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「……三沢、これは……」

「ーースッポンです。美蓮ちゃんが久しぶりに食べたいといったとかで、愛凛が取り寄せたんです」

「…………」

    小坂さんこと愛凛ちゃんが三沢さんと付き合ってるのに、遥翔と結婚してる事を秘密にしておくのはフェアじゃないから打ち明けた。

 それで、愛凛ちゃんがいつものメンバーで集まろうっと言い出し、私のうちで須藤さんと星谷さんも誘っておうち飲み会をする事になったんだけど、部屋に入ってきた三沢さんが持参した発泡スチロールの箱に、遥翔が苦言した。

「瀬川さん、ちゃんと捌いてきましたから。生き血も生き血とわからないよう赤ワインで割ってきました」

「ーー美蓮に飲ますなよ!!三沢、ゲテモノは持ち込むなと言っただろっ」

「すみません。楽しそう美蓮ちゃんとズームでビデオ電話していて、いつのまにか注文してまして……」

 料理上手な愛凛ちゃんはスッポンを三沢さんに託し、8時過ぎにきて一緒に料理を作ってる。
 朝イチで築地に新鮮な魚を買いにいき、すっぽんと一緒に捌いてから持ってきてくれた。

 6月の初めの初夏だけど暑い日が続くから、冷たいものが食べたいねと出雲蕎麦と冷しゃぶサラダ、新鮮な鯛と平目と帆立のお刺身とカツオのタタキとスッポン鍋をする事にした。

 “謎解きらぶバトル ”は6月15日に公開初日を迎える。
 その1週間前の金、土、日に初日舞台挨拶つきの上映が行われる事になって、全国各地を回る事になってる。

「札幌と京都に行くの楽しみだね!!」

   せっかくだから2人で観光しようと話してる。女友達とこんなに一緒にいて楽しいと思った事はなかった。

「美蓮ちゃん、今度レシピ本を出す事になったの!!美容によくてインスタ映えする美味しいメニュー作りをしてるんだけど……」

「……スッポン料理は載せない方がいい」

 遥翔が三沢くんと一緒に、私が愛凛ちゃんに変なものを食べさせられないか監視してる。
 料理をしながら、スッポンの生き血が入った赤ワインを飲んでたら顔をしかめてた。

 鯛と平目と蓮根とナスの天ぷらとスッポンの唐揚げをついでに作り、夜中まで飲んで食べてと騒ぎ楽しんだ。

「今度はたこ焼きパーティーはどう?中にタコ以外に、ツナマヨとかコンニャクとか…… タバスコ・ハバネロソース入れたロシアンルーレット!!」

「「タバスコ・ハバネロソースは辞めろ!!」」

 愛凛ちゃんといたら楽しくて、次々と創作の発想も生まれた。

 初めて、友達っていいなと思った。
 

「……思いついたんだけど、舞台挨拶ツアー、4人でなら熱愛を疑われたりしないよね?札幌前泊からの京都で宿泊して、観光しようよ!!たまにはいいでしょ!!札幌と京都での夜を楽しもうよ!!」

  初日舞台挨拶ツアーのスケジュールしおりを目に通す。
 金曜日の夜は秋葉と渋谷、土曜日は朝が札幌、昼が宮城、夜が茨城で、日曜日が朝が広島、昼が神戸と大阪、夜が京都。
  過密スケジュールを組まれていて、観光する時間なんてない。
 御当地料理は賄われる事にはなってるけれど、残念な事に仕出し弁当だった。

 「私は大丈夫。ノートパソコンがあればどこでも仕事できるし、打ち合わせや取材とかはリモートだから」

 愛凛ちゃんの提案にのる。
 札幌と京都を気心しれた人と楽しみたいと思った。
 
「札幌に前泊して本場のきりんビールとあさひビールの作りたてを呑みに行こう!!」

  ビールが大好きな遥翔はビールに釣られ、三沢さんはそのお供として、仕事の調整をして駆けつけくれる事になった。

 朝イチの飛行機の便で先に北海道へ来ていた私と愛凛ちゃんは小樽で海鮮丼を食べ、オルゴール博物館を楽しんでから札幌に。
 工場近くのビアガーデンをはしごし、遥翔と愛凛ちゃんがべろんべろんに酔ってしまい困る。

「……明日の朝の仕事、大丈夫かな?」

「早い時間に呑んだから、大丈夫だと思う。ホテルに戻ろうか……」

 私が愛凛ちゃんを三沢くんが遥翔を支え、タクシーに乗り込むと宿泊しているホテルへ向かった。

「……美蓮ちゃん、和弥と同じ部屋がいいの。部屋チェンジして!!」

「ーーさすがに、それはマズいよ。交際発覚したら困るでしょ!!」

「…………」

 ツインの部屋を2部屋とっていて、男女別々で泊まる事にしてた。
 
「……夜中の1時だよ。寝静まっていてるよ。お願い!!」

 愛凛ちゃんは面倒見がよくて優しい三沢くんに依存してるところがある。
 コロアウイルスが大流行した時期に東京に出てきて、たまたま同じマンションに住んでた三沢くんと付き合い始め、外出自粛期間2人で寄り添って過ごしてたらしい。
 モデル仲間から嫌がらせをされてつらい時とかに、三沢くんが愛凛ちゃんを支えてたらしく、愛凛ちゃんは三沢くんが側にいないと眠れないらしい。

「ーー美蓮ちゃんは瀬川さんが側にいなくても平気なの?」

「…………」

    基本的に別々に部屋で生活を送ってるから、遥翔と同じ部屋で眠る事はない。
 夫婦だけど、恋愛期間無しで結婚したからか、かなり冷めてる。
 遥翔の事を尊敬していて信頼していて、好きで愛してはいる。

「明日は自宅マンションに戻るんだから、今日は我慢して。子守唄に……“アイネスキダネ”を歌おっか」

「ーーその曲、好き!!」
 
 天真爛漫な愛凛ちゃんを宥めてなんとか寝かしつけ、私も眠りについた。

  舞台挨拶が終わったら、移動、移動、移動。
 昨日は飛行機での移動で、今日は新幹線での移動。

 無理のあるスケジュールで、移動で疲れる。

「美蓮ちゃん、お好み焼きは広島焼きと関西焼き、どっち派?」

「どっちも好きだけど、地元が金沢で関西焼きの方が食べ慣れてるかも」

  映画上映中にスタッフが用意した御当地料理を控室で分けっこする。
 札幌は海鮮丼2種類とジンギスカン丼、鮭のちゃんちゃん焼き。
 仙台は牛タンとステーキ丼に海鮮丼、笹かまぼこ。
 茨城は常陸秋そばに鰻重。
 広島は穴子飯と牡蠣飯にお好み焼き。

「私は広島焼きかな。広島によく遊びに来てた」

 スケジュール的に観光はできなくても、御当地料理にありつけられる事に感謝する。

「京都の劇場に、ご両親が来るんだっけ?」

「うん。患者さんの容態次第だからわからないけど、昨日の時点では行けそうって、母からLINEメッセージ入っててた」

「両親と食事に行かなくていいのか?」

「総合病院の循環器内科医と産婦人科医だから、京都に長居はできないよ。よく、ビデオ通話してるからわざわざ会って話す事ないから、大丈夫」

 父と母にスタッフ用のIDカードを郵送し、上映後に控室で会える手筈をとった。


「……美蓮、痩せた?コロアの流行時、ちゃんと生活が送れてるか心配だったけど、仕事はあって出版社やテレビ局や所属事務所の人も気にかけて下さってると思ってたから、何も援助しなかった」

 控室に通された母が私の姿を見て、目を見開く。
   コロア時期はかなり痩せ細ったけれど、あの時よりは確実に体重は増えてる。身長が少し伸びたけど、ガリガリではないと思う。
 医師をしている2人はコロアが収束するまで、大阪の感染症指定医療機関にヘルプで入ってた。
 それもあり、多忙だったと思う。

 大学進学で出てきた子達は仕送りもだけど、実家からお米や野菜ジュース、インスタント食品や栄養補助食品とかが送られてきていて、羨ましいなとは思った事はある。

 両親に心配させたくないのと、父から金沢に戻ってこいと言われてたから、金銭的に緊迫化してる事を悟られたくなかった。

「小説家としても脚本家としても歌手としても……活躍してる。多忙なのよね。身体を悪くしないよう気をつけて。後、もう少し太りなさい。痩せすぎは不妊症の原因になるから。22歳でまだ結婚や妊娠は考えられないかもしれないけど、痩せすぎの状態が続くと妊娠しにくなるって医学的に言われてるから」

  産婦人科医の母から、叱られた。

「……せめて、42kgないと。見た感じ38kgぐらいでしょ?」

「美蓮ちゃん、42kgないの?私……43kg。身長、私と2cmしか違わないよね?5kgも違うの!!」

  154cmで37kg。愛凛ちゃんと友達になってからは暴飲暴食してたりするから、もう少し体重はあるかもしれない。


 ****

   担当してる患者さんの事を気にし、父と母は早々に話を切り上げて帰っていった。

 22時過ぎに宿泊するホテルの最上階にあるBARのVIPルームで、飲む。

「美蓮ちゃん、しっかり食べないと!!」

  鶏肉ときゅうりのラヴィゴットソース和えに、ローストビーフサラダ 、
トマト&モッツァレラのブルスケッタ、を食べるよう、愛凛ちゃんに強制される。

「BMI15.6はマズいよ」

「愛凛ちゃんも胸とお尻の肉が無かったら、他のパーツは私と肉付きはあまり変わらないよ!!」

「ーー胸とお尻に肉がついてないのがおかしいのよ!!瀬川さんに揉んで貰ったらっ!!」

 個室だからと、愛凛ちゃんからコンプレックスの幼児体型についてあれこれ言われ、ショックを受ける。

「俺、グラマーな子よりスリムな子がタイプだから。華奢で庇護欲駆られるような……」

「ーーロリコンですかっ!!産婦人科医のお母さんに妊娠できないレベルのガリガリって言われてるんですよ!!……女性ホルモンには大豆イソフラボン。納豆生活するしかない!!毎日朝昼晩寝る前に納豆食べたら??……えっ、ときめきも大事って、夫婦になるとときめきはなくなるもんなのかなぁ……」

   ときめきを感じていた時も胸もお尻もぺったんこだった私。
 スマホのSafari検索で巨乳になる方法を検索してくれてる愛凛ちゃん。

 愛凛ちゃんは華奢でアンダーバストは65cmだけど、弾力がある見事な肉まんがついてる。HカップをGカップに押し込んでると言ってた。
 ちなみに一応……Eカップの私の胸。アンダーが細いと大きくは見えない。


「美蓮ちゃんが痩せすぎな事はいいとして、……美蓮ちゃん、瀬川さんと結婚した事を両親にも話してないの?」

「…………」

 酔い潰れた遥翔さんを家に連れ帰ったら、襲われ、責任とるかたちでプロポーズされ出会って0日婚。
 身体だけ求められてて、この関係はいつか終わると思ってたから、父と母に報告なんて、できない。

「そこなんだよな。時期的に結婚の挨拶に伺える時期じゃなかったのはわかるが、公になる事を恐れて、美蓮は両親に伝えなかった。子供もできたら報告せざるはおけないだろうと思ってたんだが、なかなかできなくて」

 不妊症に関しては、緊急避妊薬を飲んでたから。

「公にするしない関係にしで、ご両親には報告した方がいいよ」

「…………」

「テレビ電話で今、報告しよう!!」


「ーーえっ、ちょっと、待って!!お産で忙しいかもしれないから!!」

 愛凛ちゃんが私のスマホを手に取り、私の親指を使ってロックを解除し、LINEを開いて母にビデオ通話をかけた。

『もしもし、美蓮?どうしたの?』

「美蓮のお母さん、今日は遠いところから初日上映会にお越し下さりありがとうございました。あのですね、お電話で伝える事ではないのですが、ご報告があります。ーー美蓮!!」

 愛凛からスマホを返されて、困る。

『美蓮、何?電話では報告できないって、妊娠でもしてたの?』

「……妊娠はしてないけど、実は私、瀬川遥翔さんと籍入れました」

『…………』

「テレビ電話で失礼します。お父さんとお母さんから結婚の赦しを得る前に、美蓮さんと籍を入れた事、すみません」

   私のスマホを遥翔が取り、スマホの画面を見ながら、父と母に頭を下げた。
 病院からの呼び出しはなく、2人で晩酌をしていたようだった。

『ーー籍を入れる前に電話で報告して欲しかったが、結婚した事を隠さないといけないとかそういう理由があったのだろう。結婚か、めでたいな!!』

   ご機嫌な父の声。母も驚いて一瞬表情が固まったたけど、遥翔と結婚した事を喜んで大興奮してた。

『美蓮の仕事が仕事だから、結婚した事は親戚に報告しないでおくわ。美蓮、22歳だからまだ子供の事は考えられないかもしれないけど、母さん、いつか孫を抱きたいから、産婦人科で1度身体の検査を受けなさいね!!』

「……わかった。結婚の報告が遅くなってごめんね」

父と母とのLINEテレビ電話を終える。
こんなかたちで両親に遥翔との結婚報告する事になるとは思わなかった。

「結婚した事が知られると、やっぱりファンが離れちゃうのかなぁ……」

「ファンのために一生独身を貫くわけにはいかないから、いつかは結婚して子供、欲しいけど、タイミングに悩むよな」

 愛凛ちゃんの呟きに三沢くんが答える。かなりらぶらぶな2人だけど、トップモデルと若手イケメン俳優兼アーティストだから交際発覚もかなりまずい。

「極秘恋愛と極秘結婚は難しいね。バレたらその時。その時は開き直ろう」

「ーーだね」

 愛凛ちゃんと黄色カクテル コペンハーゲンが入ったグラスをカチンと合わせた。


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