ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
上 下
188 / 228
第10唱 王都へ行こう

ディードの母とヘンリックの母

しおりを挟む
 ミロちゃんたちと歌い踊り、国王の宣布に立ち会って、さて祈祷の間に戻ろうとしたラピスだったが、「あ、母さんだ」と言うヘンリックの声に振り返った。
 露台から大広場に向かって手を振る彼の横に立つと、遠くに同じく手を振り返す女性たちがいる。

 ひとりは、ひとつに結った金髪を胸に垂らした、褐色の肌の女性。
 その隣に、恰幅がよく、薄焼きのパンを何枚も載せた大皿を高々と掲げて笑う、いかにも人のよさそうな女性。
 二人の後方にすらりと長身の若い女性もいるが、日射しを避けて汗を拭き拭き建物の陰に隠れようとしているところだった。
 ヘンリックが指差しながら教えてくれる。

「あれ、ぼくの母さん。一緒にいるのが王妃様と王女様だよ」
「おお、ヘンリックの母様!」

 ラピスが「そしてディードの母様……」と言いながら控えめに手を振る金髪の女性に目を向けると、背後に立ったディードが、「パン持ってるほうが俺の母上だから」と、ラピスの勘違いを見越したように言った。

「おおぉ」
 
 びっくりして変な感心の仕方をしてしまった。
 確かに、褐色の肌と金髪はそのままヘンリックと一緒だし、普段ならすぐにそちらの女性がヘンリックの母だと考えたはずなのだが。
 優雅で繊細そうな国王と会ったばかりなので、まさかその妻が、厨房で働く者と同じ身なりで大皿に大量のパンを乗せて軽々掲げ、大声で「日射しで焼けた石でパンを焼いたのよ!」と身振り手振り付きで報告してくるタイプとは思わなかった。
 しかし言われて見れば、ディードたち兄弟と似て……いるかどうかも露台からではよくわからないけれども、想像通りすごく優しそうな女性だ。

「あっちの、日陰に避難してるのが姉上。グレゴワール様に突撃して怒らせたり、団長と婚約してる説を流して迷惑かけたりした人」

 自分が弟に指差されていることに気づいたのか、王女は遠目にもわかる白い歯を見せて笑いながら、ラピスに向かって綺麗にお辞儀をしてきた。
 彼女も王妃と似たような服装だが、ドレスを着ているみたいに華やかに見える。

 ラピスも丁寧なお辞儀を返すと、王妃と王女と周囲の者たちから「キャーッ! きゃわいぃぃ!」「天使か!」「お人形よっ!」と元気な声が上がった。
 ディードが嫌そうに顔をしかめる。

「うるさい……」
「王妃様も王女様も、ヘンリックの母様も、みんなすっごく優しそうだね! 僕、王妃様がそこらの石でパンを焼けるなんて思わなかった。さすがディードの母様だよ~」
「うちの母上は、特殊だから」

 苦笑するディードに、ヘンリックも「最高に特殊」と同意し笑っているが、そこには敬愛の念が溢れている。
 この国王一家の、大らかで庶民的な家庭環境が、今の親切で心根のまっすぐなディードたちをかたちづくってくれたのだろう。だからラピスは、王妃たちのこともたちまち大好きになってしまった。

「母上は子供の頃に、グレゴワール様と知り合っていたらしいよ」
「えっ、そうなの!?」
「うん。母上は早々に父上の婚約者として内定していたから、城に連れられてくる機会が何度もあって。あるガーデンパーティーのとき、どうしても高い場所にあるケーキが食べたかったんだけど届かなくて、必死に手を伸ばしてたら、グレゴワール様が」
「お師匠様がとってあげたの?」
「いや。とってくれると思いきや、見せびらかしながら自分でバクッと食べちゃったんだって」

 ヘンリックがブフッ! と噴き出した。ディードも「でも」と笑いながら続ける。

「そのあと、お皿に山盛りで全種類のお菓子をとってくれたらしいよ。その件をまだ王子だった父上に話したらすごく羨ましがられて、以来、それまで親しく話せなかった父上と打ち解けて接することができるようになったから、『クロヴィス卿はわたくしたち夫婦の愛の架け橋』って言ってた」

 ものすごくクロヴィスらしいエピソードに、ラピスは嬉しくなって笑ってしまった。おかげでますますやる気が漲る。

「よーし、頑張るぞ~!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

亡国の少年は平凡に暮らしたい

くー
ファンタジー
平凡を目指す非凡な少年のスローライフ、時々バトルなファンタジー。 過去を隠したい少年ロムは、目立たないように生きてきました。 そんな彼が出会ったのは、記憶を失った魔法使いの少女と、白い使い魔でした。 ロムは夢を見つけ、少女は画家を目指し、使い魔は最愛の人を捜します。 この世界では、不便で、悲しくて、希少な魔法使い。 魔法と、魔法使いと、世界の秘密を知った時。3人が選択する未来は――

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...