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最低男からの求愛

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独身になった遥翔は毎日のように、わたしが家に帰ったら家にいて、美羽の家庭教師をしてた。
癌専門医の後期研修医は19時に仕事を終えて帰れるのか?
休憩で家に上がり込み、美羽の家庭教師をしてご飯を食べてから病院に戻ってるらしい。
毎日わたしが家に帰ったら美羽と楽しそうに勉強してる遥翔に苛立ちを感じる。
ご飯を食べたらすぐに帰るからいいけど、週末も美羽と2人で出かける。
遥翔にとって美羽が分身で可愛いのはわかる。
わたしが理解不明な算数オリンピックの問題を2人で解いて、『イェーイ!!』意味不明……。
タダで有能な家庭教師を雇ってると思って遥翔の美羽への溺愛を放置した。
夕御飯を食べたら帰るし、わたしに襲いかかるなら出入り禁止にするけど、遥翔は美羽を溺愛するだけだった。
週末に美羽と出かけてハイブランドの服を何枚も買い与えた時はわたしがかなり殺気を立てて怒ったからか反省し、わたしに許可を取り買うようになった。

仕事が多忙期に入り、美羽に寄り添えなくて、遥翔が美羽に寄り添ってくれるのはかなり助かった。

癌を初期に薬で死滅させる研究をしていて、美羽に寄り添う余裕がわたしにはなかった。

毎日23時半に自宅に戻ると遥翔がご飯を作って作り置きをして帰ってて、美羽も寝ててくれるから助かった。

遥翔は美羽を溺愛してる。
日曜日は完全休日で、美羽は毎週のように遥翔と出かける。
映画鑑賞、遊園地、遥翔の家で勉強三昧、同じ顔だからね……。

日曜日は家事をし、家事を終えたらたひたすら眠った。

美羽のお世話について、今まではわたしが一人でなんとかしないといけないと思ったけど、今は週末は遥翔が美羽を連れて行くから気ままに時間を過ごせた。

*****

「ママ、お盆休みの帰省、遥翔さんの実家に泊まっていい!!」

8月に入りいきなり美羽に言われて戸惑う。
遥翔は美羽が遥翔に瓜二つな娘だから美羽を使ってわたしを嫁にしようと企ててた。
賢くて容姿端麗な美羽は天才キッズとしてテレビでも取り上げられてた。

政略結婚した相手から捨てられた可哀想な息子が大学時代に作った瓜二つな娘が優秀で器用良しなら、遥翔の両親は寛大に受け入れてくれるだろう……。
「だめ、美羽はママとママの実家に挨拶に行かないと滅多に会えないんだから、ばあちゃんも悲しむよ」

遥翔の両親に美羽を会わせたくなくて、お盆休みのあいだは遥翔から引き離した。


お盆休みに入り、京都の実家に帰省する。
東山区にある父方の祖父母が眠る墓と伏見区にある母方の祖父が眠る墓に墓参りをし、下京区和気町にある実家に戻る。

*****
「軽い熱中症起こしたかも……」

夏の日差しはきつく、6時から9時過ぎまで炎天下の中、野外にいたからか、実家に戻って吐き気に見舞われた。

冷蔵庫からポカリスエッツの500mlのペットボトルを取り出し、少しずつ飲む。

「ちょっと部屋で休む」

ペットボトルを持って3階のわたしの部屋に入る。
エアコンをかけ、ベッドに横になる。

2ヶ月生理がきてないから悪阻かも
しれない。

2度目でまた妊娠してしまうとかわたしが子供ができやすい体質なのか、それとも遥翔の精が強力なのか、わたしと遥翔の遺伝子の相性が良いのか、薬局で購入した検査薬を試してみた。

案の定、陽性を表す2本線が出て、ため息をつく。
来年の4月に武田新薬株式会社の大阪本社の研究所に戻る予定だから、実家に戻って、1年間育休を取って、母に産まれてくる子のお世話をお願いして働こうと心に決める。

いつのまにか眠ってたわたし。
目を覚ますとわたしのおでこに手をやる遥翔がいた。

「結月が熱中症で倒れたって美羽からLINEメッセージがきて俺、医者だから診察にきた。脱水症状起こしてないし……」

遥翔がベッドデッキの上に置いてある妊娠検査薬に目をやる。

「俺と結月は相性がいいんだろうな。ここにまた俺の子が宿ったんだ」

わたしのお腹を嬉しそうに触り、遥翔は目尻を下げた。

「はっ、遥翔の子とは限らないじゃん……」

「……俺の子。結月、美羽がいるから男と付き合ってる暇ないし、お母さんがお昼を用意してくれてるから下に降りよう。歩ける?」

遥翔に手を取られ、ベッドから起き上がり1階のダイニングへ行く。

美羽と父と母がお昼ご飯に鰻重を食べてた。
わたしと遥翔の分もあり、隣り合わせに席についてから手を合わせて口の中に運ぶ。

わたしの両親は父が整形外科医、母が皮膚科医をしてる。
そして、家を出てここにはいないけど兄が2人いる。
長男は整形外科医になり、次男は遥翔と同じ癌専門外科医をしてる。

わたしの両親と楽しそうに話をしている遥翔。

わたしの両親からしたら遥翔は大学に入学して間もない娘を孕ませてシングルマザーにさせた娘を傷物にした相手だから憎い相手なはずなのに、和気藹々と馴染んでる感じがした。

「和司《かずし》と颯太《そうた》も帰ってくる。結月、お昼を食べた後、着物に着替えなさい」

母に着物に着替えるよう言われて意味がわからない。

「お義母さん、結月は妊娠して悪阻が始まってます。着物はお腹を圧迫するので楽な服装のままで大丈夫です」

「……でも、国立京都医療センターの院長と奥様が来られるのに失礼だわ」

「私の両親の事は気にしないで下さい。結納を交わして婚姻届の証人欄に名前を書いたらすぐにお暇するので」

「和司と颯太の勤め先の院長先生だから……、結月、せめてワンピースを着なさい」

母が鰻重を食べ終え、フォーマルな藍色のワンピースを出してきた。

「……遥翔、結納ってどういう事?」

父と母と美羽がリビングに行き、ダイニングに遥翔と残され、遥翔に聞く。

「結月より美羽と両親達を説得した方がいいと思って外壁を埋めさせて貰った。
美羽は俺が血縁ある父親だって気づいてたし、俺の両親も結月のご両親も中学時代から長く付き合ってた恋人同士で美羽の父親が俺だから結婚して家族になる事をすぐに認めてくれた。
結月、諦めて俺の奥さんになって!!
2人目もできた事だし、大切にするから」

14時過ぎにわたしの兄2人が帰ってきて、15時に遥翔のご両親が我が家に来て、和式の客間で略式による結納を交わし、婚姻届にサインをした。


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