132 / 228
第7唱 純粋な心
どうしてかなぁ
しおりを挟む
「古竜の骨は、解呪をしないと見えないし触れないって? そんなこと、まったく知らなかったよ。父上からも教えられてないしぃ」
ぶぅ、と唇を尖らせ不満顔をして見せるギュンターに、ディードが「王位の継承時に伝えられるはずだったのでは? すねて見せても砂粒ほども可愛くないからやめてほしい」と冷たい視線を向けたが、一転、ラピスを見る目は輝いていた。
「でもすごいね、さすが大魔法使いだよね! 見えなくするばかりか触れなくする魔法なんて、すごすぎるよ! ラピス。きみのお師匠様は本当に偉大だね!」
「うんうん! お師匠様はすごいよねぇ!」
きっとラピスの目も負けずにキラキラしているだろう。
こぶしを振り振り、「それに本当に優しいし、月の精かと思うほど綺麗だし、いい匂いだしねっ」と同意を求めたが、「匂いまでは嗅いだことない」と言われてしまった。
そんな二人と、「弟が冷たい」と泣き真似をするギュンターとを黙って見ていたジークが、「ならばやはり」と低く呟いた。
「古竜の骨を持ち出せたのは、アードラー大祭司長で決まりなのだろうな」
「そうだねぇ……」
いつも優しげなギュンターのタレ目も、一瞬、険しく光る。
「本物はとうに持ち出していて、堂々と偽物を置いていたってわけだ」
「信じられない」とディードが眉根を寄せた。「どうして大祭司長が」
「さて。考えてもわからんだろうねぇ、今の段階では。こうなったらやはり一旦、城に帰るのがよさそうだ。あちらで何か情報を仕入れられるかもしれないからね。いいな? ディード」
「え。帰るなら兄上ひとりで帰ってよ!」
「だーめ。そろそろ本気で父上が心配してる頃だ。わかるだろう」
「……」
反論できずに兄を睨みつけるディードを、「ラピスだって引き上げる頃合いなんだから」となだめるギュンターの声を聞きながら、ラピスは、ゴルト街で対面した大祭司長のことを思い出していた。
(悪い人だとは、感じなかった……)
子犬だって、ちっとも警戒せず彼に寄って行った。抱き上げる手も優しかった。
面白がるような灰色の目も、張りのある声も、なぜか既視感があって。クロヴィスと似ている気もしたが……。
(でも、やっぱり似ていない気もする)
だがひとつ、思い出したことがある。
アードラーと話したあのときも、チリチリするような肌感覚があった。ドロシアがそばにいたときと共通の感覚。クロヴィスはそれを「呪法の気配」だと言った。
ならばやはり、アードラーが呪法のために古竜の骨を盗み出し、ラピスを呪詛した張本人なのだろうか。だがなぜだか、そう思いたくない。
「どうしてかなぁ……」
☆ ☆ ☆
翌日。
何度も引きとめられ、別れを惜しまれながら、ロックス町をあとにした。
「本当に、何度お礼を言っても足りないわ! 町民一同、皆様へのご恩は一生忘れません。代々語り継がれることでしょう!」
ベスター町長を筆頭に大人から子供まで、動けるようになった者は全員が見送りに来てくれたのだが、小さな子たちは「ラピスくん、行っちゃイヤ~」と泣き出してしまい、ラピスは「泣かないで~」とオロオロしてしまった。
その光景につられたか、大人たちまで涙ぐんでいた。
「ほんと残念……しばらく滞在してほしかったのに。ラピスくんを見てると元気が出るもの」
「うんうん。あのお薬の奇跡の治癒効果には、絶対ラピスくん効果がプラスされてると思う!」
「怖い女房にくたびれきった心にも効きました」
「まだ全然恩返しできていないのにぃ!」
皆がそうして元気に回復してくれたことが、何よりの恩返しでご褒美だ。
それをそのまま伝えると、「もう、可愛いんだからっ!」と町長のふくよかな腕で抱きしめられ、「ずるい町長、わたしもっ」「わしもっ」などと揉みくちゃにされて、ジークが救出してくれたのを機に、三台の馬橇を連ねて町を出たのだった。
ぶぅ、と唇を尖らせ不満顔をして見せるギュンターに、ディードが「王位の継承時に伝えられるはずだったのでは? すねて見せても砂粒ほども可愛くないからやめてほしい」と冷たい視線を向けたが、一転、ラピスを見る目は輝いていた。
「でもすごいね、さすが大魔法使いだよね! 見えなくするばかりか触れなくする魔法なんて、すごすぎるよ! ラピス。きみのお師匠様は本当に偉大だね!」
「うんうん! お師匠様はすごいよねぇ!」
きっとラピスの目も負けずにキラキラしているだろう。
こぶしを振り振り、「それに本当に優しいし、月の精かと思うほど綺麗だし、いい匂いだしねっ」と同意を求めたが、「匂いまでは嗅いだことない」と言われてしまった。
そんな二人と、「弟が冷たい」と泣き真似をするギュンターとを黙って見ていたジークが、「ならばやはり」と低く呟いた。
「古竜の骨を持ち出せたのは、アードラー大祭司長で決まりなのだろうな」
「そうだねぇ……」
いつも優しげなギュンターのタレ目も、一瞬、険しく光る。
「本物はとうに持ち出していて、堂々と偽物を置いていたってわけだ」
「信じられない」とディードが眉根を寄せた。「どうして大祭司長が」
「さて。考えてもわからんだろうねぇ、今の段階では。こうなったらやはり一旦、城に帰るのがよさそうだ。あちらで何か情報を仕入れられるかもしれないからね。いいな? ディード」
「え。帰るなら兄上ひとりで帰ってよ!」
「だーめ。そろそろ本気で父上が心配してる頃だ。わかるだろう」
「……」
反論できずに兄を睨みつけるディードを、「ラピスだって引き上げる頃合いなんだから」となだめるギュンターの声を聞きながら、ラピスは、ゴルト街で対面した大祭司長のことを思い出していた。
(悪い人だとは、感じなかった……)
子犬だって、ちっとも警戒せず彼に寄って行った。抱き上げる手も優しかった。
面白がるような灰色の目も、張りのある声も、なぜか既視感があって。クロヴィスと似ている気もしたが……。
(でも、やっぱり似ていない気もする)
だがひとつ、思い出したことがある。
アードラーと話したあのときも、チリチリするような肌感覚があった。ドロシアがそばにいたときと共通の感覚。クロヴィスはそれを「呪法の気配」だと言った。
ならばやはり、アードラーが呪法のために古竜の骨を盗み出し、ラピスを呪詛した張本人なのだろうか。だがなぜだか、そう思いたくない。
「どうしてかなぁ……」
☆ ☆ ☆
翌日。
何度も引きとめられ、別れを惜しまれながら、ロックス町をあとにした。
「本当に、何度お礼を言っても足りないわ! 町民一同、皆様へのご恩は一生忘れません。代々語り継がれることでしょう!」
ベスター町長を筆頭に大人から子供まで、動けるようになった者は全員が見送りに来てくれたのだが、小さな子たちは「ラピスくん、行っちゃイヤ~」と泣き出してしまい、ラピスは「泣かないで~」とオロオロしてしまった。
その光景につられたか、大人たちまで涙ぐんでいた。
「ほんと残念……しばらく滞在してほしかったのに。ラピスくんを見てると元気が出るもの」
「うんうん。あのお薬の奇跡の治癒効果には、絶対ラピスくん効果がプラスされてると思う!」
「怖い女房にくたびれきった心にも効きました」
「まだ全然恩返しできていないのにぃ!」
皆がそうして元気に回復してくれたことが、何よりの恩返しでご褒美だ。
それをそのまま伝えると、「もう、可愛いんだからっ!」と町長のふくよかな腕で抱きしめられ、「ずるい町長、わたしもっ」「わしもっ」などと揉みくちゃにされて、ジークが救出してくれたのを機に、三台の馬橇を連ねて町を出たのだった。
応援ありがとうございます!
140
お気に入りに追加
697
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる