ドラゴン☆マドリガーレ

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第5唱 母の面影

再会 1

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 その後、寝坊したことに恐縮しながら起きてきたディードと、堂々とあくびをしながらやってきたヘンリックとギュンターが、共に食事を済ませたところで、買い出しに行くことになった。

「これから先の旅はこの街を拠点にしつつ、騎乗のみで移動する。馬車は使わないから、余計な物は買うなよ。全部置いていくからな」

 ディードはラピスに――ではなく、ヘンリックに何度も言い聞かせ、「わかってるってば!」と怒らせていた。

 はらはらと雪片の舞う白い街に出ると、モコモコした外套と帽子を着けた人々が、白い息を吐き寒そうに、でも楽しそうに語らいながら行き交っている。
 シャンシャンと馬衣についた鈴を鳴らして闊歩する毛の長い馬は、馬橇ばそりに使われる馬だそうだ。
 同じ国なのに異国に来たような光景で、ラピスはわくわくしながら街の様子を見つめた。

 買い出しは、食料や防寒着や下着に毛布、宿の支配人お薦めの最新式天幕テントなどなど、見るべきものも見たいものも盛りだくさんだ。
 そのため手分けして買い物しようということになり、ギュンターとヘンリックとは一旦別行動となった。

「まずはどこへ行きますか?」

 ディードとジークが相談していると、女性たちが熱い視線を送りながら通り過ぎていく。ひときわ背が高い上に威厳のあるジークは、立っているだけで人目を引くのだ。
 ただし遠巻きに見てくることが多い男性と違って、女性陣はキャーキャー言いながらもちょっとずつ距離を詰めてくるので、ラピスはそこが興味深かった。

「ラピス」

 呼ばれて振り返ると、ジークが手を伸ばしてくる。
 最近は手をつないでくれることが増えた。寒いからだろうと思っていたが、単に迷子防止のためかもしれない。
 なんにしてもラピスは、好きな人と手をつなぐのが嬉しいので、いそいそと大きな手を握ったのだが。その途端、こちらを見ていた女性たちから一段と甲高い、キャーッという声が上がった。

(この反応は……昨日と同じだなぁ)

 ゴルト街に着いて、ジークに抱っこされたまま宿まで移動したときの、女子学生たちの反応もこんな感じだった。
 これも例の、クロヴィスとジークの婚約の噂に関連する反応なのだろうか。それともそもそもジークはいつも、こんな反応をされるのだろうか。

 クロヴィスはよく、『竜について気づいたことがあれば、記録しておくといい。いつか必要になるかもしれないし、そうでなくとも後世の誰かのためになるかもしれない』と言うのだが……

「僕、後世のためにジークさんの研究報告も書こうかな」
「へ?」

 変な声で反応したのはディードで、ジークも目をぱちくりしている。
 そこへ「ラピスくーん!」と聞きおぼえのある声がかかった。

「キャーッ! 会えて嬉しい! 久し振り~っ!」

 息を切らせて走ってきたのは、エンコッド町で出会った赤毛の少女だ。

「えっと……ドロシア・アリスンさん?」

 名前を思い出しながら手を振ると、パッと嬉しそうな笑顔になって、さらに勢いよく駆けてきた。
 が、慣れぬ雪道を走るものではない。案の定、ラピスのすぐ前まで来たところで、ドロシアが足を滑らせた。

「キャッ!」
「危ない!」

 とっさにラピスはジークから離した手を差し出した。
 が、同時にうしろから外套を掴まれたため手は空振りし、ドロシアは派手に尻餅をついた。するとディードが、「ふぅ」と掴んでいたラピスの外套から手を離し、白い息を吐きながら微笑んだ。

「よかった、無事だった」
「無事じゃないわよ!」

 尻をついたまま抗議するドロシアに、ラピスが「大丈夫?」と改めて手を差し出す。が、ドロシアがその手を取る前に、ディードがさっさと彼女の背後に回って脇に腕を入れ、「ギャーッ!」と悲鳴が上がるのを無視して立ち上がらせた。

「何するのよ!」
「立たせてさしあげたのですが?」
「わたしはラピスくんに助けてもらうところだったのにー!」
「失礼ですが、あなたの全体重でラピスを引っ張られては、彼が巻き添えになりますので……ドロスン・アリスンさん」
「だからドロスンじゃねえよ!」

 目を三角にして怒鳴りつけてから、ドロシアは我に返ったというようにこちらを見た。ジークは相変わらず無表情だが、ラピスは思わず声を上げて笑う。

「仲いいねぇ」
「「よくないですけど!?」」

 やはり仲良く同時に返してきた。
 そこへまたしても、よく知る声が耳に飛び込む。

「ラピス!」

 無意識にビクッと身がまえ、振り向くと。
 思った通り――継母グウェンがいた。
 そして義姉ディアナと、義兄イーライも。
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