ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

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第1唱 変転する世界とラピスの日常

大魔法使い

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「ガキがこんな夜中に何してる。つーか、なぜに幼竜を連れてるんだ?」

 落ち葉を踏む音と共に、黒衣の男が歩み寄ってきた。
 ラピスの知る誰より背が高い。

 月に照らされた青白い森の、幻想的な雰囲気のせいだろうか。
 眉根を寄せた知らない男に見おろされているのに、不思議なほど、警戒心が薄れていく。

(なんだろう。なんだか、この人……)

 初めて会う人だ。それは間違いない。
 なのにどこかで会ったような、不思議な親近感が湧いてきて、ちっとも怖くないのだ。
 ラピスは相手を見上げたまま、しばしボーッと惚けてしまった。が、

「おい。目あけたまま寝てんじゃねえだろうな」

 おでこを突かれて、あわてて首を横に振る。

「だ、大丈夫です、起きてます! そしてこの子は盗んだわけではありません!」

 あわて過ぎて、唐突に言い訳してしまった。
 義姉から幼竜を「盗んだ」と決めつけられていたからだ。
 けれど口にしてから、(かえって怪しまれるのかな?)と自分の言動に首をかしげる。腕の中で先ほど出現した謎の本をひらいていた竜の子も、真似して「キュッ?」と首をかしげた。

 すると、怪訝そうに眉をひそめていた男から、意外な反応が返ってきた。

「盗んだなんて思っちゃいねえよ。そんなの見ればわかる。ただ俺は、なんでお前が幼竜を連れて、しかもこんな夜中に森にいるのかって」
「わかるのですか!? 盗んでないって、見ただけでわかっちゃうのですかっ!?」

 驚いた勢いで問い返すと、青年がビクッと肩を揺らした。

「わかるに決まってんだろ。それより、お前はなぜに」
「すごい、どうしてわかるのですか!?」
「そ、それはだな」
「すごいです! 不思議です! それにこの本、『竜の書』っていうのですか!?」

 確か彼は先ほど、そう言っていた。
 だがパラパラとめくってみても、ただの真っ白なページばかり。

「なんでしょうこれ、何も書いてありません! こんな本が、どうしていきなりここにあるのかも、わかるのですか? どうして竜の書というのですか?」
「それは」
「それからそれから、不思議で綺麗なあなたは、もしや本当に月の精ですかっ!?」
「……」

 無言でおでこに、ポフッと手刀を下ろされた。
 弾みで「痛っ」と声を上げたが、すぐに「嘘つけ、痛くない」と言われて、「はい、痛くないです!」と訂正する。確かに力は入っていなかった。

「いいか、よく聴けガキんこ」
「ガキんこではなく、僕はラピスといいます」
「ではラピんこ、落ち着いて聴け。第一に、俺様は確かに美しいが、月の精ではない。ていうかなんなんだ、月の精って」
「月の精というのは、母様が昔読んでくれた本に出てきたとっても綺麗な」
「だから聴けというのに、このラピんこめが」

 また手刀が下ろされたので、(ラピんこではないのだけど)と言うのはやめて「聴きます」とうなずいた。
 確かにちょっと興奮しているかも、と心のどこかで自覚する。
 こんな夜の森で、知らない人と――幼竜を除けば――二人きりで。
 物騒なことこの上ないことくらい、子供でもわかるのに。
 なのにやたら心が浮き立って、仕方ないのだ。

「第二に、お前がその幼竜を盗んでいないとわかる理由は」

 青年の視線が、ラピスの腕の中で謎の本を抱えている、竜の子に向かう。

「俺様が、世界一の大魔法使いだからだ」
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