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第27章 白銅メモ
その5 前夜祭へ
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ぼくは櫟丸白銅。十一歳。アーネスト様の従僕です。
――と、改めて心のメモで自己紹介をして、気合いを新たにしてみました。
なぜかというと、昨日はアーネスト様を心配させてしまって、大失敗だったからです。
トラの方たちによる『裏・春の精選び』に備えてライバルたちをてい察し、アーネスト様のお役に立とうと思ったのに、かえってハラハラさせてしまいました。
あとで繻子那嬢と壱香嬢からも、「あなたのご主人、本当に心配していたのよ」と注意されました。
ぼくはアーネスト様にお仕えする立場としては先ぱいなのに、押しかけ新米従業員のお二人からお小言を言われて、面目丸つぶれというやつです。でも大失敗をしたのは本当のことなので、言いわけできません。
それに……ぼくも、気づかないうちにすごくきんちょうしていたみたいで……
アーネスト様のやさしいお顔を見たらホッとして、ぶわっと涙が浮かんでしまいました。うぅ。恥ずかしいです。
ジェームズさんなら、こんな失態を演じたりしないはず。
誰が相手だろうとチョチョイとそつなく対応して、アーネスト様に心配をかけないうちに優がに、「では、ごきげんよう」と帰還していたことでしょう。ぼくにはまだまだ修行が足りません。
でも、いよいよ今夜の前夜祭から、木の芽祭りが始まりますからね!
気を取り直して、約束通りアーネスト様をエスコートするのです!
すでに王都中がお祭りムード一色です。
どこのおうちも、商店街も、のき先やカベいっぱいに、お祭りのイメージカラーである若草色の旗やリボンなどで、にぎやかにかざりつけています。
本物の木々はまだ若芽が育ってきたばかりで、森もお山もはだかの枝の黒い色が目立つのに、若草色になった街の中は、まるで緑の森みたいです。
犬獣人の従業員であるコーネルさんが、お客様にお薬を届けに行くというので頭に乗せてもらい、下見のために少しだけ、城下街の様子を見に行くと……
すでにたくさんの露店が並んでいて、緑の中に色とりどりの花が咲いたようになっていました。一昨年よりも去年よりも、出店が多くなっている気がします。
焼き菓子や、パンや、クシにさした焼肉や。甘ーいにおいや香ばしいタレのお腹がすくにおいが、あちらこちらからただよってきます。
異国の雑貨や古着に人形、本にお花にアクセサリー、よくしゃべる小鳥のとなりにきれいな羽ペン、うらない小屋に似顔絵描き、七色にきらめくヘビまで店先から顔をのぞかせていました。
次々目移りしちゃうくらい、たくさんのお店がひしめき合っているのです。
あまからいタレをたっぷりからめた肉団子がお皿に積み上げられるのを見て、目がクギ付けになっていたら、コーネルさんがひかえめに「買ってあげようか?」ときいてきました。
ぼくはその言葉にハッとして、いつのまにか開いていた口をあわてて閉じました。
ふかく! アーネスト様の従僕が、食い意地で我を忘れるとは。
ヨダレが出ていなかったのが、不幸中の幸いです……!
『ありがとうございます。でもけっこうです。ぼくはあとから、アーネスト様と来るのが本番なので!』
キリッと断れました! 肉団子のゆうわくに打ち勝って!
するとコーネルさんは、「そうかあ。だったら、あとのお楽しみにとっておいたほうがいいよね」と、自分のことのように嬉しそうに笑ってくれました。
……そこまではよかったのですが。
「じゃあ、ぼくはひと足お先にいただこうかな」
なんと、ぼくの目の前で肉団子を注文して、ついでに肉団子が積まれた皿の横にぼくを置いて、とう明なこげ茶色のタレがかがやくアツアツ肉団子を、「ハフハフ」言いながらその場で食べ始めたではありませんか!
そうして、肉団子と並んでぼーぜんと見ているぼくの前で、あっというまに完食すると、「お待たせ。じゃあ、もどろうか」と改めてぼくを頭に乗せました。
……この人は……
子供が一生けん命がまんしている肉団子のにおいを皿の横でかがせながら、自分だけ見せびらかして食べるとは……!
『ぼく、もうコーネルさんとお出かけしませんっ!』
「ええっ!? いきなりどうして!?」
八つ当たりです! とにかく食べもののうらみはおそろしいのです!
このいかりは、アーネスト様といっしょにお祭りで美味しいものを食べるまで、冷めそうもありません。
そんなわけでぼくは、お城に帰るまでコーネルさんの頭を利用しておいて、着いたとたんに飛び降りると、アーネスト様のところへ戻って、このできごとを言いつけました。
……ごめんなさい。食べもののうらみでコーフンしていたのです。
アーネスト様は薬草研究室で、店長の三自さんと打ち合わせをしていたところでした。
実はそれは、コンテストの準備のためでもあるのです。くわしいことは、あとで実行したときにメモします。
ぼくが食べもののうらみを言いつけると、アーネスト様は「それはつらかったねえ」とクスクス笑いながら頭をなでてくれました。
三自さんは「コーネルに説教しとくから許してやって!」と大声で笑いました。ぼくがあわてて『かげで言いつけてしまったから、おあいこなのでお説教しないでください』と言うと、もっと笑ってました。
アーネスト様も、花束よりもきれいに笑って……
「白銅くんは本当にいいこだね。大好き」
と言ってくれました。
『ぼくもアーネスト様が大大大好きです!』
「わあ、ありがとう! なんて可愛いんだ、白銅くぅん!」
『アーネスト様ぁ!』
やさしくだきしめられたら、いつものとってもいいにおい。
すうっと深呼吸したくなる、さわやかなお花みたいな香りに、鼻をスンスン押しつけました。アーネスト様とくっつけたので、逆にコーネルさんに感謝したくなりました。
「もうじき双子が帰ってきたら、前夜祭に行こうね。肉団子や、お菓子や、白銅くんの好きなものをいっぱい買おう。いつも頑張ってくれてる従僕くんに、特別ボーナスだよ」
『わああ……!』
ぼく、きっと目がかがやいちゃってます。
――と、改めて心のメモで自己紹介をして、気合いを新たにしてみました。
なぜかというと、昨日はアーネスト様を心配させてしまって、大失敗だったからです。
トラの方たちによる『裏・春の精選び』に備えてライバルたちをてい察し、アーネスト様のお役に立とうと思ったのに、かえってハラハラさせてしまいました。
あとで繻子那嬢と壱香嬢からも、「あなたのご主人、本当に心配していたのよ」と注意されました。
ぼくはアーネスト様にお仕えする立場としては先ぱいなのに、押しかけ新米従業員のお二人からお小言を言われて、面目丸つぶれというやつです。でも大失敗をしたのは本当のことなので、言いわけできません。
それに……ぼくも、気づかないうちにすごくきんちょうしていたみたいで……
アーネスト様のやさしいお顔を見たらホッとして、ぶわっと涙が浮かんでしまいました。うぅ。恥ずかしいです。
ジェームズさんなら、こんな失態を演じたりしないはず。
誰が相手だろうとチョチョイとそつなく対応して、アーネスト様に心配をかけないうちに優がに、「では、ごきげんよう」と帰還していたことでしょう。ぼくにはまだまだ修行が足りません。
でも、いよいよ今夜の前夜祭から、木の芽祭りが始まりますからね!
気を取り直して、約束通りアーネスト様をエスコートするのです!
すでに王都中がお祭りムード一色です。
どこのおうちも、商店街も、のき先やカベいっぱいに、お祭りのイメージカラーである若草色の旗やリボンなどで、にぎやかにかざりつけています。
本物の木々はまだ若芽が育ってきたばかりで、森もお山もはだかの枝の黒い色が目立つのに、若草色になった街の中は、まるで緑の森みたいです。
犬獣人の従業員であるコーネルさんが、お客様にお薬を届けに行くというので頭に乗せてもらい、下見のために少しだけ、城下街の様子を見に行くと……
すでにたくさんの露店が並んでいて、緑の中に色とりどりの花が咲いたようになっていました。一昨年よりも去年よりも、出店が多くなっている気がします。
焼き菓子や、パンや、クシにさした焼肉や。甘ーいにおいや香ばしいタレのお腹がすくにおいが、あちらこちらからただよってきます。
異国の雑貨や古着に人形、本にお花にアクセサリー、よくしゃべる小鳥のとなりにきれいな羽ペン、うらない小屋に似顔絵描き、七色にきらめくヘビまで店先から顔をのぞかせていました。
次々目移りしちゃうくらい、たくさんのお店がひしめき合っているのです。
あまからいタレをたっぷりからめた肉団子がお皿に積み上げられるのを見て、目がクギ付けになっていたら、コーネルさんがひかえめに「買ってあげようか?」ときいてきました。
ぼくはその言葉にハッとして、いつのまにか開いていた口をあわてて閉じました。
ふかく! アーネスト様の従僕が、食い意地で我を忘れるとは。
ヨダレが出ていなかったのが、不幸中の幸いです……!
『ありがとうございます。でもけっこうです。ぼくはあとから、アーネスト様と来るのが本番なので!』
キリッと断れました! 肉団子のゆうわくに打ち勝って!
するとコーネルさんは、「そうかあ。だったら、あとのお楽しみにとっておいたほうがいいよね」と、自分のことのように嬉しそうに笑ってくれました。
……そこまではよかったのですが。
「じゃあ、ぼくはひと足お先にいただこうかな」
なんと、ぼくの目の前で肉団子を注文して、ついでに肉団子が積まれた皿の横にぼくを置いて、とう明なこげ茶色のタレがかがやくアツアツ肉団子を、「ハフハフ」言いながらその場で食べ始めたではありませんか!
そうして、肉団子と並んでぼーぜんと見ているぼくの前で、あっというまに完食すると、「お待たせ。じゃあ、もどろうか」と改めてぼくを頭に乗せました。
……この人は……
子供が一生けん命がまんしている肉団子のにおいを皿の横でかがせながら、自分だけ見せびらかして食べるとは……!
『ぼく、もうコーネルさんとお出かけしませんっ!』
「ええっ!? いきなりどうして!?」
八つ当たりです! とにかく食べもののうらみはおそろしいのです!
このいかりは、アーネスト様といっしょにお祭りで美味しいものを食べるまで、冷めそうもありません。
そんなわけでぼくは、お城に帰るまでコーネルさんの頭を利用しておいて、着いたとたんに飛び降りると、アーネスト様のところへ戻って、このできごとを言いつけました。
……ごめんなさい。食べもののうらみでコーフンしていたのです。
アーネスト様は薬草研究室で、店長の三自さんと打ち合わせをしていたところでした。
実はそれは、コンテストの準備のためでもあるのです。くわしいことは、あとで実行したときにメモします。
ぼくが食べもののうらみを言いつけると、アーネスト様は「それはつらかったねえ」とクスクス笑いながら頭をなでてくれました。
三自さんは「コーネルに説教しとくから許してやって!」と大声で笑いました。ぼくがあわてて『かげで言いつけてしまったから、おあいこなのでお説教しないでください』と言うと、もっと笑ってました。
アーネスト様も、花束よりもきれいに笑って……
「白銅くんは本当にいいこだね。大好き」
と言ってくれました。
『ぼくもアーネスト様が大大大好きです!』
「わあ、ありがとう! なんて可愛いんだ、白銅くぅん!」
『アーネスト様ぁ!』
やさしくだきしめられたら、いつものとってもいいにおい。
すうっと深呼吸したくなる、さわやかなお花みたいな香りに、鼻をスンスン押しつけました。アーネスト様とくっつけたので、逆にコーネルさんに感謝したくなりました。
「もうじき双子が帰ってきたら、前夜祭に行こうね。肉団子や、お菓子や、白銅くんの好きなものをいっぱい買おう。いつも頑張ってくれてる従僕くんに、特別ボーナスだよ」
『わああ……!』
ぼく、きっと目がかがやいちゃってます。
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