召し使い様の分際で

月齢

文字の大きさ
上 下
222 / 259
第26章 暗躍する双子

ノってしまったアーネスト

しおりを挟む
 借金返済のための提案と思って話を聞いていたのに、なぜ僕が『勝つ』だのなんだのいう話になっているのだ。

「ちょっと待って、寒月、青月。僕がなにに勝つって?」
「だから『裏・春の精』になれってことさ! 『真・春の精』と言っても過言ではないがな!」

 寒月の説明で、よりいっそう不可解になった。
 どんどん首を深く傾げる僕を見て、また青月が補足してくれた。

「つまり本来の春の精選びを真似て、うちの一族間の春の精を決めようということだ。もちろん賞品や賞金の横流しはしないが」

「それは当然だね」

「ああ。だが代わりに、一族で春の精選びコンテストを開催する際の飲み代、食事代、その他経費はすべて、負けた者たちが負担する」

 それを聞いた僕は、「はああ?」と不満を表明した。

「それって結局、きみたちの宴会の余興としてコンテストに出て、きみたちの飲み代を稼げってこと? そのために僕にタダ働きをしろと?」

 タダ、というところを強調して二人をじっとりにらみつけると、彼らは「「違う違う」」と、おそろいの動きで首を横に振った。さすが双子。

「ちゃんとアーネストが喜ぶ副賞があるんだって!」
「寒月……イモ料理で機嫌をとろうとしても無駄だからね。僕はすでに毎日のように、料理長カーラさんからイモ責めにされている」
「俺がイモごときでお前を釣ると思うなよ」
「じゃあ、イモ畑?」
「イモから離れろよ」

 なあんだ。畑なら興味アリアリだったのに。
 ちょっと残念に思った僕の気持ちには気づかぬ様子で、寒月と青月はニッと笑った。またも息ぴったり。

「ほら、お前が歓宜と共同で、他国の富裕層向けに売り出した商品があるだろう? 刺繍糸やら毛糸やらを独自開発して、高級服にしたやつ」
「うん」

 寒月の言葉にコクリとうなずく。
 おかげさまで、そちらの商売はどんどん利益を増やしている。
 希少価値を演出する王女の売り方がとても巧みな上に、馬具を商う商売柄、さまざまな職人たちと交流のある彼女のおかげで、素晴らしい技術を持つ職人たちを確保できているのが大きい。

 他国で話題をつくっておいて、逆輸入的に醍牙でも受注を受け付けたところ、申し込みが殺到。現在は受注停止中なのだが……そこがまた、購買意欲を煽るようで。

「正直ウハウハだよ!」
「ほんとに正直だな」
「けどやっぱり、原料のゴブショット羊毛の仕入れ値は馬鹿にならないだろう?」

 青月に問われて、それにも「うん」とうなずいた。

「それはそれは高いよ……」
「急にしょんぼりしたな」
「そのゴブショットを、格安で仕入れられるとしたら?」
「えっ!」

 弾かれたように顔を上げると、膝の上で白銅くんも、一緒に耳と尻尾をピンと立てて青月を見た。際限なく可愛い。
 そんな僕らの反応を見た双子は、得意そうに笑った。

「今回王都に来る連中の中には、ゴブショットの牧場経営者がいるんだ」 
「その加工を手がけている奴らもな」
「だからもし、そいつらが担ぎ上げてくる『春の精』候補者たちより、アーネストが勝ると認めたなら、そのときは」
「アーネストの商売のためのゴブショットは、永久的に格安で仕入れさせろと約束させた!」
「さらに販路拡大の折には一族こぞって無償で全面協力!」
「うおおお!」

 交互に語った双子の話に、僕はこぶしを握って興奮の声を上げた。

「勝つよ! 僕は勝つよ! 『裏・春の精』になりまくる!」
「よっしゃあ! よく言ったアーネスト!」
「それでこそ俺らの嫁!」

 囃し立てる双子に、僕もコーフンを隠せぬまま「それでそれで」と、白銅くんを落とさぬ程度に上半身を乗り出した。

「なにをすればいいの?」
「「着飾ればいい」」

 にっこり笑う双子。そういえば、さっきそう言ってたな。

「着飾ると言われましても……」
「春の精の審査基準は、ぶっちゃけ見た目だ。春の精らしく明るく健康的で、かつ妖艶で色っぽいのがウケる」
「そんなの……僕にないものばかりじゃないか」

 歓喜から一転、絶望の底に転がり落ちていると、双子が「「おいおい」」と仰け反った。

「なに言ってんだ。お前以上に色っぽくて可愛い奴なんて、この世に存在しねえよ!」
「病弱でも、アーネストの笑顔は本当に明るくて健康的だぞ」
『そうですよアーネスト様! ぼくも絶対、アーネスト様が一等賞だと思います!』
「は……白銅くーん。なんて優しいんだー!」

 一等賞が可愛すぎて、ひしと胸に抱きしめると、双子が「「俺たちの言葉も聴いて」」と左右から訴えてきた。
 そんな二人に、「もちろん聴いてるよ」と笑顔でうなずく。

「ありがとう、儲け話を持ってきてくれて! 心から感謝するよ!」
「いや、そこでなくて」

 青月が悲しそうに呟いたが、寒月は急になにか思い出したようで……

「感謝してくれるなら、もしお前が勝った暁には、俺らのおねだりをひとつ聞いてくれるか?」
「おねだり? いいよー僕にできることなら」

 そう答えた瞬間、双子はグッとこぶしを握って瞳を輝かせた。
 なにをそんなに喜んでいるのだろう。いや、今はそれは置いといて。

「でも着飾ったところで……地区予選を勝ち抜いてくる強者の美男美女ばかりなのに、勝てっこないよ」
「え。むしろ勝つ未来しか見えないんだが」
「寒月ってば、ほんとに身内贔屓なんだから」

 まったくもう、と呆れて笑うと、双子はまだ何か言いたげに口をパクパクし、白銅くんまで小っちゃなお口を半びらきにしているが。
 とにかく、そんな勝ち目のない戦いより、もっと確実な戦略を練らねばならない。

「高額の副賞付きのコンテストというからには、見た目勝負だけじゃないはずだ。ほかの基準は?」
 
 寒月が「うーん」と腕を組んだ。

「確かに本選では、地元に関する演説だの、特技だのを披露することになってるけどよ。俺らの場合は演説なんていらんし。ただ、特技はなるべく色っぽく演出するのが常だから、アーネストもそれに挑戦してえんなら、全力で応援を」

「却下。色っぽいのは僕には負け戦だ」
「「負けてねえって!」」
「要するに、特技などで自己主張をすればいいんだね?」
「「ま、まあ、そういうことだが」」

 見合わせた顔に困惑の色を浮かべる双子と、心配そうな白銅くんに、僕は「よし!」と力強く宣言した。

「決めた。あれで行こう」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男ふたなりな嫁は二人の夫に愛されています

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:138

貴方の駒になど真っ平御免です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4,040

人の心、クズ知らず。

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:264

異世界クリーニング師の記録

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:50

聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:19,070pt お気に入り:420

【完結】前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:66,917pt お気に入り:4,593

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。