召し使い様の分際で

月齢

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第16章 王子妃の座をかけて

諸々、決めていきましょう

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 御形ゴギョウ氏の店舗の捜索を終えた僕は、令嬢たちとの勝負が不戦敗になっては困るので、急ぎ王城に戻った。

 お城では家令のハグマイヤーさんが待ちかまえていて、あわてた様子で「皆様が謁見の間でお待ちだよ!」と急かしてきた。

「四家のご令嬢たちが凄い形相でやって来て、きみと『王子妃の座をかけて勝負する』とか何とか……陛下も目を丸くしてらっしゃったし、王子殿下方は『何考えてんだアーネストは』と青筋を浮かべていたよ。かなりご立腹のようだったから、早く行ったほうがいい」

 おお、それはまずい。
 二人の知らないところでいきなり、『王子妃の座をかけた競い合い』開催が決定していたのだから、双子が驚愕し腹を立てるのも無理はない。
 
「すみません。すぐ行きますケホッ」
「ん? 謁見の間はそっちじゃないよ、こっちだよ」
「はい。でも先に薬湯を淹れて、それからすぐに伺いますので」
「……きみは本当に、儚げな外見を裏切る鋼のマイペースだよねえ」

 ……どういうことかな?
 小首をかしげると、胸元で白銅くんがプフッと笑った。


⁂ ⁂ ⁂


 薬湯を蒸らしていると、落ち着かない様子で待っていたハグマイヤーさんが、「わたしが持って行くから」と言ってくれたので、白銅くんを抱っこして謁見の間に向かった。
 広間の入り口には刹淵セツエンさんが待っていてくれて、いつものように微笑みを崩さず中へ入れてくれた。

「アーネスト!」
「お前ってやつは……!」

 一歩足を踏み入れた瞬間から、駆け寄ってきた双子の不機嫌さは見て取れたが、

「どういうことだ、あの女どもに王子妃になるチャンスをくれてやるなんて」
「俺たちは景品じゃねえんだぞ!」

 早速、青月と寒月に左右からお叱りを受けた。
 しかしふと見ると、王様が玉座から笑顔でこちらを見ている。
 まずはお辞儀をして、挨拶しようと口をひらいたら、

「おかえりアーちゃん! お外は寒かったでしょ、ほら暖炉にあたりなさい。息子たちは気が利かないねえ」

 その言葉に、双子がハッとして口をつぐんだ。
 僕がケホッと咳をすると、次の瞬間、奪い合うように抱きしめてきた。

「そうだな。悪かったアーネスト。まずはあったまろう。俺で」
「てめえ何言ってんだ青月! まずは暖をとらなきゃダメなんだよ! 俺で!」

 いや、玉座の前に立つ四家の当主たちが、あぜんとしてこちらを見ているし、陛下が大きな両こぶしを口にあてて「やだー、仲良し可愛いっ」と嬉しそうに笑っているし、とにかく恥ずかしいので、普通に暖炉であったまりたいんだけど……。

 王様のおかげで双子の機嫌もちょっと直ったようで、そこへハグマイヤーさんがタイミングよく薬湯を運んで来てくれて、それを見た王様が、「ぼくらもお茶にしようか」と手を打った。

「弓庭ちゃんたちも、ずーっと跪いたり立ちっぱなしだったりで、疲れたでしょ」
「は、い……畏れ入ります」
「感謝、いたします……」

 疲労困憊といった様子で力なく答えた当主たちに、その後方に控えていた令嬢たちが、急いで寄り添った。
 あ。令嬢たちあそこに居たんだ……双子にばかり目が行って、気づかなかった。
 というか四家のご当主たち、ずっと跪いたり立たされたりしていたの?
 そ、それはまた……想像するだけで膝が痛くなりそうだ。

 王様はこれまで、四家がどれほど横暴でも、それなりに重んじる配慮を見せていたのに。
 高位貴族を長時間跪かせておくなんて、体面を気にする彼らにとっては大変な屈辱だ。社交界で噂になれば、嘲笑されて面目をつぶす。
 双子を害された王様の怒りは、それだけ強いということだよね。

 刹淵さんの指示で、王様の侍従さんたちが素早くお茶の用意をしてくれた。
 暖炉を蹄鉄型に囲むよう椅子が置かれ、正面に王様が座り、右手の三人掛けの椅子に双子……と、双子に挟まれた僕。

 僕らの向かいに並べられたひとり掛けの椅子には当主たちが座し、そのうしろに令嬢たちが、不満そうに座っている。
 たぶん、召し使いの僕が双子と並んで座っていることも、自分たちは父親のうしろに追いやられていることも、気に入らないのだろう。
 あと、双子がさっきから、薬湯を飲む僕の髪を撫でたり、額や頬にキスしてきたり、

「薬湯を飲む嫁も可愛い」
「さすが俺たちの嫁」

 などと、いつも以上に僕を「嫁」と主張することも。

 いろんな思惑が飛び交って、場の空気は不穏さを増してきたけど、僕の膝の上の白銅くんは、またもヘソ天で眠っている。
 あったかくて眠くなったんだね。ほんとに可愛い。

 見惚れていたら、歓宜王女と浬祥さんもやって来た。
 二人は厨房に直行して腹ごしらえしていたらしい。鋼のマイペースって、この二人にこそ相応しい言葉ではなかろうか。

「それじゃ、落ち着いたところで話を始めようか」

 飲み干したカップを刹淵さんに渡した王様が、楽しそうに僕を見た。

「なんだか面白いことになってるみたいだね。王子妃の資格を競うとか? どうせ歓宜が言い出したんでしょう」

 さすが父親。よくわかっている。

「そこの諦めの悪い奴らが、二度と『王子妃になる』なんて言い出さないようにな」

 王女が顎で令嬢たちを示すと、令嬢たちは何か言い返そうとしたが、父親たちから目配せで止められた。
 王様はクスクス笑っているけど、双子は不服そうに姉を睨んだ。

「勝負って何すんだ、アーネストに筋肉要求すんなよな! 『八時間耐久懸垂大会』とかよ!」
「大食い競争もアーネストには無理だからな」

 寒月と青月が注意すると、王女は呆れたように弟たちを見た。

「アホか。そんなこと誰がするんだ」
「「どちらもかつてお前がやったことだが?」」
「アーちゃんは何がしたいの?」

 理不尽に姉から頭を引っぱたかれている双子には構わず、王様が訊いてきた。
 僕は子猫を撫でながら「はい」とうなずく。

「その内容や勝利条件等を公平に、そして正式に決めておくため、図々しくも陛下のお考えを仰ぐと共に、ご助力を賜りたく」

「そんな堅苦しく喋らないでいいよ~。すでに家族同然なんだから」

 家族同然。
 四家の父娘がひくりと顔を引きつらせている。
 が、王様はまったく意に介さず、刹淵さんから二杯目の茶を受け取ると、いたずらを仕掛ける子供のように目を輝かせた。

「で、僕は何をすればいいの?」
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