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第20章 桃祭り開催
逮捕されたアーネスト
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たまぎる悲鳴を上げてしまってから、あわてた双子に
「しいっ! しーっ!」
「人が来るぞ!」
と注意され、そうだったと咄嗟に両手で口を塞――ごうとしたところで、薬草の束を持っていることを思い出した。
今の僕。
全裸に膝上丈の白ストッキング。そして両手に薬草。
僕は……僕はただ、双子が来る前にちょっとでも身綺麗にしておこうと思っただけなのに……。
なのになぜだ。
なぜこんな、ワンポイントに薬草を添えた変質者みたいな格好を双子に晒しているのだ。
「みっ、見るな!」
「え。なんで。超絶エロく誘う若妻スタイルでお迎えしてくれたんじゃねえの?」
「薬草の演出が謎だが」
「ちっがーう! 演出じゃない! なんでノックの返事を待たないんだよ!」
思わず肩を怒らせ二人に向き合うと、丸見えになった前方に彼らの視線が集中したので、あたふたと薬草の束で隠した。
青月が困ったように眉尻を下げる。
「すまない。いつもノックだけで入っていたから……」
「うっ」
そうだった。普段はそれを許していたのだ。
なのにいきなり怒られたら、双子にとっては理不尽だよね。
ごめん。
しかし恥ずかし過ぎて、論理的思考がぽっきり折れた。
口ごもる僕に、寒月が「そんな恥ずかしがるなよ」とニカッと笑った。
「そんなとこがまた可愛いけどな。ほら来いよアーネスト。湯浴みしたかったんだろ? 湯殿行こうぜ」
「い、いや、いい……今夜はもうひとりになりたい……」
「「ええっ!?」」
「ひとりで心の傷を癒したのち、落ち着いたら日を改めてきみたちと向き合いたいと思います……。それまでお元気で」
寒月が悲鳴じみた声を上げた。
「すでに元気過ぎて限界だっつーの!」
「待て寒月。アーネストは疲れてるんだ。おいでアーネスト、桃マルムを一緒に食べよう。元気が出るぞ」
二人して、野良猫を手なずけるごとく手招きしてくる。
僕はブンブン首を横に振った。
「ち、違イマス。僕はアーネストではアリマセン。ただの通リスガリノ変質者デス」
「……お前……何言ってんだ?」
「その自称はむしろ、傷を広げてると思うぞ? アーネスト」
「知リマセン! アーネストではアリマセン! ナノデ放っておいてクダサイ、失礼シマス!」
そう叫んだ僕は、前とうしろを薬草の束で隠すというスカスカの腰蓑スタイルで、スススと蟹歩きしながら二人から距離を取った。が、そこで早くも万策尽きた。
しまった。何が失礼シマスだ。
部屋の中なのだから、これ以上、逃げも隠れも出来ない。
途方に暮れた僕に気づいた双子が、プププと笑いをこらえて震え出した。
なぜ笑う! いや、笑われて当然か!
「でも笑うな!」
「無理言うなよ……可愛すぎて無理。笑うに決まってる」
ほかの人には表情の乏しい青月の、優しく猫を撫でるみたいなそんな笑顔のほうこそ、イケメンすぎてドキッとして無理。
思わずポッと見惚れたら、寒月が「隙あり!」と跳躍し、一瞬にして僕を捕まえた。「わあっ!」と驚愕の声を上げたときには、もう彼の腕の中。
なんという運動能力。
それに比べてなんというトロさの僕。
「ちょっ! おろして寒月っ」
「んんん? それは無理だな。だってお前、変質者なんだろ?」
「えっ」
「そうだな。自ら名乗っていたな。『通りすがりの変質者』だと」
あう。青月までいきなり意地悪になって、何だよう。
「それはそうだけど、」
「罪を認めたな!」
「罪!?」
寒月は僕を抱っこしたまま、大股で扉の前まで移動した。
「ストッキングで美脚を強調し、信じがたいほどそそるカタチの桃尻と桃ちんこを丸出しにして、王子二人を誘惑しようとした罪だ! 変質者、お前を逮捕する!」
「えええーっ!? た、逮捕って何、桃ちんこって何!」
ギョッとして、なぜか棚から替えの掛布を数枚取り出してきた青月に助けを求めると、
「そうだな。大変な罪だ。だが安心しろ、言い分は聞いてやる」
笑いをこらえながら、器用に僕の躰に掛布を巻きつけ、その上から自分の上着で覆ってきた。何これ? どういう事態!?
「ままま丸出しにしてないもの! 薬草で隠したもの!」
必死に抗議した僕に、寒月は思いっきり吹き出したが、問答無用で言い切った。
「言い訳は取り調べ室で聞いてやる。俺か青月の寝室なら、広いし寝台もずっとでかいし、大きな声も出し放題だからな」
「大きな小イモ出し放題?」
「イモ出してどうする」
大きな小イモとは。
小首をかしげて、またも隙をつくったがために、僕はそのまま自室から連れ出されてしまった。
抗議したかったが、すでに使用人の多くが床に入っている時間だ。大きな声を出せば、今度こそ彼らを起こしてしまうだろう。
くうっ。
裸が見えないように気を遣ってくれたのはありがたいけど、こんな状態で逮捕連行されるとは!
なすすべもなく運ばれていたら、少し遅れて追いついてきた青月が横に並んだ。
腕に掛布でくるんだ大きな包みを、だいじそうに持っている。
何だろうと僕は思ったが、寒月はすぐにピンときたらしく、足を止めずに「マルムか」と尋ねた。青月が首肯する。
「親マルムと桃マルム」
「えっ、親マルムも持ってきたの!?」
思わず大きな声を出した僕に、青月はもう一度うなずき微笑んだ。
「取り調べで、しばらく部屋を留守にするだろう。だから念のため」
「取り調べ、で……」
その意味を改めて理解した僕に、双子が捕食者の目を向けた。
「まずは身体検査だな」
「そう。全身くまなく」
低い響きに、全身、ぶるりと甘い震えが走った。
「しいっ! しーっ!」
「人が来るぞ!」
と注意され、そうだったと咄嗟に両手で口を塞――ごうとしたところで、薬草の束を持っていることを思い出した。
今の僕。
全裸に膝上丈の白ストッキング。そして両手に薬草。
僕は……僕はただ、双子が来る前にちょっとでも身綺麗にしておこうと思っただけなのに……。
なのになぜだ。
なぜこんな、ワンポイントに薬草を添えた変質者みたいな格好を双子に晒しているのだ。
「みっ、見るな!」
「え。なんで。超絶エロく誘う若妻スタイルでお迎えしてくれたんじゃねえの?」
「薬草の演出が謎だが」
「ちっがーう! 演出じゃない! なんでノックの返事を待たないんだよ!」
思わず肩を怒らせ二人に向き合うと、丸見えになった前方に彼らの視線が集中したので、あたふたと薬草の束で隠した。
青月が困ったように眉尻を下げる。
「すまない。いつもノックだけで入っていたから……」
「うっ」
そうだった。普段はそれを許していたのだ。
なのにいきなり怒られたら、双子にとっては理不尽だよね。
ごめん。
しかし恥ずかし過ぎて、論理的思考がぽっきり折れた。
口ごもる僕に、寒月が「そんな恥ずかしがるなよ」とニカッと笑った。
「そんなとこがまた可愛いけどな。ほら来いよアーネスト。湯浴みしたかったんだろ? 湯殿行こうぜ」
「い、いや、いい……今夜はもうひとりになりたい……」
「「ええっ!?」」
「ひとりで心の傷を癒したのち、落ち着いたら日を改めてきみたちと向き合いたいと思います……。それまでお元気で」
寒月が悲鳴じみた声を上げた。
「すでに元気過ぎて限界だっつーの!」
「待て寒月。アーネストは疲れてるんだ。おいでアーネスト、桃マルムを一緒に食べよう。元気が出るぞ」
二人して、野良猫を手なずけるごとく手招きしてくる。
僕はブンブン首を横に振った。
「ち、違イマス。僕はアーネストではアリマセン。ただの通リスガリノ変質者デス」
「……お前……何言ってんだ?」
「その自称はむしろ、傷を広げてると思うぞ? アーネスト」
「知リマセン! アーネストではアリマセン! ナノデ放っておいてクダサイ、失礼シマス!」
そう叫んだ僕は、前とうしろを薬草の束で隠すというスカスカの腰蓑スタイルで、スススと蟹歩きしながら二人から距離を取った。が、そこで早くも万策尽きた。
しまった。何が失礼シマスだ。
部屋の中なのだから、これ以上、逃げも隠れも出来ない。
途方に暮れた僕に気づいた双子が、プププと笑いをこらえて震え出した。
なぜ笑う! いや、笑われて当然か!
「でも笑うな!」
「無理言うなよ……可愛すぎて無理。笑うに決まってる」
ほかの人には表情の乏しい青月の、優しく猫を撫でるみたいなそんな笑顔のほうこそ、イケメンすぎてドキッとして無理。
思わずポッと見惚れたら、寒月が「隙あり!」と跳躍し、一瞬にして僕を捕まえた。「わあっ!」と驚愕の声を上げたときには、もう彼の腕の中。
なんという運動能力。
それに比べてなんというトロさの僕。
「ちょっ! おろして寒月っ」
「んんん? それは無理だな。だってお前、変質者なんだろ?」
「えっ」
「そうだな。自ら名乗っていたな。『通りすがりの変質者』だと」
あう。青月までいきなり意地悪になって、何だよう。
「それはそうだけど、」
「罪を認めたな!」
「罪!?」
寒月は僕を抱っこしたまま、大股で扉の前まで移動した。
「ストッキングで美脚を強調し、信じがたいほどそそるカタチの桃尻と桃ちんこを丸出しにして、王子二人を誘惑しようとした罪だ! 変質者、お前を逮捕する!」
「えええーっ!? た、逮捕って何、桃ちんこって何!」
ギョッとして、なぜか棚から替えの掛布を数枚取り出してきた青月に助けを求めると、
「そうだな。大変な罪だ。だが安心しろ、言い分は聞いてやる」
笑いをこらえながら、器用に僕の躰に掛布を巻きつけ、その上から自分の上着で覆ってきた。何これ? どういう事態!?
「ままま丸出しにしてないもの! 薬草で隠したもの!」
必死に抗議した僕に、寒月は思いっきり吹き出したが、問答無用で言い切った。
「言い訳は取り調べ室で聞いてやる。俺か青月の寝室なら、広いし寝台もずっとでかいし、大きな声も出し放題だからな」
「大きな小イモ出し放題?」
「イモ出してどうする」
大きな小イモとは。
小首をかしげて、またも隙をつくったがために、僕はそのまま自室から連れ出されてしまった。
抗議したかったが、すでに使用人の多くが床に入っている時間だ。大きな声を出せば、今度こそ彼らを起こしてしまうだろう。
くうっ。
裸が見えないように気を遣ってくれたのはありがたいけど、こんな状態で逮捕連行されるとは!
なすすべもなく運ばれていたら、少し遅れて追いついてきた青月が横に並んだ。
腕に掛布でくるんだ大きな包みを、だいじそうに持っている。
何だろうと僕は思ったが、寒月はすぐにピンときたらしく、足を止めずに「マルムか」と尋ねた。青月が首肯する。
「親マルムと桃マルム」
「えっ、親マルムも持ってきたの!?」
思わず大きな声を出した僕に、青月はもう一度うなずき微笑んだ。
「取り調べで、しばらく部屋を留守にするだろう。だから念のため」
「取り調べ、で……」
その意味を改めて理解した僕に、双子が捕食者の目を向けた。
「まずは身体検査だな」
「そう。全身くまなく」
低い響きに、全身、ぶるりと甘い震えが走った。
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