餞別を送ろう

トネリコ

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他人事だと思ってた

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 こどもができた 嬉しいな

 男の子かな 女の子かな



 ドキドキするね まだかな まだかな

 ワクワクするね まだかな まだかな



 こどもができた 嬉しいな

 将来はみんなで遊びにいこう

 お山も川も ぜんぶ楽しもう





 こどもができた そしたら言われた

 「念のため検査をしておこう」

 「男の子でも女の子でもどっちでもよくない?」

 「違うよ。その検査じゃないよ」



 いやだと思ったよ 選ぶみたいで

 こわくなったよ 知らなければただ楽しみで待てたから





 こどもができた 検査をしたよ

 だって自信があったから

 夫の不安な気持ちもわかるから

 安心させてあげようなんて

 お母さん風ふかせて 仕方ないなあと言って検査をしたよ



 結果に覚悟もないくせに





 こどもができた お医者さんは言った

 「ダウン症の可能性が極めて高いです」



 

 頭が真っ白になって 嘘だと思った

 おなかをさすったけど 昨日となにも変わらなかった



 帰ってから調べたの 育て方とか注意点

 でも探せば探すほど 安心よりも不安が募って泣きたくなった 



 「堕ろそう」



 彼は静かにそういった



 「お金が足りない」

 「私ももっと働く」

 「介護で人生が終わる」

 「でも楽しみもあるって書いてた」

 「体も心も弱いのに無理だろう」

 「ダウン症じゃない可能性もある」

 「ダウン症の可能の方が高い」

 「検査なんてしなければよかった…」

 「違う。検査したからまだ間に合ったんだ」



 酷い言い草だと怒ったが 八つ当たりだとも気付いていた



 「産みたい。障害だからと選別したら親失格だと思うから」

 「育てきれないのに産むほうが無責任で親失格だ」

 「この子を堕ろしたら次の子なら大丈夫なんてそんな筈ない。次の子なんて気持ちにならない」

 「それなら二人で過ごせばいい。それとも、離婚して一人で育てるか」

 

 ぐっと言葉に詰まる自分がいた



 一人で育てられるか その問いにすぐイエスを言えない自分がいた



 中絶可能期間は22週まで



 先延ばしにしたかった

 でも期限はすぐ目の前にあった



 夫は強固に”言ってくれた”





 だって、最後に決めるのは母体の私なのだから





 吐きそうなほどの罪悪感と今の平穏さからくる楽観的な自信と、波の様にずっと乱高下して酔いそうだった





 自分の将来と子供の未来、単純な安楽の道と困難な苦難の道

 私は天秤にかけて選別した



 









































「産むよ」

































 子供は、ダウン症ではなかった





 

 
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感想 1

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みんなの感想(1件)

荒谷創
2022.08.01 荒谷創

ダウン症の子を取り巻く状況は近年、大きく変わって来ていますね。
無責任な偏見の目を持つ者達からの心無い言葉や差別は子供本人と、産んだ母親に向かう事が多く、またそれに加えて父親が自己保身と無理解を示すと、あらゆる重圧が母親独りに掛けられてしまう事が多くなります。
その結果、母子が孤立し、不幸になる。
許されない事です。
それを避けるために中絶という道を選ばねばならない事は頭では理解できる。
しかし、自らは腹を痛めない男親と違い、その身で文字通り『命を育む』母親には酷な事なのは言うまでもありません。
検査技術の発展により出産前に可能性を知る事が出来る様になったのは、不幸を減らすと同時に不幸を生む結果になっています。
良し悪しとも言えますが、個人的な感想からすれば、生まれてくる命は、それが性暴力被害による『まったく望まれない命』であるか、『母子共に出産に耐えられない』場合を除き、健やかに産まれてくるべきと考えます。
たとえ障害と呼ばれるものを抱えていても、それもその子の個性と捉えて前向きに対処法を考えるべきと。
作品では子供がダウン症の可能性が高いという状況で、夫婦の考えは違いました。
旦那さんは奥さんと、これからの二人の人生を優先させ、奥さんはどうしても子供と一緒に歩む未来を棄てられなかった。
結果的には奥さんが正しかった訳ですが、たとえ奥さんに恨まれてもという、彼の決断もまた間違いではありません。

あとはただ、産まれてくれた子供が健やかに、そして愛情に包まれて笑顔で育っていってくれる事を祈るのみです。
このお母さんなら、心配要りませんね。
育児は大事(おおごと)なので、夫婦二人でも背負うのは大変。
周りの方に助力を乞いましょう。
特に何かをしてくれなくても、子育てしている事を理解してくれているだけでも、大きな助けとなりますからね。
(*´・ω・`)b



解除

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