ドラゴン☆マドリガーレ

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第5唱 母の面影

ドロシアの情報網 1

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 その後は、「念のため」とジークに言われるままゴルト街滞在を延ばして、ゆっくりと心身を休めることになったのだが。
 のんびりしているあいだに、街は古竜の話題一色になっており、巡礼の参加者たちはいつの間にか皆そろって、次なる目的地を『ロックス町』に定めていた。ここから少し南下したところにある町だ。

 ラピスが古竜の歌を聴いた夜、ほかの聴き手たちの中にも、歌を解く機会に恵まれた者が複数いた。とはいえ解けたのは各々ほんの一部分のみだったので、協定を結んで情報を共有し分析した結果、ロックス町へ行こうと結論が出たらしい。
 
「さらに詳しく教えてもらおうと思ったら、みんな口を閉ざしちゃってさ」

 昼食の席で、ヘンリックが不満そうに言った。
 巡礼参加者たちはもちろん、護衛役の騎士や騎士見習いたちからも、「口外するなと約束させられているから」と断られたという。
 ラピスは「ほへ~」と驚いた。
 ラピスはあの歌の中に、ロックス町に関することなど聴いた記憶はなかったからだ。

「僕は歌の途中で目がさめたから、その前にロックス町について歌っていたのかな?」
「そうかもな。ここにきて、あいつら一致団結してラピスに対抗しようとしてるんだよ。誰が見てもラピスが一番優秀だから」

 共に情報収集していたディードも、不機嫌さを隠さず同意した。

「ラピスを出し抜いて、少しでも優位に立とうとしてるんだよな。ほんとセコい。立場が逆なら、ラピスは喜んで教えてやるだろうに」
「喜んで教えてあげる人が、ここにもいますけど?」

 聞きおぼえのある声に、ディードが「うわあ」と顔を歪めるのをラピスは見た。

「ちょっと、騎士見習いくん。その見るからに嫌そうな顔やめてくれる?」

 ラピスが振り返るとそこには、宿の食堂レストランの案内役を従えたドロシアが、不機嫌顔で立っていた。
 緑の瞳はディードを睨んでいるが、ディードは特に言い返しもせず、やれやれというように首を振る。
 ドロシアの目がさらに吊り上がったところへ……

「ドロシアさん、こんにちは~」

 ラピスが挨拶すると、彼女はハッとしたようにこちらを向いて、ラピスの左隣のヘンリックを突き飛ばす勢いで横に陣取り、目を潤ませながら跪いた。

「ラピスくぅんっ! 今日もまた一段と可愛いわ~。会いたかったわ~。ほんと会いたかったわ……。熱を出したらしいと聞いて、心配してたのよ? 大丈夫? もう大丈夫なの? 男ばかりじゃお世話も行き届かないのでしょう。あ、皆さん、ごきげんよう」

 今気づいたみたいに、円卓を囲むジークらに声をかけている。
 殆ど関りはないのに、他人であるラピスをこれほど心配してくれるなんてと、ラピスはとても感動した。

「ありがとうございます、僕はもう大丈夫です! ドロシアさんって、とっても優しいんですね」
「はうぅっ!」

 礼を言っただけなのに、真っ赤になって胸を押さえている。

(そういえば……)
 
 ラピスは彼女と初めて会ったときのことを思い出した。
 あのときも彼女を見ながら、コーフンした馬のようになっているなあと心配したのだった。こんなにしょっちゅう苦しそうにするなんて、実はドロシアのほうこそ、何かの病気なのではなかろうか。
 体調を尋ねてみようと思ったら、彼女に押しのけられていたヘンリックが先に声を上げた。

「失敬だぞ、きみ! こっちは食事中なんだ!」
「あら失礼。どうぞ続けてくださいな? わたしはラピスくんに……ラピスくんに! 情報を届けに来ただけだから」

 なぜかラピスの名を強調したことには触れずに、ディードがドロシアを見た。

「情報とは、古竜の歌に関することですか? アリスンさん」
「……こういうときは名前を間違わないというわけね……書いてやる」
「は?」

 眉根を寄せるディードから、ドロシアの視線が再度ラピスに戻った。

「あのね、古竜の歌を解いた聴き手のうちのひとりが、うちの班にいるの。解いたといってもほんの一部分だけ。『解いた』と騒いでるけど、みんなごく一部だけなのよ。そりゃそうよね。みんながみんなラピスくんみたいに古竜の歌を簡単に解けたら、苦労はないわ」
「そりゃそうだ」

 自らも聴き手であるヘンリックが、うんうんとうなずいている。
 ドロシアはちらりと彼を見て、「……載せよう」と謎の呟きを漏らしたが、すぐに話を戻した。

「で。今回、古竜の歌の断片を解いたアカデミーの聴き手たち数人が集まって、互いのわずかな情報を出し合い相談したのね。その結論が『ロックス町に救いの対象がある』というものだったのよ。それだけ。でもわたしが教えたってことは秘密よ?」

 綺麗にウィンクしているが、ラピスは心配になった。

「秘密なのに、教えてくれちゃって大丈夫ですか? みんなに怒られませんか?」
「うおぉぉ……!」

 ドロシアはまたも謎のうめき声を漏らして胸を押さえた。

「やべえ破壊力だぜ、この天使はよう! ……だいじょぶ、だいじょぶよ~」

 あまり大丈夫そうには見えない。
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