Passing each other lover

鳴宮鶉子

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絶対に助けるから side 蓮

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国立循環器センターでの初期研修を終えた日。
薄々気づいてたが、咲花が俺が尊敬している島田部長の娘だとわかった。

島田部長が咲花の事を“加護ちゃん”と特別視し、難しいオペを執刀する際に俺を第一助手に指名し、難しい術式などを親身に教え鍛えてくれる事を不思議に思ってた。

島田部長が医局で時々色褪せた古い写真を眺めていて、その写真を初めて目にした時、俺は驚いた。
病室のベッドの上で上半身起き上がり笑顔を浮かべてる咲花そっくりの女性が写っていて、咲花の母親なのではと思ったり
かつての恋人の可能性もあるが、島田部長の咲花に対して好意が恋心とは違う親心で、咲花が島田部長の娘な気がしてならなかった。

島田部長が咲花に父親だという事を打ち明けた時に、咲花が島田部長が神の手を持つと言われあるきっかけになった12歳の複雑性心疾患の命を落としかけてた少女と知った。

俺は初期研修は島田部長がいる国立循環器センターに決めたのは、複雑性疾患の患者を救うためのオペの技術を学ぶためだった。

島田部長自ら俺の指導医をして下さり、実際に複雑性心疾患の子供のオペに立ちあい、技術の高さに感動した。

他にも誰もやりたがらない難易度が高いオペを島田部長が執刀し、全て成功させた。
その技術を俺は習得したいと思った。


咲花が普通に生活が送れてるから心臓に爆弾を持っていたなんて思わなかった。

谷間の付け根にうっすら線はあるが、胸が大きいのもあり、付け根が目に入らなくて、複雑性心疾患でオペを受けていたと気づかなかった。

咲花と一緒にいた6年間。
咲花は心臓を痛がるどころか、風邪をひく事もなく、仕事を押し付けられて多忙極まりない看護業務もこなしてた。

島田部長のオペで複雑性心疾患の患者の心臓は正常に造りかえられ、普通に生活が送れるようになる。

島田部長から教わったオペ技術を鍛えて、難病の患者を助けていきたいと思った。

咲花は医師よりも心臓の外科的治療や内科的治療について詳しい。
機械回しで立ち合ったオペの症例は1度で覚え、内科的治療も経験から治療法について何が最善かを判断し、さり気なく医師に伝える事ができる。

優秀な看護師。

咲花と一緒に心臓病で苦しむ患者の命を救っていきたい。

島田部長との食事会を終え、マンションに戻ってから、咲花にプロポーズした。

高校の時から全国1の私立名門高校に通い、全国模試常に1位で高校クイズも優秀に導き、見た目め悪くないからか、常にファンからストーカー紛いの事をされ、彼女ができると彼女に陰湿な嫌がらせをし精神的に病ませ、怪我をさせた事もあった。

だから、咲花を守るために交際を感づかれないようにした。
咲花も交際を隠したいと言ってた。

榊記念病院は咲花が小さい頃からお世話になっていた病院で、年配の看護師から可愛がられていた。
国立循環器センターみたいな看護師間のヒエラルキーはなく、僻みや妬みで咲花を傷つける人はいない。

咲花が看護大学院に通ってる間に、夫婦になり、家族なり、子供を育てながら榊記念病院で医師と看護師として働いていきたい。

咲花は俺と夫婦になる事を受け入れてくれた。
だが、咲花は子供はまだ考えられないようで、でも、咲花との子供が欲しかった俺は、避妊をせず咲花を抱いた。

咲花が子供を作る事に躊躇している理由を俺は知らなかった。

咲花が次の日、枕元に手紙を置いて、俺の前から居なくなったなった。

“私は蓮に家族を作る事ができない。だから、ごめんね。今までありがとう”

咲花が子供を産む事がどんなに危険な事か、俺は心臓外科医なのに知らなかった。
そして、先天性心臓疾患をもって産まる子は無事に産まれる事自体が奇跡的だという事もわかってなかった。

「新道くん、今から福岡に一緒にきてくれ!!」

10月の終わり。
午後の予定オペ5件を終え、独りで暮らしてるマンションに戻ろうとしたら、柳瀬部長夫婦に捕まった。

柳瀬看護部部長がスーツケースを持ってる事から、著名人の緊急オペで呼ばれ、遠方に出張すると思った。

季節の変わり目や花見シーズン、ビアガーデン、忘年会に新年会、心臓発作で患者が担ぎ込まれるからヘルプで入れるよう、2日分の服はロッカーに入れてる。

すぐに準備をし、柳瀬部長夫婦とタクシーで羽田空港へ向かい、福岡空港行きの飛行機に搭乗した。

タクシーと飛行機内で、俺はずっと探していた咲花が俺の子を妊娠していて、母子共に危険な状態と聞き、頭の中が真っ白になった。

母体心疾患と胎児心疾患に関して、何度か第2執刀医として立ち合ってる。
一命はなんとか取り止めても、母体は出血過多と心臓肥大などが起きかなり危険な状態になり、子供も母体から取り出してすぐに酸素を気管に入れ緊急カテーテル手術をしないと命が助からない。

「妊娠中は体内の血液量が増える。オペで切り縫いして正常な心臓を保ってる咲花ちゃんの心臓は縫合した箇所が伸び縮みする事ができないから、お産時に裂ける危険性がある。そして、子供の心臓も島田が1人では対処できないと頭を抱えるほど重度な複雑性心疾患があるらしい」

咲花は島田部長には居場所をすぐに伝えてた。
福岡の榊病院に転局した咲花を心配し、島田は国立循環器センターを退局し、榊病院に転局した。

「お母さんの一花ちゃんも、かなり危険な状態になった。授かった子に心臓疾患があるとわかっても妊娠を継続し、咲花ちゃんを産んだ。ハーバードにいる島田に妊娠してる事を伝えず、最期は咲花ちゃんも長く生きれないから島田を余計に悲しませる事になるからと、咲花ちゃんを産んだ事を島田に言わないで欲しいといって息を引きとった」

柳瀬部長が俺に、咲花の出生についてを語ってくれた。

「咲花ちゃんから新道に子供ができた事を言わないで欲しいと言われた。だが、赤ちゃんの第2執刀医を任せられる外科医が見つからなく、島田と話し合った結果、新道に任せる事にした。新道は島田と私が育てた優秀な心臓外科医だ。それにお互い今だに愛しあってるんだから、夫婦になって家族になり、幸せを掴め」

飛行機が福岡空港に着き、タクシーに乗って榊病院へ向かう。
咲花と、俺と咲花の間にできた子供と3人で温かい家庭を築きたい。

明日の午後に咲花の緊急オペが行われる。
榊病院の島田部長の個室で、島田部長から咲花と胎児の心臓の状態と術式についての説明を受けた。

ーー 絶対に咲花と息子の命を守る。


「……島田部長、2000g満たない乳児の身体にメスを入れるのは危険なのでは!!」

「……大丈夫だ。再生能力は乳児の方がある。だから、溶ける糸で最低限の縫合でオペをする」

心臓が大きくなる段階は縫合したところが癒着する危険性があるから、小児の間はメスは入れず、なるべくカテーテル手術で治療を行ってる。

胎児心エコーの画像を見て、カテーテル手術では命を救う事は無理だとわかる。
島田部長も苦渋の選択でこの術式にしたと思う。

胎内にいる息子の心臓は、咲花と俺の妹の先天性心疾患の両方を患い、生きている事が不思議なぐらいの重度だった。

咲花の心臓も出血過多になる事が予測できる事から、破裂の危険性を視野に入れ柳瀬部長が執刀をされる。

元々の心臓のサイズから1.3倍に肥大した心臓。
縫合した箇所が裂けそうになっていた。

10月25日 15時30分 1980gの息子が誕生した。
息子は心臓は動いていたが呼吸はしてなかった。
小さな息子を麻酔で眠らせ、人工心肺をつけ、すぐに島田部長と身体にメスを入れ、心臓の形を造りかえていく。

縫合とカテーテル手術を任され、30分でオペを終え、息子を島田部長に任せて咲花のオペのヘルプに入る。

裂けてしまった血管を繋ぎ、壁も縫合する。

人工心肺を解き、心臓が動いてほっとするも、予定よりオペが長引いた事で麻酔を多く投与したため、咲花が目覚めるか不安になる。

「……息子は大丈夫だ。咲花も大丈夫だ」

同じオペ室で咲花と息子の心臓オペを行った。
3時間もかかってしまった。
ICUに運ばれた咲花とNICUに運ばれた息子。
柳瀬部長夫婦は東京に戻るも、俺は1ヶ月間応援という形で榊病院に勤務し、オペをこなしながら時間を見つけ、咲花と息子に会いにいった。

息子は島田部長が仰っていた通り、再生能力が速い事から造りかえた心臓が正常な状態にできあがっていった。

ただ、咲花の心臓の動きが弱く、そして、5日間経っても目覚めなくて、俺も島田部長も途方にくれた。

「……一生、目覚めないのか」

ICUから循環器内科病棟の特別個室に運ばれた咲花。

手を握ると温かく生きているのはわかる。

呼吸器が取れ、自分で呼吸もできてる。

「咲花……お願い、起きて。俺と息子と3人で幸せな家庭を築こう」

咲花が植物状態になっても、俺は咲花を愛し続け、息子を島田部長と育てていく。

俺は咲花の唇に、誓いのキスを落とした。

「……蓮、なんで…いるの?私の赤ちゃんは?」

重ねるだけのキスをし、咲花から離れようとしたら、開く事がなかった咲花の瞼が開き、瞳を見開いて、俺にそう言い放つ。

「目覚めてよかった。息子は大丈夫。俺と島田部長がオペをして、経過は良好。NICUの保育器の中にいる」

咲花は目覚め、受け応えができることに感動する。

「……会いに行きたい」

緊急帝王切開をするまでの記憶がしっかりあった。
立ち上がって、歩いてNICUに行こうとする咲花の身体を押さえて止める。

「……わかった。車椅子を持ってくるからちょっと待って」

ガラスのハート状態の咲花の心臓。
絶対安静だから無理に動くと心臓が裂けてしまう危険性がある。
車椅子を持ってきて、上半身をゆっくり起こしてから車椅子に座らせ、NICUまでゆっくり歩いて連れていった。

「……島田部長。咲花を連れてきました」

息子の保育器の前に島田部長がいた。
息子は声をあげて泣けるようになってた。

「……咲花、目覚めたんだ。よかった」

咲花の肩に両手をつき、島田部長が涙を流す。
俺も堪えてた涙が溢れ出し、島田部長と2人で男泣きをした。
息子も泣いてるから3人で男泣きをし、咲花を戸惑わせた。

「……咲花、息子に名前をつけて」

名前がまだない息子。
“加護咲花ベビー”と保育器に書かれてる。

「……蓮がつけて。蓮の息子だから」

咲花が俺の方を見つめて言った。

「いいのか」

「うん」

「輝《あきら》、新道輝。咲花も加護咲花から新道咲花になって。俺に咲花と輝を守らせて」

「……私も輝も、いつ死んでもおかしくないんだよ!」

心臓に不安を抱えてる咲花は、俺と結婚する気にはなれないようだった。

「俺が咲花と輝を死なさない。かなりまずい状態だったけど、2人とも、生きてるだろ!心臓外科医として島田部長に、咲花のお父さんに鍛えて貰って、2人を守れる外科医になる。だから、俺の側にいて!!」

咲花の前に跪いて、咲花に渡そうと白衣のポケットに入れてた大小の結婚指輪が入った指輪ケースを取り出した。

ダイヤのついた婚約指輪は仕事柄着けれない。
だから結婚指輪をカルティエで購入した。

小さな指輪を取り、咲花の左手薬にはめた。
咲花も指輪ケースから片割れの指輪を取り出し、俺の左手薬指にはめてくれた。

「咲花、一緒に幸せになろう」

咲花と俺は早急に婚姻届を提出し夫婦になり、俺の子として輝の出生届をだした。

咲花の希望で、咲花は看護師に復職し、小児循環器内科に入院している輝の世話をしてる。

俺は榊記念病院から榊病院に異動し、毎日島田部長にビシビシと鍛えられてる。



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