「収納が多いからいいね。ウォークインクローゼットとファミリーカウンター、いいわ!!」

クロスフローリング担当の牧野灯里ちゃんが興奮気味に話してきた。

各個室にも壁面クローゼットを取り付けてる。
低層階は2LDKの住居面積58.32㎡と狭いが収納がたっぷりありファミリーカウンターも取り付けているから住み心地最高だと思う。
収納スペースがある方が部屋の中が部屋が片付けやすくすっきりして居心地がいいと私が案出した。

今住んでいる部屋にもウォークインクローゼットはある。
だけど狭く、あまり物が置けない。
部屋はそれなりに広いけれど、収納のためのラックなどを置いたため、部屋が狭く感じる。

「対面キッチンのカウンターいい感じだね」

転職して初めて手がけたマンションの出来栄えに感動する。
将生くんと暮らしていたマンションを飛び出しレオパレス暮らしをしていて、転職してすぐに完成済みの部屋を分譲した。
自分が手がけたマンションが完成するまで待てば良かったと後悔。

「結衣ちゃん、ご飯食べて帰らない?」

仕事終わりに灯里ちゃんに誘われた。

「いいね、せっかくだから中華食べに行かない?」

横浜中華街側が近かったから、中華を食べに行く事に。

北京ダック、小籠包、フカヒレスープ。
食べ放題飲み放題のクチコミがいいお店でたっぷり堪能。
東京に戻ってからも海鮮居酒屋に入り飲み食い。


「ゆ、……結衣」

深夜0時過ぎにタクシーでマンションに戻る。
降りて足早にエントランスに向かってると、男性から声をかけられ背後から右手を掴まれてしまった。

振り向くと、将生くんがいた。

「な、……なんで、ここにいるの?」

頭の中が真っ白になる。

「東京駅で見かけたから先回りしてここで待ち伏せしてた。結衣とちゃんと話をしたいのに、結衣、レインボーライオンに来てくれない」

行きつけのBARだけでなく、私の住んでいるマンションまで将生くんは知っていた。

「……帰ってきたから良かった。男とまた一夜限りの情事をしでかしてくるかと思った」

私の日常を把握している将生くんに恐怖を覚える。

「結衣、部屋に入れてくれない。ちゃんと話をしたい」

昔愛した人だけど、今は気持ち悪くて堪らない。

将生くんの靴を思いっきり踏み付け、私の手首を掴んでる腕に噛み付いて逃げ出そうと行動に起こそうとした時、

「嫌がってますよ、その手を離して下さい。警察呼びますよ」

通りがかりの男性が声をかけてくれ、将生くんは慌てて走って逃げていき、助かった。

「大丈夫?」

強く握られていた手首が離され、尻餅着いて座り込み、放心状態になってる私に、助けてくれた男性が手を差し伸べた。

「あ、あれっ、君、2ヶ月前にレインボーライオンで会った子だよね!!」

目の前にいる男性は、あの“彼”だった。

「助けて下さりありがとうございます」

差し伸べてくれた手を掴み、立ち上がる。

「あいつにストーカーされてるの?久保工の久保将生だったよな。君、久保工で働いてるの?」

「久保将生には違いないですが、私は久保工の元社員です」

彼は将生の事を知っているようだった。

「彼は元夫です」

覚えてくれてるかわからないけど、レインボーライオンで酔い潰れた時に、将生との離婚に至った経緯を聞いて貰った。

「もう、……関わって欲しくないよな。つらいよな。嫌いになって別れたわけじゃないもんな」

目を細め、彼は私の頭に手をポンと起き、くしゃくしゃっと撫でた。

「……もう、好きじゃないです。嫌いです」

「そ、そっか」

彼はマンションの高層階に住んでるようだった。
乗るエレベーターが違うからエントランスで別れる。

せっかく再会できたのに、名前と連絡先を聞く事ができなかった。
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