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第15章 四家vs.アーネスト軍団
己のマルムに訊くがよい
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いきなり号泣の発作に襲われた僕だが、少しずつ落ち着いてくると、気まずさと恥ずかしさでいたたまれなくなった。
嫉妬か。
嫉妬のあまり大泣きしたのか、僕は。
いい年して、声を上げてボロボロ泣いて、病み上がりの双子に気を遣わせたのか……!
涙は引っ込んだが、自己嫌悪と羞恥心で精神的につらい。
今すぐ奇声を発して転げ回りたいくらいだが、そんなことをしたらますます双子を心配させてしまう。
あと泣きすぎて、すごくのどが渇いた。
優しくキスしてくれながら僕をあやしていた双子は、僕が黙り込んだのを不安に思ったらしく、ぼそぼそと、
「アーネスト? 起きてる……よな?」
「ぐあい悪くなったか?」
などと心配そうに訊いてきた。
謝れ。謝るのだ僕よ。傷が浅いうちに。
しかし口をひらくと、またしてもコホコホと咳が出た。
「咳が出てるな。風邪ひいたんじゃないか?」
額に手をあててきた青月に、「大丈夫」と首を横に振る。
「のどが渇いただけ……」
顔を上げるのが恥ずかしかったので、うつむいたまま、床に置かれた盆の上のコップに手をのばした。
この部屋に来たとき双子が出してくれたそれは、確か冬ブドウのジュースと言っていた。ダースティンには無い、冬ブドウ。
三つおそろいの木製のコップは、コロンとしたフォルムに温か味が感じられて、手のひらにも収まりが良かった。
ひとくち飲んでみると……ふむ。味も匂いもお酒みたい。
僕は普段、お酒は飲まない。飲もうと思えば飲めるけど、口に合わないので。
双子もそれを知っているから、僕にお酒は出さないはず。
ということは、冬ブドウジュースとはこういう味なのか……渋味が強くて、大人向けのジュースだね。
そのとき、寒月が「あっ」と声を上げた。
「アーネスト、それ俺のコップじゃないか?」
寒月の?
……言われて盆の上に視線を戻すと、
「あ、ほんとだ」
器は三つ同じだけど、手前のひとつだけ中身の色が淡い赤。いま手にしているのは濃紫の液体。
「それは遅摘み冬ブドウの葡萄酒だ。かなり度数が高いから飲まないほうがいい」
心配そうな青月に、「うん」とうなずいた。
「まだひと口しか飲んでないから大丈夫」
「よかった。ひと口なら酔っぱらうこともねえよな」
ニカッと笑った寒月は、僕の手からコップを取り上げると、ガブガブ一気に飲み干した。
口に含んで香りを楽しむとか、舌の上で転がして飲むとか、そういうことはしないんだなあ……。
青月もおかわりして、お水のようにガブ飲みしている。
ちょっと心配になって、僕はコップの隣に置かれたマルム茸を手に取りながら双子を見た。
「強いお酒なのに、そんなふうに飲むと躰に悪いのでは……」
「大丈夫だよ」
「俺たち酔ったことねえんだわ」
「せめて何か食べながら飲めば? せっかくマルム茸があるのだし」
僕の髪や頬を撫でていた双子の動きが、ぴたりと止まった。
「……は?」
「マルム茸?」
どうしたのだろう。
二人とも怪訝そうに僕の顔を見ている。
その視線が手元まで下りて、顔に戻り、すごい勢いで手元へと戻った。
なんてみごとな二度見。
さすが僕の未来の夫たち。二度見する顔までも、うっとりするほど端整だ。
が、端整な双子は次の瞬間、そろって限界まで目を剥いた。
「「マルムーッ!? なんで!? いつのまに!」」
「いつって、きみたちがお盆にのせたんだろう?」
「のせねえよ! お前じゃあるまいし、そんなもん簡単に入手できねえよ!」
「僕じゃあるまいし!?」
寒月のその言葉が、グサリと胸に刺さった。
「ひどい……そんなふうに思っていたのか……?」
震える声で尋ねると、寒月がかっこよく眉根を寄せた。
「そんなふう、とは?」
「僕が無闇やたらとマルムを見つけたり拾ったりしてくるような人間だって、そんなふうにきみは思っていたのか!?」
「……その通りだよな?」
寒月は僕ではなく、青月を見て確認し、青月も困惑したようにうなずいた。
そんな二人を見て、僕の胸の傷はさらに深く抉れた。
「青月、きみまでも! ひどすぎる!」
「す、すまん! でも何がだ?」
「ど、どうせ僕にはっ」
引っ込んでいた涙が、またウルウルと盛り上がった。
「どうせ僕には、大きなおっぱいも色気も、二人に乗っかる体力も無くて、いつの間にかマルムを持って現れるだけの男だよー!」
「「えええっ!?」」
「それがきみたちの本心だったんだ! だから裸族に『ちんこ触られた』って喜んでも、僕にはちんこを触らせないんだ! ちんこをマルムと間違われるから!」
「「そんな馬鹿な」」
二人、声をそろえて仰け反っている。
図星を指されて驚いたんだな、フン!
……フン……いいんだ……どうせ、どうせ、僕なんて……うぅ、ひっく、
「うわあぁぁぁぁ!」
またも号泣して突っ伏すと、大きな手で背中をさすってきた青月が、ひそひそと寒月に問う声がした。
「おい、これ……酔っぱらってないか?」
「まさか。葡萄酒ひと口だぞ? ……と言いたいところだが、俺もそれ疑ってた」
僕はガバリと顔を上げた。
「酔っぱらってない! そんなわけないだろ!」
ところで酔っぱらいって何だっけ……。
手のひらの上でコロンと転がったマルムに「酔っぱらってないよね」と尋ねると、オレンジ色の傘から、甘く爽やかな香りが立ちのぼった。まさにオレンジの香り。
思わず、さくっと歯をたてる。
途端、口の中に瑞々しく広がる、感動的な甘さの果汁……いやマルム汁。
「美味しい……!」
「「どんな味だ?」」
双子が興味深げに覗き込んできたので、僕はぐいっとその顔を押し返した。
「己のマルムに訊くがよい」
「どうやって!?」
「ダメだ完全に酔っぱらいだ」
何を騒いでいるのだ双子は。
簡単なことじゃないか。
「もう寝かせたほうがよさそうだな」
苦笑する寒月が手をのばしてきたので、その手をぺちっと叩いてやった。
「きみのマルムに訊いてあげるから、おとなしくしてなさい」
「俺のマルムに? って、おいーっ!」
寒月のズボンに手をかけて引き下げると、大きな声が上がった。
二人は病み上がりだからか寝衣で歩き回っていたので、腰で結ぶだけの薄手のズボンは脱がせやすい。
でも座った姿勢だから、ちゃんと脱がせるのは無理だった。そこで、
「しょうがないなあ」
前方だけぐいっと引っ張って、寒月のマルムのみ引っ張り出す方法に変更した。
「……おっきい……これも合体マルムかなあ」
「おいおい、何する気だ!?」
「マルムに訊くんでしょ?」
答えながら頭を下げ、すりっと寒月のそれに頬ずりすると、寒月が「マジか」と感極まったように呟いた。
「酔っぱらい最高……!」
「喜んでる場合か!」
バシッと音がして、「いでっ!」と声が上がったが、声に合わせて振動したマルムは、ムクムクと元気な手応えを返してきた。
嫉妬か。
嫉妬のあまり大泣きしたのか、僕は。
いい年して、声を上げてボロボロ泣いて、病み上がりの双子に気を遣わせたのか……!
涙は引っ込んだが、自己嫌悪と羞恥心で精神的につらい。
今すぐ奇声を発して転げ回りたいくらいだが、そんなことをしたらますます双子を心配させてしまう。
あと泣きすぎて、すごくのどが渇いた。
優しくキスしてくれながら僕をあやしていた双子は、僕が黙り込んだのを不安に思ったらしく、ぼそぼそと、
「アーネスト? 起きてる……よな?」
「ぐあい悪くなったか?」
などと心配そうに訊いてきた。
謝れ。謝るのだ僕よ。傷が浅いうちに。
しかし口をひらくと、またしてもコホコホと咳が出た。
「咳が出てるな。風邪ひいたんじゃないか?」
額に手をあててきた青月に、「大丈夫」と首を横に振る。
「のどが渇いただけ……」
顔を上げるのが恥ずかしかったので、うつむいたまま、床に置かれた盆の上のコップに手をのばした。
この部屋に来たとき双子が出してくれたそれは、確か冬ブドウのジュースと言っていた。ダースティンには無い、冬ブドウ。
三つおそろいの木製のコップは、コロンとしたフォルムに温か味が感じられて、手のひらにも収まりが良かった。
ひとくち飲んでみると……ふむ。味も匂いもお酒みたい。
僕は普段、お酒は飲まない。飲もうと思えば飲めるけど、口に合わないので。
双子もそれを知っているから、僕にお酒は出さないはず。
ということは、冬ブドウジュースとはこういう味なのか……渋味が強くて、大人向けのジュースだね。
そのとき、寒月が「あっ」と声を上げた。
「アーネスト、それ俺のコップじゃないか?」
寒月の?
……言われて盆の上に視線を戻すと、
「あ、ほんとだ」
器は三つ同じだけど、手前のひとつだけ中身の色が淡い赤。いま手にしているのは濃紫の液体。
「それは遅摘み冬ブドウの葡萄酒だ。かなり度数が高いから飲まないほうがいい」
心配そうな青月に、「うん」とうなずいた。
「まだひと口しか飲んでないから大丈夫」
「よかった。ひと口なら酔っぱらうこともねえよな」
ニカッと笑った寒月は、僕の手からコップを取り上げると、ガブガブ一気に飲み干した。
口に含んで香りを楽しむとか、舌の上で転がして飲むとか、そういうことはしないんだなあ……。
青月もおかわりして、お水のようにガブ飲みしている。
ちょっと心配になって、僕はコップの隣に置かれたマルム茸を手に取りながら双子を見た。
「強いお酒なのに、そんなふうに飲むと躰に悪いのでは……」
「大丈夫だよ」
「俺たち酔ったことねえんだわ」
「せめて何か食べながら飲めば? せっかくマルム茸があるのだし」
僕の髪や頬を撫でていた双子の動きが、ぴたりと止まった。
「……は?」
「マルム茸?」
どうしたのだろう。
二人とも怪訝そうに僕の顔を見ている。
その視線が手元まで下りて、顔に戻り、すごい勢いで手元へと戻った。
なんてみごとな二度見。
さすが僕の未来の夫たち。二度見する顔までも、うっとりするほど端整だ。
が、端整な双子は次の瞬間、そろって限界まで目を剥いた。
「「マルムーッ!? なんで!? いつのまに!」」
「いつって、きみたちがお盆にのせたんだろう?」
「のせねえよ! お前じゃあるまいし、そんなもん簡単に入手できねえよ!」
「僕じゃあるまいし!?」
寒月のその言葉が、グサリと胸に刺さった。
「ひどい……そんなふうに思っていたのか……?」
震える声で尋ねると、寒月がかっこよく眉根を寄せた。
「そんなふう、とは?」
「僕が無闇やたらとマルムを見つけたり拾ったりしてくるような人間だって、そんなふうにきみは思っていたのか!?」
「……その通りだよな?」
寒月は僕ではなく、青月を見て確認し、青月も困惑したようにうなずいた。
そんな二人を見て、僕の胸の傷はさらに深く抉れた。
「青月、きみまでも! ひどすぎる!」
「す、すまん! でも何がだ?」
「ど、どうせ僕にはっ」
引っ込んでいた涙が、またウルウルと盛り上がった。
「どうせ僕には、大きなおっぱいも色気も、二人に乗っかる体力も無くて、いつの間にかマルムを持って現れるだけの男だよー!」
「「えええっ!?」」
「それがきみたちの本心だったんだ! だから裸族に『ちんこ触られた』って喜んでも、僕にはちんこを触らせないんだ! ちんこをマルムと間違われるから!」
「「そんな馬鹿な」」
二人、声をそろえて仰け反っている。
図星を指されて驚いたんだな、フン!
……フン……いいんだ……どうせ、どうせ、僕なんて……うぅ、ひっく、
「うわあぁぁぁぁ!」
またも号泣して突っ伏すと、大きな手で背中をさすってきた青月が、ひそひそと寒月に問う声がした。
「おい、これ……酔っぱらってないか?」
「まさか。葡萄酒ひと口だぞ? ……と言いたいところだが、俺もそれ疑ってた」
僕はガバリと顔を上げた。
「酔っぱらってない! そんなわけないだろ!」
ところで酔っぱらいって何だっけ……。
手のひらの上でコロンと転がったマルムに「酔っぱらってないよね」と尋ねると、オレンジ色の傘から、甘く爽やかな香りが立ちのぼった。まさにオレンジの香り。
思わず、さくっと歯をたてる。
途端、口の中に瑞々しく広がる、感動的な甘さの果汁……いやマルム汁。
「美味しい……!」
「「どんな味だ?」」
双子が興味深げに覗き込んできたので、僕はぐいっとその顔を押し返した。
「己のマルムに訊くがよい」
「どうやって!?」
「ダメだ完全に酔っぱらいだ」
何を騒いでいるのだ双子は。
簡単なことじゃないか。
「もう寝かせたほうがよさそうだな」
苦笑する寒月が手をのばしてきたので、その手をぺちっと叩いてやった。
「きみのマルムに訊いてあげるから、おとなしくしてなさい」
「俺のマルムに? って、おいーっ!」
寒月のズボンに手をかけて引き下げると、大きな声が上がった。
二人は病み上がりだからか寝衣で歩き回っていたので、腰で結ぶだけの薄手のズボンは脱がせやすい。
でも座った姿勢だから、ちゃんと脱がせるのは無理だった。そこで、
「しょうがないなあ」
前方だけぐいっと引っ張って、寒月のマルムのみ引っ張り出す方法に変更した。
「……おっきい……これも合体マルムかなあ」
「おいおい、何する気だ!?」
「マルムに訊くんでしょ?」
答えながら頭を下げ、すりっと寒月のそれに頬ずりすると、寒月が「マジか」と感極まったように呟いた。
「酔っぱらい最高……!」
「喜んでる場合か!」
バシッと音がして、「いでっ!」と声が上がったが、声に合わせて振動したマルムは、ムクムクと元気な手応えを返してきた。
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