もう一度、貴方と

鳴宮鶉子

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「……ようするに、吉原せれながまた脅してきたと。吉原総帥はもう歳を召していて、経営を俊政氏に任せてる。5年前に吉原せれなが行った行為に関し、瀬能薬品工業会長から吉原総帥に伝え、政略結婚で幸生会から追い出したんだがな」

吉川せれなが九州地方にある幸生会系列の総合病院を5軒潰すと言ってきた。
九州地方は他より総合病院の数が少ない。
入院治療が必要な患者が地元の総合病院で受け入れて貰えなくて、家族と離れて独り治療のために関西地方に出ている。
子供に関しては、両親と離れ離れになるのは可哀想だからと病床数オーバーでも受け入れるようにはしている。
入院治療できる病院が足りてない現状で、13軒の系列病院の内、5軒を潰すと言われ、母の実家はかなり慌てふためいてるとの事だった。

「私は吉原せれなとは結婚しません。反吐がでる。顔を見るのも嫌だ」

次期総帥の俊政氏から、湊くんにせれなと結婚するよう説得するよう言われた母。
父と一緒に湊くんに頭を下げてお願いしてた。

「湊くん、私、湊くんと結婚できない。入院治療ができる病院が足りてないのに、5軒も潰されたら、地域の人達が困る事になる」

「はっ、真凛との結婚は吉原総帥と瀬能薬品工業会長が許可して婚姻届にサインまでしてるんだぞ!!……吉原俊政、後、現瀬能薬品工業社長 航氏を失脚させればいいんだろっ。1ヶ月、いや2週間時間をくれ。根回しして、この3人を追放する。吉原グループの味方してくれてる上層部の所に行ってくる。お義父さん、お義母さん、今夜はここに宿泊して真凛の側にいて下さいませんか?お願いします」

そういうと、湊くんはスイートルームから出て行った。

「……真凛、ごめんね」

湊くんが出て行った後、かなり追い込まれていた母は、泣き崩れた。
湊くんが日本に帰国し瀬能薬品工業の研究センター長に就任し、私が病院勤務を終え戻ってきてから、吉原せれなは私の地元にある幸生会系列の総合病院に圧力をかけていった。

潰される候補の内3軒が私がボランティアで入ってた総合病院と知り、潰させたりしたくないから苦悩した。

「他の地方の親戚にも相談した。次期統帥の俊政さんは6年前に現総帥から娘のやらかした事でお咎めを受けてる。そして、その娘が嫁がせた先から離婚を言い放されて出戻ってきた。濃い血筋を重んじるから、現総帥の隠し子に次期統帥をお願いするしかないと親戚全員が話してるが、何処にいるかがわからない」

母も親戚と吉原せれなと俊政氏の横暴をどうにかできないかと話し合いを重ねていた。

「吉原現総帥は瀬能湊さんに甘い。瀬能薬品工業の会長も。もしかしたら、彼の亡くなった母親が吉原現総帥の隠し子だったのかもしれないと関東圏にいる親戚が話してた。吉原俊政氏はグループ総帥になる器ではない」

泣き崩れる母の背中をさする父。
地元国立大学で消化器内科教授をしていて、国立大学附属病院の教授が集まる医学学会で吉原俊政氏の資金着服などの問題を耳に挟み、幸生会の将来を危惧してる。

「瀬能湊さんに全てを委ねよう。真凛が大学時代に付き合っていた恋人なんだろっ、なら、頼りになる信用できる男だと思う」

多忙な両親だけど、この週末は東京にいてくれて、気晴らしを兼ねて浅草などを観光に回って過ごした。

“吉原俊政氏と瀬能航氏をどうするかについて吉原統帥と瀬能薬品工業会長と話をつけた。18時に東京駅に迎えにいくから、銀の鈴広場の前に居て”

日曜日の昼下がりに湊くんからLINEメッセージがきた。
父と母は次の日診療があるから地元に戻らないといけないから同席はできない。

父と母を東京駅の新幹線乗り場まで見送った後、銀の鈴広場に向かった。


まだぼちぼちエブウイルス感染者は出ているけれど、感染者の2割が重症化するのと重症化する体質の人に予防処置をしてるため、pandemicの状態だった都内は昔と同じ活気が戻ってる。

感染予防でマスクと眼球にもソフトコンタクトを入れて外出をしてる。
3度も感染して、エブウイルスの抗体は持ってるけれど、変異したエブウイルスだと感染してしまう。
ヨーロッパで流行しているエブウイルスは橋本病な病状がでている。
白人種と黄色人種で生まれ持った免疫遺伝子に違いがあり、それ故に白人種だと重症化してしまうという研究報告がある。
だけど、ヨーロッパで流行しているウイルスが変異型かもしれないという疑いもあり、それが日本に持ち込まれ大流行をしたらと思うと恐ろしくてならない。

17時45分の新幹線で両親は博多に向かった。
ギリギリまで私の側にいてくれた。
湊くんとの待ち合わせ場所に急ぐ。
八重洲地下中央口のそばにある銀の鈴広場。
3密状態で人が溢れてた。

夏だから涼しい室内を待ち合わせ場所にしたけれど、エブウイルス感染スポットになるのではと思ってしまった。

改札口からぞろぞろと人が出てきて、その波に押されて前になかなか進めない。

道の端へ移動し、人波が引くのを待ってた。
LINE通知の着メロが鳴り、ポシェットからiPhoneを取り出そうとしたその時、私に誰かがぶつかってきて、胸にこれまで感じた事がないぐらいの痛みを感じた。

「キャーー」

「119番と110番!!」

「通り魔だ!!あの女性を誰か拘束しろ!!」

私の左胸にカッターが刺さっていて、心臓を刺され、血が噴水のように溢れ出てた。
このままでは数分もしないうちに失血死してしまう。

「ーー真凛!!」

湊くんの声が聞こえたのが最後に、猛烈な痛みを感じる中、私は意識を失った。

ぶつかってきた人は甘いコロンの香りがし女性っぽかった。
もしかして、逆上した吉原せれなだったのかもしれない。

私が湊くんと結婚する事が赦せなくて立場を悪用して圧力をかけた事が吉原統帥にばれ、父親が次期総帥から失脚する事になり、その腹いせで私を殺害する事にした。

私はまんまと……やられてしまった。
吉原せれなは精神状態が尋常ではなかった。
だから、警戒するべきだった。

後悔しても……もう遅かった。



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