召し使い様の分際で

月齢

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第15章 四家vs.アーネスト軍団

これで美味しくなる

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 思えば僕はダースティンにいた頃から、何度も何度も、マルム茸との出会いと別れを繰り返してきた。だから彼らを見ればすぐさま、「これはマルム茸です」と断言できる。
 そう思っていたのだけど……。

 今、僕に握られてバキバキに緊張しているこのマルムは。
 僕は頬ですりすりしつつ、じいっと見つめた。

「なあ、アーネスト……すべすべほっぺが気持ちよすぎるけど、放してくれん?」
「アーネスト。お前はいま正常な判断ができていない」

 違う。
 かたちが違う。色も違う。
 新種か? 新種のマルムか?
 というか、なぜ僕は、これがマルムであるという前提で考えているのだろう。
 ……いや、僕がマルムを見誤るわけがない。
 あ、そうか。マルムなら究極の美味だから、食べてみればわかるぞ。

「正常な判断」

 ひとつ頷いて、寒月のマルムに頬を寄せたまま双子を見上げると、寒月が真っ赤になって額を押さえた。

「待って待って、その顔めっちゃエロ可愛いんだが!」
「黙ってろ。――そうだよアーネスト。お前はいま正常な判断ができていないから、そういうときに、そんな危険なモノを持ってはいけない」
「正常な判断、できる」
「「え?」」

 僕はちょうどコロコロと転がってきたマルム茸をムニッと掴んで、溢れんばかりのマルム汁を、とろりと寒月マルムに垂らした。

「うっ、えっ、ちょっ!」

 何をうろたえているのだ、寒月。

「これで美味しくなる」
「「ええっ!?」」
「いただきます」

 はむっ。
 
「嘘だろっ」
「アーネストー!」

 ……口に入りきりません。
 でも美味しい! 
 このマルムは、懐かしのバナナ味! ダースティンではよく食べてた。
 でもこんなに濃厚な甘味と弾力のあるバナナは初めて。

「ヤバい、めっちゃ絵面が凶器。視覚だけで瞬殺されそう……!」
「アーネスト、そんなものペッしなさい!」
 
 これはさぞ高級品に違いない。ペッなんてしたら、もったいないよ。
 あまりに美味しいので、かぶりつきたいけど……何やら『齧ってはいけない』と寒月マルムが切実に訴えている気がするので、咥えることしかできない。

「はぷっ。……あむっ」
「ヤバいーっ! めっちゃヘタクソなのに見てるだけで出そうーっ!」
「やめろ馬鹿! アーネストが窒息する!」
「わーってるよ! けど、ちょっ……うあっ」

 大きすぎて苦しくなったので、一旦チュポンッと口から出して、寒月を見上げて微笑んだ。

「おっきいの、美味しい」
「「グハ……ッ!」」

 双子、鼻を押さえて転がってる。
 ……病み上がりだから仕方ないよね。

 口元を手でゴシゴシと拭って、僕はさらなるマルムに取りかかった。
 青月のマルムも、窮屈そうにズボンを押し上げて、存在を主張しているのが目に入ったからだ。
 僕にはわかる。あのマルムも何かを訴えている……!

「よいしょ」
「うわっ、アーネストッ!」

 手っ取り早く青月のズボンの中に手を突っ込んで、青月マルムを掴み出した。すると青月は、じたばたと腰を振って逃れようとする。

「こらー暴れるなー」

 マルムに向かって言い聞かせているのに、青月が「いや、まずいって!」などと、らしくもなく情けない声を上げた。
 大丈夫だ、任せなさい。僕が必ずきみのマルムを……
 マルムを……どうするんだっけ。
 まあいいや。

「では、もう一度マルム汁を注ぎます」
「うっ、わっ」
「青月この野郎! 俺には散々やめろと言っておいて!」
「だっ、これは酔っぱらいによる不可抗力っ、でっ」
「トロトロになりましたら、美味しくいただきます」

 あむっ。

「アッ、アーネス……ッ!」

 ……ふおお。こちらは懐かしのプラム味……!
 ちょっぴり酸味もありつつの、瑞々しい甘さが実に爽やか!

 あんまり美味しいので、僕は滴る果汁を……もといマルム汁を、貪欲に舐め取った。張り出した傘の部分と、太くて長い柄の部分に、ちゅぷちゅぷと音を立てて吸いつき、舌も這わせて、丁寧に味わう。

「ヤバい、ほんとヤバい! この拙さが却ってヤバい……ッ」
「だろう! だから言っただろう!」

 高熱出して寝込んだときに、よく冷やしたプラムをジェームズが用意してくれて、あれだけは食べられたっけ……。本当に懐かしい。
 うっとりするような甘やかさに満足し、「ふう」と髪をかき上げて顔を上げ、青月を見つめた。

「おっきすぎて、口が疲れちゃった」

「ぐああっ!」
「コロス気か……‼」

 何言ってるんだか。
 それはそうと、何だか……僕、いつの間にか……

「勃っちゃった」
「「えっ」」

 よいしょとトラウザーズを下着ごと下ろすと、双子がぎょっとして僕を見た。そんな二人に、僕は注意をしてあげた。

「寒月も青月も、マルムを出しっぱなしだよー」
「「お前が出して、放置したんだ……!」」

 嘆きの声に聞こえるけど、僕はすっかりエッチな気分になってしまって、勃ち上がったものを、ゆっくりと擦り上げた。

「あ……気持ち、イイ……」

 双子と目が合うと、二人ともなぜか呆然としていて。
 寒月が悲しそうに呻いた。

「……なあ。やっぱり、こうまでされても、手を出したらダメなやつだよなあ?」
「そりゃ、そうだ……ろ……。いくら未来の嫁でも、判断力の無い相手に手を出すわけには……」

 双子に見つめられながら、僕は溢れてきた蜜を手に取って、無意識にペロリと舐めてみたのだが。……むう。
 手の動きを止めぬまま、二人に視線を流した。

「んっ、……二人のマルムを舐めるほうが、美味しい……あっ、あんっ」

 室内に双子の悲痛な叫びが響いた。

「生殺しだーっ!」
「拷問かっ!」

 二人そろって床を叩いて、何やら悔しがっている。
 しかし急に寒月が、ガバッと顔を上げた。

「けど、マルムが出現してるじゃん! これって温泉のときと同じじゃねえのか!?」
「……そうだな。子づくりしろということ、かも……!」
「ウェーイ絶対そうだって! ……でも一応、訊いてみるか」
「何を。また己のマルムにか」
「本物のマルムにだよ!」

 言うやいなや、寒月は転がっていたマルムを引っ掴んで、目の前に置いた。

「いいか、右に転がったら子づくり。左に転がったら我慢」
「それでほんとに訊けるのか? いや、いい。限界だ、それでいこう」
「おっしゃ。――答えろマルム! 俺たちは今、子づくりして良いのか否か!」

 不思議な話をしているなあと頭の隅で思いながら喘いでいると、マルムが揺れて、コロンコロンと左に転がった。
 それを見ていた双子は、

「我慢かあぁぁ!」
「マルムめ……!」

 がっくりと床に肘をついて頭を抱えている。
 そんな二人を見ながら、僕はうっとりと達して。
 そのまま、夢も見ない深い眠りに落ちた。
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