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第6唱 竜王の呪い
新たな魔法と新たな町へ 1
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ディードによると、ラピスの巡礼参加登録の日、ドロシアはラピスたちを追って学術研究棟に来ていた。「大魔法使い様に会いたい」と頼まれたが、人払いを命じられていたため断ったという。
クロヴィスは「アリスン国防長官の孫? ふーん」と唇に人差し指をあてた。
「しかしあの日あの場所には、俺の魔法をかいくぐるほどの魔力や呪力の持ち主はいなかったが」
「でもラピスがチリチリチクチクを感じたとき、いつも彼女がいたのは確かです」
ディードの言葉に、ラピスは「よくおぼえてるねえ」と感心したが、クロヴィスは「なるほど」と、すでに何か考えを巡らせている。
長官とは顔見知りですかとジークから問われたクロヴィスは、「いや全然」と答えたが、獲物を見つけた豹が舌舐めずりするみたいな薄笑いを浮かべた。
ディードたちは、あのドロシアが呪法に関わっているかもしれないと知って、多かれ少なかれ混乱しているようだが、クロヴィスはスパッと話を切り上げた。
「とりあえず、あとは俺に任せておけ。で、次はラピんこな」
そう言って唐突に――広間で言っていたことではあるが――ラピスの魔法の『底上げと指導』が始まった。
「以前にも言ったが、魔法は『使える』と思わないと使えない。もちろん蓄えた竜氣の量や質により行使できる魔法は限られるが、ラピんこは今や上質の竜氣をたんまり持ってるんだから、無理のない範囲で色々試すといい」
ディードたちも興味津々で見学する中、師に言われるままあれこれ試してみた結果、ラピスはこれまで使っていた火と水の魔法以外にも、なんと風・雷・土・聖属性の魔法も使えるようになっていたことが判明した。
師に言われた通り、「僕はできる!」と自分に言い聞かせることから始めて、手繰り寄せた竜氣で薄暗い室内に稲妻を走らせたときには、「「「うおお!」」」と一同から驚愕の声が上がった。
もちろん、クロヴィスが結界を張ってくれているので、火事等の心配はない。
「お、おおお~! おしょしょ、おししょたまっ」
驚きすぎて口が回らず、閃光に目をショボショボさせながら師を見ると……
「はいはい、ラピんこビックリ。はい次」
急かされて、興奮冷めやらぬまま次は突風を起こしたり(ディードが一瞬ふわっと浮いて、ヘンリックがものすごく羨ましがっていた)、目には見えない土属性の防御壁を創ったりした(試しにヘンリックが体当たりして跳ね返されていた)が、聖魔法は――教えてはもらったけれど、その場では取り立てて変わったことが起きなかった。
「呪詛のような闇魔法に対したとき、その効果がはっきりわかるよ」
だそうだ。
ラピス自身が聖属性の魔法を使えるということ自体、呪法への防御力が格段に上がるらしい。
そしてこんなにいっぺんに多属性の魔法が使えるようになったのは、やはり古竜という、桁違いの竜氣のおかげだそうだ。
「古竜さんって、本っ当にすごいのですねっ!」
「その恐ろしいほどの竜氣にまったく竜酔いしないどころか、すらすらと歌を解くラピんこだって、本当にすっごいんだぞ」
「やったあ! 僕、馬にも酔ったことないんです!」
「なんか違うけど……たいしたもんだ、ラピんこ」
「えへへ~」
それからも夢中で魔法を教わって、そのすべてにお墨付きをもらえた。
嬉しくて楽しくて、ムフムフと顔が緩んでしまう。
こうして魔法や竜識学を学びながら師と一緒に過ごすのは久し振りで、はしゃぎすぎて夜が更けても眠れず、「いいかげんに寝ろ」と『枕が頭にくっつく魔法』をかけられてしまった。
直立しても頭を振っても、後頭部から枕が離れない。それが楽しくて余計に笑いが止まらなくなる。
さらにクロヴィスは「おまけ」と言って全員に同じ魔法をかけたので、頭に枕をくっつけたまま無表情を貫くジークを見て、ディードたちとお腹を抱えて笑い転げた。
結果、体力を使い果たして、いつのまにやらコテンと熟睡してしまったのだった。
翌日、クロヴィスは、またもどこかへ旅立ってしまった。
しばらく同行してくれるものと思い込んでいたラピスはひどく落胆し、何度も抱き合って別れを惜しむディード曰く「恒例の別れの儀式」に、いつもの倍の時間をかけた。
「これからどんどん雪深くなるから、ロックス町のあとは切りのいいところで帰ってこい。巡礼は春になったら再開すればいい。なんなら今すぐ帰ってきてもいい」
いつものように「帰ってこい」を連発してもらったおかげで、逆に「よーし、頑張るぞ!」と元気が出た。
ちなみにギュンターも、「早く帰ってこい」と圧をかけられているらしい。
「これ以上は引き延ばせそうもないし、ロックス町の様子を見届けたら俺は王都に戻るよ」
「王太子のくせに、今まで旅に同行してたのがおかしいんだよ」
相変わらず冷たく突き放すディードに、ギュンターは苦笑いしていた。が、ギュンターが無茶を通してでも同行してきた最大の理由は、ディードが心配だったからではないかと、ラピスは思っている。
ディードも今ではギュンターへの敬語をやめて、ますますズケズケ物申しているが、その遠慮のなさも、兄弟という近しさゆえだろう。
そういえば、街でたびたびギュンター(とヘンリック)が別行動していたのも、事情を知る第三騎士団員たち以外に王太子を知る人物に出くわすと、大騒ぎされたり、ラピスの前で身バレしてしまう恐れがあったから……らしい。
特にアードラー大祭司長とは大神殿でよく顔を合わせるというから、それであんなに避けていたのかと納得した。
そこまで考えて、ふと思い出す。
(大祭司長様、どこかでお会いしたと思ったけど……)
長身なところと言動の端々が、クロヴィスと似ているかもしれない。ちょっと冷笑的な態度をとってみせるところとか。
だから会ったことがあるという印象を抱いたのかもと思ったが……
「うーん。でも違うなぁ」
本当に師と似ているなら、その場ですぐに連想できたはず。似ているところもあるが、むしろ真逆の印象をラピスは抱いた。
だとすると、やはりどこかで見かけていたのだろうか。
クロヴィスは「アリスン国防長官の孫? ふーん」と唇に人差し指をあてた。
「しかしあの日あの場所には、俺の魔法をかいくぐるほどの魔力や呪力の持ち主はいなかったが」
「でもラピスがチリチリチクチクを感じたとき、いつも彼女がいたのは確かです」
ディードの言葉に、ラピスは「よくおぼえてるねえ」と感心したが、クロヴィスは「なるほど」と、すでに何か考えを巡らせている。
長官とは顔見知りですかとジークから問われたクロヴィスは、「いや全然」と答えたが、獲物を見つけた豹が舌舐めずりするみたいな薄笑いを浮かべた。
ディードたちは、あのドロシアが呪法に関わっているかもしれないと知って、多かれ少なかれ混乱しているようだが、クロヴィスはスパッと話を切り上げた。
「とりあえず、あとは俺に任せておけ。で、次はラピんこな」
そう言って唐突に――広間で言っていたことではあるが――ラピスの魔法の『底上げと指導』が始まった。
「以前にも言ったが、魔法は『使える』と思わないと使えない。もちろん蓄えた竜氣の量や質により行使できる魔法は限られるが、ラピんこは今や上質の竜氣をたんまり持ってるんだから、無理のない範囲で色々試すといい」
ディードたちも興味津々で見学する中、師に言われるままあれこれ試してみた結果、ラピスはこれまで使っていた火と水の魔法以外にも、なんと風・雷・土・聖属性の魔法も使えるようになっていたことが判明した。
師に言われた通り、「僕はできる!」と自分に言い聞かせることから始めて、手繰り寄せた竜氣で薄暗い室内に稲妻を走らせたときには、「「「うおお!」」」と一同から驚愕の声が上がった。
もちろん、クロヴィスが結界を張ってくれているので、火事等の心配はない。
「お、おおお~! おしょしょ、おししょたまっ」
驚きすぎて口が回らず、閃光に目をショボショボさせながら師を見ると……
「はいはい、ラピんこビックリ。はい次」
急かされて、興奮冷めやらぬまま次は突風を起こしたり(ディードが一瞬ふわっと浮いて、ヘンリックがものすごく羨ましがっていた)、目には見えない土属性の防御壁を創ったりした(試しにヘンリックが体当たりして跳ね返されていた)が、聖魔法は――教えてはもらったけれど、その場では取り立てて変わったことが起きなかった。
「呪詛のような闇魔法に対したとき、その効果がはっきりわかるよ」
だそうだ。
ラピス自身が聖属性の魔法を使えるということ自体、呪法への防御力が格段に上がるらしい。
そしてこんなにいっぺんに多属性の魔法が使えるようになったのは、やはり古竜という、桁違いの竜氣のおかげだそうだ。
「古竜さんって、本っ当にすごいのですねっ!」
「その恐ろしいほどの竜氣にまったく竜酔いしないどころか、すらすらと歌を解くラピんこだって、本当にすっごいんだぞ」
「やったあ! 僕、馬にも酔ったことないんです!」
「なんか違うけど……たいしたもんだ、ラピんこ」
「えへへ~」
それからも夢中で魔法を教わって、そのすべてにお墨付きをもらえた。
嬉しくて楽しくて、ムフムフと顔が緩んでしまう。
こうして魔法や竜識学を学びながら師と一緒に過ごすのは久し振りで、はしゃぎすぎて夜が更けても眠れず、「いいかげんに寝ろ」と『枕が頭にくっつく魔法』をかけられてしまった。
直立しても頭を振っても、後頭部から枕が離れない。それが楽しくて余計に笑いが止まらなくなる。
さらにクロヴィスは「おまけ」と言って全員に同じ魔法をかけたので、頭に枕をくっつけたまま無表情を貫くジークを見て、ディードたちとお腹を抱えて笑い転げた。
結果、体力を使い果たして、いつのまにやらコテンと熟睡してしまったのだった。
翌日、クロヴィスは、またもどこかへ旅立ってしまった。
しばらく同行してくれるものと思い込んでいたラピスはひどく落胆し、何度も抱き合って別れを惜しむディード曰く「恒例の別れの儀式」に、いつもの倍の時間をかけた。
「これからどんどん雪深くなるから、ロックス町のあとは切りのいいところで帰ってこい。巡礼は春になったら再開すればいい。なんなら今すぐ帰ってきてもいい」
いつものように「帰ってこい」を連発してもらったおかげで、逆に「よーし、頑張るぞ!」と元気が出た。
ちなみにギュンターも、「早く帰ってこい」と圧をかけられているらしい。
「これ以上は引き延ばせそうもないし、ロックス町の様子を見届けたら俺は王都に戻るよ」
「王太子のくせに、今まで旅に同行してたのがおかしいんだよ」
相変わらず冷たく突き放すディードに、ギュンターは苦笑いしていた。が、ギュンターが無茶を通してでも同行してきた最大の理由は、ディードが心配だったからではないかと、ラピスは思っている。
ディードも今ではギュンターへの敬語をやめて、ますますズケズケ物申しているが、その遠慮のなさも、兄弟という近しさゆえだろう。
そういえば、街でたびたびギュンター(とヘンリック)が別行動していたのも、事情を知る第三騎士団員たち以外に王太子を知る人物に出くわすと、大騒ぎされたり、ラピスの前で身バレしてしまう恐れがあったから……らしい。
特にアードラー大祭司長とは大神殿でよく顔を合わせるというから、それであんなに避けていたのかと納得した。
そこまで考えて、ふと思い出す。
(大祭司長様、どこかでお会いしたと思ったけど……)
長身なところと言動の端々が、クロヴィスと似ているかもしれない。ちょっと冷笑的な態度をとってみせるところとか。
だから会ったことがあるという印象を抱いたのかもと思ったが……
「うーん。でも違うなぁ」
本当に師と似ているなら、その場ですぐに連想できたはず。似ているところもあるが、むしろ真逆の印象をラピスは抱いた。
だとすると、やはりどこかで見かけていたのだろうか。
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