23 / 228
第1唱 変転する世界とラピスの日常
街でいっぱいお買い物
しおりを挟む
弟子たるもの、師匠より早起きして家事雑務をこなし、師匠のため身を粉にして尽くし、師匠の技を観察し、寝る間も惜しんで学ぶもの。
――と、ラピスは認識していた。
だがクロヴィスはラピスより早起きだし、手際よく美味しい料理を作ってくれるし、掃除をするより膏薬を塗ってろと命じられるし。
たっぷり睡眠をとらなければ叱られるし、何も惜しまずともなんだって教えてくれた。
「お前の服は足拭きマットか」
そう嫌そうに言われた翌日には、一番近い街まで出かけて――実はクロヴィスは馬を二頭所有しているが殆ど野生で、呼び出したときのみ戻ってくるということもそのとき知ったのだが――とても高級そうなお店で、着心地の良い衣服をひと通りそろえてくれさえした。
弟子の分際で申しわけなくて、「お師匠様。こちら、お高いんでしょう?」と遠慮したら、「所帯じみたことを言うな」と呆れられてしまった。
おまけに……
「『ラピんこ肉』増加の実験と、その記録を始める」
突然そう宣言されて、焼き菓子や飴などを次々買い与えられた。さらには「これは備蓄用」と、糖蜜を大きな壺ごと買うのを見て、ラピスは「ひょえぇ」と驚いた。
さらには通りに並ぶ露店で目についた、揚げイモやらパイやら串に刺したソーセージやらを、次々口に突っ込まれもした。
どれもとても美味しくて、ラピスは夢中で完食したけれど。
クロヴィスの買い物の勢いは止まらず、大量の紙とインクと羽ペン、製薬の材料やあれこれの道具なども買い足すのを「さすがお師匠様」と尊敬のまなざしで見つめていたら、それが全部「ラピんこ用だ」と言うので、ラピスはまたも「ほえっ!?」とものすごく驚いた。
正直、嬉し過ぎてぷるぷる震えて目が潤んで、感謝の言葉すらすぐには出てこないほどだった。でもクロヴィスには伝わったようで、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。
ラピスは未だクロヴィスを、「やっぱり月の精なのでは」と思ってしまう。
だってラピスを喜ばせる名人で、まるで心が読めているみたいなのだ。
それになんといっても、白い月のように神秘的だし。月の夜に現れて、月のように綺麗で、月が照らすみたいになんでも知っている。
とにかくとびきり美形なので、すらりと端正な長身と相俟って、一緒に歩くとものすごく注目を浴びた。特に女性たちの目の色が変わる。
「やだ、ちょっと見てよ、ものすごい男前がいるわ!」
「それになんて可愛い坊や! きらきらした兄弟だねぇ」
「美形だけどお兄さんのほうはなんだか近寄りがたいわ。あれは絶対お貴族様よ」
なんて声もあれば……
「ごらんよ、どこのお屋敷のご兄弟だろうね。高価な紙もあんなに買って」
「兄弟? 若い父親とは違うのかい?」
などと聞こえてくることもある。
(ほんとの家族と思われてる……)
それがラピスには、むやみにジタバタしたくなるくらい嬉しい。表情もだらしなく緩んで戻らない。
「お師匠様がとってもかっこいいので、みんなの注目の的ですねっ」
喜びのあまり師の長い腕に飛びつくと。
「お前な……ちょっとは自覚しろ。ほんと危なっかしい」
なぜかため息が返ってきた。
――と、ラピスは認識していた。
だがクロヴィスはラピスより早起きだし、手際よく美味しい料理を作ってくれるし、掃除をするより膏薬を塗ってろと命じられるし。
たっぷり睡眠をとらなければ叱られるし、何も惜しまずともなんだって教えてくれた。
「お前の服は足拭きマットか」
そう嫌そうに言われた翌日には、一番近い街まで出かけて――実はクロヴィスは馬を二頭所有しているが殆ど野生で、呼び出したときのみ戻ってくるということもそのとき知ったのだが――とても高級そうなお店で、着心地の良い衣服をひと通りそろえてくれさえした。
弟子の分際で申しわけなくて、「お師匠様。こちら、お高いんでしょう?」と遠慮したら、「所帯じみたことを言うな」と呆れられてしまった。
おまけに……
「『ラピんこ肉』増加の実験と、その記録を始める」
突然そう宣言されて、焼き菓子や飴などを次々買い与えられた。さらには「これは備蓄用」と、糖蜜を大きな壺ごと買うのを見て、ラピスは「ひょえぇ」と驚いた。
さらには通りに並ぶ露店で目についた、揚げイモやらパイやら串に刺したソーセージやらを、次々口に突っ込まれもした。
どれもとても美味しくて、ラピスは夢中で完食したけれど。
クロヴィスの買い物の勢いは止まらず、大量の紙とインクと羽ペン、製薬の材料やあれこれの道具なども買い足すのを「さすがお師匠様」と尊敬のまなざしで見つめていたら、それが全部「ラピんこ用だ」と言うので、ラピスはまたも「ほえっ!?」とものすごく驚いた。
正直、嬉し過ぎてぷるぷる震えて目が潤んで、感謝の言葉すらすぐには出てこないほどだった。でもクロヴィスには伝わったようで、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。
ラピスは未だクロヴィスを、「やっぱり月の精なのでは」と思ってしまう。
だってラピスを喜ばせる名人で、まるで心が読めているみたいなのだ。
それになんといっても、白い月のように神秘的だし。月の夜に現れて、月のように綺麗で、月が照らすみたいになんでも知っている。
とにかくとびきり美形なので、すらりと端正な長身と相俟って、一緒に歩くとものすごく注目を浴びた。特に女性たちの目の色が変わる。
「やだ、ちょっと見てよ、ものすごい男前がいるわ!」
「それになんて可愛い坊や! きらきらした兄弟だねぇ」
「美形だけどお兄さんのほうはなんだか近寄りがたいわ。あれは絶対お貴族様よ」
なんて声もあれば……
「ごらんよ、どこのお屋敷のご兄弟だろうね。高価な紙もあんなに買って」
「兄弟? 若い父親とは違うのかい?」
などと聞こえてくることもある。
(ほんとの家族と思われてる……)
それがラピスには、むやみにジタバタしたくなるくらい嬉しい。表情もだらしなく緩んで戻らない。
「お師匠様がとってもかっこいいので、みんなの注目の的ですねっ」
喜びのあまり師の長い腕に飛びつくと。
「お前な……ちょっとは自覚しろ。ほんと危なっかしい」
なぜかため息が返ってきた。
応援ありがとうございます!
184
お気に入りに追加
698
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる