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第26章 暗躍する双子
ノってしまったアーネスト
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借金返済のための提案と思って話を聞いていたのに、なぜ僕が『勝つ』だのなんだのいう話になっているのだ。
「ちょっと待って、寒月、青月。僕がなにに勝つって?」
「だから『裏・春の精』になれってことさ! 『真・春の精』と言っても過言ではないがな!」
寒月の説明で、よりいっそう不可解になった。
どんどん首を深く傾げる僕を見て、また青月が補足してくれた。
「つまり本来の春の精選びを真似て、うちの一族間の春の精を決めようということだ。もちろん賞品や賞金の横流しはしないが」
「それは当然だね」
「ああ。だが代わりに、一族で春の精選びを開催する際の飲み代、食事代、その他経費はすべて、負けた者たちが負担する」
それを聞いた僕は、「はああ?」と不満を表明した。
「それって結局、きみたちの宴会の余興としてコンテストに出て、きみたちの飲み代を稼げってこと? そのために僕にタダ働きをしろと?」
タダ、というところを強調して二人をじっとりにらみつけると、彼らは「「違う違う」」と、おそろいの動きで首を横に振った。さすが双子。
「ちゃんとアーネストが喜ぶ副賞があるんだって!」
「寒月……イモ料理で機嫌をとろうとしても無駄だからね。僕はすでに毎日のように、料理長さんからイモ責めにされている」
「俺がイモごときでお前を釣ると思うなよ」
「じゃあ、イモ畑?」
「イモから離れろよ」
なあんだ。畑なら興味アリアリだったのに。
ちょっと残念に思った僕の気持ちには気づかぬ様子で、寒月と青月はニッと笑った。またも息ぴったり。
「ほら、お前が歓宜と共同で、他国の富裕層向けに売り出した商品があるだろう? 刺繍糸やら毛糸やらを独自開発して、高級服にしたやつ」
「うん」
寒月の言葉にコクリとうなずく。
おかげさまで、そちらの商売はどんどん利益を増やしている。
希少価値を演出する王女の売り方がとても巧みな上に、馬具を商う商売柄、さまざまな職人たちと交流のある彼女のおかげで、素晴らしい技術を持つ職人たちを確保できているのが大きい。
他国で話題をつくっておいて、逆輸入的に醍牙でも受注を受け付けたところ、申し込みが殺到。現在は受注停止中なのだが……そこがまた、購買意欲を煽るようで。
「正直ウハウハだよ!」
「ほんとに正直だな」
「けどやっぱり、原料のゴブショット羊毛の仕入れ値は馬鹿にならないだろう?」
青月に問われて、それにも「うん」とうなずいた。
「それはそれは高いよ……」
「急にしょんぼりしたな」
「そのゴブショットを、格安で仕入れられるとしたら?」
「えっ!」
弾かれたように顔を上げると、膝の上で白銅くんも、一緒に耳と尻尾をピンと立てて青月を見た。際限なく可愛い。
そんな僕らの反応を見た双子は、得意そうに笑った。
「今回王都に来る連中の中には、ゴブショットの牧場経営者がいるんだ」
「その加工を手がけている奴らもな」
「だからもし、そいつらが担ぎ上げてくる『春の精』候補者たちより、アーネストが勝ると認めたなら、そのときは」
「アーネストの商売のためのゴブショットは、永久的に格安で仕入れさせろと約束させた!」
「さらに販路拡大の折には一族こぞって無償で全面協力!」
「うおおお!」
交互に語った双子の話に、僕はこぶしを握って興奮の声を上げた。
「勝つよ! 僕は勝つよ! 『裏・春の精』になりまくる!」
「よっしゃあ! よく言ったアーネスト!」
「それでこそ俺らの嫁!」
囃し立てる双子に、僕もコーフンを隠せぬまま「それでそれで」と、白銅くんを落とさぬ程度に上半身を乗り出した。
「なにをすればいいの?」
「「着飾ればいい」」
にっこり笑う双子。そういえば、さっきそう言ってたな。
「着飾ると言われましても……」
「春の精の審査基準は、ぶっちゃけ見た目だ。春の精らしく明るく健康的で、かつ妖艶で色っぽいのがウケる」
「そんなの……僕にないものばかりじゃないか」
歓喜から一転、絶望の底に転がり落ちていると、双子が「「おいおい」」と仰け反った。
「なに言ってんだ。お前以上に色っぽくて可愛い奴なんて、この世に存在しねえよ!」
「病弱でも、アーネストの笑顔は本当に明るくて健康的だぞ」
『そうですよアーネスト様! ぼくも絶対、アーネスト様が一等賞だと思います!』
「は……白銅くーん。なんて優しいんだー!」
一等賞が可愛すぎて、ひしと胸に抱きしめると、双子が「「俺たちの言葉も聴いて」」と左右から訴えてきた。
そんな二人に、「もちろん聴いてるよ」と笑顔でうなずく。
「ありがとう、儲け話を持ってきてくれて! 心から感謝するよ!」
「いや、そこでなくて」
青月が悲しそうに呟いたが、寒月は急になにか思い出したようで……
「感謝してくれるなら、もしお前が勝った暁には、俺らのおねだりをひとつ聞いてくれるか?」
「おねだり? いいよー僕にできることなら」
そう答えた瞬間、双子はグッとこぶしを握って瞳を輝かせた。
なにをそんなに喜んでいるのだろう。いや、今はそれは置いといて。
「でも着飾ったところで……地区予選を勝ち抜いてくる強者の美男美女ばかりなのに、勝てっこないよ」
「え。むしろ勝つ未来しか見えないんだが」
「寒月ってば、ほんとに身内贔屓なんだから」
まったくもう、と呆れて笑うと、双子はまだ何か言いたげに口をパクパクし、白銅くんまで小っちゃなお口を半びらきにしているが。
とにかく、そんな勝ち目のない戦いより、もっと確実な戦略を練らねばならない。
「高額の副賞付きのコンテストというからには、見た目勝負だけじゃないはずだ。ほかの基準は?」
寒月が「うーん」と腕を組んだ。
「確かに本選では、地元に関する演説だの、特技だのを披露することになってるけどよ。俺らの場合は演説なんていらんし。ただ、特技はなるべく色っぽく演出するのが常だから、アーネストもそれに挑戦してえんなら、全力で応援を」
「却下。色っぽいのは僕には負け戦だ」
「「負けてねえって!」」
「要するに、特技などで自己主張をすればいいんだね?」
「「ま、まあ、そういうことだが」」
見合わせた顔に困惑の色を浮かべる双子と、心配そうな白銅くんに、僕は「よし!」と力強く宣言した。
「決めた。あれで行こう」
「ちょっと待って、寒月、青月。僕がなにに勝つって?」
「だから『裏・春の精』になれってことさ! 『真・春の精』と言っても過言ではないがな!」
寒月の説明で、よりいっそう不可解になった。
どんどん首を深く傾げる僕を見て、また青月が補足してくれた。
「つまり本来の春の精選びを真似て、うちの一族間の春の精を決めようということだ。もちろん賞品や賞金の横流しはしないが」
「それは当然だね」
「ああ。だが代わりに、一族で春の精選びを開催する際の飲み代、食事代、その他経費はすべて、負けた者たちが負担する」
それを聞いた僕は、「はああ?」と不満を表明した。
「それって結局、きみたちの宴会の余興としてコンテストに出て、きみたちの飲み代を稼げってこと? そのために僕にタダ働きをしろと?」
タダ、というところを強調して二人をじっとりにらみつけると、彼らは「「違う違う」」と、おそろいの動きで首を横に振った。さすが双子。
「ちゃんとアーネストが喜ぶ副賞があるんだって!」
「寒月……イモ料理で機嫌をとろうとしても無駄だからね。僕はすでに毎日のように、料理長さんからイモ責めにされている」
「俺がイモごときでお前を釣ると思うなよ」
「じゃあ、イモ畑?」
「イモから離れろよ」
なあんだ。畑なら興味アリアリだったのに。
ちょっと残念に思った僕の気持ちには気づかぬ様子で、寒月と青月はニッと笑った。またも息ぴったり。
「ほら、お前が歓宜と共同で、他国の富裕層向けに売り出した商品があるだろう? 刺繍糸やら毛糸やらを独自開発して、高級服にしたやつ」
「うん」
寒月の言葉にコクリとうなずく。
おかげさまで、そちらの商売はどんどん利益を増やしている。
希少価値を演出する王女の売り方がとても巧みな上に、馬具を商う商売柄、さまざまな職人たちと交流のある彼女のおかげで、素晴らしい技術を持つ職人たちを確保できているのが大きい。
他国で話題をつくっておいて、逆輸入的に醍牙でも受注を受け付けたところ、申し込みが殺到。現在は受注停止中なのだが……そこがまた、購買意欲を煽るようで。
「正直ウハウハだよ!」
「ほんとに正直だな」
「けどやっぱり、原料のゴブショット羊毛の仕入れ値は馬鹿にならないだろう?」
青月に問われて、それにも「うん」とうなずいた。
「それはそれは高いよ……」
「急にしょんぼりしたな」
「そのゴブショットを、格安で仕入れられるとしたら?」
「えっ!」
弾かれたように顔を上げると、膝の上で白銅くんも、一緒に耳と尻尾をピンと立てて青月を見た。際限なく可愛い。
そんな僕らの反応を見た双子は、得意そうに笑った。
「今回王都に来る連中の中には、ゴブショットの牧場経営者がいるんだ」
「その加工を手がけている奴らもな」
「だからもし、そいつらが担ぎ上げてくる『春の精』候補者たちより、アーネストが勝ると認めたなら、そのときは」
「アーネストの商売のためのゴブショットは、永久的に格安で仕入れさせろと約束させた!」
「さらに販路拡大の折には一族こぞって無償で全面協力!」
「うおおお!」
交互に語った双子の話に、僕はこぶしを握って興奮の声を上げた。
「勝つよ! 僕は勝つよ! 『裏・春の精』になりまくる!」
「よっしゃあ! よく言ったアーネスト!」
「それでこそ俺らの嫁!」
囃し立てる双子に、僕もコーフンを隠せぬまま「それでそれで」と、白銅くんを落とさぬ程度に上半身を乗り出した。
「なにをすればいいの?」
「「着飾ればいい」」
にっこり笑う双子。そういえば、さっきそう言ってたな。
「着飾ると言われましても……」
「春の精の審査基準は、ぶっちゃけ見た目だ。春の精らしく明るく健康的で、かつ妖艶で色っぽいのがウケる」
「そんなの……僕にないものばかりじゃないか」
歓喜から一転、絶望の底に転がり落ちていると、双子が「「おいおい」」と仰け反った。
「なに言ってんだ。お前以上に色っぽくて可愛い奴なんて、この世に存在しねえよ!」
「病弱でも、アーネストの笑顔は本当に明るくて健康的だぞ」
『そうですよアーネスト様! ぼくも絶対、アーネスト様が一等賞だと思います!』
「は……白銅くーん。なんて優しいんだー!」
一等賞が可愛すぎて、ひしと胸に抱きしめると、双子が「「俺たちの言葉も聴いて」」と左右から訴えてきた。
そんな二人に、「もちろん聴いてるよ」と笑顔でうなずく。
「ありがとう、儲け話を持ってきてくれて! 心から感謝するよ!」
「いや、そこでなくて」
青月が悲しそうに呟いたが、寒月は急になにか思い出したようで……
「感謝してくれるなら、もしお前が勝った暁には、俺らのおねだりをひとつ聞いてくれるか?」
「おねだり? いいよー僕にできることなら」
そう答えた瞬間、双子はグッとこぶしを握って瞳を輝かせた。
なにをそんなに喜んでいるのだろう。いや、今はそれは置いといて。
「でも着飾ったところで……地区予選を勝ち抜いてくる強者の美男美女ばかりなのに、勝てっこないよ」
「え。むしろ勝つ未来しか見えないんだが」
「寒月ってば、ほんとに身内贔屓なんだから」
まったくもう、と呆れて笑うと、双子はまだ何か言いたげに口をパクパクし、白銅くんまで小っちゃなお口を半びらきにしているが。
とにかく、そんな勝ち目のない戦いより、もっと確実な戦略を練らねばならない。
「高額の副賞付きのコンテストというからには、見た目勝負だけじゃないはずだ。ほかの基準は?」
寒月が「うーん」と腕を組んだ。
「確かに本選では、地元に関する演説だの、特技だのを披露することになってるけどよ。俺らの場合は演説なんていらんし。ただ、特技はなるべく色っぽく演出するのが常だから、アーネストもそれに挑戦してえんなら、全力で応援を」
「却下。色っぽいのは僕には負け戦だ」
「「負けてねえって!」」
「要するに、特技などで自己主張をすればいいんだね?」
「「ま、まあ、そういうことだが」」
見合わせた顔に困惑の色を浮かべる双子と、心配そうな白銅くんに、僕は「よし!」と力強く宣言した。
「決めた。あれで行こう」
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