ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
上 下
180 / 228
第10唱 王都へ行こう

歌って踊れるラピス 1

しおりを挟む
 一方、その頃。
 クロヴィスからの指示を受け大神殿に残っていたラピスは、師の出発からいくらも経たぬうちに、祈祷の間を飛び出し――
 歌い踊っていた。

「フンフン、ジャ~ン♪ どう? どうかな?」
「ギャウ、ギャギャギャ!」
「上手? わぁい、ありがとう! じゃあミロちゃんとアロちゃんもご一緒に! さん、はい!」

 二頭の竜と合唱しながら踊るラピスを、瞳を輝かせて見つめるディードと、「あっははは、すごい、すごいよ!」と興奮を隠せず大笑いするヘンリック。
 そしてそんな三人が立つ露台を見上げ、あんぐりと口をひらいて、この不思議な光景に見入る祭司や神殿関係者たち、それに火災や水不足から逃れてきた大勢の王都の民たち。

 なぜ、こんな奇天烈きてれつな状況になったのか。
 それは今から少し前。ラピスのところへ、ミロちゃんとアロちゃんがやってきたことから始まった。


☆ ☆ ☆


 広大な大神殿は内部が迷路のように入り組んでいるが、外観は大雑把に言えば大広場を囲むコの字型の建物で、主殿、東殿、西殿に分けられる。
 そのうち大広場と西殿は現在、避難所として開放されていた。

 ラピスがいたのは、中央に位置する主殿の中でも最も奥まった祈祷の間だ。
 主殿の背後は城から続く王領の森ばかりなので、外の喧騒も届かない。
 ゾンネや警護の騎士たちは気を遣って出入口の外からラピスを見守っていたから、森閑とした広い空間の中でひとり跪き、竜たちの像に見下ろされながら、師の魔法の成功を祈るラピスの邪魔をするものはなかった。だから……

 「よいしょーっ! となったら、じわじわドーンする」

 何度も手順を確認し、を逃さず感知できるよう、集中していたのだが。
 そこへディードやヘンリックや祭司たちが、大あわてでやってきた。

「ラピスラピス! 竜たちが移動してる、ミロちゃんたちがこっちにくるよ!」
「ほえっ?」

 二頭の竜は、ラピスらを王城まで送り届けると、役目は果たしたとばかり、広大な森の入り口で眠り込んでいた。
 大勢の人間を乗せた上、騎乗者たちが落下したりしないよう結界を張りつつ長旅をしてくれたのだから、ミロちゃんたちも常とは違う飛行で疲れただろう。
 ゆえに「静かに休ませてあげよう」とディードたちとも相談し、周辺を出入り禁止にしてもらっていた。目がさめれば勝手にどこかへ去るだろうから、それまで邪魔せずおこうと。

 なのに目をさました竜たちは、森伝いに、ラピスのいる大神殿までこようとしているらしい。
 言われて気配を探れば確かに、ドシン、ドシンと地響きを感じる。遠くで人々が大声を上げているのも、わずかだが聞こえてきた。

「あれま~。何しに来るんだろね?」
「わかんないよそんなの!」

 ヘンリックが悲鳴じみた声を上げ、ディードも焦ったように訴える。

「ラピスなら理由がわかるんじゃないか? というか、ラピスのところに来ようとしてるんじゃないか?」
「そか。わかった、訊いてみるね!」

 師との約束があるので聖魔法の準備を中断したくはなかったが、大神殿に避難している大勢の人々が竜に驚き、混乱に陥ったら大変なことになる。
 それによくよく考えてみれば、めったに人と近しく関わらない竜が、人間だらけのこの街に長居しているのも、何か深い理由があるのかもしれない。

 そんなわけで祈祷の間を飛び出したラピスは、あわてて追いかけてきたディードたちと共に、森へ――つまり神殿の北側へ向かおうとしたのだが――ゾンネに止められた。

「これこれ、待ちなさい。『訊いてみる』とはつまり、本当にきみは、竜に質問できるのだね?」
「はい! できます!」

 にっこり笑って答えると、なぜかゾンネは「うっ! かかか可愛い……!」と胸を押さえてよろめき、パウマンが「副祭司長様、しっかり!」とあわてて支えた。
 そのまま二人は、「これが良い子魔法か……報告は真実だった」とか、「近くで接していると半端ない天使感ですね」とか、「なぜにあの“毒舌の天才”の弟子が、こんな“可愛いの天才”なのか」などと小声で話していたが。
 ラピスが小首をかしげると、ゾンネは「ああ、すまない。取り乱した」と背筋を伸ばし、バインと腹を突き出した。

「現在は防犯のため、北の出入り口は閉鎖しておるのだよ。ほかの出口から迂回すると時間がかかるから、上の階の露台から、その……訊いて? みてはどうかね」
「おおお! それは良い考えです! ありがとうございます、副祭司長様!」

 ぺこりと頭を下げると、相好を崩したゾンネの頬肉がぷるんと弾んだ。
 次いでパウマンが「では私が案内しますよ、ラピスくん!」と進み出てくれたが、それはディードが「いえ、俺たちが案内するので」と断った。

「ちょっとくらい代わってくれてもいいじゃないですか、ディーデリヒ王子ぃぃ」

 切ない声が追いかけてきたのを無視した第三王子は、「こっちだよラピス!」と走り出した。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...