召し使い様の分際で

月齢

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第29章 禁断の杯

真・求婚記念日

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「なあ、アーネスト」
「そんなカッカしてないで、こっちにおいで」

 笑いをこらえる声で呼ばれて、恥ずかしさのあまり、子供のようにぷくーっと頬を膨らませてしまった。しかし寒月と青月は暖炉の前へと手招いていて、そこでようやく、肌がひんやりとしていることに気がついた。
 そりゃあそうだよね。こんな裸同然の格好で動き回っていれば。

 ……単に動き回っていただけなら、どんなによかったことか。
 僕はこの先一生、『隠し財産』と聞くたび悶絶するのだろうな……。
 ただでさえ長くはなさげな人生の貴重な時間に、こんな間抜けな記憶を刻むとは。今際の際に思い出すのが、双子にお尻を見せているシーンだったら嫌すぎる。

 苦悩のあまり「ぐああ」と頭を抱えていたら、「「風邪ひくから」」と双子に強引に抱き寄せられて、思わず「ひょえーっ!」と叫んでしまった。

「ひょえーって」
「わかった。ほら、俺たちも脱ぐから。そしたら恥ずかしくないだろう?」

 青月の提案に、「ああ、そうだよな」と寒月も同意して、二人とも引ん剝く勢いで服を脱ぎ捨てたけど……裸になったのは、上半身だけで。

「そんなムッキムキでバッキバキの筋肉モリモリをさらしたところで、かっこいいだけじゃないか! むしろ自慢!?」
「かっこいいか?」
「フッ」

 なにが『フッ』だ、青月!

「そこ、喜ぶところじゃないからね! きみたちもこの下着をつけてみてよ、そしたら僕のこの黒歴史の恐ろしさがわかるから!」
「それは無理」
「想像するだけで吐きそう」
「もうっ!」

 双子は笑いながら、八つ当たりで怒る僕の前に跪いた。
 暖炉の炎が薪の爆ぜる音を小さく響かせ、美しい金髪と銀髪を照らす。
 そうして彼らは僕の手をとり、流れるように口づけて、困惑する僕に、泣きたくなるほど優しく微笑んだ。

「アーネスト。元皇族たちの資産没収には、俺たちも全力を尽くすから。絶対、根こそぎ取り上げてやるから。お前が負い目を感じず済むようになったらそのときは、正式に結婚してほしい」
「寒月……」 

 いつになく改まった態度と言葉に心臓を高鳴らせていると、青月も、氷像みたいに端整な顔に、蜂蜜がけのお菓子みたいな甘い笑みを浮かべた。

「そのほかのことも――躰が弱いことも、子供のことも、全部三人で乗り越えよう。俺たちが必ずアーネストを幸せにする。アーネストが幸せなら、俺たちはもっと幸せだ。だから……結婚、してください」
「青月ぅ……」

 ぶわっと涙が浮かんだ。
 ずるい。ずるいよ、二人とも。急にそんなことを言うなんて。

 笑っているときも怒っているときも僕の心の隅には、常に影を落とし続けている重荷がある。
 それは身体的な不安と、二人への負い目。
 理性でどう言い聞かせようと消せるものではないし、莫大な借金以上に心を苛む夜もある。
 それをちゃんとわかってくれていて、その上で、全部一緒に抱えようと笑ってくれている。

 もちろん、そういう人たちなのだとわかってはいたけど、でも……
 改めて、そんな真摯に言葉にされたら、泣けてきちゃうじゃないか……!

「うぅ」

 こらえきれずにポロポロ涙をこぼしながら二人を見つめ、「けっこん」と我ながら頼りない声で答えた。

「寒月、青月。僕と、けっこん、してください」

 そう口にしたら。
 双子の笑顔がパアッと輝いたのを見たら。
 僕こそどれほどそれを望んでいたのかを、嵐に揉まれるように自覚した。
 僕はこれからも二人と一緒に、人生を歩みたい。
 僕にあとどれほど時間が残されているのかわからないけど、それでも。

「新婚旅行もしよう、アーネスト」
「その前に、式はめっちゃド派手にやりてえな!」

 立ち上がった青月と寒月に抱きしめられて、優しく涙を拭われて、何度も何度もキスされて。
 幸せすぎてフラフラしながら、ようやく涙を引っ込めた。ついでに照れ隠しも兼ねて抗議しておく。

「二人の言葉は心から嬉しいし、感動しているよ。でも、なにもこの格好のときじゃなくてもよかったのに……」

 この先、この感激の『求婚記念日』を思い出すたびに、僕は変態じみたドレスと下着姿で、直前に黒歴史を刻んでいたのだと、合わせて思い出すに違いない。
 なのに二人は、嬉しそうにニヤリと笑った。

「想い出がよりいっそう幸せになるじゃん!」
「その通り」
「どこが! ……って、なにしてるの?」

 寒月が「さらに幸せになろうと思って」と言いながら、衝立の奥から姿見を運んできた。ウキウキと目の前に置かれて、嫌な予感に襲われる。

「えーっと……」

 とりあえず逃げようとしたのに、すぐさま背後から青月に捕らわれて、「なんだよう!」と身をよじって見上げた先、熱っぽく見つめてくる青石の瞳と目が合った。

「まだ見たい」
「え?」
「アーネスト。そのドレスも下着も、本当に似合ってる。信じられないくらい綺麗。まったく自覚がないようだけど――ほら」

 姿見の前に立たされて、改めて目にした自分の姿にカアッと頬が熱くなった。そこへうしろから回されてきた手が、ツツーッと胸へと下りる。
 ドレスの薄い生地越しに、乳首をコリコリと指先で引っ搔かれて、「ひゃっ」と声を上げた。

「くすぐったい」
「くすぐったいだけ? ――黒レースのあいだからピンクの可愛い乳首が覗くの、めっちゃエロい。――見てる? 先生」
「先生言うなっ」

 怒っても、声に張りがない。
 姿見の中で青月が、乳首を指先で転がすように揉んだり、優しく引っ張ったりしながら、まっすぐ僕を見つめてくるのだもの。
 愛撫されるたびビクッビクッと躰を震わせてしまい、たまらず視線を逸らした。
 が、今度は寒月が横に立って、「では先生」と満面の笑顔で僕を見た。

「パンティにご注目」
「ぐっ!」

 わざと僕の真似をしたな! 憎たらしい!
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