召し使い様の分際で

月齢

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第26章 暗躍する双子

裏・春の精争奪戦

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「ああ。まず前提として、『春の精選びコンテスト』の主な出資者スポンサーは、王都の商人組合や王族俺らだ。コンテスト開催にあたり生じる諸費用を寄付したり、勝者への豪華賞品も用意する。もちろん、それが審査に影響することは一切ない」

 青月の説明に合わせて、寒月が「たとえば」と人差し指を、白銅くんの小さな頭の上にポフッと置いた。

「豪華賞品その一、王都一の人気を誇る『源五郎精肉店』の、特上肉を五十人前」
「五十人前!?」

 驚く僕に首肯を返し、白銅くんの後頭部に指をずらして「その二」と続ける。

「酒屋協会から、麦酒と葡萄酒をそれぞれ五十樽ずつ」
「五十樽ずつ!?」

 僕はいちいち驚いたが、寒月はその三、その四、と続けるごとに白銅くんの背中、腰、尻尾、あごの下、と指でポフポフしたので、遊んでもらった白銅くんは楽しそうな笑い声を上げた。子猫の笑顔、全面的に可愛い。

 そうして寒月が挙げた賞品はほかにも、金剛石ダイヤモンドのネックレス、王都一の高級宿ホテルをペアで一日貸し切りご招待、王室御用達の職人による最高品質の家具各種、季節の野菜と果物、それにパンと焼き菓子を一年分など、まさに『豪華』なものばかりだった。
 
 ……細かく刻んだマルム茸がたま~に入るシチューが大人気賞品だったダースティンの祭りと、いろんな面で違うということもよくわかった。

「内容は毎年少しずつ違うが、肉や酒はまちがいなく入る。まあ、賞品総額で三千万キューズは下らないな」
「さささ三千万!?」

 なんてことだ。ダースティンと違いすぎる。

「それを男女それぞれ一名ずつに贈る」
「それぞれ!? 二人で山分けじゃなくて、ひとりにつき三千万相当の賞品なの!?」

 寒月の言葉にさらにショックを受けた僕に、青月が「そう」と続けた。

「それとは別に、賞金ひとり百万キューズ」
「賞金まで付くのかあぁぁ!」

 頭を抱えて叫んだ僕に、双子と白銅くんがギョッとして目を瞠った。

「ど、どうしたんだアーネスト」
「なぜいきなり叫ぶ」
『アーネスト様ぁ、大丈夫ですか? もしや頭が痛いのですか?』

 僕は首を振り、暗い情念を込めて双子を見つめた。

「どうしたもこうしたも。一介の守銭奴には華やかな世界すぎて、ついていけないよ……!」
「なに言ってんだ、王子妃になろうってやつが」
「僕は王子妃である前に守銭奴だ!」

 妙な意地を前面に押し出して宣言すると、双子が同時に「「ええっ」」と情けない声を上げた。

「違うだろう、守銭奴である前に王子妃だろう!?」
「俺たちより守銭奴を選ぶってどういうことだよ」
『それでつまり、「春の精・争奪戦」とはどういうことなのですか?』

 白銅くんが双子の嘆きをぶった切った。
 双子の抗議より話の続き。さすがだ、白銅くん。

「白銅め。アーネスト以外には塩対応してくれやがる」

 寒月がブーブー文句を言っているあいだに、「つまり」と青月が説明を再開した。

「さっき話した通り、春の精は各地区の予選を勝ち抜き、その地区代表として本選に上がってくる。つまり賞金はともかく賞品は、その地区のみんなに『喜びのお裾分け』をするのが通例なんだ。春の精のお裾分けをもらうと豊作になるとか、良縁や子宝に恵まれるとか、とにかく縁起が良いとされているから」

「それな。だからうちの一族も、自分とこの代表を応援するべく集まってくるわけよ。文字通り、春の精を争奪するぞ! とな。あと酒を飲むため」

 酒を飲むのが真の目的なのではという疑惑を抱きつつ、僕は「とりあえずわかった」とうなずいた。

「でもそれと僕の借金返済と、どうつながるの?」
「ブレねえなアーネスト」
「まず、うちの一族というのはつまり、王族に連なる。俺が言うのもなんだが、人脈が広い上に領地経営も安定しているから、社会的な信用度も高く周囲からの注目度も高い。だから彼らに受け入れられれば、必ずアーネストの商売の助けになる」

 青月の言葉に、なるほどとうなずいた。
 確かにこの双子だって、こう見えてきちんと仕事をしているし、鉱山を持ってたりするし。彼らが認めるくらいだから、一族のほかの人たちも、いわゆる成功者なのだろう。
 優れた見識のある人たちならば、ぜひともご指導いただきたい。だからこの提案はとても嬉しい。
 でも、話はそれだけではなかった。

「それに……前回、弓庭後たちの騒ぎはどうにか始末をつけたが、またいつ、アーネストを王子妃と認めずに、対立する奴らが台頭してくるかわからない。だが虎の一族がアーネストの後見をすると表明すれば、お前を害そうなんて愚か者は激減するはずだ」

「もちろん、お前のことは俺たちが守るぞ? だがどうせ、あいつらに気に入られなければ、商売の助けも得られねえだろう?」

 今度は寒月の言葉にうなずいた。
 後見まで求めるのは図々しい気がするけど、先方に認められなければ、商売の話になど乗ってくれないだろうことは確かだ。

「でも、気に入られるといっても……」

 相手の好みや人となりも知らないのでは、傾向も対策も立てようがない。
 でも双子は、さも簡単なことというように、実に機嫌よく言った。

「「簡単だ、祭りで着飾れ!」」
「……はい?」

 ぽかんと口をあけた僕に、寒月がニヤリと笑った。

「実はもう、話を通してある」
「通す? 誰と? なにを?」

 思わず眉根を寄せた僕に、青月まで笑みを深める。

「『俺たちの嫁は、奴らが支持する春の精候補なんぞ比較にならないほど美しくて、おまけに賢くて優しいから、絶対お前たちも夢中になる』と言っておいた」

「『大事な嫁をコンテストに出す気はないが、絶対に、てめえらが連れてくる候補者たちの遥か上を行く美人だから、『裏・春の精争奪戦』を開催しようぜ! もちろんアーネストの圧勝だがな!』とも言っておいた! だから勝て、アーネスト! お前なら楽勝だ!」

「……はいぃ?」
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