ドラゴン☆マドリガーレ

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第5唱 母の面影

あっちもこっちもラピスも異変 1

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 ドロシアに案内された茶店は、あちらこちらに置かれたぬいぐるみと、苺柄の刺繍で統一された布張り椅子が印象的な、いかにも女性が好みそうな店だった。

 客もやはり女性が多く、男性客はラピスたち同様、女性に連れられてきた者が多いようだ。
 彼らはレースとクマのぬいぐるみに囲まれた椅子で肩身が狭そうにしているが、長い脚を持て余しながら苺の中にどっしりと座すジークに、動じる様子はない。そしてディードも……

「ラピスにはホットミルク。ホットチョコレートもあるんですか? じゃあそれもください。あとパンケーキ三つ、メープルシロップをたっぷり。焼きたてアップルパイとミートパイも三つずつ。それからドライフルーツのケーキとビスケットを五つずつ持ち帰り用に包んでおいてください。それから」

 慣れた調子で注文していて、こちらも様になっている。二人とも苺柄に怯むことなく堂々としているので、かえって格好良く見えるくらいだ。
 ドロシアはディードの隣に座らされて、「ラピスくんの隣がよかったのに!」と抗議していたが、ラピスと目が合うと相好を崩した。

「思った通り、ラピスくんと苺は奇跡の共演だわ~。最高からの尊いっ」

 相変わらずよくわからぬことを言う。
 するとディードがドロシアに、「あなたは何を頼みますか」と尋ねたので、「わたしのぶんまで注文してくれてたんじゃなかったの!?」と目を剥いた。
 ラピスは食欲がないのでドロシアに食べてもらおうと思ったが、さっさと注文の品を選んだドロシアが話題を変えた。

「そういえばラピスくんたちは、シュリ湖を通ってきたんですって?」
「え? あ、えっと……名前は知らないのだけど、うん。湖に寄ってきたよ」
「この辺で湖といったらシュリ湖だから間違いないわ。知ってる? そこね、昨夜のうちに水が干上がっちゃったらしいわよ」
「「ええっ!?」」

 ラピスだけでなく、ディードも驚きの声を上げた。
 その反応に気を良くしたらしきドロシアは、フフンとディードを見たが、眉根を寄せたジークに「その情報はどこから……?」と問われて真顔に戻った。

「うちの伝書鳩早耳です。というか、うちのグループの早耳ですけど。正確には、水位が下がったということらしいです。交代で入った護衛騎士が実際見たというので間違いありません。八割は下がっていたとか。このあと騎士団詰所にも報告が上がるでしょうし、住民に伝われば大騒ぎになるかもしれませんよ」

 ラピスは「そんな……」とディードと視線を交わした。
 それが本当なら大変なことだ。あんなにも豊かに水を湛えていた湖が、急に姿を変えただなんて。
 ラピスたちがあの湖をあとにしたのは半月ほど前のこと。もしもこれが夏で降水不足により干上がるとしても、急激すぎる変化だろう。まして今は初冬で、普通に考えれば広大な湖の水位が急降下する要素はない。

「じゃ、じゃあ、魚や、あそこにいた水鳥たちは?」
「そこまでは聞いていないけど、魚は逃げようがないもんね……って、ああっ! ごめんねラピスくん、そんな悲しそうな顔しないでぇっ! 可愛いけどっ」
「それは本当に、信憑性のある報告なんですか?」

 冷静に確認するディードに、ドロシアは唇をとがらせた。

「もちろんよ! 言ったでしょ、アカデミーの学生五人のグループだって。そのぶん護衛や情報収集に割く人手が多いの。だからラピスくんも誘ったのに、どっかの誰かさんに断られちゃったし~?」
「数打ちゃ当たる方式を、いきなり信用しろというほうが無茶ですから」

 フンと鼻で嗤い返したディードに、ドロシアが肩を怒らせる。

「いいかげんな報告をするような人間を雇ったりしないわよ! いい? 報告はこれだけじゃないんですからね! ここから東の小村のいくつかで、流行り病が発生してるらしいんだけど、知ってた? 知らなかったでしょ!」
「流行り病!? それが真実なら、すぐ王都に知らせなければ」

 表情をこわばらせたディードに、「ちゃんと知らせをやったわよ、当たり前でしょ」と、ドロシアは人差し指を振る。
 そうしてラピスに視線を戻し、笑顔全開になった。

「まだあるわ。ラピスくんのために! 騎士見習いには教えたくないけど、ラピスくんのためだけに! 特別な情報を教えてあげる」
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