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第11唱 竜王の城へ行こう
離ればなれに……
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今や人もバケモノもそろって見つめる先――遠くに見える白い光とは別の方向に、新たな光が出現していた。それも二つ。
灰色の空の下、その二つの眩い光は、上下に揺れながらどんどんこちらに近づいてくる。
「お師匠様、あれはなんでしょう」
ラピスも手をかざし背伸びしながら見ていたが、目線の高いクロヴィスが先に、「……馬?」と呟いた。
「馬だ。馬が二頭。なんでこんなところに」
「ほへっ、馬ですか?」
ちょっとでもよく見えるようピョンピョン飛び跳ねていたら、光はあっというまに、姿を認識できる距離まで接近してきた。
確かに馬だ。信じられないほど真っ白な馬。瞳だけが一頭は夕日のような赤で、もう片方は若葉色。バケモノたちはそちらにも襲いかかったが、優美な見た目と裏腹の脚力で蹴散らし、あるいは体当たりで吹っ飛ばしながら、ラピスたちのほうへと駆けてくる。その姿を見つめるうち、ラピスは気づいた。
「お師匠様っ、あのお馬さんたち、聖魔法です!」
「えっ!」とディードらが目を瞠ってこちらを見たが、師だけは嬉しそうにうなずいた。
「そうだな。聖魔法だ」
バケモノたちが呪いの権化なら、この白馬たちは聖なる力の化身。
「ど、どういうことですか!」
ジークたちは戸惑いつつも、白馬の進路を塞ごうとするバケモノたちに剣を振るう。そのおかげもあって馬たちがすぐ目の前まで至ると、ラピスはそっと両手を伸ばした。
「お馬さん、こんにちは」
鼻息荒くブルルと鳴らして、大きな顔をラピスの手にすりつけてくる。とても懐っこい。
「……ありり?」
その懐っこさが、またもラピスの直感を刺激した。
「も、もしかしてきみたち……ミロちゃんと、アロちゃん?」
赤い瞳がゆっくりひとつ、瞬く。
「げっ、マジか!」
さすがのクロヴィスも目を白黒させてまじまじと見つめ、「……マジだ」と呟くと、それを聞きつけたヘンリックが大声を上げた。
「ミロアロちゃん!? 嘘だぁ、だってこれ馬じゃん!」
ジークたちも驚愕の表情で振り向く。
ラピスも、そしておそらくクロヴィスも、初めての事態ゆえ説明に困るのだが……けれど間違いなく、あの竜たちだ。
直接事情を尋ねたいのはやまやまなのだが、竜の姿のときほど話せないらしく、もどかしげに鼻先でぐいぐいとラピスの躰を押して急かしてきた。
言葉はなくとも、何を急かしているのかは明白だった。
「お師匠様!」
「だな。結界が消えかけてるから、早くしろと言ってるんだ」
ミロアロちゃんは、馬の姿になっても竜形のときと同じように、背中に乗れと促してくる。
「でも……」
馬には、六人も乗れない。
困惑していると、大きな手にくしゃりと頭を撫でられた。
「先に行け、ラピんこ。ディードとヘンリックと三人で。――見習いとはいえ騎士と名が付くんだから、ラピんこと二人で騎乗しても問題ないだろう?」
クロヴィスの視線を受けたディードは、「もちろんです!」と即座に首肯したものの、その目には動揺が明らかだった。
「ですがグレゴワール様……」
何か言いかけたディードを手で制し、クロヴィスがラピスに微笑む。
「俺はジークたちと残ってバケモノどもを片付けるから。穢れがついていかないよう、とにかく突っ走れ。光を抜けるまで振り返るなよ」
「え。い、嫌です。お師匠様を置いては行けません!」
ラピスはぎゅうっと師の腰にしがみついた。
なのに笑いながら子猫のように持ち上げられて、あっというまに白馬の上に乗せられてしまう。
意を決したように唇を噛んだディードが、ひらりとラピスのうしろに騎乗すると、ヘンリックもあわててもう一頭に跨った。
「嫌ですお師匠様! 一緒にっ」
「卿! あなたも行ってください、ここは俺たちで引き受けます!」
ジークが叫ぶ。
クロヴィスは一瞬目を瞠り、すぐに苦笑して肩をすくめた。
「バケモノは際限なく湧いてくるのに、お前らだけ置いて行けるわけねえだろうが」
「こういうときのために我らはいるのです! お忘れですか、俺は最初にあなたに誓いました、『命を懸けてお守りいたします』と!」
銀の髪が風に煽られ、紅玉の瞳がまっすぐに騎士団長を見つめる。
常に冷静だった騎士団長の青い瞳が、今は狼のごとく獰猛な色を浮かべていた。
ギュンターは相変わらず飄々と、「そうですよ、グレゴワール様」と笑った。
「行ってください。そして俺たちが力尽きる前に、サクッと世界を救ってきてください」
「無茶言うな」
クロヴィスが小さく吹き出した。
「ありがとよ」と白い歯を見せて笑う。
「なら、責任もって目の届くところで守れや」
言うなり、ハラハラと成り行きを見ていたラピスが乗る馬の尻を軽く叩いた。
「よし行け、頼むぞミロアロ!」
ミロちゃんが高くいななく。
「お師匠様ー!」
「卿!?」
ラピスは飛ぶように加速する馬に揺さぶられながらディードの腕につかまり、遠ざかる師匠の声を聞くことしかできなかった。
「大丈夫だから心配すんなーっ!」
灰色の空の下、その二つの眩い光は、上下に揺れながらどんどんこちらに近づいてくる。
「お師匠様、あれはなんでしょう」
ラピスも手をかざし背伸びしながら見ていたが、目線の高いクロヴィスが先に、「……馬?」と呟いた。
「馬だ。馬が二頭。なんでこんなところに」
「ほへっ、馬ですか?」
ちょっとでもよく見えるようピョンピョン飛び跳ねていたら、光はあっというまに、姿を認識できる距離まで接近してきた。
確かに馬だ。信じられないほど真っ白な馬。瞳だけが一頭は夕日のような赤で、もう片方は若葉色。バケモノたちはそちらにも襲いかかったが、優美な見た目と裏腹の脚力で蹴散らし、あるいは体当たりで吹っ飛ばしながら、ラピスたちのほうへと駆けてくる。その姿を見つめるうち、ラピスは気づいた。
「お師匠様っ、あのお馬さんたち、聖魔法です!」
「えっ!」とディードらが目を瞠ってこちらを見たが、師だけは嬉しそうにうなずいた。
「そうだな。聖魔法だ」
バケモノたちが呪いの権化なら、この白馬たちは聖なる力の化身。
「ど、どういうことですか!」
ジークたちは戸惑いつつも、白馬の進路を塞ごうとするバケモノたちに剣を振るう。そのおかげもあって馬たちがすぐ目の前まで至ると、ラピスはそっと両手を伸ばした。
「お馬さん、こんにちは」
鼻息荒くブルルと鳴らして、大きな顔をラピスの手にすりつけてくる。とても懐っこい。
「……ありり?」
その懐っこさが、またもラピスの直感を刺激した。
「も、もしかしてきみたち……ミロちゃんと、アロちゃん?」
赤い瞳がゆっくりひとつ、瞬く。
「げっ、マジか!」
さすがのクロヴィスも目を白黒させてまじまじと見つめ、「……マジだ」と呟くと、それを聞きつけたヘンリックが大声を上げた。
「ミロアロちゃん!? 嘘だぁ、だってこれ馬じゃん!」
ジークたちも驚愕の表情で振り向く。
ラピスも、そしておそらくクロヴィスも、初めての事態ゆえ説明に困るのだが……けれど間違いなく、あの竜たちだ。
直接事情を尋ねたいのはやまやまなのだが、竜の姿のときほど話せないらしく、もどかしげに鼻先でぐいぐいとラピスの躰を押して急かしてきた。
言葉はなくとも、何を急かしているのかは明白だった。
「お師匠様!」
「だな。結界が消えかけてるから、早くしろと言ってるんだ」
ミロアロちゃんは、馬の姿になっても竜形のときと同じように、背中に乗れと促してくる。
「でも……」
馬には、六人も乗れない。
困惑していると、大きな手にくしゃりと頭を撫でられた。
「先に行け、ラピんこ。ディードとヘンリックと三人で。――見習いとはいえ騎士と名が付くんだから、ラピんこと二人で騎乗しても問題ないだろう?」
クロヴィスの視線を受けたディードは、「もちろんです!」と即座に首肯したものの、その目には動揺が明らかだった。
「ですがグレゴワール様……」
何か言いかけたディードを手で制し、クロヴィスがラピスに微笑む。
「俺はジークたちと残ってバケモノどもを片付けるから。穢れがついていかないよう、とにかく突っ走れ。光を抜けるまで振り返るなよ」
「え。い、嫌です。お師匠様を置いては行けません!」
ラピスはぎゅうっと師の腰にしがみついた。
なのに笑いながら子猫のように持ち上げられて、あっというまに白馬の上に乗せられてしまう。
意を決したように唇を噛んだディードが、ひらりとラピスのうしろに騎乗すると、ヘンリックもあわててもう一頭に跨った。
「嫌ですお師匠様! 一緒にっ」
「卿! あなたも行ってください、ここは俺たちで引き受けます!」
ジークが叫ぶ。
クロヴィスは一瞬目を瞠り、すぐに苦笑して肩をすくめた。
「バケモノは際限なく湧いてくるのに、お前らだけ置いて行けるわけねえだろうが」
「こういうときのために我らはいるのです! お忘れですか、俺は最初にあなたに誓いました、『命を懸けてお守りいたします』と!」
銀の髪が風に煽られ、紅玉の瞳がまっすぐに騎士団長を見つめる。
常に冷静だった騎士団長の青い瞳が、今は狼のごとく獰猛な色を浮かべていた。
ギュンターは相変わらず飄々と、「そうですよ、グレゴワール様」と笑った。
「行ってください。そして俺たちが力尽きる前に、サクッと世界を救ってきてください」
「無茶言うな」
クロヴィスが小さく吹き出した。
「ありがとよ」と白い歯を見せて笑う。
「なら、責任もって目の届くところで守れや」
言うなり、ハラハラと成り行きを見ていたラピスが乗る馬の尻を軽く叩いた。
「よし行け、頼むぞミロアロ!」
ミロちゃんが高くいななく。
「お師匠様ー!」
「卿!?」
ラピスは飛ぶように加速する馬に揺さぶられながらディードの腕につかまり、遠ざかる師匠の声を聞くことしかできなかった。
「大丈夫だから心配すんなーっ!」
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