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第7唱 純粋な心
町長は語る
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混乱した様子のベスタ―町長に、ジークが第三騎士団団長であること、ラピスが大魔法使いの弟子であることを話すと、ベスタ―は感激のあまり泣き出した。
「なんてこと! ええ、ええ、こんな田舎町でも聞いていますとも、大魔法使い様のお弟子さんの噂は! 『たいそう美しい方らしい』とも噂されていたけど、まさかこんな幼い子だったなんて!」
「それであの、すぐにお薬を」
ラピスの言葉は、町長の涙ながらの言葉にまたも遮られる。
「もう殆ど諦めていたの。疫病に見舞われているのだとわかったときには、吹雪に閉じ込められてしまっていたし。そんなとき、巡礼の魔法使いたちがたくさん押し寄せてきたから、助けに来てくれたものとばかり思ったのよ。でも事情を知った途端、脱兎のごとく逃げ出してしまって」
「魔法使いたちが? 皆、逃げたのか?」
眉根を寄せたジークに、ベスタ―が「ほんの何人かは出て行ったようです」と涙を拭く。
古竜の歌を『ロックス町に“救いの対象”がある』と解いた多くの魔法使いたちが、ラピスたちより先行していた。町に入って以降の動向がわからず心配していたのだが、脱出した者もいたらしい。
ただゴルト街では、この町から戻った者の情報は聞かなかった。どこか別のところまで避難したのだろうか。
「でも多くが吹雪に阻まれて戻って来たの。治癒魔法や病人の看病で協力してくれた方々もいましたけど、怒って当たり散らす人も多くて、町の者と衝突したり……」
小さな町のこと。各家庭がひと冬越すために貯えた食料や日用品の数も知れている。
なのに脱出に失敗した魔法使いたちは、町はずれのベスタ―町長の家に居座り、感染防止のため町人との接触を避けて閉じこもってしまった。そのくせ「金は払うから食料と薪を届けろ」などと要求してきたのだという。
「ここはベスタ―さんのお家ではないのですか?」
「ええ、ここはお友達の家なの。わたしの家はむかし宿屋を営んでいたから、この町では大きいほうでね。巡礼の方たちを無下にするわけにもいかず利用を承諾したのだけど……だからって、あんな図々しいことを言い出すなんて。ゴタゴタしているうちに、どんどん感染は広がるし」
感染者は現在、町の神殿である星殿と、集会所に集められているという。だが患者が多すぎて収容しきれず、一家全員が感染した場合は自宅隔離されているらしい。
どちらにせよ、ただひとりの医師も感染してしまった上に薬もない。手の施しようがない状態だった。
町人の七割方が感染しているが、幸い、まだ死者は出ていない。けれどそう長くはもたないだろうと覚悟していたと、町長は涙を拭った。
彼女も感染覚悟で病人たちの世話をしていたが、家に戻りひと晩眠っているあいだに、雪に閉じ込められてしまったのだという。
不安と緊張の捌け口を求めてか、町長の話は延々続きそうな勢いだったが、ことは一刻を争う。早く病人たちに会わせてもらわねばならない。
ラピスの魔法と、スコップの場所を聞き出したジークの迅速な雪かきにより、町長を家から出すことに成功すると、まずは星殿へ案内してもらった。
「わたしはもうこの年だし、覚悟の上なのだけど……あなたたちは本当にいいの? ラピスくん、だったわね。いくら魔法使いでも、あなたみたいな子を連れて行くのは、やっぱり……」
年のことを言うわりに、雪道を行く足取りは、ラピスよりよほどしっかりしている。町長は何度も躊躇し立ち止まっては、ジークとラピスを交互に見てきた。
そのたびラピスもにっこり笑って、こう言った。
「大丈夫です! 僕は世界一の大魔法使いの弟子ですからっ!」
「なんてこと! ええ、ええ、こんな田舎町でも聞いていますとも、大魔法使い様のお弟子さんの噂は! 『たいそう美しい方らしい』とも噂されていたけど、まさかこんな幼い子だったなんて!」
「それであの、すぐにお薬を」
ラピスの言葉は、町長の涙ながらの言葉にまたも遮られる。
「もう殆ど諦めていたの。疫病に見舞われているのだとわかったときには、吹雪に閉じ込められてしまっていたし。そんなとき、巡礼の魔法使いたちがたくさん押し寄せてきたから、助けに来てくれたものとばかり思ったのよ。でも事情を知った途端、脱兎のごとく逃げ出してしまって」
「魔法使いたちが? 皆、逃げたのか?」
眉根を寄せたジークに、ベスタ―が「ほんの何人かは出て行ったようです」と涙を拭く。
古竜の歌を『ロックス町に“救いの対象”がある』と解いた多くの魔法使いたちが、ラピスたちより先行していた。町に入って以降の動向がわからず心配していたのだが、脱出した者もいたらしい。
ただゴルト街では、この町から戻った者の情報は聞かなかった。どこか別のところまで避難したのだろうか。
「でも多くが吹雪に阻まれて戻って来たの。治癒魔法や病人の看病で協力してくれた方々もいましたけど、怒って当たり散らす人も多くて、町の者と衝突したり……」
小さな町のこと。各家庭がひと冬越すために貯えた食料や日用品の数も知れている。
なのに脱出に失敗した魔法使いたちは、町はずれのベスタ―町長の家に居座り、感染防止のため町人との接触を避けて閉じこもってしまった。そのくせ「金は払うから食料と薪を届けろ」などと要求してきたのだという。
「ここはベスタ―さんのお家ではないのですか?」
「ええ、ここはお友達の家なの。わたしの家はむかし宿屋を営んでいたから、この町では大きいほうでね。巡礼の方たちを無下にするわけにもいかず利用を承諾したのだけど……だからって、あんな図々しいことを言い出すなんて。ゴタゴタしているうちに、どんどん感染は広がるし」
感染者は現在、町の神殿である星殿と、集会所に集められているという。だが患者が多すぎて収容しきれず、一家全員が感染した場合は自宅隔離されているらしい。
どちらにせよ、ただひとりの医師も感染してしまった上に薬もない。手の施しようがない状態だった。
町人の七割方が感染しているが、幸い、まだ死者は出ていない。けれどそう長くはもたないだろうと覚悟していたと、町長は涙を拭った。
彼女も感染覚悟で病人たちの世話をしていたが、家に戻りひと晩眠っているあいだに、雪に閉じ込められてしまったのだという。
不安と緊張の捌け口を求めてか、町長の話は延々続きそうな勢いだったが、ことは一刻を争う。早く病人たちに会わせてもらわねばならない。
ラピスの魔法と、スコップの場所を聞き出したジークの迅速な雪かきにより、町長を家から出すことに成功すると、まずは星殿へ案内してもらった。
「わたしはもうこの年だし、覚悟の上なのだけど……あなたたちは本当にいいの? ラピスくん、だったわね。いくら魔法使いでも、あなたみたいな子を連れて行くのは、やっぱり……」
年のことを言うわりに、雪道を行く足取りは、ラピスよりよほどしっかりしている。町長は何度も躊躇し立ち止まっては、ジークとラピスを交互に見てきた。
そのたびラピスもにっこり笑って、こう言った。
「大丈夫です! 僕は世界一の大魔法使いの弟子ですからっ!」
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