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第11唱 竜王の城へ行こう
二つ目の結界
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景色が見えるようになったことで、俄然ラピスのテンションは上がった。
ミロちゃんが雪雲に突っ込んでも、『雲』だとちゃんと認識できるから安心で、「おおお~!」と歓声を上げると、誇らしげに「キュイッ」と声が返ってきた。
そしてまたすぐ雲の外に飛び出すや、空を突き刺す連峰が視界に飛び込んでくる。
「すごいっ! すごいですね、ね、お師匠様っ!」
「ああ、すごいな」
クロヴィスもさすがに興奮するのか、紅玉の瞳が熱っぽく煌めいている。
「すごい! お師匠様の瞳もますます綺麗です~!」
「せっかくの大眺望なのに、そんなちっこいものに注目しなくていいから。それよりほれ、ガキんちょどもを、ちゃんと座らせてやれ」
「ガキんちゃんと?」
そこで初めてラピスは、ディードとヘンリックの様子がおかしいことに気がついた。
二人とも視点が定まらず、一応立ってはいるが、ふらふらと危なっかしい。ミロちゃんの結界がなければ本当に転げ落ちているところだ。
「どうしたのかな……? ごめんね、すぐ気づかなくて」
よいしょ、よいしょと、自分より背の高い二人をどうにか座らせる。
ぼんやりしている顔に話しかけると、「大丈夫……」と答えが返ったが、声も小さく頼りない。
「お師匠様、二人はどうしちゃったのでしょう。なんだか竜酔いのときみたいです」
「たぶん、似たようなもんだろう。古竜たちが竜王を抑え込むために張った渾身の結界の、その内側に入ったんだから。招いてくれた以上、人も通れる程度に調整してくれてるんだろうが、竜氣をためてない奴は順応に時間がかかるんだろうな」
「そ、そうなのですか……」
竜酔いならば心配はないだろうけれど……ジークたちは大丈夫だろうか。あちらには魔法使いが乗っていない。
背伸びしてアロちゃんの背中に目を凝らすと、やはりギュンターを座らせようとするジークが見えた。
ギュンターも「大丈夫」というように手を振ったが、ジークに膝裏を蹴られてカックンと頽れている。……幼なじみというだけあって、王太子相手でも扱いに遠慮がない。
「ジークさんは最初から、あまり竜酔いしていなかったみたいですよね。さすがです! ああいう方もいるんですね」
「たまにな。気合いで乗り切る奴もいる。そのくらいじゃなきゃ、ラピんこを任せなかったさ」
(お師匠様も、ジークさんを信頼しているんだなぁ)
大好きな人たちが信頼し合っているのを見るのは、心がぽかぽかする。
内心でほっこり喜んでいると、アロちゃんが『彼らも大丈夫だから安心して』と歌で伝えてくれた。
するとミロちゃんも、『そう、結局だいじょうぶ』と楽しそうに歌を返す。
『進んでみれば なんとかなる』
『進んでみれば 景色は変わる』
二頭の歌い合いが、きらきらと輝く雪を連れてくる。
結晶のひとひらひとひらが宝石みたいに輝いて、ラピスたちの周囲をふわふわ踊りながら飛び交った。
「きれーい! すごい、すごい!」
大きな笑い声を上げながら、ラピスも歌い合いに加わった。
『だいすき だいすき だいじょうぶ』
ノリで言葉をつなげて歌ってみると、クロヴィスも参加してきた。
『ラピんこ ほっぺは もっちもち』
「へんな歌です~」
お腹を抱えて笑っていたら、“酔い”がさめたらしきディードとヘンリックが、ようやく景色が変わったことに気づき驚きの声を上げた。
灰色の雲の隙間から、やわらかな陽射しがドレープのように差し込んで、連峰やラピスたちを照らし出す。
ダイヤモンドみたいに煌めく雪の花がくるくると竜たちを取り巻く光景に、みんなでうっとり見惚れていると、ミロちゃんが『ギュウッ!』と鳴いた。
「次の結界に入るって!」
ディードとヘンリックに通訳した途端、二人はグッと顔を引き締め、肩肘張って足を踏ん張った。
「座っておくほうが安全だよ?」
「「いや、今度こそ酔わずに突破してみせる!」」
息ぴったりに答えた乳兄弟には、『竜酔いを克服する』という新たな目標ができてしまったらしい。「ジークさんは気合いで酔いを乗り切っているんだって」とラピスが話したものだから、「「なら自分たちも」」と、負けん気を漲らせているのだ。
師の隣に戻るか二人を見守るべきか迷っているあいだに、再びシュンと風を切る音がして、違うどこかへ入ったのがわかった。
雲の中に突っ込んだかたちなので、景色は見えない。けれどいきなり真夏の温室に入ったみたいに、しっとりと熱い空気と、濃厚な花々の香りにつつまれた。
「暑ーい」
汗をにじませディードたちを見れば、二人とも、遠くを見る目でふらついている。
やはり酔ってしまったようだ。
「次は克服できるかもしれないよね」
話しかけても反応がないので、慎重に二人を座らせてからアロちゃんのほうも確認すると、ギュンターは今回は、多少よろめいているもののちゃんと会話ができている様子。
(さすが副団長)
しかしジークはまたしても膝裏に蹴りを入れ、カックンとさせている。
座っているほうが安全と判断したのだろう。
ギュンターは抗議しているようだが、ジークは腕を組んであらぬほうを見ていた。
(仲良しさんだな~)
ふふっと笑いながら、ミロちゃんの首の辺りに立つクロヴィスの隣に行き、長い指と手をつなぐ。
優しい笑顔に見下ろされてニコニコしていると、雲がパカリと割れた。
ミロちゃんが雪雲に突っ込んでも、『雲』だとちゃんと認識できるから安心で、「おおお~!」と歓声を上げると、誇らしげに「キュイッ」と声が返ってきた。
そしてまたすぐ雲の外に飛び出すや、空を突き刺す連峰が視界に飛び込んでくる。
「すごいっ! すごいですね、ね、お師匠様っ!」
「ああ、すごいな」
クロヴィスもさすがに興奮するのか、紅玉の瞳が熱っぽく煌めいている。
「すごい! お師匠様の瞳もますます綺麗です~!」
「せっかくの大眺望なのに、そんなちっこいものに注目しなくていいから。それよりほれ、ガキんちょどもを、ちゃんと座らせてやれ」
「ガキんちゃんと?」
そこで初めてラピスは、ディードとヘンリックの様子がおかしいことに気がついた。
二人とも視点が定まらず、一応立ってはいるが、ふらふらと危なっかしい。ミロちゃんの結界がなければ本当に転げ落ちているところだ。
「どうしたのかな……? ごめんね、すぐ気づかなくて」
よいしょ、よいしょと、自分より背の高い二人をどうにか座らせる。
ぼんやりしている顔に話しかけると、「大丈夫……」と答えが返ったが、声も小さく頼りない。
「お師匠様、二人はどうしちゃったのでしょう。なんだか竜酔いのときみたいです」
「たぶん、似たようなもんだろう。古竜たちが竜王を抑え込むために張った渾身の結界の、その内側に入ったんだから。招いてくれた以上、人も通れる程度に調整してくれてるんだろうが、竜氣をためてない奴は順応に時間がかかるんだろうな」
「そ、そうなのですか……」
竜酔いならば心配はないだろうけれど……ジークたちは大丈夫だろうか。あちらには魔法使いが乗っていない。
背伸びしてアロちゃんの背中に目を凝らすと、やはりギュンターを座らせようとするジークが見えた。
ギュンターも「大丈夫」というように手を振ったが、ジークに膝裏を蹴られてカックンと頽れている。……幼なじみというだけあって、王太子相手でも扱いに遠慮がない。
「ジークさんは最初から、あまり竜酔いしていなかったみたいですよね。さすがです! ああいう方もいるんですね」
「たまにな。気合いで乗り切る奴もいる。そのくらいじゃなきゃ、ラピんこを任せなかったさ」
(お師匠様も、ジークさんを信頼しているんだなぁ)
大好きな人たちが信頼し合っているのを見るのは、心がぽかぽかする。
内心でほっこり喜んでいると、アロちゃんが『彼らも大丈夫だから安心して』と歌で伝えてくれた。
するとミロちゃんも、『そう、結局だいじょうぶ』と楽しそうに歌を返す。
『進んでみれば なんとかなる』
『進んでみれば 景色は変わる』
二頭の歌い合いが、きらきらと輝く雪を連れてくる。
結晶のひとひらひとひらが宝石みたいに輝いて、ラピスたちの周囲をふわふわ踊りながら飛び交った。
「きれーい! すごい、すごい!」
大きな笑い声を上げながら、ラピスも歌い合いに加わった。
『だいすき だいすき だいじょうぶ』
ノリで言葉をつなげて歌ってみると、クロヴィスも参加してきた。
『ラピんこ ほっぺは もっちもち』
「へんな歌です~」
お腹を抱えて笑っていたら、“酔い”がさめたらしきディードとヘンリックが、ようやく景色が変わったことに気づき驚きの声を上げた。
灰色の雲の隙間から、やわらかな陽射しがドレープのように差し込んで、連峰やラピスたちを照らし出す。
ダイヤモンドみたいに煌めく雪の花がくるくると竜たちを取り巻く光景に、みんなでうっとり見惚れていると、ミロちゃんが『ギュウッ!』と鳴いた。
「次の結界に入るって!」
ディードとヘンリックに通訳した途端、二人はグッと顔を引き締め、肩肘張って足を踏ん張った。
「座っておくほうが安全だよ?」
「「いや、今度こそ酔わずに突破してみせる!」」
息ぴったりに答えた乳兄弟には、『竜酔いを克服する』という新たな目標ができてしまったらしい。「ジークさんは気合いで酔いを乗り切っているんだって」とラピスが話したものだから、「「なら自分たちも」」と、負けん気を漲らせているのだ。
師の隣に戻るか二人を見守るべきか迷っているあいだに、再びシュンと風を切る音がして、違うどこかへ入ったのがわかった。
雲の中に突っ込んだかたちなので、景色は見えない。けれどいきなり真夏の温室に入ったみたいに、しっとりと熱い空気と、濃厚な花々の香りにつつまれた。
「暑ーい」
汗をにじませディードたちを見れば、二人とも、遠くを見る目でふらついている。
やはり酔ってしまったようだ。
「次は克服できるかもしれないよね」
話しかけても反応がないので、慎重に二人を座らせてからアロちゃんのほうも確認すると、ギュンターは今回は、多少よろめいているもののちゃんと会話ができている様子。
(さすが副団長)
しかしジークはまたしても膝裏に蹴りを入れ、カックンとさせている。
座っているほうが安全と判断したのだろう。
ギュンターは抗議しているようだが、ジークは腕を組んであらぬほうを見ていた。
(仲良しさんだな~)
ふふっと笑いながら、ミロちゃんの首の辺りに立つクロヴィスの隣に行き、長い指と手をつなぐ。
優しい笑顔に見下ろされてニコニコしていると、雲がパカリと割れた。
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