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番外編

🍑の節句🍑感謝企画2 マルムのひとりごと

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 それは夜が明ける寸前の、ほんのわずかな時間。
 金色の光が射す間際、紺色の空に明けの明星が手を振るとき生まれる、小さな隙間の時間に。

『さあ、行きましょう』

 妖精王の使命を受けた我らマルム茸は、人の世界へと飛び立ちます。
 文字通り、飛び立つのです。妖精界の空から人の世界の空へ、ふんわりと。
 そうして人の世界の空で朝日を浴びると、マルム茸は『一応』普通のキノコになります。
 
 妖精王は、人の世界に『守りたい誰か』がいるとき、守護役として誰かを送ります。それは花だったり、リンゴだったりします。
 今回は我ら、マルム茸です。

 人の世に移り住んだマルムは、『守りたい誰か』のそばにいて見守ります。
 その際にほかの人に食べられたり売られたりすることもありますが、それはかまいません。マルムはキノコなのですから。

 ただし、私たちは妖精界から来たキノコですからね。
 気にいらない人間には、採らせてあげませんよ?
 マルムは誇り高きキノコなのです。

 そんな我らマルムが現在、全力でお守りしているのが、アーネストです。
 妖精王の血を引いた人間の、今のところ最後の愛し子。

 正直、我ら妖精としては……愛し子は、妖精界に連れてきてしまえば良いと思うのです。
 そのほうがずーっと、永遠に、楽しく幸せに暮らせますからね。年をとることも、病気で苦しむこともありません。

 でも実際にアーネストに会ってしまえば、マルムみんなが、アーネストを大好きになってしまいます。
 可愛くて楽しくて優しくて、『この子の幸せのためなら何でもしよう』と思わずにはいられないのです。さすが妖精王の子孫です。

 さて……私はそろそろ、お役目に戻らなければ。
 おや? 肝心なことを言い忘れている?
 そうでした、そうでした。自己紹介をしていませんでしたね。

 私は、あるお役目を持って人界に遣わされた妖精です。

 アーネストに特に重要な守護が必要となったときには、私のような『守護の妖精』が人界に行って、花やリンゴやマルム茸に宿ります。
 守護の妖精が宿ると、『一応』普通のキノコだったマルム茸は、桃色の特別なマルム茸に変身します。
 そう。私は、マルムはマルムでも、桃色マルムなのです。
 桃色マルムの重要なお役目は……おっと。


「よおぉしアーネスト! 任せとけ、俺が全力でサポートしてやるからな!」
「てめえのサポートなんぞ無くても、俺はアーネストに痛い思いはさせん」
「え。いや、ちょっときみたち? 僕の話を」
「どうしたアーネスト、不安そうな顔して。そうか、桃マルムだな!」


 大変です。お話している場合ではありません。
 アーネストが今、たいへんな挑戦をしようとしています!
 新たな境地へ足を踏み出そうとしている勇敢な彼を、全力で助けなくては!
 ほら双子! こっちこっち! 私を使いなさい! 実でも汁でもどんと来いですよ!

 うおっ。寒月が凄い勢いで私を手に取りました。その調子、じゃんじゃん使うとよいのです! 召し上がれアーネスト! 


 ……………………。


 すみません。
 齧られていたので間があきました。
 桃色マルムは、齧られたり絞られたりした程度なら、すぐに復活します。キノコですから痛みも感じません。
 さすがに丸ごと完食されたら、普通のキノコと同じ過程を辿りますので、復活は叶いませんけれども。それはそれでよいのです。キノコとはそういうものです。

 ふう、よかった。
 アーネストにとびきりの滋養とリラックスをお届けできたみたい。
 ……おや? 何か揉めていますね。

「心の準備をするから、今日はまだって言ったんだよ!」

 ええっ!?

「マジか!」
「すまん、聞いてなかった」

 私もです。聞いていませんでした。ごめんなさい、アーネスト!

 ……でも我らが聞くのは、言葉そのものよりも、アーネストの心が発する音なのです。
 アーネストが双子を『ぜんぶ受け入れたい』と願う音が聞こえたので、それに従ったのですが……早とちりだったでしょうか。面目ない。

「はあ……奥で感じる? アーネスト」
「ん、イイ、イイ……! もうやだあ、ああっ、やーっ」

 ……結果オーライのようです。
 仲良し。仲良しです。みんな幸せさんです。
 よかった。本当によかった!

 さて。今度こそ、お役目に戻ります。
 我らにはまだまだ、やるべきことがあるのです。
 何って、それは――

 ……いけない、まだ秘密です。

 でも我らが願うのはいつだって、アーネストの幸せです。
 あなたがひとりでこっそり泣いているときも、明るい未来を見出せないときも。
 我らマルムはいつだって、あなたを全力で支えていますよ。
 アーネスト、あなたの笑顔を守れますように。
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