127 / 228
第7唱 純粋な心
将来の夢
しおりを挟む
日も落ちてすっかり暗くなった雪の町で、炎の色が鮮やかに人々の笑顔を照らす。
みんなで集まり、同じものを見て笑顔になって、賑やかで。なんだかお祭りみたいだ。
火を熾すついでに、ゴルト街から運んできた救援物資で具沢山のスープも作った。宿の女将として腕を振るっていた町長が指導してくれたおかげでとても美味しく出来上がって、みんな幸せそうに頬張っている。
白い吐息と白い湯気が混じり合い、寒いのにあたたかく感じる、心安らぐ光景だった。
順番に湯浴みを済ませて出てきた人たちから、「本当に気持ちよかったよ!」とほかほか湯気の立つ笑顔で感謝されると、ラピスのほうが嬉しくなった。
それに、この町に来て、ひとつ確かな目標ができた。
「あのね、ディード」
「うん?」
隣でスープを口に運ぶディードの横にはヘンリックもいるが、食べることに集中しているので、聞いていないかもしれない。
「僕は将来、お師匠様みたいになりたいな」
「将来? グレゴワール様みたいに、というと?」
「竜たちのことを、みんなに伝えたいんだ!」
旅の中で、しみじみわかったことがある。
自分は竜について学ぶという点において、本当に恵まれていたのだと。
母はラピスを魔法から遠ざけていたけれど、聴き手であり、歌い手でもあった。おかげでラピスは「竜は身近な存在だ」と認識できたし、交流の方法も学べた。
そしてクロヴィスと出会って、魔法を識り、さまざまなことを教わって、世界が広がった。
でも多くの人は、竜を遠い存在として崇めているようだ。
それは竜を、祭司の話や書物の上でしか知らないからだと思う。
リッターたちのように、学びたくても学ぶ機会がないせいでもあるだろう。
ラピスは、魔法に見惚れていた子供たちのことを思った。
彼らは親に湯浴みに連れられて行くときも、「もっと魔法を見るんだー!」と半泣きで抵抗していた。
「あの子たち、以前の僕みたい。魔法なんて見たこともなかったんだ」
「うん。俺も正直、似たようなものだった。アカデミーがすぐそばにあってもね」
「あのさ。熱いものを食べると、なんで鼻水が出るんだろう」
ヘンリックが鼻水を拭きながら参加してくる。
「どうしてだろうねぇ?」
「脱線させるなよ、ヘンリック! ……で、ラピスは教師になりたいのかい?」
「教師? うーん、どうだろう。お師匠様みたいに竜を探して世界中を周ってもみたいし、と言うか一緒に周りたいし、それはよくわからないけど……。でも、竜のことを、たくさんの人に好きになってもらいたいな。そのお手伝いがしたいんだ。『尊い存在なのだから崇めなさい』って言われてそうするのじゃなくて、竜と交流して、心から『大好きだな』って思ってもらえたら嬉しいよ。そうしたら竜たちだって、喜んでくれるはず」
ディードの榛色の瞳に炎が映って、きらきら光っている。その口から、「……いいなぁ」と、呟きが漏れた。
「俺も、自由に将来を選びたい」
「うん? 選ぶといいよ!」
「ラピス。こいつこう見えて、王子だから」
珍しく神妙な顔になったヘンリックの鼻に、ディードが「こう見えては余計だ」とハンカチを押しつける。
ラピスは「うん、もう知ってるよ!」と笑顔を返した。
「でも王子様だって、ディードは未来を選べるよ! だってディードはなんだってできるし、人任せにするタイプじゃないもんね!」
ただ、そう思う心のままに、言ったのだけれど。
ディードは言葉もなくラピスを見つめて、不意にぽろっと涙をこぼした。
「ええっ! ディード、ど、どしたの、どっか痛いの!? あ。もしかして僕また失敗しちゃった!? 駄目なこと言っちゃった!? ごめんね、本当にごめんね」
おろおろしながらハンカチを取り出し、ディードの頬に押し当てると、「違うよ」と笑みが返ってきた。
「そんなふうに考えたこと、なかったから。なんか……びっくりした」
ディードは「ふふっ」と笑って、それ以上は言わなかった。
でも表情は明るくて、ヘンリックが先ほどのハンカチを差し出すと、「それはお前の鼻水まみれじゃないか」と突っ返し、またも元気に喧嘩を始めたので、ラピスはひとまず安堵した。
(……王子様って、大変なんだな)
それもまたひとつ、学んだことだ。
みんなで集まり、同じものを見て笑顔になって、賑やかで。なんだかお祭りみたいだ。
火を熾すついでに、ゴルト街から運んできた救援物資で具沢山のスープも作った。宿の女将として腕を振るっていた町長が指導してくれたおかげでとても美味しく出来上がって、みんな幸せそうに頬張っている。
白い吐息と白い湯気が混じり合い、寒いのにあたたかく感じる、心安らぐ光景だった。
順番に湯浴みを済ませて出てきた人たちから、「本当に気持ちよかったよ!」とほかほか湯気の立つ笑顔で感謝されると、ラピスのほうが嬉しくなった。
それに、この町に来て、ひとつ確かな目標ができた。
「あのね、ディード」
「うん?」
隣でスープを口に運ぶディードの横にはヘンリックもいるが、食べることに集中しているので、聞いていないかもしれない。
「僕は将来、お師匠様みたいになりたいな」
「将来? グレゴワール様みたいに、というと?」
「竜たちのことを、みんなに伝えたいんだ!」
旅の中で、しみじみわかったことがある。
自分は竜について学ぶという点において、本当に恵まれていたのだと。
母はラピスを魔法から遠ざけていたけれど、聴き手であり、歌い手でもあった。おかげでラピスは「竜は身近な存在だ」と認識できたし、交流の方法も学べた。
そしてクロヴィスと出会って、魔法を識り、さまざまなことを教わって、世界が広がった。
でも多くの人は、竜を遠い存在として崇めているようだ。
それは竜を、祭司の話や書物の上でしか知らないからだと思う。
リッターたちのように、学びたくても学ぶ機会がないせいでもあるだろう。
ラピスは、魔法に見惚れていた子供たちのことを思った。
彼らは親に湯浴みに連れられて行くときも、「もっと魔法を見るんだー!」と半泣きで抵抗していた。
「あの子たち、以前の僕みたい。魔法なんて見たこともなかったんだ」
「うん。俺も正直、似たようなものだった。アカデミーがすぐそばにあってもね」
「あのさ。熱いものを食べると、なんで鼻水が出るんだろう」
ヘンリックが鼻水を拭きながら参加してくる。
「どうしてだろうねぇ?」
「脱線させるなよ、ヘンリック! ……で、ラピスは教師になりたいのかい?」
「教師? うーん、どうだろう。お師匠様みたいに竜を探して世界中を周ってもみたいし、と言うか一緒に周りたいし、それはよくわからないけど……。でも、竜のことを、たくさんの人に好きになってもらいたいな。そのお手伝いがしたいんだ。『尊い存在なのだから崇めなさい』って言われてそうするのじゃなくて、竜と交流して、心から『大好きだな』って思ってもらえたら嬉しいよ。そうしたら竜たちだって、喜んでくれるはず」
ディードの榛色の瞳に炎が映って、きらきら光っている。その口から、「……いいなぁ」と、呟きが漏れた。
「俺も、自由に将来を選びたい」
「うん? 選ぶといいよ!」
「ラピス。こいつこう見えて、王子だから」
珍しく神妙な顔になったヘンリックの鼻に、ディードが「こう見えては余計だ」とハンカチを押しつける。
ラピスは「うん、もう知ってるよ!」と笑顔を返した。
「でも王子様だって、ディードは未来を選べるよ! だってディードはなんだってできるし、人任せにするタイプじゃないもんね!」
ただ、そう思う心のままに、言ったのだけれど。
ディードは言葉もなくラピスを見つめて、不意にぽろっと涙をこぼした。
「ええっ! ディード、ど、どしたの、どっか痛いの!? あ。もしかして僕また失敗しちゃった!? 駄目なこと言っちゃった!? ごめんね、本当にごめんね」
おろおろしながらハンカチを取り出し、ディードの頬に押し当てると、「違うよ」と笑みが返ってきた。
「そんなふうに考えたこと、なかったから。なんか……びっくりした」
ディードは「ふふっ」と笑って、それ以上は言わなかった。
でも表情は明るくて、ヘンリックが先ほどのハンカチを差し出すと、「それはお前の鼻水まみれじゃないか」と突っ返し、またも元気に喧嘩を始めたので、ラピスはひとまず安堵した。
(……王子様って、大変なんだな)
それもまたひとつ、学んだことだ。
応援ありがとうございます!
137
お気に入りに追加
686
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる