召し使い様の分際で

月齢

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第21章 じわじわ

親マルムが!

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 いつ眠りに落ちたのか、おぼえていない。
 夢も見ず泥のように眠り、目ざめたときには日も昇り切っていた。

「んー……」

 顔を押しつけていたモフモフに、さらにグリグリと顔を埋めると、『起きたか? アーネスト』と弦を弾くような声が響いた。
 まだ頭がぼーっとしていて、「ン」と目をつぶったまま寝返りを打ち、反対側にいたモフモフにも顔を埋めてしばらくそのまま動かずいると、『息できてるのか?』と心配そうな声。

「できてる……」

 満足いくまで匂いを吸い込んでから顔を上げたら、青玉の瞳。
 もう一度コロンと転がって仰向けになり、うーんと思い切り伸びをして、ようやく頭が覚醒してきた。 
 左右から『『おはよう、アーネスト』』と言われて「おはよう、寒月、青月」と返す。
 大きな虎の顔が近づいてきて、顔や胸元に鼻でキスされた。髭が当たってくすぐったくて、小さく笑いながら肩をすくめると、金と銀の光が舞って、双子は人型に戻った。

「可愛いな、アーネスト」
「ご機嫌でよかった」

 寒月も青月も、とけろそうなほど優しく見つめてくる。
 うぅ。いつもながらイケメン二人のこの劇甘な表情には、胸をきゅうぅとさせられるよ。
 二人から愛おしくてたまらないという顔で微笑まれると、毎回新たに気恥ずかしくて、幸福感が渋滞して、そのドキドキに、ちっとも慣れない。

 無意識にドキドキする胸に両手をあてると、素肌の感触。
 あれ? 寝衣は? と思ったところへ、

「……最高の夜だったな、アーネスト。乱れるお前は、いつまでも見ていたいほど綺麗だった」

 青月が甘く囁き、

「それな。こんな可憐な尻に全部収まるとはなあ! しかもそれでアーネストが何度もイッてくれるとか、思い出すだけで総勃ちするぜ。桃マルムのいない夜、俺はあの壮絶にエロいお前で、この先何度抜くことになるのだろう……」

 寒月が真面目な顔でバカなことを言う。

 しかし、そうだった。
 僕は昨夜……というか夜明け寸前まで二人に抱かれて、かつてないほど痴態を晒していたのだった……! そして寝落ちしたのだ。

「「アーネスト?」」

 僕の様子をおかしく思ったのか、二人が声をかけてきた。
 僕はそれには答えず、そろりと自分の躰を確認してみた。
 彼らは僕の躰を綺麗にしてくれたらしい……。一糸まとわぬ躰はサラサラで、何度もイッた痕跡は無い……が、全身に点々と残る、口づけのあと。

 途端、脳裏に甦った、窓に映りし恥ずかしい光景の数々。
 ボッ! と頬を熱くした僕の視界に、椅子の背にかけられた白いストッキングが飛び込んできた。
 ……最中はずっと着けたままだったはずだが、脱がせてくれたんだね……。

「……ふんがーっ!」
「なっ、なんだ!?」
「どうした!?」

 羞恥のあまり奇声を発したら、双子はビクッと身を引き、目を丸くして僕を見た。

「見るな! こんな僕を見ないでくっ、ケホッ、ケホケホッ!」
「大丈夫か!? 寝起きでいきなり大声上げるから……」

 寒月が背中をさすってくれているあいだに、青月が脇机から薬湯をとって飲ませてくれた。すっかり冷めているけど美味しい。
 ついでに掛布を引き寄せて躰を隠すと、双子がそろって苦笑した。

「今さら恥ずかしがらんでもいいのに」
「そこがアーネストの可愛いところだがな」
「……どうして獣化していたの?」

 照れ隠しに、もじもじしながら尋ねたら、寒月が額にキスしてきた。

「寝言で『もふもふ』とか『吸いたい』とか言ってたから」
「えっ」

 夢を見たおぼえも無いというのに、しっかりそんな注文を出していたのか。
 しかしおかげで目ざめはとても良かった。寒い夜、極上のモフモフに顔を埋めて眠ることのできる、この贅沢よ。

 いつもながらマルムのおかげで、奇跡としか言いようがないほど躰もダメージを受けていないし……。
 あんな激しい……う、運動をしたのに寝込まずいられるなんて、まさに奇跡。

 いつでもマルムや桃マルムがあれば、僕も普通に暮らして長生きできるのだろうな。
 でもいくら妖精王でも、そうそう日常的に奇跡は起こせないよね。
 今はとにかく、与えられたものに感謝を忘れず、それを活かさなければ。……なんて、素っ裸で双子とキスしながら考えることではないかもしれないが。

 与えられたもの。
 そういえば桃マルムは、まだあるのだろうか。
 確かめようと思ったが、天蓋の紗幕が閉められていてよく見えない。
 僕の意図を察したらしき青月が、

「さっき見たときは、親マルムも桃マルムも変わりなかったぞ」

 そう言いながら寝台をおりると、紗幕を開けてくれた。

「そっかあ……」

 ちょっと……いや、けっこうガッカリした。
 いきなり大きくなった親マルムを見たあとだったので、今回はもしや、何かしら嬉しい変化があるかもと期待してしまっていたんだ。

 ジェームズの手紙には、ご先祖のユージーンさんは、桃マルムが現れるたび致したと書かれていた。
 ということは、まだ回数が足りない、とか……そういうことなのだろうか。
 ならば、まだ桃マルムが残っているなら、今夜も……?
 連夜あの痴態を双子に晒すと考えるだけで、顔から火を噴きそう。

 僕はパチンと頬を叩いた。
 隣で寒月がびっくりしているけど、エッチいことばかり考えていないで、もう起きないとね。まだ昼にはなっていないようだが、ずいぶん寝坊してしまった。

 青月の手を借りて高さのある寝台からおり、親マルムの元へと向かった。
 どれどれ。改めて大きさを測っておいたほうが良いかな……って、ん?
 
 んんん?

「んええぇぇっ!?」
「今度はなんだ!?」
「どうした!?」

 青月が駆け寄ってきた。寒月も寝台の上から飛びおりてくる。
 僕は震える手で親マルムを指差し、二人を見上げた。
 変わってないどころか。
 変わってないどころか!

 双子も親マルムを見るなり、目を剥いて叫んだ。

「でけえ! 親桃じゃん!」
「嘘だろ! さっき見たときは、こんなんじゃなかったぞ!?」

 そう。親マルムは、昨夜見たときからさらに大きく……ちょっとした大型犬くらいになっていた。
 その上、桃色になっていたのだ。桃マルムのごとく。
 一方、周囲にたんまり置かれていた桃マルムたちは、ひとつ残らず消えていた。
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