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第11唱 竜王の城へ行こう
雪の中にて
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ずっと一緒に過ごすことで、家庭事情を打ち明け合うのも旅の醍醐味なのかもしれない。
この旅は非日常だけれど、友達と勉強やお喋りをするという普通のことでも、かつてのラピスには夢の世界のことだったから、とても嬉しく思った。
しかし――ラピスも北の地域を旅して実感したことだが、 雪を漕ぎ分けながら歩くというのは非常に体力を消耗する。
と言ってもラピスがヘトヘトになるまでその苦労を味わう前に、ジークに抱えられることが殆どだったが。
とはいえ、できる限り自分の足で歩きもしているし、結晶の繊細な模様を手袋の上で鑑賞できるほどの厳寒なのに、動き回れば汗をかくのだなということも体験した。それでいて、手のひらを頬に当てると、氷みたいに冷たい。
つまり、今。
クロヴィスが魔法で、背丈より高い積雪の中にしっかりと固められた雪道をつくりつつ、皆が汗で躰を冷やさないよう調節した『あったか服魔法』と『ひんやり服魔法』をかけたりしているのは、ものすごく繊細で高度な技なのだと、つくづくわかる。
(勉強になるなぁ)
はふはふと白い息を吐きながら尊敬していると、ジークがちらりとこちらを振り返って、最後尾のギュンターまで聞こえる声で「休憩にしよう」と宣言した。
途端、「「「はぁぁぁぁぁ」」」とその場にへたり込んでしまったラピスら少年三人とは対照的に、ジークとギュンターはてきぱきと荷物をおろし、躰の凝りをほぐしてから、軽食の準備などを始めた。
行軍の際の装備品や荷物の重量は、ラピスの体重の三倍になることも珍しくないとジークから教わっている。軽々とラピスを抱き上げるわけだ。
手早く雪壁を風除けに利用して天幕を張り、防水の油紙と毛布を重ねた上に座らせてくれる手際も慣れたもので、頼りになる格好良さにほれぼれしてしまった。
「第三騎士団の団長さんと副団長さんがいてくれたら、どこに行っても安心だね!」
例によって三人で身を寄せ合った真ん中から、ラピスは両隣を見た。
が、「うん、そうだな!」と答えたのはヘンリックだけで、ディードは「兄上は城にいてくれたほうが、よほど安心だよ」と不満そうだ。
「子供もいるくせに、出歩いてばかりいる」
「そうは言っても公務なら仕方ないし、城にいたってチビッ子らの世話をするのは結局乳母たちなんだから、問題ないだろ」
王太子を庇うヘンリックを、ディードは「巡礼は兄上の公務じゃないのに参加してるじゃないか!」とラピス越しに睨みつけ、ため息をこぼした。
「あの子らが、父親から愛されてないと思わないか、心配だよ」
確かにラピスも母亡きあと、父が留守がちで寂しい思いをした。ディードが案じるのもわかる。
けれど父がどれほど悲しみ、打ちひしがれていたかも、ちゃんとわかっていた。
だから、いつも飄々として見えるギュンターにもきっと、見えない傷があるのだと思う。
みんな本当は、心のどこかが痛い。
(お師匠様は、昔ご家族とつらいことがあったみたいだし。ジークさんはいつだって忍耐強いから、きっと荷物も苦労も人よりたくさん抱え込んじゃう。ディードは王子様としての生き方に不安そうだし、ヘンリックは……ヘンリックは……ヘンリックなりに、きっと)
笑っているから、傷ついていないとは限らない。
つらいと言えないからこその笑顔もある。
だからみんな、今の自分にできることを持ち寄って、支え合う。
――そんなことを、真っ白な世界で大好きな人たちと一緒に、深々と降る雪を見ながら考えていると……心がしみじみと平らかになって、ラピスの小さな胸は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「僕、みんなと出会えてよかったなぁって、心から思うよ」
嬉しい気持ちをそのまま伝える。
が、なぜか二人の友はギョッとした様子で、ラピスの顔を覗き込んできた。
「ど、どうしたんだ、いきなり!」
「ラピス! そんな安らいだ笑顔で言われたら、死亡フラグみたいじゃん!」
「ほへっ? 脂肪クラゲ?」
予想外の大騒ぎになった。
その間にクロヴィスが、「大魔法使い特製道具」と言いながら出してきた、異様によく燃える松ぼっくりや白樺の皮などで火を熾していて、ジークとギュンターが茶を淹れてくれた。
そこへまたもクロヴィスが「さらに、大魔法使い特製アメちゃん」と、皆の器に固形の蜂蜜を落としていく。
みるみる溶けた蜂蜜の、優しい甘味がのどを通り過ぎると、疲れ切った躰の隅々まで滋養がしみわたるのがわかった。お茶の温かさと相俟って、癒し効果満点だ。
「美味しい……」
甘いもの好きのディードが、うっとりと微笑んだ。
この旅は非日常だけれど、友達と勉強やお喋りをするという普通のことでも、かつてのラピスには夢の世界のことだったから、とても嬉しく思った。
しかし――ラピスも北の地域を旅して実感したことだが、 雪を漕ぎ分けながら歩くというのは非常に体力を消耗する。
と言ってもラピスがヘトヘトになるまでその苦労を味わう前に、ジークに抱えられることが殆どだったが。
とはいえ、できる限り自分の足で歩きもしているし、結晶の繊細な模様を手袋の上で鑑賞できるほどの厳寒なのに、動き回れば汗をかくのだなということも体験した。それでいて、手のひらを頬に当てると、氷みたいに冷たい。
つまり、今。
クロヴィスが魔法で、背丈より高い積雪の中にしっかりと固められた雪道をつくりつつ、皆が汗で躰を冷やさないよう調節した『あったか服魔法』と『ひんやり服魔法』をかけたりしているのは、ものすごく繊細で高度な技なのだと、つくづくわかる。
(勉強になるなぁ)
はふはふと白い息を吐きながら尊敬していると、ジークがちらりとこちらを振り返って、最後尾のギュンターまで聞こえる声で「休憩にしよう」と宣言した。
途端、「「「はぁぁぁぁぁ」」」とその場にへたり込んでしまったラピスら少年三人とは対照的に、ジークとギュンターはてきぱきと荷物をおろし、躰の凝りをほぐしてから、軽食の準備などを始めた。
行軍の際の装備品や荷物の重量は、ラピスの体重の三倍になることも珍しくないとジークから教わっている。軽々とラピスを抱き上げるわけだ。
手早く雪壁を風除けに利用して天幕を張り、防水の油紙と毛布を重ねた上に座らせてくれる手際も慣れたもので、頼りになる格好良さにほれぼれしてしまった。
「第三騎士団の団長さんと副団長さんがいてくれたら、どこに行っても安心だね!」
例によって三人で身を寄せ合った真ん中から、ラピスは両隣を見た。
が、「うん、そうだな!」と答えたのはヘンリックだけで、ディードは「兄上は城にいてくれたほうが、よほど安心だよ」と不満そうだ。
「子供もいるくせに、出歩いてばかりいる」
「そうは言っても公務なら仕方ないし、城にいたってチビッ子らの世話をするのは結局乳母たちなんだから、問題ないだろ」
王太子を庇うヘンリックを、ディードは「巡礼は兄上の公務じゃないのに参加してるじゃないか!」とラピス越しに睨みつけ、ため息をこぼした。
「あの子らが、父親から愛されてないと思わないか、心配だよ」
確かにラピスも母亡きあと、父が留守がちで寂しい思いをした。ディードが案じるのもわかる。
けれど父がどれほど悲しみ、打ちひしがれていたかも、ちゃんとわかっていた。
だから、いつも飄々として見えるギュンターにもきっと、見えない傷があるのだと思う。
みんな本当は、心のどこかが痛い。
(お師匠様は、昔ご家族とつらいことがあったみたいだし。ジークさんはいつだって忍耐強いから、きっと荷物も苦労も人よりたくさん抱え込んじゃう。ディードは王子様としての生き方に不安そうだし、ヘンリックは……ヘンリックは……ヘンリックなりに、きっと)
笑っているから、傷ついていないとは限らない。
つらいと言えないからこその笑顔もある。
だからみんな、今の自分にできることを持ち寄って、支え合う。
――そんなことを、真っ白な世界で大好きな人たちと一緒に、深々と降る雪を見ながら考えていると……心がしみじみと平らかになって、ラピスの小さな胸は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「僕、みんなと出会えてよかったなぁって、心から思うよ」
嬉しい気持ちをそのまま伝える。
が、なぜか二人の友はギョッとした様子で、ラピスの顔を覗き込んできた。
「ど、どうしたんだ、いきなり!」
「ラピス! そんな安らいだ笑顔で言われたら、死亡フラグみたいじゃん!」
「ほへっ? 脂肪クラゲ?」
予想外の大騒ぎになった。
その間にクロヴィスが、「大魔法使い特製道具」と言いながら出してきた、異様によく燃える松ぼっくりや白樺の皮などで火を熾していて、ジークとギュンターが茶を淹れてくれた。
そこへまたもクロヴィスが「さらに、大魔法使い特製アメちゃん」と、皆の器に固形の蜂蜜を落としていく。
みるみる溶けた蜂蜜の、優しい甘味がのどを通り過ぎると、疲れ切った躰の隅々まで滋養がしみわたるのがわかった。お茶の温かさと相俟って、癒し効果満点だ。
「美味しい……」
甘いもの好きのディードが、うっとりと微笑んだ。
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