ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
上 下
169 / 228
第10唱 王都へ行こう

いろいろ増えました

しおりを挟む
 人々が寝静まった、深夜のゴルト街。
 雪の街の静けさは、夜警の騎士たちや、眠れずに星を眺めていた者たちが上げた大声で破られた。
 それというのも、二体の飛竜が続けざまに上空に現れ、しかも騎士団詰所の馬の運動場に降り立ったからである。

「また竜かーっ!」
「今度はなんだ、また古竜か、それとも呪いの竜王か!」

 次々と家の明かりが灯り、寝間着に上着を羽織って飛び出してきた人々が、興奮と恐怖で騒ぎ出す。
 なにせ集歌の巡礼が始まり魔法使いたちがやってきて以降、古竜の出現に大喜びしたり、禍々しい竜王(と噂されるもの)に雷を落とされたりと、僥倖と災いが次々訪れる大騒動だったのだ。

「大きさが全然違うから、古竜ではないと思うが……なんでこんな立て続けに」

 竜を見ようと詰所に押しかけた人々は、騎士たちから「重要な会談の最中だから」と門前払いされ、ブーブー言いながらも危険はないと知って、少なからず安堵した。
 ほっとすると、よもやま話にも花が咲く。

「そういや、火事のとき助けてくれたマジ天使な男の子、どうしてるだろう」
「あー。ありゃあ、どうなってんだっつーくらい可愛かったな」
「古竜の歌を解いて、ロックス町を疫病から救ったんだろ? あの子に助けられた魔法使いたちが話してたぞ」

 その『マジ天使な男の子』と直接話したことのある顔役の老人は、「おれにはわかる。あのお子は、ただ者じゃない」と、わけ知り顔で腕を組んだ。

「彼は本物の天の御使いだ。きっと今頃は遠い空の下、古竜の歌を集めているに違いない。おれが生きているうちに会えることは、もうあるまいよ……」


 が、マジ天使な男の子ことラピスは、たった今彼らを仰天させた竜に乗り、遠い空の下でなく同じゴルト街にいた。


☆ ☆ ☆


「ラピスーッ! 本当に本当に心配したんだよっ!?」
「ご、ごめんね。本当に本当にごめんねっ」

 再会した途端、涙目のディードに抱きつかれたラピスは、彼らをすっかり忘れていたことを心から申しわけなく思った。
 そしてヘンリックは――と言うより、居合わせた騎士団員たちは皆、普段は馬を走らせている運動場に、二体の飛竜がどっかりと腰をおろしているという現実に、呆然と向き合っているところだ。

 雪が月と星の明かりを反射するから、深夜でも廃村シタークよりずっと明るい。
 ゆえに一面の雪景色の中、ときおり伸びをするように翼を動かす二頭の飛竜も、くっきりと浮かび上がるようによく見えて、「グオウ」とときおり深く息を吐き出す声にも、皆いちいち跳び上がって驚いている。

「ラピス……飛竜にさらわれたと思ったら、もう一頭連れて戻ってくるって、どういうこと?」

 ぽかんとひらいたままの口から、ヘンリックが疑問をこぼした。

「それにグレゴワール様とアードラーを連れてきたことにも驚いたよ……」

 複雑な表情になって躰を離したディードの言葉に、ヘンリックも「なんでも増やせばいいってもんじゃないぞ?」とうなずく。
 二人や騎士たちの反応が、いつもよりぼんやりしているように感じるのは、たぶん気のせいではあるまい。彼らはこれほどの至近距離で二頭もの竜に接したことがないから、古竜のときほどではなくとも竜酔いしているのだ。

 ちなみにもう一頭の竜を呼んだのは、ミロちゃんだ。
 ミロちゃんよりも深い蒼色の体躯に、月明かりに照らされた鱗を星空みたいに銀色に煌めかせているその竜は、幼竜だったミロちゃんを“保護”しにきてくれた、あの竜である。
 それに気づいた師弟はさらに喜びを爆発させ(コンラートはひたすら目を白黒させていたが)、その勢いのままゴルト街へやってきた。

 もともと、ロックス町を出たあとはゴルト街に戻り、王都への帰り支度を整えるという予定だったから、ジークらがラピスを探して追ってくるにせよ、一旦ゴルト街へ寄るはずだとラピスは考えたのだが、その読みは正しかった。
 ただし、彼らや街の人々の驚愕の度合いを、軽く見積もり過ぎていたけれど。
 そのことに気づかぬまま、ラピスはにこにこと答えた。

「ほら、火災や水不足が心配だから、急いで王都に帰らなきゃいけないでしょ? だったら、みんなで竜に乗ってけば早いよって、ミロちゃんが言ってくれて」
「「へっ?」」

 仲良く声をそろえて目を丸くした乳兄弟に、(やっぱり兄弟がいるって良いものだよねぇ)と、ラピスはますますにっこりする。

「あ、そうだ! 増えたといえば、僕の竜の書も二冊になりました~!」
「「…………えええぇーっ!?」」
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...