身代わりにしてゴメンね

鳴宮鶉子

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誕生までのカウントダウン

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すれ違い仮面夫婦になったわたしと創真。
今年のクリスマスイブとクリスマスは平日で、仕事が多忙な創真はもちろん深夜帰りで、わたしも1人でクリスマスディナーをとり、部屋に鍵を閉めて先に就寝してた。

このままではいけないのはわかってる。
でも、お互い、好きとか愛してるという感情完無で結婚したから、お互いに無関心なのは当たり前かもしれない。

クリスマスの朝、起きたら、ダイニングテーブルの上に、真っ赤な薔薇の花束とハリーウィンストンの薔薇のモチーフのネックレスが置いてあった。

花瓶に入らないぐらいの本数の薔薇に戸惑う。
数えたら101本あり、スマホで花言葉を調べると 最愛 と出てきて苦笑する。

プレゼントでわたしのご機嫌をとろうとしてるのかなと思いながら、花瓶に入らない薔薇はバケツに入れて、リビングの窓辺に飾った。

クリスマスだからと早く帰ってこられても、1人で気ままに過ごせないから困る。

でも、妊娠するまでは仕事もプライベートも常に隣にいた創真がいないのは寂しかった。

妊娠してから、たまに麗華ちゃんが将輝くんと遊びにくる以外はずっと1人。

お腹の中にいる、息子か娘かいまだにわからない子供がたまに蹴ったりして存在感を示すぐらいで、ずっと孤独だった。

今年の年始年末、大晦日から元旦にかけて、わたしの実家に麗華ちゃん一家と創真のご両親もきて、 2日間どんちゃん騒ぎをするらしい。

行きたくない……。

麗華ちゃんから聞いて、思わず顔をしかめてしまった。

わたしと創真の両親は仲がいい。
中高一貫校時代からの親友らしく、長期休暇のバカンスもいつも一緒だった。
そして、週末もよくホームパーティを開いてた。


*****
「咲愛ちゃんとの年越し、嬉しい!、」

わたしの部屋で年末恒例、紅白歌合戦を麗華ちゃんと楽しんでる。

ちなみに、将輝くんは簡易ベッドで寝ていて、薄暗い部屋の中、麗華ちゃんとお喋りを楽しんでる。

「……この曲、昔、流行ったよねー!!」

婚約者が兄弟という繋がりから、親友になってた麗華ちゃん。
クラス分けもなぜか6年間一緒で、常に一緒に行動してた。


麗華ちゃんは両親から大切に育てられたお嬢様。
都内で最難関の私立の女子校に通ってるから、中学受験の際はそれなりに苦労はしたかもしれないけど、いつもにこにこしてマイペースだった。

『……創真くんって凄いよね。中3で東大検定で満点A判定って、優志さんが落ち込んでたよ。優志さん、B判定で、両親からかなり怒られたみたい』

創真の存在が脅威で、わたしも優志さんも、努力して多少なり成果をあげても両親から評価されない。

優志さんの両親はホテル ナカクラを創真でなく優志さんに継がせたから、人当たりをみて判断したんだと思う。

優しくて紳士的な優志さんがいいなずな麗華ちゃんが羨ましかった。

わたしの部屋に布団を敷き、麗華ちゃんと将輝くんと年を越した。

ちかみに両親達と創真と優志さんはリビングで年を越した。

朝イチに明治神宮まで初詣にいき、その後解散した。

マンションに着いたら、わたしは部屋に篭り、創真さんも書斎に篭った。

このままではいけないと思いつつ、自分から創真に歩み寄れなかった。

わたしが自分の部屋として使ってる10畳の客間に、ベビーベッドを置いた。

予定日まで1ヶ月を切り、インターネットでベビー用品を購入し、出産準備をすすめる。

お腹の中にいる赤ちゃんの性別はいまだにわからない。
ひとまず、白とクリーム色のベビー服を5枚用意し、産まれてからすぐに追加で購入する事にした。

「……子宮が下がってきてるから予定日より早く産まれるね」

37週目の健診で医師から言われ、焦って準備をすすめる。

「予定日より早く産まれてきそうなんだ!!」
毎週木曜日に我が家に遊びにくる麗華ちゃん。

麗華ちゃんは予定日の3日後に出産したようで、全国にあるホテル オークラに視察に駆け回ってる優志さんは予定を調整するのにひやひやしたらしい。

「創真さんは出産に立ちあえそうなの?」
「……さぁ?」

創真に予定日を話してないし、産まれても家に赤ちゃんがいるぐらいにしか思わない気がする。


10ヶ月になった将輝くんはハイハイして動き回り、つかまり立ちから歩きはじめた。
リビングに置いてる本棚の下の段の創真のコミックが餌食になってた。

基本的にわたしの部屋で生活するつもりだけど、赤ちゃんが手が届く位置にあるものは使ってない客間に持っていくことにした。


3月2日の午前1時、本格的な陣痛が始まった。
前の日の夕方から下腹部に焼け火箸刺されてグリグリ撹拌されるような痛みがあり、でもその痛みの間隔が長いから、朝イチに病院に行こうと考えてた。
赤ちゃんの身体の一部が子宮から出て、下のほうに降りてきたのか、お尻に猛烈な痛みが走る。
すごく強い力で引っ張られるような焼けつくような感じで、歩けない。

スマホを手にし、産院に電話をかけ、「急いで来てください」と言われたから、タクシー会社に電話をかけた。

10分間隔で痛みの波がくるから、痛みが和らいだ時に入院バッグを持って家から出ようと思って、リビングのソファーに横たわり、痛みに耐えてた。

その時、タイミング悪く創真が帰ってきて、ソファーで蹲って苦しんでるわたしに、持ってる鞄を投げ飛ばして、駆け寄ってきた。そして、
「……大丈夫か!!」
とわたしの肩に両手を置いて心配そうにわたしの顔を見つめてきた。

「……大丈夫。陣痛が始まっただけ。タクシー呼んでるから今から産むために病院に行ってくる。1人で行ってくる」

陣痛の痛みが終わり立ち上がると、子宮から何かが溢れでてきだ感じがして、太ももに伝わり流れ落ち、マタニティーワンピースが濡れる。

破水したとわかり、焦る。

創真がバスタオルを持ってきて、
「一緒に病院に行く。行かせてくれ」
と、わたしのお尻にバスタオルをあてて、腹が圧迫されないような横抱きで抱き上げた。

左手には入院バッグをかけていて、そのまま家から出て、マンションの前に止まってるタクシーに乗り込んだ。

1人でお産をするつもりで不安だったから、まさか創真が付き添ってくれるとは思ってなかったから嬉しかった。

産院に着き、ひとまず病室へ案内された。

「子宮口が8cm開いてるので分娩室に移動します。出産にご主人、立ち会われますか?」

助産師さんが子宮の開きを見て、創真に声をかけた。

「……咲愛、立ち会っていいか…?」陣痛の波がきたわたしの臀部をさすりながら創真に言われ、痛みに耐えながらわたしは首を縦にふった。

分娩室に入り、子宮口が全開になってしばらくして、猛烈な痛みがきた段階で「いきんで!!」と女医さんに言われ、午前3時15分に、元気な女の子が産まれてきた。

へその緒を創真が切り、身体を清めた赤ちゃんをカンガルーケアで抱かせて貰った。

赤ちゃんを連れて医師と助産師さんが分娩室から出て行き、分娩室で創真と2人きりになり、創真に、
「……咲愛、ありがとう。俺の子を産んでくれて。痛い思いをさせてごめんな。出産は変わってやりたくても変われない。咲愛が許してくれるなら、一緒に子育てをさせて欲しい」
と、疲れきったわたしの頭を撫でられながら言われた。


女医さんが戻ってきて、後産の処置をしてる間も創真は分娩室にいて、その後1時間、分娩台の上にいないといけないわたしに付き添ってくれた。

「帰って寝た方がいいんじゃない?明日の仕事にひびくよ?」
「子供が産まれた次の日に仕事に行くわけないだろ。咲愛と娘と一緒にいたい」
妊娠してから今までずっとわたしと距離を置いていたのが嘘みたいに、創真はわたしの夫役をしてた。

「……娘の名前はもう決めた?」
「……まだ、産まれて顔を見てから決めたかったから。創真が名前をつけてあげて」
赤ちゃんの名前の候補は考えてた。
けど、名付けを父親の創真に譲った。

「……遥花《はるか》、スケールの大きい自由な誰からも愛される花のような女性になりますようにと願いを込めて」

創真の口から出た名前は、わたしが考えていた名前と同じだった。
「……初瀬遥花で決定だね!!」
わたしがそう言うと、創真は嬉しそうだった。

1時間が経ち、車椅子で個室の病室に連れて行って貰って、ベッドに横になる。

「少し寝るから、創真も家に戻って寝て」
「わかった。少し仮眠をとってくる。ゆっくり休め、おやすみ」

わたしのおでこにキスを落とし、創真は病室から出ていった。

遥花が産まれて、創真との関係が元通りになってよかった。

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